ツッコむとウケちゃうからやめろ
もう1つ共感できた話でいうと、天羽さんの作るネタや演技に対して意見を言うべきかどうかで城間くんがものすごく悩むじゃないですか。「正直に言ったら天羽さんが傷つくかもしれない」とかいって。あれはめっちゃわかります。たぶん、どのコンビも共通して抱えている問題なんじゃないかと思いますね。しかも厄介なことに、「それ違うんじゃない?」と思うことがあったとしても、結局のところは実際に舞台でやってみないとウケるかどうかってわからないんですよ。だからこそ、相方と違う意見を言うときはめっちゃピリつくんです。
──ガクさんの場合は、どういうスタンスで相方の川北さんに接していますか?
ピリつくのが本当に嫌なんで、もう言ってないですね。例えば新しいネタをやるときに、仮に僕が「ここ違うんじゃない?」と思うことがあったとしても、何も言わずに1回その通りにやってみるんです。で、スベったら「ほらね!」と心の中で思うようにしています(笑)。スベれば相方も「違ったんだな」と気づくし、逆に僕がわかってなかっただけで、やってみたらウケる場合もあるんですよ。
──難しいものですね……。
だから今はもう、ネタ合わせを極力しないようにしています。相方もある時期から僕に言い返す隙を与えない作戦に出ていて、出番の5分前とかに「今日やるネタはこれ」と伝えてくるんですよ。僕に言い返されると川北はムカついちゃうし、考えなきゃいけなくなっちゃうから。
──真空ジェシカの場合はそれでうまくいっているということですよね。
でも僕らのやり方は決してよくはないので(笑)、一般的にはちゃんと話し合ったほうがいいと思います。城間くんと天羽さんのような、組みたてのコンビの場合はとくに。
──天羽さんはぶっ飛んだボケをするタイプで、城間くんはそれに振り回される立ち位置ですよね。この構図は真空ジェシカの関係性にも重なるところがありそうだなと感じたんですが、そこへの共感はありますか?
ああー、どうなんですかね? あんまりそういうふうには……今、言われて初めてその視点で考えましたけど(笑)。確かに苦労しそうではありますよね、城間くん。
──あまりピンとこないですかね……?
正直そうですね、ごめんなさい(笑)。僕はあの2人のことを男女の関係として見てしまっているから、自分たちのコンビ関係に置き換えるのはちょっと難しいです。ただ、相方の言動に僕が振り回されることは確かに多いというか、そういう場面しかないと言ってもいいくらいではあります。川北は「まーごめ」(※)という言葉でしか会話しなかったりしますし……僕が何か言っても「まーごめ」としか返さないんで、こっちが「まーごめ」の意図を汲み取らなきゃいけないんですよ。
──「ピカチュウ」とか「バケラッタ」みたいなことですね。
直近でいうと相方が結婚式を挙げたんですけど、式を全ボケでやってて、相手方のご家族がかわいそうでしょうがなかったです。普通、結婚式って奥さんのためにやるものじゃないですか。完全に自分のための結婚式をしてたんで……そんなふうに、理解できない部分はいっぱいありますね。
──その点でいうと、天羽さんはまともなコミュニケーションが取れるタイプではありますよね。
そうですね、彼女はピュアだと思います。少なくともウケようとはしていますからね。僕の相方なんて、もう「スベったほうがいい」とか言い出す男なので。「ツッコむとウケちゃうからやめろ」とか(笑)。
(※)ママタルト・大鶴肥満の持ちネタ「まーちゃんごめんね」の省略形。川北はこのフレーズをいたく気に入っており、「国語辞典はいずれ『まーごめ』と書かれた1枚の紙になる」との持論を展開している。
お笑いのことは何もわからない
──先輩芸人として、城間くんと天羽さんに何かアドバイスはありますか?
いや、わかんないです。僕はお笑いのことは何もわからないんですよ。後輩とかに相談されても、「僕はお笑いのことは考えたことがないんだ。だからわかんないよ」って正直に伝えるようにしているくらいで。普段お笑いのことを考えていない人間がヘタなアドバイスをして、変なふうにしちゃうのが怖いんです。
──そうは言っても、ガクさんのお笑い能力の高さには定評がありますよね。大喜利も強いですし。
大喜利イベントは毎回、なんとか切り抜けている感じですね。いつも出るたびに「大喜利ってどうやるんだっけ?」と思いながら臨んでますし、周りの人の答えを参考にしながら見よう見まねでやって、終わったら「どうにか大喜利できないことがバレずに切り抜けたっぽいな」と毎回胸をなで下ろしています。
──とてもそうは見えないです。先ほどの写真撮影でも、頼まれてもいないのに自発的にモノボケを始めていましたし、芸人魂の強い方だなと思って拝見していました。
あれは恥ずかしさからですね。ひまわりを持つことなんて、あんまりないじゃないですか(笑)。ひまわりを持って普通に写真に写るのが恥ずかしいんで、芸人ムーブをすることで紛らわしていました。
──芸人さんとしては割と珍しいタイプなんじゃないでしょうか。「あまりお笑いを語りたくない」という方はいますけど、「お笑いのことを考えていない」と言いきれる人はなかなかいないような……。
考えるの、大変なんで。お笑いのことを常日頃から考えている人はみんなすごいなあと思ってます。
──逆に、“考えない自分でいること”がガクさんのアイデンティティだったりするんでしょうか。
いや、考えなきゃなとは思ってます(笑)。考えてなくて損することしかないんで。
──ということは、今後は考えていく?
でも、つらいことはしたくないんで……考えないまま、行けるとこまで行きたいですね。どうしても考えなきゃいけないときが来たら、そのときは考えます。今はまだなんとかやれてるんで。
天羽さんはおじさんファンに注意すべし
──アドバイス的なことでいうと、作中で天羽さんが「女性芸人は見た目がいいとウケにくい」と指摘される場面がありますよね(※Webで公開中の9話に収録)。
それ、すごいなと思いました。お笑いマンガでは基本的に容姿に言及されることがないイメージがあるんで、「そこをマンガにするんだ?」という驚きがありましたね。キレイな女性芸人がウケにくいという傾向は、実際のライブシーンでも“あるある”だと思います。
──なぜ美人だとウケにくいんでしょう?
その人に合った芸であればウケると思うんですけど、すごく見た目の整ったキレイな人がぶっ飛んだことをしていると、たぶん無理しているように映っちゃうんじゃないですかね。無理してる感じが見えると、笑いづらいじゃないですか。
──ただ天羽さんの場合、おそらく無理はしていないですよね。
そうですね。本人は無理していなくても、周りからは無理しているように見えちゃうということなんだと思います。実際、「城間くんが無理やりやらせているのでは?」という憶測も呼んでいましたし。
──彼女はどうしたらウケるようになると思いますか?
どうしたらいいんですかね? それはわかんないなあ……そこと戦っている芸人が、たぶんいっぱいいると思います。
──確かに、簡単に答えが出るようなら苦労しないですよね。
かわいい女芸人を見たら、ネタ以前に「あの子かわいい」って思っちゃうじゃないですか。まともにネタも見ていないようなおじさんのファンとかがいっぱいついて、大変だろうなと思います。天羽さんに1つアドバイスできることがあるとしたら、「出待ちのおじさん客にあんまりスキンシップとかするなよ」ですね。
──いろいろと“芸人のリアル”が詰まっているマンガだと言えそうですね。
そうですね。「実際にやってないとわからなくない?」という描写がけっこうあるんで、芸人は絶対に好きになれる作品だと思います。まあ、誰が読んでも楽しめそうですけどね。お笑い好きの人はもちろん、男女の恋愛ものが好きな人が読んでも楽しいでしょうし、シュールなギャグマンガとして読んでも面白いんで。
──あまり“少女マンガ”という括りでは見ないほうがいい作品ですよね。
確かに。少女マンガをまったく読んでこなかった僕でもなんの違和感もなく楽しめましたし、いい意味で少女マンガっぽくない作品かなと思います。
──では最後に、城間くんと天羽さんのようにお笑い芸人を目指している全国の学生たちへ向けて、何かエールの言葉をいただけますか?
「絶対にこれがやりたい」という確たるものがない限り、吉本に入って漫才をしたほうがいいです。
──なるほど(笑)。人力舎でコントをするのではなく。
それは一番よくないです。吉本で漫才をするのが一番いいです。
プロフィール
ガク
1990年12月3日生まれ、神奈川県出身。大学在学中の2011年に川北茂澄とコンビ・真空ジェシカを結成し、2012年にプロダクション人力舎に所属してプロデビュー。「M-1グランプリ」では2021年から2024年までの4年連続での決勝に進出している。マンガ制作応援バラエティ番組「設定さん。~漫画の原案、芸人が考えておきます!~」や、芸人とマンガ家がタッグを組んで回答する大喜利ライブ「スタンド大喜利」などにも出演する。
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