「Mommy/マミー」「マティアス&マキシム」などで知られるグザヴィエ・ドランのテレビドラマ初監督作「ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと」が、Amazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX」にて配信されている。
本作のもとになったのは、ドランがかつて映画化した「トム・アット・ザ・ファーム」のミシェル・マルク・ブシャールによる舞台。ドラマではラルーシュ家の母マドレーヌ(マド)が残した予想外の遺言をきっかけに、30年前に葬り去られた嘘と秘密に翻弄される4兄妹の姿が描き出される。ドランが脚本・製作・出演を兼任し、彼の作品の常連アンヌ・ドルヴァルがマド役で参加。舞台版の主要キャストも出演に名を連ねた。
映画ナタリーでは、俳優の井之脇海に本作を鑑賞してもらった。学生時代からドラン作品のファンで、舞台「エレファント・ソング」では映画版でドランが演じた主人公マイケル役を務めたこともある井之脇。彼は「ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと」をどう観たか?
取材・文 / 前田かおり撮影 / 梁瀬玉実
ヘアメイク / Taro Yoshida(W)スタイリング / 檜垣健太郎(tsujimanagement)
伏線を紐解いていくのが好き
──海外ドラマは普段からご覧になりますか。
海外ドラマ好きな母と暮らしていた頃は、一緒になって観ていました。母は「CSI」シリーズや「クリミナル・マインド FBI行動分析課」など王道の作品が好きで。僕もその影響で「CSI:ニューヨーク」のファンで、主演のゲイリー・シニーズが好きになって。その後、映画「二十日鼠と人間」を観たら、彼が主演していて「あ、この人、CSIだ」とつながったんですよ(笑)。
──最近はどうですか?
最近は映画を観ることが多いですが、それでも、(クオリティが高いと言われる)HBO製作のドラマはちょこちょことチェックします。最近は、SFドラマの「レイズド・バイ・ウルブス/神なき惑星」のシーズン2を、なんだろうこれはと思いながら観ていました。
──ジャンル的にはどのようなドラマが好きなのでしょうか。
映画はいかに共感できるか、もしくは知らない世界を観るのが好きなのですが、ドラマに関しては連続ものである意味を考えると、伏線を紐解いていくのが好きですね。
──今回の「ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと」は、「Mommy/マミー」の監督グザヴィエ・ドランがテレビドラマに初挑戦した作品です。井之脇さんはドランの作品はお好きですか?
はい、「胸騒ぎの恋人」以外はたぶん全部観ています。僕は日芸(日本大学芸術学部)の映画学科で学んでいたのですが、今から10年くらい前、周りのみんなが「ドラン、ドラン」と言っているくらい、ドランは人気でカリスマ的な存在でした。余談ですが、18歳の頃にカンヌ国際映画祭に監督として参加したとき、ドランも同じく映画祭に招待をされていたんです。それで僕は勝手に彼に親近感を抱いて、その後、彼の作品を追いかけるように観ました。芝居をしている彼も好きだし、僕よりちょっと上の歳でこれだけ映画が撮れるなんて憧れで。それに、彼が描く世界が僕にとっては心地よくてすごく好みなんです。映画の撮り方や画角をいじったりするところがツボにハマる。「マイ・マザー」「私はロランス」「Mommy/マミー」あたりは本当に好きです。
──特に、彼の作品のどんなところが好きですか?
彼の作品はセクシュアルマイノリティをテーマにしていることが多いのですが、登場人物たちの苦悩や葛藤が生々しく映っている。それはきっと彼が芝居の域を超える演出をしているのだと思います。そこがすごく好きですね。ドラン自身のアイデンティティも反映されているんでしょうけど、人間の内面を非常に繊細で丁寧に扱っているところがいい。そんな彼の作風が、連続ドラマとなったときにどうなるのかなと楽しみにしながら観ていました。
いい意味で予想を裏切られるスタート
──今回のドラマに関する前情報はどの程度入れて、観たのでしょうか。
ドランにとってテレビドラマ初挑戦作だということくらいです。彼の作品だからLGBTQがテーマなのかなと思っていたら、いい意味で予想を裏切られるスタートでした。でも、窓や鏡、ドア、空間を捉えるところ1つひとつにドラン節が効いていて。やっぱり、ドランの作品だなと思いました。そしてサスペンス的に展開するので、次が気になっていく。登場人物たち全員の芝居も本当にすごいので、いったい、どんな演出をしているんだろう?と考えているうちにのめり込んで、夜、寝る前に2話、2話、1話と進めていきました。
──寝る前に観るのは、ちょっと重くなかったですか?
重いというよりは、幻想なのか、リアルな世界のことなのか?と怖くなりましたね。過去と現実が交錯するじゃないですか。その中の1つで、若い頃の母親が鏡越しか何かで映るシーンは不気味で、観たあとうなされそうでした(笑)。でも、やっぱり先が気になってしまって、一気観したくなりましたね。
──5時間ものの映画のように感じますよね。
そうなんです。とはいえ、ちゃんと連続ドラマとして「次はどうなるんだろう?」という撮り方、終わり方になっている。エピソードごとのタイトルの付け方もすごく秀逸だし、きちんと伏線を紐解いていく感じがあって、物語もとても面白い。気付いたら、5時間経っていたという気がします。
──もっとも惹かれたのはどの要素でしょうか。
ずっと不穏な空気が漂っているので、この家族には何があったんだろうと気になって気になって。誰かが嘘をついている感じがあって、「エリオットなのかな?」と思いつつ観ていくと、だんだん誰が嘘をついているのか、秘密を抱えているのかがわからなくなる。それぞれの目線の描き方や人との距離感が絶妙で、まんまと作り手の策にハマりました(笑)。
──ドランは映画で母と子、家族の問題を多く描いてきていますが、今回のドラマではどう感じられましたか?
かなり厄介そうな家族ですが、遠い世界の話ではない気がします。というのも、どんな家族も、事の大小はあるかもしれないけれど、いろんな秘密や問題を抱えている。家族だけど言えないことや、家族だからこそわかってあげられることって普遍的にあると思うんです。そういう意味では、感情移入はできなくても、他人事ではない話が描かれていました。それに、この家族のことがとても興味深く見えてくる。家族を演じている俳優たちは顔が似てるわけじゃない。なのに、どこか一本の線でつながっていて、同じ危うさを共有しているように感じられました。
──印象的なシーンを教えてください。
例えばドラン演じる末っ子のエリオットを、長男のジュリアン、次男ドゥニ、そして長女のミレイユ(ミミ)が気にかけているというのを、目線や仕草、呼吸1つで感じさせる。それってやっぱり演出の素晴らしさだと思うんですよね。序盤でエリオットの携帯電話をドゥニが取り上げるところがありますが、脚本にはわざわざ書かれていないのでは?と感じました。きっとドランの演出なのだと思います。
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気付けば、自然と物語にのめり込む