「だが、情熱はある」特集|髙橋海人・森本慎太郎を一番近くで見守った監督・狩山俊輔にインタビュー (2/2)

解散ライブに懸ける思いをみんなで追体験しているような感覚

──狩山監督が担当した中でほかに印象的なシーンはありましたか?

1話と最終話に(東京・)北沢タウンホールで「たりないふたり」の解散ライブのシーンがあるんですけど、クランクインの日でもあった1話のときは、(本人の)VTRを見て「ここからここまで」って決めて、ドラマでオンエアした部分しか撮影していないんです。逆に、最終回は10分近く撮っていて。1話では「こんなの覚えられない」と思ってできていなかったものが、最終回で同じシーンを撮るとなったときに、スタッフもキャストも全員が成長していた。海人くんと慎太郎くんが役として半生を生きて、スタッフもその半生を見守ってきて、最後の北沢タウンホールのライブに懸ける思いをみんなで追体験しているような感覚でした。

狩山俊輔

狩山俊輔

──2人を見てきたから、スタッフも「2人だったらこうするだろうな」とわかったんですかね。

そうですね。同じシーンと同じ動きを撮ってるのに、こんなにも感情が違うように見えるんだなっていうのが、このドラマを通して印象的でした。

──その感慨深さは、視聴者としても感じていました。一方、ナレーションを担当した水卜麻美アナウンサーは感情移入しすぎないように気を付けたそうですが、収録中はどんな様子だったんですか?

水卜さんは「オンエアで楽しみたい」と、必要以上に映像を観ないようにしていました。だから収録するシーンの前後はあまり見せずに、淡々と語る中で「ほんのちょっとだけいじりましょう」とか、「ちょっと愛を込めましょう」みたいな指示をしていましたね。ときどきどうしても見ちゃうことがあるんですけど、そのリアクションたるや! ブースで「あー!」って叫んで楽しんでいるし、僕らが仕込んだ「春日カレンダー」みたいな小ネタにも細かく気付いてくれました。

ドラマ「だが、情熱はある」より、左からオードリー・若林正恭役の髙橋海人、春日俊彰役の戸塚純貴。

ドラマ「だが、情熱はある」より、左からオードリー・若林正恭役の髙橋海人、春日俊彰役の戸塚純貴。

撮影が2日後に迫る中、「どうしよう。やる? やろう!」

──最終回でちらっと映った「春日カレンダー」、芸が細かい!と思いました。そういった小ネタは意識して入れていったんですか?

そうです。時間と予算は限られているのでもちろん限界はありましたけど、スタッフみんな間に合うことはやろうという感じでしたね。このドラマをやると聞きつけて「僕がやりたいです!」って自ら参加してくれたお笑いファンの美術デザイナー・松木(修人)くんなんかもいましたし。「春日カレンダー」に関しては、本当の設定だとまだ発売していない年なんですけど、「見せるならあそこしかチャンスがないね」と戸塚くんと2人で話していて。撮影が2日後に迫る中、「どうしよう。やる? やろう!」と翌日に写真を撮って、その日のうちに加工をして、次の日の撮影に挑むというのをみんな嫌な顔せずやってくれたんです。

──すごい現場……! 貴重なお話をありがとうございます。今回のソフトには、約140分のメイキングも収録されていますね。髙橋さんと森本さんが、グリーンバックで漫才の撮影を何テイクも重ねている姿が印象的でした。

あれは「たりないふたり」のテレビの中の映像です。M-1もそうなんですけど、実際にVTRとして残っているので僕らが見比べることができる。「手の角度が違うな」とか細かいところが気になってきて、「完璧にしたい」と思っちゃった結果、僕も含めみんなのハードルが高くなりました。でもその結果、そっくりでした。

──制作現場の空気も含め、回を重ねるごとに「だが、情熱はある」というタイトルに説得力が増していきましたね。

自分が関わった作品の中で一番いいタイトルなんじゃないかと思うぐらい、好きなタイトルです。「だが、情熱はある」だけでも成立するけど、やっぱり、“たりないふたり”“だが、情熱はある”ってセットになる仕掛けがとてもいいなと思っています。同世代として憧れの2人を描くことは僕自身とてもやりがいがありましたし、この2人に対して恥ずかしくないものを作りたいという思いで、海人くんや慎太郎くん、スタッフ、キャストみんなで作ってきたので、Blu-rayやDVDを手に取って観てくれる方に少しでもその“情熱の塊”が届いたらいいなと思います。

狩山俊輔

狩山俊輔

プロフィール

狩山俊輔(カリヤマシュンスケ)

演出家・映画監督。NHKプレミアムドラマ「奇跡の人」、日本テレビ系「ムチャブリ! わたしが社長になるなんて」「祈りのカルテ 研修医の謎解き診察記録」「ブラッシュアップライフ」などで演出を担当した。映画作品は「映画 妖怪人間ベム」「青くて痛くて脆い」を手がけ、監督を務めた「メタモルフォーゼの縁側」は第32回日本映画批評家大賞で作品賞に輝いた。