「選択のトキ」群千キリインタビュー|友達or恋人、どちらか手に入るなら選ぶのは? SQ.期待の新鋭が描く“嘘をつかない”青春劇

マンガで嘘をつくと面白くない

──「レイヤーコールミー」はクラウン新人漫画賞で佳作を受賞して、ジャンプSQ. CROWN 2016 SPRINGに掲載されましたね。講評では審査員の古屋兎丸先生が「ネームが秀逸で読んでる手が止まらなかった」と称賛されていますし、スクエア編集部も「今後が楽しみ」とコメントしています。評価が芳しくなかった持ち込み時代の作品と「レイヤーコールミー」では、マンガの描き方に何か変化があったのでしょうか。

群千キリの仕事場。壁にはキャラクターの設定画などが貼られている。

うーん……マンガで嘘をつくとヤバいというか、面白くないというのがわかりはじめたのがその頃なんだと思います。

──嘘というのは?

例えばバトルものを作っていたときは、戦いのシーンをただただ漠然と描いてマンガにしていたんです。でもそうするとテンプレートに沿ったようなマンガしか描けなくて。本当は「なんで主人公は敵を殴らなきゃいけないんだ、勝たなきゃいけないんだ」っていう意味を考えて描かなくちゃいけなかったんじゃないかと。あと「レイヤーコールミー」を描くまでは、作品に女性の下着やキャラクターのキスシーンを出すのが恥ずかしくてできなかったんです。「どうやって入れたらいいんだろう」と迷ってしまって。

「レイヤーコールミー」より。水森は咲野と体を重ねることになるが、彼女が呼ぶのは水森がコスプレしているキャラクターの名前だった。

──でも「レイヤーコールミー」には学校の教室で男子が女子の服を脱がせるシーンなど、きわどい描写もありますよね。

ちょうどその頃、性や思春期をモチーフにした作品を多く執筆している小説家の吉行淳之介先生の作品をいろいろと読んでいて。「自分もそういう描写を作品に入れてみてもいいのかもしれない」と思い始めたんです。スクエアという雑誌だったら「ちょっと大人っぽい描写を入れても大丈夫かも」とは思っていたので、それが上手く噛み合ったのかもしれません。自分の中では、そういった描写を描けるようになったというのが分岐点だと思っています。

打ち合わせの際には必ず新しいネームを持参

──そこからスクエアとSQ.CROWNで、「レイヤーコールミー」を含め4本の読み切りを半年の間に一気に発表しています。かなりのハイペースですよね。

雑誌初掲載作となった「とみとバラ」では女子高校生2人の友情が描かれる。

担当さんとの打ち合わせのときに手ぶらで行くのが嫌で、毎回新しい読み切り用のネームを持って行ったんです。読み切りのコンペが行われている間にまた新しい作品のネームを描いて、コンペに通ったら原稿を描きながら次のコンペにもネームを出す、という感じでどんどん作品を作っていました。

──ちなみにコンペ用のネームは何本くらい提出したんでしょうか。

SQ.CROWNに掲載された「とみとバラ」「Xの中で戦う」と、スクエアに載った「スリーサイズ」の3本です。

──じゃあ提出したものはすべてコンペを通過しているんですね。持ち込みでどこに行っても怒られていたという時代を考えると、かなりトントン拍子というか。

群千キリの仕事机に置かれた「選択のトキ」のネーム。

たしかにそうですね(笑)。わかりづらいシーンがあったりして、「これってどういうことだ?」と手が止まってしまうのが嫌だったので、ネームの段階で結構絵を描き込んでいたんです。それがよかったのかもしれませんね。「選択のトキ」も簡単な打ち合わせのあとにまずネームを持っていって、「じゃあこの題材で連載ネームを描こうか」と言われたので、連載バージョンを考え始めました。

今の自分が“嘘をつかず”に描けるのは……

「選択のトキ」第1話のカラーページ。

──「選択のトキ」はそもそもどのような着想からスタートしたんですか?

それまでの読み切りで描いていたのが現代劇とSFだったんですが、次は何をやろうかなって考えたときに「両方やりたいな」と思い、SF要素のある現代劇にしてみました。

──群千さんが発表していた読み切りには、いずれも友情や恋愛というテーマが入っていたので、「友達か恋人どちらかひとつだけ手に入る」という「選択のトキ」はこれまでの集大成的な内容なのかなとも感じたのですが。

自分の中では集大成っていうつもりはまったくなくて。友情や恋愛を描いているのは、先ほど言ったように今の自分が“嘘をつかず”に描けるのは、バトルじゃなくて友情や恋愛なんじゃないかと思ったからなんです。

──たしかに仲のいい3人組のうち、友達2人が付き合っていて1人が疎外感を感じるという「選択のトキ」の設定には、嘘がないというか、リアルな印象を受けました。

「選択のトキ」第1話より。ひょんなことから光晴は、幼なじみ2人が裏で自分のことを哀れんでいたと知ってしまう。

担当さんとの打ち合わせでは、「宇宙人とひとりぼっちの男子高校生が出会う話を描きたい」という大筋の共有はしていて。そこから「この高校生はひとりぼっちです」という設定の男子をただ描くのではなく、「高校生がひとりぼっちになるのってどういうときだろう」と考えて、あの3人の関係性ができあがったんです。

──「選択のトキ」にはひと言で表現できるテーマのようなものはあるんでしょうか。

うーん、決まったテーマはないんですけど……。友情とか恋愛ではない気がしていて、強いて言うならタイトル通り「選択」ってことなんですかね。担当さんには「光晴がトキと出会って、自分を客観的に見つめながらどう成長していくのかを楽しみにしている」と言われています。

──初めての連載を経験して、単行本1巻分を描く中で気をつけていたことはありますか?

「選択のトキ」第2話の冒頭より。トキが選択した性別になるための材料について説明されている。

自分はマンガの1話目の冒頭で設定を読むのが好きじゃないので、1話では説明に関してはすべて省いて会話の中で見せられるようにしました。2話目では、どうしても説明しなきゃいけない部分が出てきたところは、見開きの1ページにまとめています。担当さんには「力技だよね」と言われてしまったんですが(笑)。あとガツガツ場面転換をするようには心がけていますね。

──それはどういった理由で?

ダラダラ見せてしまうと読者が飽きちゃうかなと思うんです。もうひとつ、これは癖かもしれないんですが、なるべく大ゴマを使わずに1ページ内にコマをギュウギュウに詰めていますね。自分がコマがたくさんある作品を読むと満足感を感じるタイプなので、読者にもコマがたくさんある作品を見て、「読んだ!」って気持ちになってもらいたいなって。

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高校2年生の夏休み。ある日、自転車に乗っていた光晴は宇宙船と衝突し気を失ってしまう。目を覚ますと、目の前にはカーマイン星のトキと名乗る美しい宇宙人が座っていた。カーマイン星人は生まれた時には性別がなく、性を選ぶために地球を訪れたという。そして、その選択を光晴に任せようとする。トキを男「友達」にするか女「恋人」にするか、選択と青春の日々が始まる…!

第1話試し読みはこちら!

群千キリ(グンチキリ)
群千キリ
千葉県出身。ジャンプスクエア(集英社)が主催するクラウン新人漫画賞の第30回で「レイヤーコールミー」が佳作を受賞。「とみとバラ」がジャンプSQ.CROWN 2016 WINTER(集英社)に掲載されデビューを果たす。その後「レイヤーコールミー」のほか読み切り「スリーサイズ」「Xの中で戦う」をジャンプスクエア、ジャンプSQ.CROWNで発表。2017年よりジャンプスクエアで「選択のトキ」を連載している。