コミックナタリー Power Push - タテコミ
小池一夫「やっぱり来たか」と到来を予感 縦スクロールで読むスマホ時代のマンガ
“言葉が死んでいく時代”のマンガ作り
──小池先生自身の今後の目標みたいなものはありますか?
目標というか、小説を書いています。全然説明がなくて、セリフが多い小説です。普通の小説って「この男は鼻が高く」とか「どんな着物を着ている」とか「江戸の町がどうなっていてどこを歩いている」とかいう説明がたくさんあるでしょ? 今、僕が書いているのはもっとシンプルで会話中心。背景描写とかは、できるだけ簡略させるようにしてます。難しい表現をしていてもダメなんです。今はどんどん言葉が死んでいっているから。
──「言葉が死んでいる」というのは?
みんな言葉を知らないんですよ。僕が大学で授業をしても、1年生は18歳ですよ。もう、知らないことだらけです。例えば「曲者(くせもの)」って字を書いたら「まがりもの」とか「きょくしゃ」とか読まれてしまったり、字を知らないだけかと思ったら意味すら通じなかったり。言葉が通じないことが、すごく多くなっている。漢詩や歴史的な俳句も知らない人が多くなってますよね。そういうものを引用してもわかってもらえない。だからといって、嘆いていても仕方がない。
──現実を受け入れないといけないと。
逆に自分も彼らの知っていることを知らないわけだから、お互いに歩み寄るしかない。だから、僕はTwitterで若い人と交流したり、「初音ミク」や「魔法少女まどか☆マギカ」「艦これ」なんかを勉強して、時代感覚を掴むようにしているわけです。作家として食べていくには、読者に受け入れてもらえるように描くしかない。若い読者がわからないのであれば、彼らがわかるように描くしかないんです。
──具体的には、どのような対策を。
昔から生徒には、なるべく簡単に、わかりやすくするようにというのはずっと教えてます。原作を書くときも、言葉に傍点をつけていたりするんです。「弁慶がなぎなたを……」なんて書くときも「なぎなた」の部分に傍点を打つ。言葉を知らない人が「弁慶がな、ぎなたを」とか読んでしまわないように。Twitterで僕が「あンた」とか、「ん」を書くときにカタカナの「ン」を使うようにしてるのも同じような理由。読みやすくするためにやってるんです。
──読みやすく、わかりやすくというのは読者を増やしていくために重要ですね。最近は、マンガの読み方がわからない人が増えているという話も耳にしますし。
指先でどんどん次のコマを追っていける縦スクロールマンガのシンプルさは、そういう意味でも今っぽい。会話を追っていくのが楽しいという作り方は、僕の書いてる小説もタテコミも同じ。僕が書いてるのは、言ってみれば小説のタテコミです(笑)。
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タテコミ配信作品
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- 小西幹久「リィンカーネーションの花弁」
- オオイシヒロト・岡田伸一「奴隷区 僕と23人の奴隷」
- ももしろ・上森優「オオカミ王子の言うとおり」
- 東屋めめ「リコーダーとランドセル」
- ほか
小池一夫(こいけかずお)
作家。マンガ原作者。1936年秋田県生まれ。1970年「子連れ狼」(画:小島剛夕)の執筆以来、小説、マンガ原作、映画・テレビ・舞台の脚本、作詞など幅広い創作活動を行う。代表作に「首斬り朝」「修羅雪姫」「クライング・フリーマン」など多数。1977年よりマンガ作家育成のため「小池一夫劇画村塾」を開塾、多くのクリエイターをデビューさせる。1999年には大阪芸術大学教授、2005年にはキャラクター造形学科の初代学科長に就任。退任後の現在も後進の指導にあたっている。2004年には米国アイズナー賞の「マンガ家の殿堂」(The Will EisnerAward Hall of Fame)入りを果たす。2010年よりTwitterを開始。2016年8月、現代版劇画村塾「小池一夫キャラクターマン講座」第10期を開講。