「宇宙空母ブルーノア」放送・配信記念インタビュー|開田裕治が“怪獣絵師”と呼ばれる以前の仕事を赤裸々に語る (2/2)

メカデザインで参加も、すでにできていたブルーノア

──その大混乱ぶりを、今だから話せる秘話的にお教えいただけますでしょうか?

一番驚いたのは「メカデザインをやってくれ」と言われて現場に入ったら、すでにブルーノアのデザインができていたんですよ(笑)。発表会用の立体物まで作ってあって。だから「ブルーノアをデザインしたんですよね?」とよく言われて、「僕、ブルーノア本体はデザインしていません」と、答えていました。おもちゃ会社の方がデザインされたのかどうかは存じませんけど、すでにこういうおもちゃを作るということでデザインはもうあったんです。ただ、例えば潜水艦のシイラが抜けた後、がらんどうで中が丸見えというデザインでしたし、戦闘ヘリのバイソンも「これちょっと実用的にならない」という形だったので、分離して大型戦車になるように。シイラは抜けた後、ちゃんとガードが出て、ブルーノアが沈まないよう船として成立するだろうと考えて。そういうデザインはやりました。

「宇宙空母ブルーノア」より。

「宇宙空母ブルーノア」より。

「宇宙空母ブルーノア」より。

「宇宙空母ブルーノア」より。

──ブルーノアやシイラ、バイソンなどのデザインはどう思われましたか?

おもちゃとしてはよくできていたと思いますよ。ぱたっと甲板が開いてああなる形は面白いと思いましたし。悪いデザインとは思わなかったんですけど、ただ、そういう分離・合体のシステムは詰めが甘いな、と思うところがあって、そういうところを直す作業はやりました。

──では開田先生がデザインされたメカは具体的にはどれか教えてください。

艦載機や巡洋艦なども確かデザインしたのだと思うのですけど、まったく記憶にないです。何せ大混乱の中でやっていましたから、どういうデザインを描いたのかもよく憶えていません。美術監督もいないので、直接、作画監督と話しながらデザインした感じですよね。大学を卒業して上京、その1年後に現場に放り込まれましたから(笑)。

──まるで学徒出陣のような。

そうかもしれません(笑)。オフィスアカデミーもまさかど素人が来るとは思わなかったでしょうね。とにかくいろいろなものを描いた気がしますが、今はスタッフの皆様にご迷惑をおかけしたなあと申し訳ない気持ちで一杯です。

──「ブルーノア」は空母、潜水艦、ヘリなど実在の軍用および海戦兵器に根ざしたメカニックが多いですが、その点で苦心されたところやご参考にされた資料およびご取材などはありましたか。

特に取材をする余裕はなかったです。でも、SF考証の金子隆一さんがいろいろ知識を持っておられたので、お話を伺ったりはしました。あとほかのアニメの艦橋デザインを参考にしたり。「なるべく簡単に描けるように、デコボコはなくして平らにしてくれ」と言われて「ええっ!?」って感じでやっていました。宇宙戦艦ヤマトの艦橋が異常に広いのを見て、「なんでこんなに広いの? それを狭くしたいな」とか、そんなことを考えながらやっていました。なるべくリアルにやりたいと思って作業しましたが、「どれだけうまくやれたかなあ?」という感じですね。

──私は放送当時中学1年生だったんですけど、てっきり「宇宙戦艦ヤマト」を期待して観始めたら……。

ハッハッハ(笑)。全然宇宙へ行かない。地球空母ですよ、まったく(笑)。やっぱり西﨑さんが海が好きだったから、海ものをやろうということになって。海ものは当たらないと言われていたので、「ヤマト」を引っ張って来て、宇宙空母にしたんだけれどもそれは言い訳で、実際はずっと海にいる、という(笑)。そんなことだったんじゃないかな?と、後で思いました。

──ただその分、「ヤマト」よりリアルな海戦アニメ、架空戦記ものという魅力は感じましたが。

リアル志向はどこまでスタッフにあったのかはわかりません。金子さんは本当に最新の知識をたくさん持っておられたので、そういうところからアニメになりそうなアイデアだけをもらってやっていたのではないかと。本気でリアルな海戦もの、リアルな軍隊が宇宙からの侵略者と戦ったらどうなる? そういうSF的なシミュレーション作品を作ろうという気持ちがどこまでスタッフに共有されていたのかは疑問です。僕らは僕らの与えられた仕事をやるだけですから、少しでもそういう雰囲気が出れば、と思ってやっていました。ただ、自由にやっていいデザインではない、アニメ作品のためには好き勝手なデザインが使えるわけではない、という点は勉強になりました。

「宇宙空母ブルーノア」より。

「宇宙空母ブルーノア」より。

「宇宙空母ブルーノア」より。

「宇宙空母ブルーノア」より。

──当時リアル志向SFアニメとしては「機動戦士ガンダム」が先行し、「ブルーノア」と並行して放送されていましたが、「ガンダム」を意識されたりは?

それは全然ないですね(笑)。「ガンダム」は毎週すごく楽しみに観ていました。

作品の出来には悔しさも、会心のデザインは自爆装置

──当然「ブルーノア」も本放送はご覧になっていたんですよね。

「ブルーノア」は本放送は観ていました。「いやあ、もどかしいなあ」と思って観ていましたね(苦笑)。ああいう作品ですから、もっと心躍るようなところがあってもよかったのになあと思って。実際に観ているときには「自分の描いたデザインがどこまで使われているかな?」などとそういうところばかり観ていました。自分のデザインがテレビで活躍していること自体はうれしかったです。でも、最後のほうなどはすごい面白かったですね。もうちょっと準備期間を置いてから立ち上げていたらもっと面白い作品になったんじゃないかなとは思います。海ものですから、波のエフェクトアニメもしっかり時間をかけてやれば、さらに雄大な素晴らしい作品になる可能性はあったので、本当にもったいなかったです。

──会心のメカニックデザインはどれでしょう?

あえて言えば、最後に出てくる人工惑星の自爆装置のデザイン。あれはゴドム側でしたけど、増尾くんに代わって僕がデザインしました。「採用してもらえるかなあ?」と思いつつ、ダメ元で自爆システムを起動させるための手順を全部デザイン画に書き添えたんです。1人では起動出来なくて、2人が同時に手順を踏まないと起爆しない。その手順がちゃんと作品中に採用されたのはすごくうれしかったですね。ICBMなどのミサイルは2人同時に離れた場所のキーを回さないと発射できないという話をどこかで聞きかじっていたので、それをヒントに自爆装置をデザインしました。人工の惑星サイズの巨大メカですから、簡単なスイッチひとつで爆発するのは人工惑星自体のスケール感を損なってしまいます。自爆するにはこれだけの手順が要るんだよというところを見せたいと思っていましたので。

──設定的にも、より当時の実際の科学テクノロジーに根ざしたものが多く、斬新な印象はありました。

水中に大量の泡を発生させて巨大なジョウゴのような穴を作り、そこに敵の艦船を落とす作戦がありました。あれはすごく面白いなと思いました。「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」を観た後「ゴジラを泡で包んで沈める、なんか聞いたような話だな?」と思ったら「そうだ、『ブルーノア』でもやったじゃないか」と思い出して。

「45年経ってもファンだと言ってくれる人がいるんだよ」

──開田先生は「ブルーノア」終了前後あたりから特撮雑誌の宇宙船(朝日ソノラマ[現・朝日新聞社])の表紙も描かれますよね。

宇宙船の表紙を描くまで、仕事で絵画的なイラストは描いたことがなかったんです。当時、宇宙船の創刊に関わっていた友人の聖(咲奇)くんが推薦してくれたのだと思いますが、新創刊雑誌の表紙イラストを描くように言われて、私でいいのか?と思いました。とりあえず試しに1枚イラストを描いてみて「こういう感じでいいんですか?」と、編集長に見せたら「こういう感じでいいです」と。それから7年にわたって毎号の表紙イラストを描くことになりました。今ではありえないことですが、ラフなどを先に見せたことはありませんでした。自分で描くものを決めて、描き上がったものを銀座の編集部に持って行って「次はこれです」「はいオッケー」という感じでした(笑)。だからリアルなイラストを描くお仕事は宇宙船の表紙が初めてといえますね。それから「ゴジラ伝説」のジャケットを描いて。しばらくしてプラモデルの箱絵も描くようになって。「ウルトラマンシリーズ」のレーザーディスクのジャケットも描くようになりました。

──先ほど学徒出陣に例えてしまいましたが、当時、業界全体に新しい血をどんどん採り入れていた風潮があったことは非常によかったんじゃないでしょうか。

当時は、学生時代からこういう世界に足を突っ込んでどんどんやっている人が多かったんじゃないかな? 最初から「できないもんだ」と思って諦めたりすることなく、現場でプロの仕事をやったことない人でも、もし声をかけられたら喜んでほいほい行っちゃう。「やれるだろう」という自分なりの見込みがあれば飛び込んで行く。それは皆さんすごかったです。僕らも「怪獣倶楽部(開田が当時所属していた特撮系のサークル)」で仲間が集まって、それぞれがいろいろな分野で活躍するようになったのも、出版業界もそうですし、レコード会社とかソフトメーカーとかおもちゃメーカーなどに、ユーザーのいろいろなニーズを柔軟に採り入れてくれるような若い人が中堅になって、その人が決断できるという現場があったからだと思います。今みたいに偉い人のOKを採らなきゃダメ、会社は全員のコンセンサスが取れないとできない、ということではなくて、要所にいる人が「よしこれをやろう」と言ったらOKになっちゃう時代。僕がガンプラの箱絵をやるようになったのも、当時の担当者1人が決めて、「この人の絵を使おう」と決断したからできちゃった(笑)。今だともう相当自分のレベルをうんと上げてからでないと、プロの現場には入れないと思います。僕みたいな素人同然の人間がいきなり「箱絵を描いて」と言われたのも、やっぱりその人が「これに賭けてみよう。やれるだろう」みたいな決断力があったから。それに僕らが乗せていただいて、自分なりの足元を固めることができたということですよね。

「宇宙空母ブルーノア」より。

「宇宙空母ブルーノア」より。

「宇宙空母ブルーノア」より。

「宇宙空母ブルーノア」より。

──今回、スターチャンネルでの放送・配信を発表した際には多くのファンからの反応もありました。最後にいまだ根強い「宇宙空母ブルーノア」ファン、そしてご自身のファンにメッセージをお願いします。

当時も参加したとはいえ、そんなに話題になった、大きく盛り上がってブームになって劇場映画化とかそんなアニメではなかったですから。ほかに「ガンダム」など素晴らしいアニメ作品がその後たくさん作られて、そういうアニメの歴史の中のものとしていつか消えていくもんだろうと思っていました。「もう消えちゃったかな?」と、思っていたらそういうファンがまだいるということを知って感動ですよね。当時の自分が本当に無我夢中でやっていて、無我夢中過ぎてこんなに憶えていないぐらいなので、その頃の自分に対して「45年経ってもファンだと言ってくれる人がいるんだよ」と言って、さらにハードルを上げて苦しませてやりたいと思いますね(笑)。

「宇宙空母ブルーノア」は、Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX」で独占配信中

視聴はこちらから


「スターチャンネルEX」ロゴ

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「スターチャンネルEX」とは?

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プロフィール

開田裕治(カイダユウジ)

イラストレーター。幼少より怪獣映画、特撮映画を愛好し、学生時代に同人誌活動を始める。現在も続く同人誌活動で人脈を広げ、それを基盤にプロとしての活動を開始。怪獣やロボットなどのキャラクターイラストを中心に、雑誌や単行本の表紙、プラモデルやゲームのパッケージ、音楽ソフトのジャケット、カードゲームなどでイラストレーション作品を手がける。映画「レディ・プレイヤー1」「キングコング 髑髏島の巨神」では日本国内版ポスターイラストを制作。「キングコング 髑髏島の巨神」でのイラストはRotten Tomatoesの選んだ「24 BEST MOVIE POSTERS OF 2017」の一枚に選出された。そのほか1997年の第28回 星雲賞アート部門、第24回ゆうばり国際映ファンタスティック映画祭ファンタランド大賞市民賞などの受賞歴を持つ。2019年にはイギリスTitan Books社より英語版作品集「The Godzilla Art of Kaida Yuji」が発売された。