「スタジオカバナ」は普通の女子高生と、バンドをやっているクラスメイトの出会いから始まる青春ラブストーリー。読者によるコマの切り抜き動画がTikTokで話題となったことを機に、若い世代から高く支持されている。
同作の新刊発売に合わせ、コミックナタリーではYouTuber・エミリンこと大松絵美にインタビュー。クリエイターとして日々新しい感性を取り入れながら、昨年ちょうど30歳という節目の歳を迎えたエミリンはこの作品をどう読んだのか。話はキャラクターをもとに考える恋愛論など、予想以上に深いところまで発展していった。
取材・文 / ちゃんめい撮影 / 曽我美芽
「スタジオカバナ」作品紹介
真面目が取り柄の女子高生・牧ゆかり。彼女は最近、「非行少年」と呼ばれるクラスメイト・日下優助が気になっている。周囲と馴れ合わず、端正な顔立ちで、ミステリアスなオーラを纏う優助は校内のちょっとした有名人。ゆかりは、そんな彼の世話係となってしまったのだ。
ある日の放課後、ゆかりは優助がStudio Cabanaという音楽スタジオに入っていくところを見かける。こっそり後をつけると、優助は学校での姿からは想像もできないような“恋”の歌を歌っていて……。
ここから、切ない片思いの連鎖が始まる──
3大少女マンガ雑誌を愛読していた小学生時代
──小学生の頃に描いていた自作の少女マンガをYouTubeで披露するなど、並々ならぬマンガ愛が光るエミリンさん。マンガに目覚めたきっかけはなんだったのでしょうか。
子供の頃、2つ年上の姉がりぼん(集英社)、ちゃお(小学館)、なかよし(講談社)などの少女マンガ雑誌をよく買っていました。その影響で私も自然と読むようになって、どんどんハマっていった感じですね。
──特に大好きだった作品を教えてください。
いろいろ通りましたが、小学生の頃一番好きだったのは「GALS!」で、作品に触発されてギャルに憧れていました。あとは、「ミルモでポン!」も好きで、マグカップを電子レンジでチンしてみたり、私もなんとか妖精を出せないものかと奮闘した思い出があります(笑)。
──平成女児あるあるな気がします。特に影響を受けた作品はなんでしたか?
一番影響を受けたのは「NANA」です。中学生の頃に読んでいたのですが、ハチのゆるい感じと、あのかわいくて独特なファッションセンスや世界観が本当に大好きで。私もこういう服を着てみたいってすごく憧れました。でも、中学生だから買えなくて、憧れだけが募っていくみたいな……。こうして思い返すと、周りの友達も「NANA」にかなり影響されていたと思います。ナナに憧れている子は、お化粧が濃くなったり、ゴツめの首輪みたいなアクセサリーを付け出したりとか。
──「NANA」は社会現象でしたよね。エミリンさんがYouTubeで披露されていた自作の少女マンガ「輝き」「小さな光」などは、主にどの作品の影響を受けたものなのでしょうか?
いやー、どうなんでしょう!?(笑) りぼん、ちゃお、なかよしを読んでいたので、当時の流行っていた少女マンガは一通り制覇していました。だから、そのたくさんの名作たちに影響されて、私もマンガ家になるわ!みたいな変なマインドで描いていましたね。1つの作品に影響されたというよりも、当時読んでいた作品が全部ミックスされて生まれたものだと思います。少女マンガの“あるある”が詰まっているみたいな。
恋愛マンガの王道に、令和の要素がプラスされた「スタジオカバナ」の衝撃
──ここからは「スタジオカバナ」についてお伺いしていければと思いますが、まず初めて本作を読んだときの感想を教えてください。
TikTokで流行っている作品だと聞き、若い世代向けの作品なのかと思っていたのですが、30歳の私が読んでもすごく面白かったです。私たち世代が「わかる! これ胸キュンだよね!」って共感する恋愛マンガの王道を取り入れながらも、プラスアルファで令和の要素が足されているんですよ。
──どんなところに令和の要素を感じましたか?
例えば、ゆかりちゃんがSNSで優助くんのバンドのことを検索していたら、“同担拒否”って言葉が出てきたり……。本当に今のリアルって感じですよね。あと、優助くんと春雪ちゃんの関係性も「あ、そこからスタートなんだ」って。ちょっと大人な感じが新鮮でした。
──確かに、どちらも昔の少女マンガでは味わえないものですよね。恋愛マンガの王道についてはいかがでしょうか?
放課後の勉強会や文化祭、あと花火大会に行くシーンは、恋愛マンガの王道ですよね。こういうシーンって私が小学生の頃からあったものなので、胸キュンポイントのシチュエーションって令和も変わらないんだなってうれしい気持ちになりました。
──エミリンさんが憧れるシチュエーションを教えてください。
文化祭を2人で回るのに憧れますね。実は、私が通っていた学校では、文化祭で告白してカップルが生まれる「文化祭マジック」というものがあったんです。文化祭をきっかけに恋が動き出すのは、マンガも現実世界も共通なのかもしれませんね。でも、私はそもそも文化祭シーズンに好きな人がいなくて……。現実はなかなかうまくいかないですよね(笑)。うらやましい気持ちで「スタジオカバナ」を読んでいました。
物語に絶対必要な“給水ポイント”みたいなキャラクターとは
──ゆかりと優助にはどんな印象を抱きましたか?
ゆかりちゃんは恋愛マンガの王道主人公ですよね。素直で優しくて、友達ともうまく関係性を築ける子。そんな彼女が恋をする優助くんも王道なイケメンかと思いきや、本質が掴みにくいというか、何を考えているのかわからないキャラクター。優助くんは春雪ちゃんのことが好きなんだろうけど、なんだかきれいな恋愛ではなさそうな雰囲気からスタートするじゃないですか。とにかくミステリアスな存在だと思いました。
──確かに、優助くんは昔読んでいた恋愛マンガにはいない雰囲気ですよね。
そうなんですよ! 優助くんみたいな一匹狼で無口なキャラは、「女なんて知らねえ」「おもしれー女」っていうのが王道だったじゃないですか。
──わかります(笑)。
なのに、春雪ちゃんが登場した瞬間に「え、もう最初からそんな感じ!?」みたいな驚きがありましたし。そもそも、私は優助くんと春雪ちゃんの関係性もミスリードだと思っていたくらいです。昔の恋愛マンガだと、好きな男の子がきれいな女性と歩いているのを目撃した主人公が「昨日、女の人と歩いていたでしょ?」って問い詰めたら、「バーカ! お姉ちゃんだよ」みたいに返されるシーンがありましたよね。なのに「スタジオカバナ」は全然違うじゃん!って。入り方がとにかく新鮮でした。
──本作はほかにも個性豊かなキャラクターたちが登場しますが、特に好きなのは誰ですか?
優助くんのバンドメンバーのダイちゃんが大好きです。やっぱりダイちゃんみたいな存在って恋愛マンガにマジで必要だなってしみじみ感じました。例えるなら“給水ポイント”のようなキャラクターだなと。
──給水ポイント……?
1巻でダイちゃんがゆかりちゃんと優助くんに「心に思ってる事はちゃんと伝えないと伝わらないのよ」って言うじゃないですか。このセリフを見て、本当にそうだよなあってしみじみしてしまったんですよ。恋愛も仕事もプライベートも、ちゃんと言わなきゃ相手に伝わらないのに、あえて口をつぐんで結果的に揉めてしまったり……。頭ではわかっているはずなのに、大人になってもまた同じようなこと繰り返しているなと。そういう当たり前だけど、つい忘れてしまいがちな大事なことをダイちゃんは言ってくれる。そのたびに「ああ、給水ポイントー!」って思います(笑)。
──昔、愛読されていた作品で似たようなポジションのキャラクターっていますか?
「NANA」でいうヤスかなあ。ナナが荒れていると、ヤスがスッと出てきて連れて帰るみたいなシーンがけっこうありますよね。ヤスが出てくると安心します。それと同じように、「スタジオカバナ」でダイちゃんが登場すると、一旦ふう……って落ち着くんです。
次のページ »
恋愛相談役のえりな、弱さを抱えている春雪に共感