「水戸黄門」主題歌の特殊エンディングには「大満足」(あずみ)
──アニメ「月が導く異世界道中」の話に移りたいと思います。あずみ先生はアニメ化が決まったとき、どんなお気持ちでしたか。
あずみ めちゃくちゃ驚きましたよ。最初に知らされたのは2019年だったかと思うんですが、その頃は体調不良などいろいろあって作品の続きを書けていない時期で、「アニメ化のタイミングも失っただろうし、コミカライズまでだろうな。ここまでよくがんばったな」くらいに思っていたので。
──うれしさよりは驚きがまさっていたと。
あずみ 驚き一色でしたね。「月が導く異世界道中」は書籍化もコミカライズも、展開のタイミングがあまり早くないんですよね。とんとん拍子で進むよりは、じわりじわりと進んでいく。だからアニメ化についても驚いた後は「2年後かあ」とのんびり構えていて、そのうちにだんだんと実感が湧いてきて、うれしくなったという感じです。
──そんなアニメ「月が導く異世界道中」が放送スタートして約1カ月が経ちましたね(※取材は2021年8月上旬に行われた)。私も本編を拝見させていただいたのですが、「コメディとシリアスのバランスがいいな」と感じました。
あずみ 原作小説を書いているときはコメディとシリアスのバランスをあまり気にしていなかったので、もし「バランスがいい」と視聴者が感じてくださっているのだとしたら、アニメスタッフの方々のおかげだと思います。脚本を書いている猪原(健太)さんや、監督の石平(信司)さんがうまいことコメディパートとシリアスパートを散らしてくれたんだろうなと。アニメを観ていると、原作からうまく省いている部分がいくつかあったりして、全体のバランスを整えてくれているのを感じますね。
──第1話の冒頭にいきなり絶野の街の崩壊シーンを持ってくるなど、構成がところどころアレンジされていましたね。
あずみ 実はアニメはコミカライズをベースに作っていただいているんです。コミカライズを担当されている木野(コトラ)先生は、原作ではっきり書いていないことについてもネームの段階でしっかり確認してくださる方でして、そんなふうに丁寧に作っていただいたコミカライズをもとに、さらにストーリーを整理したアニメですから、原作者ながらいい出来になっているんじゃないかと思っています。
──これまでの放送話で印象に残っているところはありますか。
あずみ 僕の中で印象に残っているのは第2話の災害の黒蜘蛛と戦うシーンですね。きれいな作画で描いていただいて、感動しました。あとは「水戸黄門」主題歌である「ああ人生に涙あり」のカバー曲を使った特殊エンディングです(笑)。
伏瀬 あの曲は、あずみ先生が提案したんですか?
あずみ プロデューサーさんのアイデアですね。「この作品ならではの曲を使いたい」と言われて、「キャラソンかな?」と思っていたら「ああ人生に涙あり」だったという(笑)。
伏瀬 あれはてっきり先生の要望なのかなと思っていました(笑)。
──キャストとスタッフのクレジットが時代劇風に縦書きで表示されるなど、映像も工夫されていましたよね。
あずみ はい。個人的には大満足でした。
巴と澪、伏瀬が好きなヒロインは……
──伏瀬先生はアニメ「月が導く異世界道中」をご覧になっていかがでしたか。
伏瀬 すごくきっちり丁寧に作られているなという印象を抱きました。特に第1話は要領よくまとめられていたというか、ストーリーはすごく進んでいたのに、カットしている感じがなくて。情報はいっぱいあるのに、観ていて疲れない。あずみ先生がおっしゃっていた、第2話の戦闘シーンも見応えがありました。それから、自作のキャラの掛け合いについてよく読者から感想をもらうので、勉強のために「どういうふうに掛け合いを繰り広げるのかな」ということは気にして観ましたね。
──原作小説も真と巴、澪の漫才のような掛け合いが魅力の1つかと思うのですが、アニメでは3人の会話がさらにテンポよく感じました。
あずみ 真役の花江(夏樹)さんの演技が強烈で、観ながら笑っていますね(笑)。いただいた脚本にはない掛け合いもしているので、アドリブでもやってくれているんだなと。
──あずみ先生はアフレコ現場にも見学に行かれたのでしょうか。
あずみ このコロナ禍であまり行けなかったのですが、一度だけ行かせていただきました。そのときは花江さんと、巴役の佐倉綾音さん、澪役の鬼頭明里さんもいらっしゃって。
──ということは、真たち3人の掛け合いを生で聴けたということですね。
あずみ そうなんです。なかなかご時世柄、揃って収録できないと思うので運がよかったです。真の声で「鬼滅の刃」の(花江演じる)炭治郎を意識する人はどうしてもいると思うんですけど(笑)、役の個性に合わせて全然違う演技していただいているのですごいなと。
──ちなみにちょうど真たちの話になったので聞いてみたいのですが、伏瀬先生は巴と澪、どちらのヒロインがお好きですか。
伏瀬 断然、澪派ですね。
──即答ですね(笑)。理由をお聞きしてもよろしいでしょうか。
伏瀬 外見も好きですし、巴と澪を比べると、澪の方が一緒にいて疲れない相手かなと思うんです。
──巴は放っておくといろいろやらかしそうですからね(笑)。
あずみ そうですね(笑)。
伏瀬 巴は付き合う相手ではなく、子供だったら退屈しなくていいかもしれないですね(笑)。
──あずみ先生はどちらがお好きですか?
あずみ 実は僕は巴派なんです。
──意見が分かれましたね。
あずみ でも原作小説やコミカライズの読者も、アニメの視聴者もみんな、澪派なんですよね……(笑)。
伏瀬 (笑)。
あずみ 伏瀬先生も仰った通りで、澪は暴走するところはあれど、たぶん真にとって一番疲れない相手なんだろうなとは思います。目一杯いろんな要素を詰め込んだ巴はあんまりウケがよくないんですよ(笑)。
伏瀬 僕は幼少期にアニメ「バビル2世」を観ていたんですが、あの作品でロデムが女性に変身するじゃないですか。あのロデムが一番の理想形なんですよね。何をしても許してくれそうなタイプ(笑)。
──澪は確かに真が何をやっても許してくれそうですね(笑)。最後にあずみ先生から、今後の見どころなど視聴者へのメッセージをいただいてもよろしいでしょうか。
あずみ 見どころをネタバレなしで言うのは難しいんですが(笑)、最終話は派手な描写も多いのでぜひ楽しみにしていただければと思います。あと、アニメで初めて作品に触れて興味を持っていただいた方は、コミカライズも読んでいただきたいですね。アニメとコミカライズを読んでいただければだいたいわかると思うので……(笑)。
伏瀬 なかなか小説を読むところまでは来てくれないですよね。
あずみ おそらく一番情報量が多いのは小説だと思うんですけど、作者自身としても手を出しづらいだろうなあとは思います……(笑)。ただアニメを観て、コミカライズを読んだうえで「この世界観にハマったよ」という人は、小説にも手を伸ばしてくれるとうれしいですね。
- あずみ圭(アズミケイ)
- 小説家。「月が導く異世界道中」の単行本がアルファポリスより第16巻まで刊行されており、コミカライズ含めたシリーズ累計発行部数は200万部を突破している。
- 伏瀬(フセ)
- 2013年に「転生したらスライムだった件」を小説投稿サイト・小説家になろうに投稿。2014年には書籍1巻がマイクロマガジン社より刊行され、2015年には月刊少年シリウス(講談社)にて同作のコミカライズ連載がスタートした。そのマンガ版を原作としたTVアニメ「転生したらスライムだった件」の第2期が放送中。
※記事初出時、本文の人名に誤りがありました。お詫びして訂正します。
2021年9月1日更新