忍者アニメ「サスケ」「忍風カムイ外伝」を時代劇専門チャンネルで特集放送、初の配信も!“読者に忍術をかける作家”・白土三平とその作品の魅力を徹底解説

白土三平が2021年10月に逝去してから約1年。時代劇専門チャンネルでは、白土原作の忍者アニメ「サスケ」「忍風カムイ外伝」を2カ月連続で放送する。さらにはスカパー!番組配信で「サスケ」「忍風カムイ外伝」が初の全話見放題となることも決定した。

コミックナタリーではこれに合わせ、白土の作家としての歩み、アニメ「サスケ」「忍風カムイ外伝」について、ライターの忍者増田に解説してもらった。ライターとして活動するとともに、2008年に滋賀県甲賀市で行われた忍者検定では6位に入賞し、現在は忍者検定の問題の制作なども行う忍者増田。白土を“読者に忍術をかける作家”であると語る忍者増田は、「サスケ」「忍風カムイ外伝」をどのように紐解くのか。

ライター兼忍者の忍者増田が白土三平を解説!

文 / 忍者増田

読者に忍術をかける作家? 白土三平とは

本名は岡本登。1932年、洋画家・岡本唐貴氏の息子として東京都杉並区に生まれる。1953年頃、生計を立てるために紙芝居の制作に携わり、1957年に貸本マンガ「こがらし剣士」にてマンガ家・白土三平としてデビューする。以降、白土氏は忍者マンガを次々と発表し、忍者マンガの第一人者としての地位を確立していく。1959年に発表した「忍者武芸帳 影丸伝」は、全17巻に及ぶ長編となった。1964年には、運命的な出会いをした長井勝一氏が創刊したマンガ雑誌・月刊漫画ガロ(青林堂)にて、「カムイ伝」の長期連載をスタートする。1961年に発表した「サスケ」、1965年に発表した「カムイ外伝」はともにアニメ化され、原作同様に評価の高い作品として現在も語り継がれている。2021年10月、誤嚥性肺炎のため逝去。その4日後には、多くの白土マンガの作画を担当した実弟・岡本鉄二氏も亡くなっている。

「カムイ伝全集 第一部」1巻(電子版)©白土 三平

「カムイ伝全集 第一部」1巻(電子版)©白土 三平

白土忍者マンガのスタイルとして特筆すべきは、なんといっても「忍術解説」である。突然、物語の途中で忍術の解説が入り、「今使用した忍術はこんな仕掛けがあって、決して魔法やインチキじゃないんだよ」とばかりに読者に教えてくれる(これはアニメ作品も同様)。サスケが使う「微塵がくれの術」にしても、カムイが使う「変移抜刀霞斬り」にしても、白土マンガの忍者が使う忍術には、すべて科学的カラクリがあるのだ。

「サスケ」1巻(電子版)©白土 三平

「サスケ」1巻(電子版)©白土 三平

この「忍術解説」が非常に説得力があり、魅力的であった。もちろんマンガなので、よくよく考えれば実用に無理のある忍術が大半である。しかし、白土氏独自の文体で強く言い切られると、当時の子供たちは「ああ、本当にできるんだ!」と納得したものだ。言うなれば我々も、白土三平という作家の忍術にかかっていたのである。

白土氏の活躍はマンガだけにとどまらない。アウトドア雑誌・BE-PAL(小学館)では「白土三平フィールド・ノート」と題し、房総の漁村で暮らす白土氏が体験した海や山の食に関するフォトエッセイを連載し多才ぶりを発揮していた。遅れて白土ファンとなった筆者は、この連載で初めて白土氏の顔をリアルタイムで拝見し、感動を覚えた記憶がある。何せ、普段マスコミへの露出が極端に少ない白土氏である。筆者にとっては「伝説の人」であり、普段の氏の姿が想像できないことが、忍者マンガ家としての神秘性と説得力をより高めていた節さえある。だから2017年、朝日新聞社の取材に答える白土氏の姿がYouTubeにアップされたときはビックリ仰天したものだ。動いている白土氏を、あのとき初めて目にしたという方も多いのではないだろうか? 白土氏本人も、まさしく「忍びの者」だったのである。

「カムイ伝全集 カムイ外伝」1巻(電子版)©白土 三平

「カムイ伝全集 カムイ外伝」1巻(電子版)©白土 三平

原作に忠実で白土ファンも納得のデキ、アニメ「サスケ」

1968年9月から1969年3月まで、TBS系にて全29話が放送されたアニメ作品「サスケ」は、大坂夏の陣にて主君・真田幸村を失った甲賀忍者・大猿大助と、その息子サスケの流浪の生活と戦いを描く時代劇だ。原作となる白土三平氏のマンガは、1961年から1966年まで雑誌・少年(光文社)にて連載されていたが、アニメ版「サスケ」はこの原作にとても忠実に作られており、白土ファンも納得のデキとなっている。

アニメ「サスケ」より。

アニメ「サスケ」より。

主人公の少年忍者サスケには、惨酷なくらい幾多もの困難がふりかかってくる。第1話はなんと母親の死から始まり、以降も服部半蔵ら徳川の忍者や、さらなる新たな敵に追われ続けることとなる。つらく厳しい環境に置かれながらも、サスケは懸命に困難をはねのけ、忍者として人間として少しずつ成長していく。子供向けアニメと侮るなかれ。大人が見ても十二分に楽しめる、シリアスで重厚な作品なのである。

そんなサスケを見守るのが父の大猿である。ときには忍者の師としてサスケを厳しく鍛え上げ、ときには優しい父親の視点で語りかける。サスケがピンチを迎えたときはすかさず駆けつけ、敵の忍者を蹴散らす。サスケを1人置いて旅に出てしまうこともあるが、ふりかかる困難に悩むサスケの姿を遠くから見守っていたりもする。当時、この大猿の絶妙なギャップにヤられた視聴者は多いはずだ。サスケの成長していく姿はもちろん、大猿の圧倒的な強さと存在感も本作の魅力の1つ。大猿が「サスケ」のもう1人の主役と言い切っても、異論を唱えるファンはいないだろう。

アニメ「サスケ」より。

アニメ「サスケ」より。

誤解している人も多いかもしれないが、サスケはかの講談の忍者・猿飛佐助ではない。本作では「猿飛の術」を使う忍者すべてが「猿飛」という扱いになっていて、大猿をはじめ、石猿や赤猿など「猿飛」を名乗る忍者は何人も登場する。もちろんサスケも猿飛の1人である。このカラクリを知らない敵の忍者は、猿飛を倒しても、まるで蘇ったように別の猿飛を名乗る忍者が現われるので、「猿飛は不死身なのか!?」と恐れおののくことになるわけだ。主君・幸村の死後、各地に散った猿飛たちは、大猿やサスケにとって頼れる仲間なのである。

アニメ「サスケ」より。

アニメ「サスケ」より。

物語の最後ではサスケが新しい母を迎え入れ、アニメ版「サスケ」はハッピーエンドと言える形で終了している。実は原作ではなおもサスケの旅が続き、なんとも切ないラストを迎えているのだ。詳しい経緯はわからないが、小さな子供も多く目にするであろうアニメ版を大団円で終了としたのは、賢明な判断だったのではないかと筆者は思う。興味がある方は、アニメを見たあとに原作も通して読んでみることをお勧めしたい。また、同じ白土氏の忍者マンガである「真田剣流」や「風魔」では、本作に登場する大猿や石猿の別時代の姿をチラ見することができるので、こちらも興味があれば一読を。

“抜け忍”という言葉を定着させた? アニメ「忍風カムイ外伝」

「忍風カムイ外伝」は、寛文年間に生きた天才忍者カムイが、抜け忍として刺客に追われ続けながらも孤高に生き抜いていく姿を描いたアニメ作品である。1969年4月から同年9月まで、フジテレビ系にて全26話が放送。原作であるマンガ「カムイ外伝」は、1965年から1967年まで週刊少年サンデー(小学館)にて掲載された。アニメ版は基本的に原作に忠実な内容であるが、マンガでは中性的な顔立ちであったカムイが少々男っぽい外見となっている。ストーリー部分でも、忍者に憧れてカムイにつきまとう少年が序盤の登場人物に加えられたり、カムイに刺客を送り続ける大ボスの存在がより明確になったりなど若干のアレンジがあり、カムイのポジションをわかりやすく表現しようとする狙いが見られる。

アニメ「忍風カムイ外伝」より。

アニメ「忍風カムイ外伝」より。

ほかの白土作品と同じく、忍者同士の忍術のぶつかり合いも魅力だが、本作では抜け忍として生きていかねばならないカムイの切なさに大きく主題が置かれている。カムイは人を殺したくないのだが、次々と放たれる刺客を嫌でも殺さねばならない。そして常日頃、誰が自分の命を狙っているかわからないため、自ら人を遠ざけ、1人で生きる道を選ぶこととなる。完全に信用できる人間さえも、カムイは密な接触を拒む。なんの罪もない者を、戦いに巻き込んで死なせたくないからだ。そんなカムイの苦悩と孤独さが、見る者の涙を誘う。事実、カムイに好意的に近づいて死んでしまった人間や動物は数多く、そのたびにカムイは悲しみ、自分の存在を呪うのだ。

アニメ「忍風カムイ外伝」より。

アニメ「忍風カムイ外伝」より。

さて、先ほどから本稿で何の説明もなしに「抜け忍」という言葉を使っているが、「抜け忍」とはカムイのように、忍者が嫌になって組織から逃げ出した者のことを指す。現在、さまざまな忍者作品で「抜け忍」という言葉を目にするが、実は忍者の史実的書物にそんな単語はない。「抜け忍」とは造語なのだ。この「抜け忍」という造語を生み出したのが、白土三平氏ではないかと筆者は推測する。仮に白土氏が最初ではないにしても、「抜け忍」という言葉を世に定着させたのは「カムイ外伝」をはじめとした白土作品だと言い切って間違いないだろう。「忍者は辞めることが許されない」。「組織を脱した忍者には追っ手が向けられる」。史実とは異なるが、「カムイ外伝」はそんなシビアでスリリングな忍者ワールドを広く一般に普及させた、偉大なる作品なのである。

アニメ「忍風カムイ外伝」より。

アニメ「忍風カムイ外伝」より。

なお、「外伝」があるからには「正伝」も存在する。同じく白土氏の代表作「カムイ伝」では、少年時代のカムイが忍者になり、そして抜け忍となるまでの経緯がはっきりと描かれている。「カムイ伝」は忍者カムイだけのストーリーにとどまらない、広大な舞台で多数の登場人物が動いている長編だが、カムイの生い立ちをさらによく知りたい方は、読破してみてはいかがだろうか?

プロフィール

忍者増田(ニンジャマスダ)

PCゲーム誌・ログインに6年間、家庭用ゲーム誌・ファミ通(ともにアスキー・当時)に3年間、編集者として在籍した後、フリーライターとなる。白土三平作品、忍者好きとしても知られ、2008年に滋賀県甲賀市で行われた第1回忍者検定では6位に入賞。現在は忍者検定の問題制作なども行っている。

時代劇専門チャンネルではアニメ「サスケ」「忍風カムイ外伝」を2カ月連続放送、初の配信も!

時代劇専門チャンネルでは「サスケ」を9月15日から、「忍風カムイ外伝」を10月7日からオンエア。月曜日から金曜日の26時に2話ずつ放送していく。

さらに、スカパー!放送サービスに加入中のユーザーが無料で利用できる配信サービス・スカパー!番組配信では、時代劇専門チャンネルを契約すると、「サスケ」が9月16日から、「忍風カムイ外伝」が10月8日から全話見放題に。「サスケ」「忍風カムイ外伝」が配信サービスに登場するのは今回が初めてのこと。配信はパソコン、タブレット、スマートフォンいずれの端末でも視聴が可能なので、白土作品に興味を持った人はこの機会にサービスを利用してみては。

時代劇専門チャンネル

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