樋口真嗣がディズニープラスオリジナルシリーズ「ウィロー」を鑑賞、やんちゃで今どきなファンタジーの魅力とは (2/2)

「マンダロリアン」以上に新しい試み

──映画版から刷新されたドラマの魅力はありましたか?

衣装もすごく現代的だと思いました。よく見るとパーツのありようは今のものとは違うから、ファンタジーの枠組みは踏襲しているんですが、これまでの作品では見たことがなくて。例えば中世ヨーロッパ的な様式などがありますが、そうじゃないものを探ろうとしているのが面白かったです。

──具体的にはどのあたりが面白かったんでしょうか?

クラシックな感じを狙っているのではなくて、パッと見普段着っぽいんですよね。でも実はちゃんとデザインされている。重ね方や着方が現代的で、2回くらいひねって何かとんでもないことをやろうとしているんじゃないか?という印象を受けました。キーアイテムであるカイメリアの胸当ても、アイアンマンみたいでかっこよかったです。マーベルは科学の匂いのする世界観で、テクノロジーがアイアンマンのスーツを作り上げてますけど、「ウィロー」のように魔法で成り立たせるのもいいなって。

「ウィロー」より、左からウィロー、ダヴ。

「ウィロー」より、左からウィロー、ダヴ。

──なるほど。

見たことがないもので言うと、魔法もとにかくかっこよかった! 光線がでたらめに飛んでいくのがすごく好きです。俺が不勉強なだけかもしれないけど、久しぶりに光系で見たことがないものを見れた感じがしました。光線は鋭くて、その周りの空間がちょっとだけゆがんでいたりとかね。

「ウィロー」場面写真

「ウィロー」場面写真

──確かに「ハリー・ポッター」などとは魔法の表現方法が異なりますよね。そのほか映像技術的にすごいと思った部分はありますか?

「マンダロリアン」から始まっている巨大なLEDスクリーンが今回も使われていますが、剣や魔法の練習をしているシーンで、波打ち際というか水面を生かしているのがいいなと思いました。グリーンバックで撮影して合成しますというときに、床を全部水浸しにすることは絶対できない。あとで現場が地獄のような状況になるから(笑)。しかもあの場面、空がめちゃめちゃきれいじゃないですか。あれをロケでやろうと思っても、マジックアワーにあれだけのシーンを撮影するのは無理。「マンダロリアン」からの技術を引き継ぎつつ、さらに新しい試みをしているなと思いました。そういえば劇中に“クローン”という単語が出てくるけど、「スター・ウォーズ」のクローンとは関係ないですよね?

「ウィロー」場面写真

「ウィロー」場面写真

──妖婆クローンという敵キャラの名前としての登場なので、今のところ関連性は見えてないです。

映画版では使われていなかった言葉なので、「まさかスター・ウォーズとつながるの!?」とドキッとしたんですよね(笑)。ストームトルーパーみたいなのが出てきたらそれはそれで面白いのかもしれないですが。

「ウィロー」はあえて修羅の道を選んでいる(笑)

ほかに攻めているなと思ったのは、ドラマの前に映画版を観たほうがいい作りになっていること。オリジナル版を引きずらないように、過去作とは切り離して独自の面白さを追求するシリーズもあるけれど、「ウィロー」はあえて修羅の道を選んでいる(笑)。

──1988年の映画もディズニープラスで配信されているので、「ウィロー」シリーズに関しては映画→ドラマと続けて観ることができます。

ドラマ2話分とちょっとの時間で映画は観られますしね。あのときの赤ん坊やウィローが……!?と思いながらドラマを観たほうが絶対に面白いですし、今観ても楽しめる映画なので。

「ウィロー」場面写真

「ウィロー」場面写真

──「映画版を観ていない人にドラマを薦めるとしたら?」という質問をしようと考えていたのですが、避けたいと思います(笑)。

映画「ウィロー」が好きすぎる人間なので、観ていない人の気持ちに寄り添えないというか、「なんで観てないんだ君は!」みたいな(笑)。ファンタジー映画を語るうえで絶対に外せない作品だと思っているので。映画版でフィル・ティペットが手がけた双頭のドラゴンが今回のドラマにちらっと出てきたときは、「あいつがいる!」と思って興奮しました。

──最後に、配信作の視聴の仕方に関する質問をさせてください。樋口さんは大きなテレビや音響設備など、家での視聴環境を整えているそうですが、パソコンの画面と内蔵スピーカーで観ている人も多くいると思います。「こうしたらもうちょっと作品を楽しめるよ」と助言するとしたら何を薦めますか?

ヘッドフォンですかね。移動しながらでも音ガンガンで観ることができますし。ただワイヤレスはやめたほうがいいかな(笑)。線がわずらわしいけど、ワイヤードのほうが絶対に音はいいので。あ、最後に俺からも聞きたいんだけど、「ウィロー」シーズン2の製作はもう決定してるんですか?

──発表はされていないみたいです。

「絶対に続けて!」という気持ちがあります。

樋口真嗣

樋口真嗣

プロフィール

樋口真嗣(ヒグチシンジ)

1965年9月22日、東京都生まれ。1984年「ゴジラ」に造形助手として参加し、映画界入り。「平成ガメラ」3部作などで特撮監督を担当したあと、「ローレライ」「のぼうの城」(犬童一心と共同監督)、「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」2部作などで監督を務める。2017年には「シン・ゴジラ」で総監督の庵野秀明とともに日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞。2022年5月に監督作「シン・ウルトラマン」が公開され、興行収入44億円のヒットを記録した。