「とつくにの少女」×「魔法使いの嫁」|新アニメ制作記念!“人外×少女”を軸に物語を紡ぐ、2人のマンガ家が創作への思い語らう

アニメーションならではの
「とつくにの少女」「魔法使いの嫁」の世界

──「とつくにの少女」「魔法使いの嫁」は、過去に両作品ともアニメ企画が展開されました。改めてご自身の作品がアニメーションになったご感想を教えてください。

アニメ「とつくにの少女」イメージボード ©2019 ながべ/MAG Garden、Production I.G

ながべ 率直な感想は(アニメを観て)「動いてるー!!」と思いました。アートワークやビジュアル、雰囲気を重視したマンガなので、その部分を大事に作っていただけて感無量でした。前回の短編アニメでは言葉を使わないからこそできた空白を余韻として楽しめる。解釈の余地を読者に委ねる。ある意味大人向けの映像作品に仕上げてくださったなあ、と、ただただ感激しております。

ヤマザキ 私の場合、今は企画が進んでるけど、途中で「やっぱ売れないから」と言われて企画倒れするんだろうなあ、という仮の未来を見ていたんですが、ちゃんとテレビ放送されましたね! せめて自分1人を食わせていくぐらいの仕事をしていこう、と思っていたら、まさかまさかの、でした。うかつに辞められなくなってしまい、まいったな、と。

──そんな(笑)。

アニメ「魔法使いの嫁」キービジュアル ©2017 ヤマザキコレ/マッグガーデン・魔法使いの嫁製作委員会

ヤマザキ 実際はとてもうれしかったですし、さまざまな方々と一緒にお仕事ができ、大変ながらも楽しかったです!

──アニメをご覧になった読者の方々からはどんなメッセージや反応をいただきましたか?

ながべ 読者の方々からは僕と同じ、「とつくに」がそのまま動いてる!と感想をいただきました。それほどに皆さんが「とつくに」の雰囲気を楽しんでいて、同様にアニメにも期待して、見事にそれが達成されたのかなと思いました。

ヤマザキ 私もいろいろな感想が届いたり見かけたりしましたが、おおむね好評でほっとしました。ありがたいことですね!

──マンガはマンガ、アニメはアニメならではの表現方法や魅力というものは必ずあると思いますが、ご自身の作品がアニメーションになったのをご覧になって、「これはアニメーションならではだな」と感じた魅力はありましたか?

アニメ「とつくにの少女」イメージボード ©2019 ながべ/MAG Garden、Production I.G

ながべ 人物や対象の些細な動きはやはりアニメーションでの表現だな、と。例えばせんせとシーヴァの食卓のシーンは、シーヴァが椅子の上に上がろうとするときの動きや、対比したせんせのスムーズな動きはそれだけで生命感と日常感を感じられていいなと感じました。もう1つ、シーヴァの夢のシーンや最後の星のシーンは色がついたことで臨場感が強く、いい意味でマンガの白黒表現では到底叶わないと思わずにはいられません。

アニメ「魔法使いの嫁」場面カット ©2017ヤマザキコレ/マッグガーデン・魔法使いの嫁製作委員会

ヤマザキ 私も同じような意見かもですが……。マンガのほうがけっこう地味で、私自身も本来は画面の彩度が低いものが好きなんですが、それだと「商品」としてやっぱり難しいなーとは思っていたので、アニメーションのほうではけっこうキラキラしてくれてる部分があったのは「おお」と思いました。あとはマンガのほうでは説明不足なところをアニメで補完してもらったり、見栄えよく派手にしてもらったり。マンガとアニメ、お互い相補完できる形になったのはラッキーだなと思います。できればどちらとも観て、読んでほしいですね!

ながべ そうですね! 僕もそれぞれを観てほしいなと思います。

──マンガとアニメ、どちらもそれぞれのよさがあるので、合わせて楽しんでもらいたいですよね。そしてこのたび、「とつくにの少女」の長編アニメ化、「魔法使いの嫁」の新たなOADシリーズの展開が決定しました。こちらについて、まずは率直なご感想を教えてください。

ながべ やったー!! うれしすぎますね。前回の短編アニメで個人的に満点だったので、期待が……すごいんです……。

──とても喜びが伝わってきます(笑)。

新たに発表された「とつくにの少女」OADのイメージボード。©2022 ながべ/マッグガーデン・とつくにの少女製作委員会

ながべ もちろんWIT STUDIOさんや、(ディレクターの)久保(雄太郎)さん、米谷(聡美)さんが尽力し作り上げてくださったおかげですので、僕の中では心配ではなく期待感が非常に高まっています! ヤマザキさんはいかがですか。

ヤマザキ またいろんな人とお仕事ができてうれしいなと思っていますね! 自分も普段とは違う作業が増えるので、ある意味メリハリもつくと言いますか。大変でありつつ楽しみです。

──では新たに作られるアニメーションについて、楽しみにしていること、期待していることも教えてください。

ながべ 尺が長くなったことでストーリーをどう描くのかなと気になっております。もちろん映像表現も雰囲気作りも前回の短編アニメに引き続き興味がありますが、それ以上に「とつくにの少女」の物語を映像にどう落とし込み、またどう描いてくださるのか、作者ながらに期待しております。あとは、せんせとシーヴァがしゃべるそうなのです。ええ、声つきで。それが気になりすぎてドキドキが抑えきれないのです……。

──いちファンとしてもすごく楽しみです。ヤマザキさんは?

新たに発表された「魔法使いの嫁」OADの場面カット。©2022ヤマザキコレ/マッグガーデン・魔法使いの嫁OAD製作委員会

ヤマザキ 人様というか、アニメスタッフさんの仕事を拝見できる機会が多くなるのが楽しいです。実はあんまり仕事に“期待”をすることがないといいますか、「新アニメ! 仕事が来る! がんばろう!」という。監修を含めるとアニメチームとの共同作業にも近い認識なので、読者さんたちに楽しんでもらえるようがんばらねばな、という気持ちですね。

──日本だけでなく海外でも人気の高い2作品ですが、ご自身の作品が海外でも愛されていることについてはどう感じられていますか?

ながべ そうなのですか? それはうれしいです! 「とつくに」はマンガ的と言うより詩や絵本的なので、国内でさえどういった評価を受けているのか疑問ではあったのですが、好意的に捉えてくださっていることは率直にうれしいです。「とつくにの少女」がまさに“外国”に羽ばたいたことに、ふふってなりました。ありがとうございます。

ヤマザキ 私も基本的には日本人の方に向けて作品を出したので、それが海外で見てくれる人がいる、というのは本当にありがたいですね。一応イングランドが舞台ゆえに作中で日本文化特有の仕草や言い回しはできるだけ排してる部分はあるのですが、功を奏してる……と言えるのかもしれません。基本的には好意的な感想やファンアートをいただいています!

コロナ禍で感じたもの

──少し話題を変えますが、昨年から続くコロナ禍において、マンガ家の皆さんの執筆作業や意識の面にも少なからず影響が出ていることを、この1年マンガ家や周囲の方々と関わるうえで感じてきました。おふたりの中では何か変化したことはありましたか?

ながべ 非常事態ゆえ、生活の仕方や外出、衛生について考えたのは当然のことですが「とつくにの少女」というマンガ内でいえば“登場人物同士のやり取りにリアリティが出た”気がします。呪いという漠然とした、しかし確かに存在する恐怖が、=コロナ禍につながっていて、作中でとある人物が「外の者は対応さえしっかりしていれば近くにいても安全だ」と言い、しかし別の人物が「責任が取れない以上原因は排除するべきだ」と言い、互いの主張がぶつかり合う。それはお互い正しく、だからこそ軋轢が生まれる。コロナに対する気持ちや社会の変化がそのまま「とつくに」の世界に通ずるなと感じました。

ヤマザキ 私はアシスタントさんが遠く離れた場所にいて、以前からテレワークのようなものなので、作業自体はまったく変わらないのですが、とにかく取材に行けなくなったことが気分にも陰を差していますね……。作業スピードや体調、精神面にもかなりの影響が出ていると感じます。自分的にはインドアだと思っていたのですが、出てはいけないと言われるとなおさら出たくなる、というのはこういうことなんですね。

──すごくわかります。私の周りでも「自分はインドアだと思っていたけど、長期間外に出られないとなるとこんなふうに気分が落ち込むんだ」と話す人が多かった印象です。そんな中でお聞きしたいのですが、マンガ家の皆さんは一般職の方よりも“巣ごもり”のコツや楽しみ方を知っているのではないかと思いまして。おふたりにとってのコツや楽しみ方みたいなものを教えていただけないでしょうか。

ながべ 任せてください。なんたってプロです。

──頼もしいです(笑)。

ながべ とはいえ僕の場合部屋が計3つあって、1つは仕事部屋、1つは寝室、1つは生活空間と役割が完全に分かれているので、プライベートと仕事をごっちゃにしないだけでも家内が快適になるように感じます。あとは、100%気を張り続けるのは疲れるので、手の抜けるところはとことん手抜きしていいと思います。僕も仕事スペース以外はパジャマなので……。ただ手を抜けない部分……僕の場合は仕事部屋なんですが、そこでは手を抜かず、あくまでメリハリをつけることが大事に思います。そのほかは趣味に投じればいいのでは?と思います。絵を描こう。絵はいいぞ。(読者に向かって)お前も絵を描かないか?

ヤマザキ (笑)。私は資料の読み込みなどの作業があるからインドアになっているだけとも言えるので、遠出できないのは普通にストレスを感じますね……。しいて言うなら写真集を見るとか、料理とか、楽器に挑戦してみるとか、木工作業とかですかね? 特に木工作業は、「集中できる」「完成品を手にできる」といいことづくめです。木の枝の皮をナイフで削るだけで楽しいので、ナイフは1本あったらいいと思います、便利ですし。