樋口真嗣がディズニープラスオリジナルシリーズ「ウィロー」を鑑賞、やんちゃで今どきなファンタジーの魅力とは

ジョージ・ルーカス原作、ロン・ハワード監督による1988年のファンタジー映画「ウィロー」。その20年後を舞台としたドラマシリーズ「ウィロー」がディズニープラスで独占配信されている。

時を経て伝説になった魔法使いウィローと新たな仲間たちが繰り広げる冒険を描いた本作。ウィロー役のワーウィック・デイヴィス、女王ソーシャ役のジョアンヌ・ウォーリーが続投し、ルビー・クルス、エリン・ケリーマン、エリー・バンバーといった新鋭が出演している。

映画ナタリーでは、映画版の大ファンであるという樋口真嗣にドラマシリーズを鑑賞してもらい、インタビューを実施した。「ロード・オブ・ザ・リング」「ハリー・ポッター」「ゲーム・オブ・スローンズ」といった作品を挙げながら、ルーカスフィルムが今何をするべきか考えて作った“やんちゃなファンタジー”の魅力を語ってくれた。

取材・文 / 小澤康平撮影 / 入江達也

こういう道があったのか!という今どき感

──ディズニープラスで独占配信中のドラマシリーズ「ウィロー」は、1988年の同名映画の20年後を舞台としたファンタジーです。樋口さんは映画版が大好きだと伺いました。

ディズニープラスに入った理由は2つあって、1つはDVD以降ソフト化されていなかった1979年の映画「ブラックホール」がひっそりと配信されていたこと。我々のかいわいだけがざわついていたんです。そしてもう1つが映画「ウィロー」が入っていたからでした。

樋口真嗣

樋口真嗣

──映画は公開当時にご覧になったんですか?

観ました。「ウィロー」の話をするうえでどうしても避けられない作品があって、J・R・R・トールキンによる小説「指輪物語」です。「ウィロー」の原案を担当しているジョージ・ルーカスは、「指輪物語」のようなファンタジーを映像化したかったんですよね。ピーター・ジャクソンが「ロード・オブ・ザ・リング」3部作を作るだいぶ前、1978年にラルフ・バクシというアニメーション作家が油絵を動かすような形式で「指輪物語」を映画化していて、絵的にはすごかったんだけど正直面白くはなかった。ビジネスの世界では「指輪物語」を映像化するのは鬼門になっていたんですが、「俺だったらそういうファンタジーも面白くできるぜ」とジョージ・ルーカスが作ったのが「ウィロー」。「スター・ウォーズ」のエピソード4、5、6が終わって、ジョージ・ルーカスは次こういうことをやろうとしているのか、すごい映画が公開されたな、というのが1988年という時代だったんですよね。映画は1作で終わってしまって、まさか続編が作られるとは思いませんでした。

──2022年11月から配信されているドラマシリーズは34年ぶりの新作になりますが、いかがでしたか?

「ロード・オブ・ザ・リング」や「ハリー・ポッター」シリーズ、「ゲーム・オブ・スローンズ」などがある中で、今「ウィロー」を作るとしたらどうなるんだろうと思っていたんですが、こういう道があったのか!という“今どき感”がありました。ジャンルとしてファンタジーが地味な存在だった1988年とは違い、そういった作品がヒットするようになった今、製作会社であるルーカスフィルムが「自分たちが今何をするべきか」を考えて作ったのがドラマ「ウィロー」なんだなと。ファンタジーものって、真面目なところがあると思うんです。例えば「ハリー・ポッター」は物語の中にふざけたメッセージはあまり含まれていません。逆に「ゲーム・オブ・スローンズ」は、ある意味行儀が悪すぎて怖いというか、人がどんどん殺されていく。今回の「ウィロー」はその間に位置しているやんちゃなファンタジーと言いますか、ストーリーは真面目だけどふざけたシーンも適度に含まれていて、そのバランスがすごくいいなと。単に「ウィロー」をもう1回やるのではなくて、新しいファンタジーを作ろうとしている意気込みを感じました。

「ウィロー」場面写真

「ウィロー」場面写真

「私は必要とされていない人間だ」と感じている人たちが集まっている

──今どき感はどのあたりから?

キャラクターの組み立て方が寓話的ではなくて、めちゃめちゃ現代的になっているところですかね。女性同士の恋愛も描かれますし、物語の鍵を握っている人物の性格で「それはちょっとどうなの?」と思うような部分があるのも今っぽいと思いました。ウィローとその仲間たちはいわゆるヒーローやヒロインっぽくはないし、むしろ「私は必要とされていない人間だ」みたいに感じている人たちが集まっている。

「ウィロー」より、左からグレイドン、ボーマン、ダヴ、キット、ウィロー、ジェイド。

「ウィロー」より、左からグレイドン、ボーマン、ダヴ、キット、ウィロー、ジェイド。

──そんなキャラクターたちが、旅をする中で自分の役割を見つけていきます。

そういう物語が好きなんですよね。なんとなく全員がならず者というか、はみ出し者っぽいのがいい。ファンタジーでよくあるお説教臭さや行儀のよさが取っ払われていて、観ていてちょうどいい感じでした。メインはルビー・クルス演じるキットやエリン・ケリーマン演じるジェイドで、女性キャラクターが物語を推進していくというのは、映画版と共通している部分だとも思います。映画では主人公のウィローやヴァル・キルマー演じるマッドマーティガンは男性ですが、すべての王国を統一する運命にあるエローラ・ダナンやジョアンヌ・ウォーリー演じるソーシャ、敵のバブモーダといったメインキャラは女性でしたから。

「ウィロー」より、キット。

「ウィロー」より、キット。

「ウィロー」より、ジェイド。

「ウィロー」より、ジェイド。

──映画版では赤ちゃんだったエローラ・ダナンが、ドラマシリーズでは大人になって登場します。

ウィローは彼女に魔法を教えますが、全然言うことを聞かないですよね。怒ってものれんに腕押しだし、どうしたらこの人とわかり合えるんだろうみたいな絶望感があって。齢50を超えるとウィローの気持ちがよくわかる……。

「ウィロー」より、ウィロー。

「ウィロー」より、ウィロー。

──(笑)

でも、ワーウィック・デイヴィス演じるウィローが思ったよりおじいちゃんじゃなかった。1988年の映画のときは若かったのかな?

──1970年2月生まれなので、今は52歳ですね。

あ、じゃあ映画のときは10代だったんだ! 俺より歳下だ(笑)。