コミックナタリー PowerPush - 相原コージ「Z~ゼット~」

ギャグの求道者が挑むゾンビホラー 大根仁が「なぜ今」の理由を聞く

オタクとかスクールカースト的なものとか、そのお国柄が面白い(大根)

大根 リメイクの「ドーン・オブ・ザ・デッド」くらいからゾンビの考え方がどんどん変わっていってて。一方で「ゾンビランド」とか「ショーン・オブ・ザ・デッド」みたいな、おもしろゾンビ、笑いを加えたゾンビものっていうのも出てきて、「Z~ゼット~」はその系譜に入るのかな、という。勝手な分析ですけど。

相原 まあ僕が描くとどうしてもそうなる部分はある。怖いとおかしいの中間ぐらいがいいと思ってるんです。状況自体が異常なんで、本格的なギャグにするのは難しいですね。

大根 もうひとつ画期的だなと思ったのは、短編っていう発想。ショートフィルムとしてゾンビを考えてみるっていうのは確かになかったな、っていう。第2話のヤクザのエピソードとか、映像にしたら10分くらいでまとまりそうですよね。やっぱりゾンビものってどうしても、ある程度長いストーリーもので考えてしまうので、そういった意味ではできあがったジャンルを破壊するっていう相原節が、ここに表れてるのかなと。

写真手前から相原コージ、大根仁。

相原 いやいや、そんな大仰なつもりもないんですよ。月刊誌で(1話につき)12ページしかないので、引きのある長編は無理なんですよ。だったらエピソードごと読み切り形式でやって、いろいろ積み重ねていくとなんか世界観が見えてくればいいか、くらいの感じです。いろんなシチュエーションをゾンビ化した世界で考えるとこういうことできるよな、っていうのを短いページでどんどんやっちゃおうかなっていう。

大根 あとやっぱりゾンビものって、そのお国柄というか、ドメスティックな背景であるとか、カルチャーなり考え方っていうのをどう取り入れるかっていうのが面白いと思うんですけど。「Z~ゼット~」は第1話からさっそく、オタクとかスクールカースト的なものとか、そういうのが入っているのはすごく面白かったですね。僕がたぶんいつか撮るゾンビ作品の参考になったなと。

人間の形してるけどバンバンぶっ殺せる、っていうのがいい(相原)

相原 ああ、やっぱりいつかは(ゾンビものを)撮りたいですか。

「Z~ゼット~」第9話より。得意の薙刀で戦う女子高生。

大根 そりゃ撮りたいですよ! ちょっとひねくれた道を歩んできた表現者はすべからくゾンビに落ち着くっていうのがなんとなくあるじゃないですか(笑)。ドラマの中で、何度かパロディ的にやってるんですけど、やっぱゾンビ撮るとアガりますね。(第10話では)ビニール傘を武器にしてましたけど、僕も劇中でビニール傘を使いました。

相原 日本だと武器って限られてきますからね。花沢健吾さんの「アイアムアヒーロー」はライフルの免許を持った人が主人公になってますけど、やっぱりそうそう拳銃が近くにある状況もないんで、どうしようかと。

大根 まあ設定にもよるんですが、ドラマの作りやすさっていうのはあると思うんですよ。昨日まで、あるいは数時間前まで恋人だったり肉親だったりした人たちが、まったく別の生き物になってしまって、それを殺さざるを得ないっていう。

相原 そうですね。あとはバンバンぶっ殺せるのがいいのかなっていうのは、ちょっとあるんですよね。

大根 人間の格好してるけど、もう死んでるから。

相原 昔の映画ではインディアン殺したり、戦争でスカッと敵方を殺したり。いまはそういうのもなかなか描きにくいじゃないですか。まあテロリストぐらいかな、正々堂々と殺せるのは。

大根 正々堂々(笑)。

相原 それだってテロリスト側にも事情があったりして、そう簡単には殺せなくなってきた。でもそれがゾンビだと殺していいし、一応人間の形をしているので、バンバンバンバンぶっ殺していくとそこにちょっと快感があるのかなっていう。ひょっとしたら人間には、人間をなんの躊躇もなくバンバン大量にぶっ殺したいといううしろ暗い欲望が無意識の部分であるのかも、とか考えたことはありますね。まあ、もしそうだとしたら僕が描いてるのはちょっと違ってきちゃってるんですけどね、死なないゾンビだから。

ゾンビは数が出てきたほうが迫力あるんですけど……、めんどくさいの(相原)

大根 やっぱり残酷な描写は描いてて筆が乗りますか。

「Z~ゼット~」第4話より。山奥でひとり目覚めた登山者のゾンビ。

相原 うーん、好きなんですけど、同時に絵が面倒なんですよね、内蔵がいっぱい出てきたり……。いまのマンガの絵ってすごいリアルなんで、靴ひとつ描くにしても、靴底までしっかり描いてあるでしょ。僕もそれをやろうとしたら気が狂いそうになって。かといってあんまり適当だとあまりに(絵が)古くなっちゃうし……。昔はボーダーの服を描くなら、どんなアングルでもただ横線を引いてればよかったんですけど、あるときから身体のラインに沿ってボーダー柄が曲がっているのを描かなきゃいけなくなったんですよ。たぶん江口寿史さんあたりがやりはじめたんだと思うんですけど。

大根 余計なことを(笑)。

相原 そう(笑)。いまやもう、ただ横線のボーダー描いたらバカみたく見えるようになってしまった。一応ホラーをやってるんである程度はリアルに描かなきゃいけなくて。それにゾンビは数が出てきたほうが迫力あるんですけど……、めんどくさい(笑)。

大根 描きたいテーマなのに描きたくないという。

相原 そうなんですよ。原作みたいな形でやろうかとも考えたんですけど、結局自分で描いちゃってますね。昔から企画を考えるのは割と好きなんで、前に「なにがオモロイの?」っていう作品をやったんですけど、あれなんてほんとは若手のギャグマンガ家にやらせて、プロデューサー的な立場でいたほうがよかったのかもしれない……。

大根 ネットで読者から意見を募って、それを受けて次回の方向性を決める、実験的なマンガでしたね。

相原 あれもボロクソ言われて……。何百、何千という悪口の意見をもらって、本当に描けなくなっちゃったんですよ。それ以来、あんまり2ちゃんねるとか見てないですね。あれは恐ろしいです。あんまり見ないほうがいい。

相原コージ「Z~ゼット~」/ 2013年4月26日発売 / 620円 / 日本文芸社
あらすじ

「コージ苑」「サルでも描けるまんが教室」「ムジナ」など、日本ギャグマンガ界の重鎮的存在である相原コージが、満を持して描くゾンビ・パニック・ホラー「Z~ゼット~」。

発生初期、発生中期、発生後期の3段階でストーリーは展開されるが、その構成は毎回バラバラのオムニバス。また、ゾンビ化も人間だけには留まらないし、細分化された肉体さえもゾンビとして襲ってくるという、まさに手の付けようのない状態。

一筋縄ではいかないゾンビ・ホラーの傑作誕生!!

相原コージ(あいはらこーじ)
相原コージ

1963年5月3日北海道登別市生まれ。日本デザイナー学院まんが専攻科卒業。1983年、漫画アクション(双葉社)にて「八月の濡れたパンツ」でデビュー。ギャグマンガの方程式を覆す革新的な手法に定評がある。1989年、ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて連載された竹熊健太郎との合作「サルでも描けるまんが教室」は、人気マンガの分析・パロディといった業界風刺的内容が話題を呼び、現在も根強い人気を誇る。また、ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて同じく竹熊健太郎とともに審査員を務めた「相原賞」は、榎本俊二やほりのぶゆきなど後に人気マンガ家となる新人を数多く輩出した。近年は「漫歌」「真・異種格闘大戦」「下ネタで考える学問」などを発表し、現在は別冊漫画ゴラク(日本文芸社)にて「Z~ゼット~」を連載中。2013年に画業30周年を迎えた。代表作の4コママンガ「コージ苑」は2013年4月より文庫化され、3カ月連続で刊行される。

大根仁(おおねひとし)
大根仁

1968年生まれ、東京都出身。演出家、映像ディレクターとしてさまざまなドラマやビデオクリップを手がける。代表作は「演技者。シリーズ」「週刊真木よう子」「湯けむりスナイパー」など。2010年夏に放送されたドラマ「モテキ」のヒットによりその名を広く知られるようになる。2011年、映画監督デビュー作となる映画版「モテキ」が公開され大ヒット。2013年1~3月には脚本・演出を務めたドラマ「まほろ駅前番外地」が放送され、深夜ドラマでは異例のギャラクシー賞を受賞した。先頃公開された監督第2作「恋の渦」が7月6日より渋谷シネクイントにてレイトショーで再上映される。