「ヤングアニマルZERO」「ゴッドタン」の名物プロデューサー・佐久間宣行インタビュー|令和のエンタメ戦国時代、みんなに届く鍵は“個人の本気(マジ)の熱量

「ニラメッコ」の芸人たちとはまだ仕事をしたくない

──「ニラメッコ」は「うらみちお兄さん」の久世岳さんが、若手お笑い芸人たちのシェアハウスを描いた作品です。

キャラクターがすごくいい。同じようにお笑いの世界を描いた「べしゃり暮らし」とは違って、出てくる芸人が今どきですよね。お笑い第7世代の感じがちょっとある。

久世岳「ニラメッコ」第2話より。タイプの異なる若手芸人が登場する。 久世岳「ニラメッコ」第2話より。タイプの異なる若手芸人が登場する。

──作中ではお笑いコンビ・ニラメッコの水吉と朝木を軸に、潮来(いたこ)、門真アミーゴというコンビが登場します。1話で水吉の独白を読んで「お笑い芸人ってけっこう悩みが多いんだな」と思ったんですが、お笑い第7世代ってこういう感じなんでしょうか?

第7世代は、僕の感覚でいうとここまでナイーブではないです。第7世代はオタクが多いんです。今面白いことをやりたいと思ったら、芸人じゃない道がたくさんあるじゃないですか。それでも芸人を選んでるということで、やっぱりお笑いマニアが多くて。YouTubeでとにかくコントを見て育った世代ということもあって、構成も凝ったものが多いんですよ。昔はモテたいから芸人をやるとか、いじめっ子に逆襲したいから売れたいって人が大半だったんですが、そうじゃなくて本当にお笑いが好きな人たちで。ただ吉本だと、昔ながらの「一発かましたるぞ」って思いが垣間見える芸人もけっこういます。そういう意味でいうと、「ニラメッコ」の芸人たちは第7世代というより吉本っぽいですね。

──あ、すごい。実は「ニラメッコ」の芸人たちは吉本の芸人を参考にしているらしいんです。

やっぱり! そんな感じがします。今後、東京の第7世代のコントオタクみたいなキャラも「ニラメッコ」に登場してくれたらうれしいなあ。

──佐久間さんから見て、「ニラメッコ」の中で売れそうなコンビはいますか?

それは全然わかんないけど、まだどのコンビとも仕事したいとは思わないですね(笑)。まだめんどくさそう。

──あはは、もうちょっと揉まれてほしいと(笑)。ちなみに、「仕事をしたい」と思うのはどういう人たちなんですか?

佐久間宣行

若い芸人の場合ですが、「ゴッドタン」では2つあって。1つはたぶん「ゴッドタン」でしか出せない魅力があり、それが本人たちのキャリアにもプラスになりそうって思った人。もう1つは、行き詰まってて、キャラをひっくり返してでももがいてみたいっていうのが見えた人。ただ若手とかまだ売れてない人は、ゴールデンに出られるチャンスがありそうだったら「ゴッドタン」にあんまり出ないほうがいいと思っていて。キャラをひっくり返しちゃうんで。例えば霜降り明星とかは、ストレートに自分たちの芸で売れそうだったので声かけてないんです。

──霜降り明星と同じ第7世代だと、先日ハナコに声をかけてらっしゃいましたね(参照:佐久間宣行 (@nobrock) | Twitter)。

ハナコのトリオの関係性がもっと面白くなりそうだと思ったから呼びました。それにコント師はコントのキャラクターが毎回変わるから、ネタを見ただけだとどういう人間かわかんないじゃないですか。なので1~2回はコント師自身のキャラを見せないと、ゴールデンのバラエティから声がかかりづらい。「ゴッドタン」は比較的平場(ひらば)なんで。

──平場?

がっつりした企画やネタ以外の、即興のトークとか対応力とかで笑いを取る場所です。お笑い番組が少なくなってきて、若手でも出られる平場の番組ってあんまりないんですよ。だから「ゴッドタン」は平場の魅力を出してあげたいと思う芸人さんを呼ぶことが多いですね。

──「ニラメッコ」の芸人たちも、今後「ゴッドタン」に呼んでもらえる成長を遂げられるといいですね。

さっきも言ったようにストレートに売れそうだったら、呼ばないほうがいいかもしれないですけど(笑)。でも「ニラメッコ」は素直にもっと読みたいです。

「数学ゴールデン」とよしながふみ「フラワー・オブ・ライフ」の共通点

藏丸竜彦「数学ゴールデン」第1話より。

──藏丸竜彦さんの「数学ゴールデン」も面白かったとおっしゃってましたね。

まず、「なんだこの絵柄」と思ったんです。うまいのか下手なのかよくわからない(笑)。

──確かに線が太くて荒々しい、特徴的なタッチです。絵柄で意表を突かれたあと、どんなところに惹かれましたか?

主人公にすごい才能があるのかと思ったら、物語の中盤で挫折してる人間だと判明して。何かに対して才能があるからやっちゃうタイプと、好きだからやるタイプっているじゃないですか。僕は才能があるかどうかわかんないけど、好きだからやるっていうキャラクターのほうが好きなんです。例を挙げると、よしながふみ先生の「フラワー・オブ・ライフ」。主人公のハル太と翔太はマンガ家になるために、すごくよくできたと思った作品を新人賞に応募するんです。でも、「10年に1度の天才」に賞を獲られちゃって。もちろん落ち込むんですけど、自分たちが「マンガを描くことが面白いからやってる」って気付いて、「10年に1度の天才じゃなくたっていいじゃないか」「僕は天才になりたいんじゃない、マンガ家になりたいんだ」ってセリフを言う。僕はそのエピソードを30代前半の、番組づくりでいろいろ考えていたときに読んだので、仕事の指針の1つになってて。

よしながふみ「フラワー・オブ・ライフ」文庫版1巻

──「フラワー・オブ・ライフ」で刺さった要素を、「数学ゴールデン」にも感じた。

そうです。主人公のキャラクターから近い感触を得ました。みんな、自分が天才じゃないってだいたい途中で気付くじゃないですか。僕も御多分にもれずそれを思い知ったときに「好きだから続けてる」とか「天才じゃなくても続けることの意味」とか、自分のポジションみたいなものを考えた。そのときのことを思い出しました。

──佐久間さんの著書「できないことはやりません」には、ご自身が「天才ではない」と何度も書かれていましたね。

それはもう間違いないです。基本的にテレビ局でサラリーマンになってクリエイターになる人で天才って少なくて。本当の天才は、10代からクリエイティブなことを始めてるから。マンガ家とかミュージシャンとかに多いと思います。

──「ゴッドタン」をはじめヒット番組を数多く手がけているので、なんらかの“天賦の才”があると思ってしまうのですが。

自分で言うのはすごくダサいけど、インプットに関しては努力家だと思います。「エンタメをめちゃくちゃ見てるね」ってかなり言われるんですが、1回も苦だと思ったことがなくて。ただ単に好きで見てるだけだから、それを才能と言われたら才能かもしれない。天才的なシナプスの閃きはないけど、掛け合わせられる在庫の量が多いのでアイデアが浮かぶのと、強いて言えば行動力や根性があるほうなので、アイデアを実現する力はあるのかな。

佐久間宣行

──「インプットが苦ではない」は羨ましい才能だと思います。

この間は夜の1時に帰宅したんですが、Amazonプライム・ビデオでロトスコープアニメの「アンダン ~時を超える者~」の新作が出てて、全8話を全部観ちゃいました。それで翌日出社しながら「眠いなー!」って後悔するんですけど、観るのを止めようとは思わないから、そういうのの積み重ねというか。

──仕事に活かせるからインプットしてるという意識はありますか?

それは全然ないです。僕は年末に酒を飲みながらその年に見たマンガとか映画とか舞台とかに点数をつけて、自分なりのベスト10を作るのが一番楽しいんです。絶対誰にも見せないけど。「今年の7位と8位は接戦だな……」って1人でやってるっていう(笑)。

今の視聴者に響くにはマジなほうがいい

──面白かった作品について語っていただきましたが、「できないことはやりません」に、「プロデューサーの仕事は才能ある人たちを集めて番組を作るっていうことに尽きる」とあったのを読んで、けっこうマンガの編集者の仕事にも共通するんじゃないかなと思ったんです。もし佐久間さんが編集だとしたら、どんな雑誌を作りますか?

え、難しいなあ。でも僕は、やっぱり新人で始めたいです。「ゴッドタン」に出てもらってるおぎやはぎと劇団ひとりも、もともとはネタ番組の若手オーディションで見つけたのがきっかけで、僕はそうやって番組を作ってきたので。だからマンガ雑誌をやるんだったら、自分でがんばって見つけたいなっていう気持ちがあります。単純に好きな作家はたくさんいますけど……。

──今活躍している作家のゴールデンチーム雑誌みたいなのではなく、新人を見つけたい。

ゴールデンチームにも興味はありますけど、面白いものを描いてる人は僕が余計なことを言わなくてももう面白いから。

──もしマンガをテーマにテレビ番組を作るとしたら、どんなものを作りますか?

佐久間宣行

宇多丸さんの「ムービーウォッチメン」とか中田敦彦のプレゼンレベルで、1つのマンガの魅力を個人がマジで紹介する、ってイメージがパッと浮かびました。今の視聴者に響かせるには笑えるとかわかりやすいとかよりも、マジなほうがいいと思うんですよ。笑いでくるんでみんなに届ける「アメトーーク!」スタイルもめちゃくちゃ面白いですけど、中田あっちゃんがYouTubeでやってるように、個人の熱量とテクニックで「なぜこれが面白いか」をガチでトークする。今、僕がマンガを取り上げるんだったら、そういうのにすると思います。

──YouTubeも意識してらっしゃるんですか?

もちろん。テレビのバラエティ番組だとできないこともYouTubeでやってますし。マンガも、過激なのがWebで読めるじゃないですか。中高生もそれを普通に読んで、「少年マンガだと物足りない」って子も当然いる。テレビも同じような岐路にあると思っていて。「ゴッドタン」は過激っていう方向の舵の取り方だと、YouTubeと差別化できないんです。だから最近は「めちゃくちゃ努力する」って方向に行ってて。

──めちゃくちゃ努力する?

バカみたいな目標かもしれませんが(笑)。「ストイック暗記王」の朝日奈央回では苦労話を再現するだけじゃなくて、眉村ちあきにそれをテーマにした歌を作ってもらいました。「思い付いたけど大変だから普通はやらないよな」ってことをやり切ってみようと思って。

──ヒャダインさんや安元洋貴さんらも感動したことをツイートしてましたよね。

なんか、異常に広まりました。

──本気でやり切ることが番組づくりに大切なんですね。ただ、例えばプロデューサーである佐久間さんだけが熱量を持ってても、いい番組にするのは難しいと思うんです。キャストやスタッフが同じ熱量を共有してくれないと視聴者に伝わらない気がするんですが、佐久間さんはどうやってそれを伝播させてるんですか?

佐久間宣行

僕の年齢になってくると、大事なのはチームづくり……つまりメンバー選びなんです。要は、そういう熱量がありそう、同じ志を持てそうな人を選ぶ。もっと若かった頃は、周りが引くくらい働いて熱量を伝えました。「あいつがあそこまでやりたいことだったらしょうがねえな」って思ってもらうことが鍵で。例えば「SICKS-シックス- みんながみんな、何かの病気」というコント番組のふりをしたドラマを作ったとき、僕はめちゃくちゃ面白いと思ったんですけど、前例がない特殊な構造の番組だからその魅力が伝わらないんですよ。だから全話のコントの流れと構成表、それにコントとドラマがどこで繋がってるってのがわかるExcelのどでかい表を会議の前に僕が全部作って持っていって。「ここで繋がるから面白くないですか?」とプレゼンして。

──そうやって周りの人に熱を伝播させたんですね。最後の質問になりますが、ヤングアニマルZEROは佐久間さんに届きましたか?

ええ。最初にZEROを見たとき630ページもあって「ぶ厚っ」と思ったんですが、巻頭の「ドゥルアンキ」、そして次に全然ジャンルの違う「ニラメッコ」を読んで、「このバラエティ豊かなラインナップだからこの厚さなんだ」と。いろんなジャンルのマンガを用意して、「面白いものを作るんだ」という気概は雑誌全体からすごく感じました。