「ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから」|30歳を迎えた前田公輝が考える恋のこと、愛のこと

早乙女太一が「エネルギーはカメラの前でだけ出せばいい」

──劇中に登場するラファエルの親友フェリックスは、コメディリリーフでありながら、ラファエルに大切なことを気付かせる存在でもありました。前田さんは友人に言われた言葉やアドバイスで、今でも心に残っているものはありますか?

「ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから」より、フェリックス(左)とラファエル(右)。

早乙女太一に言われてすごく腑に落ちたのが「人ってエネルギーの量が決まっているから、カメラの前でだけ出せばいい。君は気遣い屋だから、エネルギーを分配してしまっていると思う。そうするといざというときに出しきれない瞬間がある気がする」という言葉で。押し付けるような感じではなくて、もうちょっとかっこいい言い方だったと思うんですけど(笑)。それまではただ友達と会うだけで疲れてしまうこともあったんですが、気を使いすぎないようにしようと思えました。あと僕が20代前半の頃、ちょっと人の悪口を言ったら、工藤阿須加に普通に注意されました。「悪口は自分の首を絞めるからやめな」と言われて、「すいませんでした!」って(笑)。彼はそういう人間だから、誤解されて「いい格好しやがって!」とひがまれることもあるかもしれませんが、僕にはそれが本心だとわかるんです。

──ラファエルは妻という存在を失ってその大切さに気付きましたが、前田さんもコロナ禍で友達にも会いづらくなり、改めてその存在の大切さに気付くこともあったのでは?

コロナ禍の少し前から、より狭く深い友達関係を意識し始めていたんです。会えないからといってなくなるような関係ではないので、不安になることはありませんでした。僕の場合はたまたま、コロナ禍に関係なく何が大切かを見極める時期だったんです。

──そのきっかけは、先ほどの早乙女太一さんの言葉ですか?

そうですね。関係の深い相手ほど「お前の気遣い鼻につくな、もっと腹を割れよ!」と言ってくれたので、結局僕は八方美人だったのかもしれないと気付いたんです。「みんなに好かれたい」という気持ちは俳優に必要なものかもしれませんが、それは本番中だけでもよくて。今は自分を大切にして、それこそ“愛”に近い関係を築いていきたいなと思っているんです。ここ数年でとんでもなく大きな変化がありましたね。

彼女のために血だらけで笑い泣きする演技をしてみたい

──ラファエル役のフランソワ・シヴィルとオリヴィア役のジョセフィーヌ・ジャピは、本作での共演を経てプライベートでも交際に発展しました。2人の気持ちが表れているような印象的なシーンはありましたか?

「ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから」より、オリヴィア(左)とラファエル(右)。

「本当に自然!」と思ったのが、2人で電車に乗っているシーンです。オリヴィアが、ラファエルのひざに手を置いているんですよ。(1人2役で再現しながら)ラファエルが携帯を見ている間の、オリヴィアの……この手! 日本の電車の中でも見るようなカップルのしぐさですが、あれをさり気なくやるのは相当難しいと思います。監督の演出じゃなかったとしたら、本当に好きだったからこそ出たものかもしれないですよね。

──俳優の前田さんから見ても驚くようなさり気なさだったんですね。

はい。演出で言うと、もう1つの世界でラファエルが彼女に近付こうとがんばっているとき、オリヴィアがたばこを吸っている場面が印象的でした。笑いながらパフッと煙を吐く瞬間があるのですが、ラファエルの努力が全部煙になって、宙に散らばってしまうように見えて、すごく虚しくて……。あと別のシーンで、ショパンってすごい!と思いました。

──クライマックスでオリヴィアが弾く「幻想即興曲 Op.66」ですね。

僕は小さい頃にピアノを習っていて、最近また練習し始めたんです。クラシックの練習曲を探していたんですが、こんなに人生を凝縮したような曲だったのかと思って泣きましたね。僕、このあとこの曲を弾いてみると思います。すっごく練習したい! 女優さん(ジャピ)も4カ月掛けてピアノを練習したと聞いて、すごいと思いました。

──今後、恋愛映画などでご自身が演じてみたいシチュエーションはありますか?

前田公輝

ちょっと恥ずかしいんですが……ヤバいやつだと思わないでくださいね?(笑) あの……好きな女の子のために血だらけになって笑い泣きする芝居をしてみたいです。

──それは恋愛映画ですか……!?

あくまで恋愛映画です!(笑) 恋によって心が壊れるけど、最後は誰もがうらやむような2人になる感じで。僕は自分が壊れるほどの恋をしたことがないですし、失恋してもすぐ前向きになろうとしてきたので、「ずっとあの子だけが……」という感情を知りたいのかも(笑)。

──演技力も試されそうなシチュエーションですね。

そういうほうが楽しいかなって。血だらけで笑い泣きしている自分の演技を、モニタで確認する感じ、すごく絵が浮かぶんですよね。これまで犯罪者役を多く演じてきたせいかもしれないですけど。でも血だらけになるのは、もちろん彼女のため、愛ゆえになんです!(笑) ただ王道系にも憧れるので、この映画で2人が海に潜るシーンもとても好きでした。海やプールでのシーンは、恋愛映画でやってみたいです。……うん、そっちのほうがいいですね。血だらけはちょっと怖い、ははは(笑)。

──ありがとうございます。では最後に、この映画をどんな人にお薦めしたいですか?

この映画を観て「僕も主人公みたいに、自分に酔っているところがあったのかも」と気付けたので、逆に自分に自信がある人ほど観てほしいです。「恋とか愛とか、自分はわかっている」と感じている人や、自分のことを大人だと思っている人こそ、恋愛は1人じゃできないんだと気付けるはずです。

前田公輝