「吸血鬼すぐ死ぬ」盆ノ木至が、師匠である「モブサイコ100」のONEと対談!ONEによる描き下ろしイラストも (2/3)

誰かが不幸になるシーンは見せずに、笑いに徹してるのはすごい(ONE)

──そんなアシスタント時代を経て、盆ノ木さんが「吸血鬼すぐ死ぬ」で連載デビューされました。盆ノ木さんをそこまで評価していたONEさんであれば、「これは人気出るかも」的な気持ちはあったんでしょうか。ご本人の前で聞くことじゃないんですが……。

ONE ああ、でもそれは本当に思ってましたよ。まあ人気が出るとか、実際に本が売れるとかは、いろんなタイミングとかもあるから言い切れないですけど。でも「話数が進めば進むほど面白くなっていくだろうな」という確信はありましたね。

盆ノ木 ありがとうございます、ありがとうございます……。

──今や、チャンピオンの看板作品の1つです。

ONE そうですね。少し前になぜか烈海王が出てくる回もあったし。「すごいとこまで行ったな」って(笑)。

週刊少年チャンピオン17号に掲載された「吸血鬼すぐ死ぬ」より。

週刊少年チャンピオン17号に掲載された「吸血鬼すぐ死ぬ」より。

──アシスタント時代から知ってる人が「刃牙」をいじってると思うと感慨深そうです(笑)。ONEさんから見て「吸血鬼すぐ死ぬ」の魅力はどんな部分だと思いますか?

ONE 変態とかいっぱい出てくるけど、一番は平和なところですよね。絶妙に「誰かを傷つけない」という部分は守ってる。

──わかりやすく「個性的な変態がたくさん出てくるドタバタギャグ」とか言いたくなる作品ではあるんですけど、「平和」「誰にも不幸にならない」というのは確かに大きな魅力かもしれないですね。

ONE 誰かが不幸になるシーンは見せずに、笑いに徹してるっていうのはすごいなと思います。それに、なんだかんだでキャラクターが仲良くなっていくのが読んでて気持ちいいんですよ。

──アニメのキービジュアルも、「ロナルドやドラルクが部屋で仲良くテレビを観ている」という絵で、平和でした。あれを見て「変態とかギャグを前面に押し出すんじゃなくて、そこなんだ」と個人的には思いましたね。

アニメ「吸血鬼すぐ死ぬ」キービジュアル

アニメ「吸血鬼すぐ死ぬ」キービジュアル

ONE そうですよね。あれだけキャラが多かったり、設定上は戦えるキャラが揃ってたりもするのに、バトル方面とかにいかずにギャグマンガであることを守ってるのはなかなかできることじゃないですよ。

盆ノ木 ありがとうございます、ありがとうございます……。ONE先生にこういうお言葉をいただけただけで、今日死んでもいいですね……。壁とかに刻んでおかないと……。

──ONEさんは好きなキャラクターっていますか?

ONE もちろんメインのロナルドとかドラルクも好きなんですけど、たまに出てくる吸血鬼Y談おじさんとか。強キャラですよね。

盆ノ木 Y談おじさん、あんなに人気になるとは思わなかったですね。いつのまにかネットミームにまでなって。まさかミームになるとは……。

──Y談おじさんの初登場回のパロディマンガ、ネット上にたくさんありますからね。

ONE そうなんだ……(笑)。あとはほぼ全裸なんだけど股間に植物が咲いている、ゼンラニウムっていう吸血鬼が出てるコマは輝いて見えます。ほかにも野球拳を仕掛けてくる吸血鬼野球拳大好きって奴がすごい強敵で……。

──「変態も出てくるけど平和なところが好き」と言っておきながら、名前を挙げるキャラが全部変態じゃないですか。

ONE そうですね(笑)。でも野球拳大好きのせいでみんな困ってるときに、最初からほぼ服を着てないゼンラニウムが出てきて、ほかのキャラが「ウオオーッ」とか言って応援してるコマとかすごい好きなんですよ。

「吸血鬼すぐ死ぬ」より。

「吸血鬼すぐ死ぬ」より。

──確かに変態がたくさん出てくるけど平和ですね(笑)。

ONE 世界の秩序をギリギリ破壊しかけるぐらいの能力を持った奴がけっこう出てくるんですよね。だけどあくまでギリギリで、最後は平和に収まるっていうラインがうまいなーって。キャラがとにかくいっぱい出てきますけど、考えるのって大変じゃないですか?

盆ノ木 新キャラというか、その話のゲスト吸血鬼みたいな奴ですね。僕はむしろ、そういうゲストキャラをぽんぽん出していったほうが楽なんです。ゲストキャラにとにかくインパクトを出せば……それこそ股間に花が咲いているとか(笑)。それだけで話ができるというか。

──とはいえキャラが本当に多いですけど、どういうふうに作ってるんですか? いろいろなパターンがあるとは思いますけど。

盆ノ木 野球拳大好きが“野球拳大好き”なのとかは、本当にただの思いつきですね。あとは何だろうな、いろんな場合があるんですけど。もともと吸血鬼にまつわる民間伝承が好きなので、それを拡大解釈して、こういうこともできるんじゃないかな?と広げる場合も多いです。

──吸血鬼周りの設定、ちゃんとしてますよね。吸血鬼の使い魔にアルマジロがいるのも、元ネタを知らないとちょっと不思議というか、単に盆ノ木さんの趣味なのかなって思っていたら、昔の「魔人ドラキュラ」という映画にアルマジロが出てくると知って驚きました。

盆ノ木 吸血鬼オタクの中では、アルマジロはメジャーというか、あるあるネタみたいな感じではあるんですけどね。

ONE あっ、そうなんですね。

盆ノ木 ただ吸血鬼って、本当に好きな人はもう学者さんレベルになるジャンルなので。僕も吸血鬼は好きだけど、浅瀬でチャプチャプやってるだけの完全ににわかオタクですね。

キャラとキャラで、勝手につながりができている(盆ノ木)

ONE 1話限りのゲストだと思ってたキャラが再登場して、別のキャラと絡むことも多いじゃないですか。さっきの野球拳大好きとゼンラニウムとか。ああいう化学反応みたいなのは、初登場のときは考えてないんですか?

盆ノ木 各キャラの絡みは思いつきが多いですね。

ONE あれがすごくいいなと思って。「意外とこいつとこいつが連絡先交換してたんだな」って感じで(笑)。

盆ノ木 ありがとうございます(笑)。なんだろう、「こいつとこいつが同じ街に住んでたらつながってて、こういう関係性になるだろう」っていう連想ゲームというか、勝手につながりができている感じですかね。「じゃあそこにスポットを当てるか」みたいな。まあ、例えば吸血鬼へんな動物っていうキャラがメインの回があったんですけど、ここは最後に吸血鬼熱烈キッスっていう奴を出さないと終わらないから無理やり出てきてもらってダーン!って落とす、みたいなときもあるんですけどね。

「吸血鬼すぐ死ぬ」に登場する多彩なキャラの一部。

「吸血鬼すぐ死ぬ」に登場する多彩なキャラの一部。

──頭の中に箱庭的なものがあって、そこにみんなが住んで勝手に生活してるイメージ?

盆ノ木 うーん、これを言うと変な感じになるかもしれないんですけど、僕にとって彼らは実際にいるんですよ。

──先日発売されたファンブックでも、キャラごとの設定が細かく書かれてましたよね。毎回、キャラの裏設定みたいな情報が柱に書かれてますし。毎回、頭で設定を考えるのではないというか、実在しているかのように細かいことが書いてある印象はありました。

「吸血鬼すぐ死ぬ 公式ファンブック 週刊バンパイアハンター特別増刊号」。描き下ろしマンガや単行本未収録イラストなどのほか、キャラクター設定集も。「ドラルクは毎週ロナルドが購入したチャンピオンを読んでいるが、ロナルドが忙しくて買うのが遅れるときはドラルクが買うわけではなく立ち読みする」「コユキの料理を完食できたのは、親・サテツ・野球拳大好き」といった細かすぎる情報が満載だ。

「吸血鬼すぐ死ぬ 公式ファンブック 週刊バンパイアハンター特別増刊号」。描き下ろしマンガや単行本未収録イラストなどのほか、キャラクター設定集も。「ドラルクは毎週ロナルドが購入したチャンピオンを読んでいるが、ロナルドが忙しくて買うのが遅れるときはドラルクが買うわけではなく立ち読みする」「コユキの料理を完食できたのは、親・サテツ・野球拳大好き」といった細かすぎる情報が満載だ。

盆ノ木 そうですねえ……。頭で考えるというよりは「あー、そうなってるのかな」みたいな感じです、うまく言えなくてすみません。

──いえいえ、キャラの解像度の高さの秘密の一端が垣間見えました。さて盆ノ木さんからは、この機会にONEさんに聞いておきたいことってありますか?

盆ノ木 ネームを作るやり方は聞いてみたいですね。「ワンパンマン」も「モブサイコ100」も、毎回1話ごとに、すっごくいいところで話が切ってあって。「これ、絶対に次の話を読めないと死ねない!」と思わされるんです。全体の大きい話の流れも大変だと思うんですけど、その中で単話を組み立てるやり方はどうやってるんだろうと。

ONE 僕の場合、まずストーリー全体に関しては、お話の最後から考えますね。「モブサイコ」だったら、「モブがどうなって終わったら面白い?」ということを一番、時間をかけて考える感じです。その話のゴールと、ゴールまでの「このポイントは確実に経過しよう」みたいなのも決めて。それが決まっていれば、いくら寄り道をしても元の道に戻りやすいから。

──そして1話ごとの区切りはどうやって考えますか、という質問でしたが。

ONE どうなんですかね。そこは感覚的にやってるかもしれないですね。自分なりの、気持ちいい話の区切り方っていう感覚で描いてるかも。でも、まずは「このコマまでいかないとその話が終われない」とは決めますね。

盆ノ木 じゃあストーリー全体も単話も、逆算、逆算で。

ONE そうですね。オチが決まってないと怖くて描けないですね。

盆ノ木 それはわかります。あともう1つ質問いいですか? 物事の考え方みたいな話なんですけど。例えば「りんごを思い浮かべてください」って言われたら、頭には絵に描いたりんごが出てくるのか、写真なのか、映像なのか。それとも辞書に書いてある「りんご」の説明が字で出てくるのか……。先生はどういうふうに思考されていらっしゃるのかなって。

ONE うーん、記号ですかね? そのものが持つ記号の中で、一番大きい記号が出てくるかもしれないです。りんごだったら、「丸い」「赤い」「植物」「食べられる」とか。その中で、りんごならまず「赤い」って出てきて、次に「食べられる」かなあ。

盆ノ木 なるほど……。

ONE マンガのキャラでも、割と最初に記号から組み立てることがありますね。ワンパンマンだったら「強い」って記号が1番にあって、次に「強い」ほど大きい記号じゃないけど、スキンヘッドとかマントとかがある。「モブサイコ」の霊幻だったら最初に嘘つきというか詐欺っぽいところ、2番目がスーツみたいな。

盆ノ木 あー。そういうふうに一番大きいものがブレないと、キャラ全体がブレないのかなって納得しました。

ONE そうかもしれないですね。優先順位みたいなのはあるかも。守らなきゃいけない記号は守るけど、ブレるとしたら優先度の低い記号がブレるみたいな。

──今のりんごの話ってどういう意図の質問なんだろう……と思いながら聞いていたんですが、こういうキャラ作りの話につながるとは。

盆ノ木 いやいや、単に、大天才であるこのお方がどういうふうにものを考えてらっしゃるのかを伺いたかったというだけでしたけど、思わぬ形で先生のキャラの固め方を伺えましたね。