ジェリーありきで作られたようなキャラクター(西森)
──主人公シアオ・ハンの役柄もファンにとってたまらなかったと思います。キャラクターに対してはどんな印象を持たれましたか?
ゆんちゃん 寡黙な役でしたよね。ミステリアスな雰囲気をまとっていて、物静かな大人の男性。ビジュアルは道明寺と重なる部分が多かったという話をしましたけど、役の中身は全然違いました。
しーちゃん それに極端にクールというか。「この人、絶対に過去に何かあっただろ!」みたいな想像が膨らみやすいキャラだなって。「何かトラウマがあってしゃべらなくなったのかな」とか、思わず推測してしまうような陰がありましたね。
西森 ぐいぐい迫るヒロインにストップを掛けるような面もあって、ずっとシアオ・ハンの気持ちが読めないので、続きが気になりました。彼のことを好きなライバルも出てきますけど、変に気を持たせて「おい!」と思うようなことはせず、きちんとヒロインに向き合っているように見えたので、ミステリアスだけどそういう誠実さもあってよかったです。
──西森さんがジェリーに取材したときに繊細そうだったとおっしゃっていましたが、根底に役柄と通ずるものがあったのかもしれませんね。本作のプロデューサーは、シアオ・ハン役を見つけるため半年にわたって多くの俳優と会ったそうですが、知人の紹介でジェリーにコンタクトを取った際に、彼自身も控えめな部分があって「シアオ・ハン本人だ」と感じたそうです。
西森 シアオ・ハンのキャラクター然り、最初からジェリーありきで作られたのだと思っていました。昔から撮影現場でもすごく繊細でこだわりが強いタイプだという話も聞いたことがあります。エピソードを聞くたびに、本当にナイーブなんだなと感じます。
ゆんちゃん すごく真面目な方ですよね。経歴が華やかだからプライベートも“ザ・芸能人”みたいなのかなと思ったら、実際は職人肌というか、プロ意識が高い方なんでしょうね。普通はある程度周りに合わせると思うんですけど、演技に対して妥協しない。中国の芸能ニュースでもよく報じられていたので、いい意味で頑固なんだろうなという印象が昔からあります。
しーちゃん 「流星花園」の花沢類役のヴィック・チョウのほうがお茶目で明るい感じだったので、ジェリーもヴィックも役とギャップがありました。幼いながらに「本人は全然キャラが違うんだ!」と実感したことを思い出しました。
西森 中華圏では、最近のジェリー・イェンはどんな活躍をしていましたか?
しーちゃん ううーん。常に第一線かと言うと、ちょっと違うかもしれません。
ゆんちゃん ずっと活躍していますが、そこまで頻繁に目にするわけではなくて。それはきっとなんにでも出演するわけではなく、本当に出たい作品を選んでいるからなのでしょうね。
しーちゃん 最近だと「運命のキスをお願い!」という主演ドラマも歳の差ラブストーリーでしたね。相手役の女優さんが中国版「花より男子」(2018年)で牧野つくしを演じたシェン・ユエだったので「時空を超えた共演」だと話題になっていました!
あらゆる想像の余地があるラスト(しーちゃん)
──作品選びに慎重なジェリー・イェンが出演を決めた「夏花」は、ほかにも魅力がたくさんあるかと思います。どんなところに惹かれましたか?
ゆんちゃん 中国の視聴者の中では「PVみたいにきれいな映像」という声が多かったみたいです。色使いが鮮やかで、どこか懐かしさもあって。
西森 BGMの楽曲もノスタルジックですよね。歌詞にも字幕が付くので、セリフではなく歌で「こういう心情なのか」と感じられるところがよかった。
ゆんちゃん 全体的にレトロな感じですよね。スマホでのやり取りがなければ、2003年のドラマと言われても不思議ではない(笑)。
しーちゃん それが「夏花」にしかない独特なムードを醸し出している理由なのかな。主人公とヒロインの関係性もシンプルというか。病気のヒロインという設定って、日本だと「セカチュー(世界の中心で、愛をさけぶ)」(2004年)を思い起こすと思うんですよ。そのような懐かしさが逆に新鮮に感じられるかも。
西森 それとロケーションもドラマを観続けたい要素の1つでした。海辺の風景がすごくきれいで。韓国でもヒーリングドラマって流行っているじゃないですか。ひと夏の出来事を描いていて、傷付いている登場人物も視聴者も心が癒やされる、そういう雰囲気が「夏花」にもありました。
しーちゃん お花畑もたくさん出てきて美しかったですし、夏!っていう南国の景色もずっと観ていたくなりました。
ゆんちゃん あと私としーちゃんは、ドラマの結末の捉え方がそれぞれ違ったんです。これも監督のこだわりみたいで、視聴者が3パターン想像できるようにラストを作り込んだという記事を読みました。
しーちゃん あらゆる想像の余地があるので、観たあとに絶対「あれってさー!」って話したくなるよね。
ゆんちゃん それと、もう1つ。中国のドラマでは音声がアフレコになることが多いんですけど、「夏花」はジェリー・イェン自身の声で演技しているので、とてもナチュラルです。ジェリーの中国語は台湾訛りがあるので、ほかの共演者と少し違うことに最初は違和感があったんですけど……ストーリーの途中である設定が判明して。なるほどうまいなと思いました。
しーちゃん そうそう。もともとヒロイン役のシュ・ルオハンのことをInstagramでフォローしていたから知っていたんですけど、彼女は台湾の人ではないから、セリフはどうなるんだろう? アフレコかな?と思っていたら。なるほど、そういう設定に落とし込んできたかと。
「夏花」見どころメモ
鮮烈な色彩
監督のチェン・ジョウフェイはチェン・カイコー、チャン・イーモウら巨匠たちのもとで撮影監督を務めてきた。本作の耽美な映像も監督のこだわりが生み出したもの。基調となっている青はシアオ・ハンの孤独で冷たい心、赤はホー・ランの情熱が表現されている。
ノスタルジックな楽曲群
監督が毎日100曲以上聴き、C-POPの往年の名曲から厳選したBGMの数々がドラマに深い余韻を残す。
絵画のようなロケーション
ロケ地に選ばれたのは、南国ムード満点の海南島、そして雪山に囲まれたアバ・チベット族チャン族自治州茂県。エキゾチックな雰囲気が、まるで夢の中にいるようなロマンティックな印象を与える。
ちょっと大人向けの少女マンガみたいなドキドキ感(ゆんちゃん)
──中国では本作を通じてジェリー・イェンに心をつかまれた若い世代も多くいたようです。日本でも若い中国ドラマファンが増えていますが、「流星花園」を観たことがない世代にどうお薦めしたいですか?
しーちゃん やっぱり若い方からするとヒロインのホー・ランに感情移入しやすいのかなと思います。大人の男性を追いかけるヒロイン、というのは入り口としてわかりやすいですよね。
西森 胸キュンものって日本でもどこでも流行るじゃないですか。どんなシチュエーションでキュンキュンさせようかって、やり尽くした感がありましたけど、おお!となるような大人っぽいセクシーな場面が多かったですよね。
ゆんちゃん そういう意味では映画っぽいのかも。ドラマってラブシーンは多少控えめな印象がありますが、そこを全面的に押し出していたので。ちょっと大人向けの少女マンガを読んでいるみたいなドキドキ感を味わえて、ホー・ランと一緒に背伸びできるみたいな。さっきレトロな感じがあると話しましたが、こういう部分は今の時代っぽいなと思いました。
しーちゃん ちょっとスリリングな恋だしね。シアオ・ハンからしたらホー・ランは歳下だし、好きになっちゃ駄目なんだけど……みたいな葛藤もあって。
西森 シアオ・ハンが最低限ちゃんとしていたので、そのあたりも安心できました。謎めいているけど大人としての誠実さがあったのでよかった。
ゆんちゃん 歳の差恋愛というと男性が歳上のイメージがあるかもしれないですが、最近の中国ドラマでは、女性が歳上・男性が歳下のラブストーリーが多い気がして。韓国ドラマもそんな気がします。「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」を筆頭に。なので今回は逆に新鮮味を感じました。
「夏花」美しいキスシーンに注目!
しーちゃん 少し話が変わりますが、主役の2人以外だと、ホー・ランのお母さんのサイドストーリーも印象に残ってます。母親でありCEOでもあるけど、未熟な部分もあるんだろうなという感じで、彼女の苦悩にも焦点が当てられていましたね。
西森 最初は母親が娘をただ押し込めているように思えたけど、その理由がだんだんわかっていくと見え方が変わってきました。
ゆんちゃん 娘の先輩で自分の部下っていうちょっと複雑な関係性の相手との恋もあって、お母さんのストーリーだけでもドラマを作れそうなくらい。あれこそ今っぽいストーリーですよね。お母さん役はホアン・イーという有名な女優さんで、中国の国民的ドラマ「還珠姫~プリンセスのつくりかた~(原題:還珠格格)」のシーズン3(2003年)でキャスト陣が新しくなったときに主演を務めたんですよ。
しーちゃん ああ、あの人か!
ゆんちゃん 天真爛漫ではちゃめちゃな女の子を演じたイメージがあるから、今回は「お母さん役なんだ!」って成長を感じました(笑)。
しーちゃん 同世代のジェリー・イェンだけ当時のまま時空を超えてきたみたいな(笑)。ここまで来たら、いつか吸血鬼の役をやったほうがいいと思う!
「夏花」第1話特別公開中
プロフィール
李姉妹(リシマイ)
日本在住中国人姉妹YouTuber。姉のゆんちゃんと妹のしーちゃんが2018年に「李姉妹ch」を開設した。中国語学習法や中国の文化、ドラマ情報などを発信し人気を集め、チャンネル登録者数は約35万人(2023年6月現在)。著書に「李姉妹のおしゃべりな中国語」「長草くんと李姉妹のまるっと話せる中国語」「すぐに話せて必ず通じる 李姉妹と基礎から中国語」があり、2023年2月に中国の旗袍(チーパオ)を日本から手軽に買えるネットショップを開設した。
ゆん(李姉妹ch) (@yunlisis) | Twitter
しー(李姉妹ch) (@lisis45) | Twitter
西森路代(ニシモリミチヨ)
ライター。香港、台湾、韓国、日本を中心としたエンタテインメントに関してコラム・批評などを執筆している。出版物にハン・トンヒョンとの共著「韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020」など。2023年6月28日に単著「韓国ノワール その激情と成熟」が刊行された。
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