山本さほ「岡崎に捧ぐ」
夢への背中を押してくれた2人の幼なじみ
憧れの室山まゆみと対面し、号泣
──山本さんがマンガ家になってよかったと思うことって何かありますか?
マンガ家になってから憧れの人に会う機会が多くて。それは本当に幸せなことだなと思います。
──以前、「あさりちゃん」の室山まゆみさんにお会いして、感動のあまり号泣されてましたよね(参照:『岡崎に捧ぐ』第1集発売&重版出来記念!室山まゆみ×山本さほ/100巻と1巻――憧れの大先輩に会う!!)。
号泣しましたね(笑)。室山先生は子供の頃からずっと読んでいた、自分にとってマンガの神様みたいな方だったので。お会いできる機会を作っていただいたのは本当にうれしかったですし、感動しました。人と会って泣いたのは初めてでしたね。
──お会いしてどうでした?
本当にあさりちゃんみたいな方でした。サバサバしていて。だからこっちが泣いてても全然気にしてなくて(笑)。そんなことは無視して、全然関係ない話をおふたりで漫才みたいにされていて。マンガのとおり、すごく面白い方々でした。
岡崎さんが関係ないところでも事件は起こり続けている
──「岡崎に捧ぐ」は実体験をもとにした作品ですが、ヤングマガジン サード(講談社)で連載中の「いつもぼくをみてる」など、フィクションのマンガも描かれていますよね。それぞれ描かれるうえで意識は違うものですか?
フィクションのほうが気が楽ですね。ノンフィクションのマンガを描くときは基本的に本当にあったエピソードを描くわけですけど、面白い話は有限なので。いつかなくなるわけだから、消耗している感じはありますね。
──子供の頃になりたかったマンガ家というのは、ノンフィクションのマンガを描く作家ではなかったんですよね?
そうですね。子供のときはファンタジーとかを描きたかったので、まさか自分がエッセイマンガ家のような話を描くとは思ってなかったです。
──今後はこんなお話が描きたいなど、構想はありますか?
自分で言うのもなんですけど、私の人生は本当にいろんなことがあって。信じられないことばかり体験しているので、これからも描いていきたいネタはたくさんあります。「岡崎に捧ぐ」は岡崎さんが関わっている話をまとめているわけですけど、岡崎さんの関係ないところでも事件は起こり続けていて。とにかく変な人にいっぱい会ってるので、その人たちの話はいつか描きたいなと思っています(笑)。
人間だったら性格のいいブスなんだろうな……
──ノンフィクションのマンガというと、「山本さんちのねこの話」にも山本さんが飼われている愛猫・トルコとの日常を綴った話が収録されています。
猫との日常を描くマンガっていろいろありますけど、もともと猫が好きな方が猫を飼って、「猫がこんなかわいいことをしました」っていう話を描いている作品が多いと思うんですね。でも、私は猫のことを最初はかわいいと思えなくて。「なんでこんなことをするんだ」とか「これはやめて!」とか、そういうことばっかりだったんです。そういう視点の猫マンガってあんまりないから、「ぜひ描いてみませんか」と担当さんにお話をいただいて。「ひまつぶしまんが」というタイトルでTwitterに1ページマンガを上げているんですけど、猫の話だけでも50本近く描いていて、単行本ではそれを全部清書し直してます。それ以外にも、トルコとの出会いや悩んだことを全部執筆して。トータルで100ページ以上描き下ろしました。
──最初はあまり猫が好きじゃなかったんですね。
もともと犬派で、飼っているうちに猫も好きになった感じですね。飼い始めは「育児ノイローゼってこういう感じなんだろうな……」っていうくらい、ホントに猫のことが全然わかんなくて。考えていることもわからないし言うことも聞かないしですごく嫌だったんですけど。
──出会いのエピソードを読ませていただきましたけど、最初は本当に大変そうでしたもんね(笑)。暴れるわ、噛むわ……。
今思うと子猫だったからやんちゃだっただけなんですよね。ただ当時は猫はそういう生き物なんだと思ってたので。ずーっと家の中を走り回ってたんですけど、これが10年20年続いたらヤバいぞ……と思って(笑)。
──気がおかしくなりますね(笑)。
物は壊すわ、引っ掻くわ、破くわ。最初はおしっこのトレーニングも大変で。その途方に暮れていた時期を描かせていただきました。
──今はもうかわいくて仕方ないですか?
そうですね。大人になって嘘のように落ち着いて。今は本当にいい子なんで、つくづく性格がいい猫だなあ……って思ってます。
──あはは(笑)。
野良猫だったので血統書付きの猫に比べたら毛並みもボサボサしてるし汚いんですけど、すっごく性格がいいんですよ。「きっとこの子は人間だったら性格のいい、愛嬌のあるブスなんだろうな……」って思います(笑)。そこも含めてかわいくて仕方ないですね。
好きなことを仕事にできて幸せ
──「山本さんちのねこの話」は100ページ以上描き下ろされたとのことですが、執筆のスピードが速くないとなかなかそんなことできないですよね。
担当編集 山本さんはすごく速いです。
集中すればですよ。
──でもしっかりゲームも遊ばれている印象です。
もう……めっちゃしてます。怒られるぐらいしてます(笑)。
担当編集 でもそれがなきゃいけないと思ってます。マンガだけ描いてると枯渇しちゃいますよね。
いやもう、マンガだけ描いてたらおかしくなっちゃうと思います。ゲームあっての私だなと思っているし、本当に心の底からゲームが好きなので、すごく支えてもらってますね。「無慈悲な8bit」は週刊連載で、ゲームについてだけ描かせてもらってるんですけど、描くことに困ったことがないくらい描きたいことがいっぱいあって。好きなものってみんないろいろあると思うんですけど、それを仕事にできるってなかなかないじゃないですか。私はそれをさせてもらっているからすごく幸せだなと思います。
──さわやか(静岡の人気ハンバーグ店)への愛を綴るマンガも描かれてました。
あ、そうですね。好きなものを描かせていただく機会が多いので、それってすごい幸せだなと思います。それもSNSの力だと思うんですけど、「好き!」って言ってるとそれが向こうから寄ってくるんですよね(笑)。さわやかもずっと「好き好き」アピールしていたら「マンガにしませんか?」ってお話が来たので。私は「あれが好き」「これが好き」っていうタイプでもないんですけど、少ない好きなものからピンポイントに反応があるっていうことが多くて。室山先生との鼎談企画もそうですけど、好きだって言ってる人やものから声をかけていただくことが多くて、恵まれてるなと思います。
──でもそうやって今、好きなものの仕事をできているのも、きっかけは杉ちゃんと岡崎さんの後押しがあったから。
すべて辿っていくとあの2人のおかげなんですよね。足向けて寝られませんわ(笑)。
毎日お腹を抱えて笑う日々だった小中学校時代が終わり、岡崎さんとは違う高校に入学した山本さん。そこで待ち受けていたのは予想とは違う、何か「不自由」な学校生活だった。片や別の学校に進んだ岡崎さんや杉ちゃん、宮部さん、原口さんはそれぞれの学校生活を歩み始めていた。それに焦る山本さん……波瀾の高校生活、いざ開幕!
犬派だった私の前に、突然“捨て猫”だった「トルコ」が現れた! 怒ったり悩んだり襲われたり吐かれたり……可愛さ満開のSNS上の他のネコたちとはちょっと違うのかもしれない……でも私、この猫が好きです!! Twitter投稿時に大反響だった1ページマンガを、全ページ描き直し&描き下ろしで待望の単行本化。
- 山本さほ「無慈悲な8bit」 / KADOKAWA
- 2巻 / 2017年2月28日発売 / 750円
- 1巻 / 発売中 / 750円
山本さほ(ヤマモトサホ)
1985年8月1日生まれ、岩手県出身。2014年3月、Webサービス・noteで発表したWebマンガ「岡崎に捧ぐ」が、同年10月にビッグコミックスペリオール(小学館)で連載開始。そのほか週刊ファミ通(KADOKAWA)で「無慈悲な8bit」、まんがライフ(竹書房)で「ひまつぶし4コマ」を連載中。