声優・鈴木達央、Ta_2として再びステージへ SHINKIRO&Co.始動記念インタビュー (3/3)

Ta_2と鈴木達央はやっぱり違うもの

──これも単なる個人的な感想ですが、今回の3曲ともが今のTa_2さんの主題歌のように思えまして。

確かに(笑)。どれも“A面の曲”というつもりで作っていましたし、今の自分の制作スタイル自体がけっこうそういう方向性なんですよ。「全部が代表曲になってほしい」という思いがある。なぜこの曲を作るのか、なぜリリースするのかという“意味”がすべてにおいてなければいけないと思ってやっているので、毎日頭痛が止まらないです。

──(笑)。

だからなるべく体を動かさなきゃと思って、最近1日おきくらいのペースでランニングをしてるんです。5、6キロぐらい。今暑いので(取材は9月中旬に実施)、ちょうどいい具合に汗をかけるからリフレッシュになっていいんですよ。

Ta_2

Ta_2

──お話を伺っていると、Ta_2さんってもの作りにおいて明確な“理由”を求めていますよね。「普通こうだから」は理由にならないというか。

それはありますね。そこはお芝居をやってきたこともあるのかなと思います。やっぱり人間を作っていくものなので……昔、先輩たちから「“キャラクター”と言うな。“役”と言え」とさんざん言われたんですよ。それはなぜかというと、「記号じゃねえんだから」ということで。「俺たちが演じるのは人間なのに、なぜそういう言い方で平面にしようとするんだ? お前、そういう意識で芝居やってんのか?」と。楽曲作りもそれと同じなんです。いかに魂を込めるのかが重要なのであって、後付けで説明するようなことじゃない。最初から芯の部分がちゃんとあれば、結果として何かをアウトプットしたときに「なるほどね」が全部入ってくる。

──すごくよくわかるお話です。

今度のライブのタイトル「cantabile con anima」にしても、自分の過去と未来が全部ここに詰まっているんです。「cantabile」は昔出演させていただいたアニメ「のだめカンタービレ」から来ていて、そこからの連想で音楽用語の「cantabile con anima」に行き着いた。「生き生きと、歌うように」という意味なんですけど、「こっからの自分のことじゃん」と思って、これをタイトルに決めました。こういう背景をわざわざ説明しなくても、スタッフもみんな自然とこれを選ぶんですよ。不思議なことに。

──それはやはり“理由”があるからですよね。おのずと伝わるものがある。

そうなんですよ。だからこそ、僕の場合はボーカリストとしてそれを歌声に宿らせなければいけない。説明せずとも伝わる歌を歌わなければいけないな、と思っていますね。

──そこに「anima(魂)」という単語が含まれるのも、いろいろと示唆的ですよね。先ほどの「キャラクターじゃない、役なんだ」というお話にもそのまま通じますし、「アニメーション」の語源としても知られる単語ですし。

いろんな伏線を意図せず回収してる感じですよね(笑)。もうここまで来ると、僕の意思を離れるんですよ。意図するものと意図しないものが自然に寄ってきちゃうんで、それが面白くて。縁のようなものがつながっていく感覚、と言ったらいいんですかね。そういう状況に対して、じゃあ自分はどういう思いで何を突き刺していこうか、どういう動きで関わっていこうか、というところに考えを巡らせながら制作をずっとやっている感じです。

──「“人生”という作品の中で、俺は何をどう演じようか」みたいな話にも聞こえますね。

ああ、でもそうかも。Ta_2として出すものに関しては、今はどっちかというとその感覚が強いですね。そもそもこの「Ta_2」という名義は、最初に鈴木達央名義で活動し始めたときにスタイリストがついてなくて、「スタイリスト不在という見え方は嫌だな」と思って「スタイリング:Ta_2」とクレジットしたことが始まりなんですよ。で、OLDCODEXを結成したときにほかのメンバーがみんなローマ字表記だったから、「じゃあ俺は『Ta_2』で」ということになったんです。

──なるほど。

この「Ta_2」という名前を使い続けることに関しては、正直迷いもありました。でも、ずっと音楽と歩んでくる中で名乗ってきたものではあるので、やっぱりこれかなと。例えば表記を変えたりするのも面白いかなとは考えたんですけど、それをしたらTa_2という名前が悲しむんじゃないかと思ったんですよね。お墓に入れちゃうみたいな感じになるから、「え、俺使ってくんねえの?」ってたぶん言うだろうなと思って。

──YAZAWAみたいですね。

ああ、「俺はいいけどYAZAWAがなんて言うかな?」ですよね。その言葉も最近すごくよくわかるようになりました。Ta_2と鈴木達央はやっぱり違うものだなと思いますし……ぐぐぐっと入り込んで紐解いて、それが全部作品に昇華されていくのがTa_2なんだよな、っていうのは今すごく実感しています。

仲間や友達に応えられる自分でいたい

実は今、今度のライブに向けて新曲を8曲書き下ろしていて。

──……何を言っているんですか?

(笑)。本当は10曲作りたかったんですけど、ちょっと間に合いそうにないということになって。最初はこのEP「インビジブル」を引っさげてのライブということで、「5曲しかないじゃん。ライブといっても、何すんねん?」という話だったんですよ。「じゃあカバーでもやる?」という案も当然出たんですけど、なんかそれは違うよねと。で、今全部書き下ろしてます。

──その「8曲」というのは、EPに収められた5曲とは別に、ってことですか?

別です。完全なる新曲なんで、ライブに来てくれた人は演奏される曲の半分以上が知らない曲ってことになる(笑)。「それが1stライブって面白くない?」という話をしていて。

──それはまた、なんというか一貫してますね。決して「普通こうでしょ」を理由に物事を進めない。

当たり前のことを当たり前にやっているだけ、という感覚なんですけどね。周りにいてくれる仲間たちもみんなそうなんですよ。「ちゃんと納得できる、いいものを作りたい」がプライオリティの一番上にあって、人が足を踏み入れないところに笑いながら足を突っ込むみたいな。本当に仲間や友達に恵まれてるんですよ。だからこそ、それにちゃんと応えられる自分でいたい。自分がちゃんと立ってないと対等に渡り合えないし、恩返しもできないですから。

──実はリリースが決まっているとかでもなく、ただライブで披露するためだけに8曲を作っている?

そうです。まあ結果的にリリースできることになったらいいなとは思ってますし、ライブテイクとして出すのも面白いかもしれないですけど、今のところは「やれたらいいな」レベルの話ですね。それでいいのかなと思うし。

──本来、音楽ってそういうものですしね。

そうそう。レコードが生まれる前は“そこに行かなければ聴けないもの”だったので。その“生ならではの音楽の楽しさ”をちゃんと味わえるライブをやりたいし、SHINKIRO&Co.はそれを体現できるプロジェクトでありたいんですよね。

──素晴らしいですね。全部のお話が本質的というか。

今の僕らの一番の基礎になっているのはそこですよ。全部が“音を楽しむ”という根本のところに通じている。その中で僕はシンガーだから、生き生きと歌うように、伸びやかに歌うし、そこには自分のカケラを星々のようにちりばめていく。星って1個だけだと小さくて光も弱いけど、たくさんの星のカケラが集まることで夜空は明るくなるじゃないですか。そんな一夜を作れたらいいな、と思っています。

公演情報

「SHINKIRO&Co. cantabile con anima」

2025年10月13日(月・祝)東京都 品川インターシティホール
17:00開場 / 18:00開演

プロフィール

SHINKIRO&Co.(シンキロウ)

ボーカルTa_2を中心として、さまざまなミュージシャンとの交わりを経て音楽を作り上げる、出入り自由の音楽プロジェクト。「&Co.」は「仲間たち」と「それを支えるファン」を表す記号「カンパニー」。