コミックナタリー Power Push - 「先輩と彼女」
南波あつこ(原作者)×志尊淳(美野原圭吾役)×芳根京子(都築りか役)座談会 少女マンガの“人間くさい”実写化
キスシーンは明太子のうまい棒味
──南波先生は、映画で特に好きなシーンはどこでしょうか。
南波 うーん。たくさんありますけどね。顎クイ、よかったですよ。
志尊 本当ですか(笑)。
南波 うん。わざとらしくなっちゃうのかな……って思ってたんですけど、すごく自然だなって思いました。
志尊 あれ、現場でいきなり監督に「やって」って言われたんですよ。だからやり方わかんなくて、最初芳根ちゃんの顎を、親指と人差し指でつまんじゃって(笑)。
芳根 持ち上げるだけでいいのにね(笑)。
志尊 「そんなの知らないよー!」って。不安だらけでやり方もわからなかったんですけど、「先輩と彼女」が公開されて、バラエティとかで「エア壁ドンやってください」「カメラに向かって顎クイして『好きだよ』って言ってください」ってリクエストされることが増えたんですね。そしたらたまたま顎クイが流行語大賞にノミネートされて。顎クイが紹介されるときに毎回「先輩と彼女」の映像が流れるようになったんですよ。めちゃくちゃ「顎クイの人ですよね!?」って言われるようになっちゃって。
南波・芳根 あははは(笑)。
志尊 「いや違います! たまたまやっただけですよ!」って(笑)。でも日本のテレビ出てる人の中で、一番顎クイしたと思います(笑)。
芳根 やり慣れてますよねえ。
志尊 やり慣れてる人がこんなこと(つまむ動作)しないでしょ!
芳根 いや、それは計算でしょ。「慣れてると思われたくないからつまんどこ」っていう。
志尊 おい(笑)。
──(笑)本番の映像はとても自然でしたし、夕景もあいまって素敵なシーンに仕上がってましたね。
志尊 そうですね。バックが綺麗。僕も芳根ちゃんも初めてのキスシーンだったので、自分が引っ張らなきゃいけないと思って。エチケットを気にして、何も食べないで挑もうと思ったんですよ。でも昼の2時とか3時の撮影の予定が、4、5時くらいになっちゃって。
芳根 しかも夕日待ちって言うのがあってね。
志尊 もうお腹がすきすぎて無理だ!と、ケータリングのところに行ったんですよ。そしたら明太子味のうまい棒が2本あったんで、芳根ちゃんに「お腹すいたでしょ? これ食べな」って渡して。
芳根 私は普通にお昼食べたから、お腹すいてないのにですよ?(笑)
志尊 2人で同じ味食べてたらプラマイゼロだろうと(笑)。それでキスシーン撮影直後に、芳根ちゃんに「志尊さん……制服にうまい棒のカスついてますよ」って言われて。その瞬間「この子に嫌われたな」って思いました。
芳根 あはは(笑)。私は逆にそこで、志尊くんのちょっと抜けた瞬間が見れて、良い意味で見方が変わりましたね。それまでまだ打ち解けられてなくて、志尊くんは志尊くんの枠に収まってたのが、もうちょっと近づけるのかなって。
──ちなみにおふたりはドラマ「表参道高校合唱部!」でも寸止めのキスシーンがありましたが、そのときは何味だったんですか?
志尊 あのときは唇が触れてないんですよ。
芳根 監督に「1回やってみて実際にしてもらうかもしれない。本番では使わないけど」って言われてたんですけど、もうこの方が寸止めのプロだから。
志尊 もうギリギリのところで10秒くらい止まらなきゃいけなかったんで、テストのときから距離感を見て。本当はオンエアされた映像より近いところまでいってます。
芳根 寸止めも壁ドンも顎クイもプロですよね。
志尊 寸止め俳優。需要あるかな(笑)。
南波 窓ドンもすごくお上手でしたね。原作だと「ロッカードン」になるのかな(笑)。描いた当時は「壁ドン」なんて言葉はなくて、まったく意識してませんでしたけど。
志尊 「壁ドン」って言われるようになったのはここ数年なんですか?
南波 そうだと思います。でもその行為自体はかなり昔からあったんじゃないかなと。
志尊 へー! 僕めっちゃ研究したんですよ。「壁ドンのどういうところがいいの?」って、いろんな人にリサーチして。聞いたらみんな強引さがいいとか、距離が近いのが良いとか。でもみんな絶対、「やる人によるかな」って言うんです(笑)。
南波 それはそうですよね(笑)。
芳根 別に意識してない人にいきなりドンとされても、「何!?」ってなるもんね(笑)。
新しいヒロインのパターン
南波 あと私、りかが廊下を泣きながら歩くシーンが好きで。原作では土手だったのでちょっと違うんですけど、いいシチュエーションだなと。
芳根 ありがとうございます。廊下を歩くシーンは何カ所かあって、全部途中で立ち止まっちゃうんですけど、最後のシーンだけちゃんと、りかが自分の足で歩いて部室に入るんですよ。そういうところもりかの成長だなって。いつもゆうちゃんに助けてもらってたりかが、ちゃんと自分の足で立てるようになる。みの先輩に出会って、りかが成長していくところも出していきたいなと思っていました。
──映画ではモノローグが最小限になっているなと思ったんですが、気持ちをあまり言葉にしない分、表情での演技が難しかったのではないでしょうか。
芳根 もう私、この撮影中、涙が止まらなくて。さっき言った廊下で泣いてるシーンも、その前に撮ってた、みの先輩に別れを告げるシーンを見返したら涙が止まらなくなって、そのまま号泣しながら撮ったんです。役に入り込んでるんだな、って思った瞬間でしたね。あんまり頭で考えず、その場のお芝居で出てくるものを大事にしました。
──芳根さんといえば満面の笑顔のイメージですが、この作品では常に不安そうというか、悩ましげな表情がほとんどでしたよね。小島梨里杏さん演じる葵さんにビンタするシーンの睨みつける顔も、すごく印象的でした。
芳根 うふふ(笑)。葵先輩が窓から入ってくるところは、梨里杏さんがキラキラしてて「ああ、敵わないな」って本当に思って。というかもう、私は梨里杏さんと初めて会ったときからそう思ってたんですね。「葵先輩だ」って。志尊くんと初めて会ったときも「みの先輩だ」って思ったんですけど。だから私も入り込むことができたんだと思います。
志尊 僕の中ではりかのイメージはずっと芳根ちゃんなんですよ。何をするにしてもそれが全部「ああ、りかのすることだな」って見える。お芝居をしながらそういうふうに感じましたね。
南波 本当に、おふたりともイメージに合ってました。芳根さんの写真をネットで検索していたら1枚「絶対にこの子!」って思った写真があったので、選ばせてもらったんです。芳根さんは超絶美少女ですけど、りかみたいな普通の子のフリもできそうな子だな、って思いました。
芳根 私も入り込んじゃうところがあるので、りかと遠くないなと思いました。でもこんなに積極的になれないな、と。一途ではあるけど「みの先輩、なんでこんなにわがままな子を選んだんだろう。葵先輩のほうがいいじゃん」って思われたら、それは違うなと思いましたし。先輩をビンタするとか、そういうのもいきすぎないようにしなきゃと。
南波 ですよね。マンガで描いたときも賛否両論あったところではあるんですよ。「ビンタとか、何このヒロイン、性格悪すぎじゃない?」って(笑)。
芳根 (笑)「ビンタしちゃってもしょうがない」って見えないといけないのかなと思いました。イヤな女の子になりたくなかったので、ちゃんと応援してもらえる子になろうと。りかは憎めない、愛されキャラだと思うので。
南波 そのあたりを汲んでくれてうれしいですね。映画にはなかったんですけど、原作にりかが葵の椅子を蹴飛ばすシーンがあって。読者さんにも編集さんにもいろいろ言われましたけど、「新しいパターンだね」ってお褒めの意見もいただいたので、「やった!」って思いました。実際やらないにしても、思うことはあるよね、と。大げさな表現かもしれないけど、思い切って描いてしまえって。
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- 特別版 [DVD2枚組] / 6480円 / PCBG-52567
- 通常版 [DVD] / 4104円 / PCBG-52568
DISC 1
本編103分
DISC 2(特別版付属)
特典映像 約70分
- キャスト座談会
- メイキング映像完全版
- 初日舞台挨拶・完成披露上映会ハイライトほか収録予定
特別版仕様
- パッケージ:三方背ケース 南波あつこ描き下ろしイラスト使用の豪華デジパック仕様
- 36Pブックレット(未公開取り下ろし写真掲載・解説・秘蔵写真集・メイキング写真集)
キャスト / スタッフ
出演:志尊淳、芳根京子、小島梨里杏、戸塚純貴、水谷果穂、渡辺真起子 ほか
原作:南波あつこ『先輩と彼女』(講談社「別冊フレンド」刊)
脚本:和田清人
監督:池田千尋
音楽:茂野雅道
主題歌:「合図」/aiko (ポニーキャニオン)
製作:「先輩と彼女」製作委員会
制作プロダクション:フラミンゴ
制作協力:ブースタープロジェクト
©2015「先輩と彼女」製作委員会 ©南波あつこ / 講談社
- 南波あつこ「先輩と彼女」 / 発売中 / 講談社
- 「先輩と彼女」 1巻 / 463円
- 「先輩と彼女」 2巻 / 463円
あらすじ
都築りか。高校1年生。野望は「甘い恋」。
だけど好きになったのは他の女の人に恋をしている、みの先輩……。先輩が好き──。
たとえ、あたしではない別の人を見つめていても。初めておぼえた嫉妬と絶望。
そして先輩の選択は?
どんなにどんなに想っても届かない、甘くて苦い青春の恋物語。
あらすじ
吟蔵から誘ってくれた、2人だけで行く花火大会。差し出された手も、間近な花火も、うれしくてずっと一緒にいたくって、理緒の想いは、どうしようもなく言葉となってあふれてしまう。そしてそのとき、吟蔵は──!? 青春よりも熱く高まる、「運命の夏恋」ストーリー第5巻!!
南波あつこ(ナンバアツコ)
9月28日生まれ。O型。「バランス」で第16回別冊フレンド新人まんが大賞佳作を受賞してデビュー。2012年に「スプラウト」がドラマ化、2015年に「先輩と彼女」が実写映画化された。そのほか代表作に「隣のあたし」、別冊フレンド(講談社)にて連載中の「青Ao-Natsu夏」など。
志尊淳(シソンジュン)
1995年3月5日生まれ。東京都出身。2014年、「烈車戦隊トッキュウジャー」にて主演のライト/トッキュウ1号役を務める。2015年にはドラマ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「表参道高校合唱部!」「5→9~私に恋したお坊さん~」に出演したほか、映画「先輩と彼女」に主演。
芳根京子(ヨシネキョウコ)
1997年2月28日生まれ、東京都出身。2013年、ドラマ「ラスト♡シンデレラ」にて女優デビュー。その後NHK連続テレビ小説「花子とアン」、映画「幕が上がる」などに出演し、ドラマ初主演作「表参道高校合唱部!」の香川真琴役で注目を集める。