コミックナタリー Power Push - タテコミ

小池一夫「やっぱり来たか」と到来を予感 縦スクロールで読むスマホ時代のマンガ

裁ち切りを基本にした演出が鍵

──横と縦、紙とスマホでずいぶんと表現方法が変わってくるんですね。

表現の研究が進めばスマートフォンでもマンガは読みやすくなっていくだろうし、独自の面白さも出てくると思います。例えば立体感の演出。殴り合いの場面なんかは、紙の場合はキャラクターの身体全体がちゃんと画面に入っていないと何をしているかがわかりづらい。でもスマートフォンで読むなら、キャラを入れず画面から拳が飛び出してくるような見せ方をしたほうがシーンが生きてくると思う。アップの構図を迫力を持って作れるんです。それから、重要なのは「裁ち切り」ですね。

──紙の端まで絵を入れる手法ですね。

紙では1ページの中に複数のコマを入れるからコマの枠があるわけですが、スマートフォンは画面それ自体がフレームなわけです。だから裁ち切りのように画面いっぱいを使って絵を見せれば、基本的にコマの枠は必要なくなっていくでしょう。枠線がなくなるだけで没入感が増し、画面の中にひとつのバーチャル空間があるように思えてきます。そうして枠がないことが当たり前になってくると、今度は枠を引いて余白を見せることがひとつの演出になる。時間の経過、場面転換を示す表現といった形でね。そういう演出を突き詰めていけば、新しいマンガも作れると思います。

──全て裁ち切りとはいきませんが、タテコミもスマホの画面にフィットするようマンガのコマは拡大表示していますね。スマートフォンに向いたマンガの見せ方というのが、ひとつのポイントになってくると。

見せ方をプロデュースする側の成長、人材育成は必要になってくるでしょうね。縦スクロールマンガでは、元のマンガを縦スクロールマンガに直す編集者の腕も重要になる。マンガを動画化するモーションコミックの場合は、作者の許諾を得て、時には背景やキャラクターの細部を描き足したり、修正したりして、元絵に手を入れなければならないのですが、縦スクロールマンガも、理想としてはそういうリミックス作業をドンドンしていかなければならないんじゃないかと思います。

──つまり編集者にも、そういう「マンガを描く能力」が必要になってくるだろうと。

マンガ家の技術を習得した編集者というのは、マンガを学んだ人や、マンガ家をリタイアしようという人の進路としては、よい職業ではないかと思います。将来的には、描く側が縦スクロールを前提として描いた方がいいのでしょうが。再配置にしても、1から作るにしても、縦のマンガはまだまだ未知の領域。ここからは技術研究の勝負ですよ。

──タテコミではモノクロのマンガをカラーにするといったこともしています。

カラーはもう前提ですよね。僕もモノクロとカラーがあればカラーを選ぶでしょう。そういった色が着いて当たり前の時代にモノクロの画面を使うと、それは紙のマンガとは別の意味になる。アニメや映画なんかでモノクロが入ると、回想シーンや過去だと思うでしょう。

──なるほど。

大きなところでは、そんなところでしょう。この辺が縦スクロールのマンガを考えるうえでの入り口です。まだまだ考えることはたくさんありますが。これ以上は、僕がやるまでは秘密(笑)。

電子コミックで作家名を覚えてもらうことの重要性

──お話を聞いていると、小池先生はかなり電子マンガについていろいろ考えていらっしゃいますね。

小池一夫

もっとほかの形やサービスが出てくる可能性も大いにありますが、今見えているものの中ならやはり電子というのは重要ですからね。従来のマスメディアや出版は、危機に瀕しているわけです。今はまだ紙の本が主流で、電子書籍はそれを助けるような形ではありますが、書店は激減してるし、取次(出版物の流通を行う企業)も潰れていってる。雑誌も最初から採算が合わないような形でやっていたりするわけです。一方でAmazonのプリントオンデマンドのように、読者が注文したら印刷して本にしてすぐ送ってくれるようなサービスも出てきている。これなら取次も書店もいらない。原稿があればできてしまうので、出版社すらいらなかったりする。昔ながらのやり方を続けるのは厳しいですよね。そういう中でスマートフォンに合わせていくという取り組みは賢明ですよ。今は国もSNSを活用するようになっていたりするでしょう?

──SNSでの口コミなども重要になりますよね。

口コミでいうと、どうやって作家の名前を浸透させるかも大事ですよ。紙のマンガでは作家の名前が売れていった。でも、スマートフォンで読むようなマンガのヒット作って作者の名前をパッと思い出せなかったりするんですよ。マンガに関わる人たちでも、タイトルは覚えていても描いた作家の名前を思い出せなかったりする。

──それはなぜなんでしょう?

指先で考えてしまっているからでしょうね。紙のマンガは目で探しているわけです。書店でも目で探すでしょう? ところがスマートフォンでは、もう最初から必要な情報以外はスクロールするつもりで指が動いている。マンガを読もうという気持ちのときは、タイトルや作家名の部分なんかは無意識に指先がサッと飛ばしてしまう。だから記憶に残らない。

──確かに……あまり意識せず進んでしまいますね。

それに紙の本なら本棚にあったり、部屋に転がっていても、作者名は自然に無意識に目から入ってくるけど、スマホの場合はそれがない。だから、縦スクロールのマンガは作品名や作家名を画面の端に入れていくべきですよ。横の方とかにすごく小さくでもいいので、作品のいろんなところに定期的に入れておく。人は小さいものほど見ようとするものですから。そうやってちゃんと作品名や作家名を覚えてもらわないと口コミに乗らない。

タテコミ

電子書籍レンタルサイト・Renta!による、スマートフォンでの読みやすさを重視した縦スクロールで読むマンガ「タテコミ」。上から下に縦スクロールでスイスイ読める!細かいセリフも読みやすい!しかも全作品フルカラー!

映画化され話題となった「奴隷区 僕と23人の奴隷」、2巻で累計15万部を突破した「もののべ古書店怪奇譚」、アニメ化もされた「リコーダーとランドセル」など、掲載作品はプロ作家による人気作品が多数。Renta!掲載の約12万タイトル全てのタテコミ化を目指して、ラインナップは順次増加中!

タテコミ配信作品
  • 紺吉「もののべ古書店怪奇譚」
  • 小西幹久「リィンカーネーションの花弁」
  • オオイシヒロト・岡田伸一「奴隷区 僕と23人の奴隷」
  • ももしろ・上森優「オオカミ王子の言うとおり」
  • 東屋めめ「リコーダーとランドセル」
  • ほか
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小池一夫(こいけかずお)

小池一夫

作家。マンガ原作者。1936年秋田県生まれ。1970年「子連れ狼」(画:小島剛夕)の執筆以来、小説、マンガ原作、映画・テレビ・舞台の脚本、作詞など幅広い創作活動を行う。代表作に「首斬り朝」「修羅雪姫」「クライング・フリーマン」など多数。1977年よりマンガ作家育成のため「小池一夫劇画村塾」を開塾、多くのクリエイターをデビューさせる。1999年には大阪芸術大学教授、2005年にはキャラクター造形学科の初代学科長に就任。退任後の現在も後進の指導にあたっている。2004年には米国アイズナー賞の「マンガ家の殿堂」(The Will EisnerAward Hall of Fame)入りを果たす。2010年よりTwitterを開始。2016年8月、現代版劇画村塾「小池一夫キャラクターマン講座」第10期を開講。