宇垣美里が語る アニメ「さらざんまい」|幾原邦彦が贈る“つながり”と“欲望”の物語を、宇垣美里はどう観たか(ネタバレ注意)

4月から6月にかけて全11話が放送されたTVアニメ「さらざんまい」。「少女革命ウテナ」「輪るピングドラム」「ユリ熊嵐」と独自の作風を貫いてきた幾原邦彦監督の最新作は、一稀(かずき)、悠(とおい)、燕太(えんた)という中学生男子3人を軸に、人の“つながり”、そして“欲望”を描いた作品だ。幾原監督ならではの映像美はもちろん、ちりばめられた意味深なモチーフの数々、秘密が次々に“漏洩”していくスリリングな展開、Twitterを活用したリアルタイムでの仕掛けなど、男女問わずアニメファンの話題をさらった本作。コミックナタリーでは大のアニメ好きで知られ、「少女革命ウテナ」をフェイバリットに挙げるアナウンサー・宇垣美里に、幾原作品との出会いや「さらざんまい」から受け取ったメッセージについて、彼女なりの思いを語ってもらった。

取材・文 / 柳川春香 撮影 / ヨシダヤスシ

※本文には最終回までのネタバレを含みます。

幾原監督の印象は「シュっとしてる!」

宇垣美里

──宇垣さんがアニメ好きということはもはや説明不要かと思うのですが、インタビューなどでよく幾原邦彦監督の「少女革命ウテナ」を好きな作品に挙げていらっしゃいますよね。

はい。もともと「美少女戦士セーラームーン」とか「カードキャプターさくら」のような女の子が戦うアニメが子供の頃から好きだったんですが、大学生のときにアニメ好きの友人から「きっと『ウテナ』好きだと思うよ」って教えてもらったのがきっかけでした。

──初めて「ウテナ」を観たときの感想って覚えていらっしゃいますか?

やっぱり最初に観たときは「なんなんだろう、これは?」って思いましたね。いわゆる“お耽美”な雰囲気で、世界観も独特で、すごく好きなんだけど、どうして好きなのか、どこがどう好きなのか、なんて説明していいかわからない……みたいな。

──それでも今に至るまでフェイバリットとして挙げられるくらい心に残る作品になったのは、なぜなのでしょうか。

宇垣美里

それまでは戦う女の子を描いた作品でも、「王子様とお姫様」の構図はなかなか崩れなかったと思うんですが、「別に王子様なんていらないし、自分が王子様になればいい」って考え方を提示してもらったのは、自分にとって大きな発見だったと思います。幾原監督の作品は全作観ているのですが、「さらざんまい」だったら“つながり”であったり、過去の作品でもかつて実際に起きた事件を思わせるような描写があったり、社会的な要素を反映していることが多いと思っていて、そうやって現実とリンクして観られるところも好きな理由の1つですね。

──宇垣さんはお仕事で幾原監督とご一緒されたこともあるんですよね。実際にお会いしてみて、どんな印象の方でしたか?

これまでお仕事で何人かアニメ監督の方にお会いしているんですが、けっこう作品の雰囲気と似ていらっしゃることが多くて。幾原監督はお会いする前に、アニメ関係者の方から「幾原監督は絵と同じでシュっとしてる!」ってお話を聞いたことがあって、そのときは「どういうことだろう?」と思ったんですけど、実際会ったら本当に「シュっとしてる!」と思いました(笑)。

玲央と真武の関係に胸が苦しくなった

──そんな幾原監督の最新作である「さらざんまい」ですが、まずは最終回までご覧になっての率直な感想を聞かせてください。

すごく面白かったです! 「つながりたい」というのは今のSNSの状況なども踏まえたすごく身近な話題ですし、でも“つながり”がないと生きていけないというのは、人間の普遍的な性質でもあって。幾原監督はわかりやすい結末をあんまり描かれないイメージでしたし、こちらに委ねるというか、「どういうことだったんだろう」って考えさせるところが好きな部分でもあるんですが、今回はわかりやすく面白かったなあって思います。

──でも1話を観たとき、「わけわからん!」ってなりませんでしたか?

尻子玉を抜くシーンとか、カッパに変身するシーンとか、「ハテ?」ってなりますよね(笑)。でもそれはもう、そういうものだと思っているので。「輪るピングドラム」とかも、1話目だけでは意味がわからなかったじゃないですか。最初から3話、4話くらいまでは観ないと何もわからないよね、という気持ちで観ていました。

──確かに、幾原ファンにとってはいつものことですよね(笑)。「さらざんまい」では一稀をはじめ、キャラクターそれぞれの抱える“秘密”が次々に暴かれていきましたが、特に印象に残った“秘密”はありましたか?

「さらざんまい」第5話より。アイドル・吾妻サラになりきって弟の春河とメッセージをやり取りしていた一稀。しかし吾妻サラの握手会に春河が出かけた際、その秘密がバレてしまう。

印象に残ったというか、「ああ、そうだなあ……」と思ったのは、一稀が吾妻サラになりきっていたことが春河にバレてしまった5話。悠が一稀に言う「加害者なんだよお前は」ってセリフですね。一稀は弟のためだと思っていたかもしれないけど、それって結局自分のためだったんじゃないのか、ということを突き付けられる言葉ですが、それって誰しも経験があることなんじゃないかと思いますし、観ている自分も胸が痛かったです。

──1話で一稀がサラの姿に女装していること自体は明らかにされるものの、序盤ではまだ「弟のために女装している、いいお兄ちゃんなんだな」って思わされていて。そこからさらに一稀の秘密が暴かれていきましたよね。

一稀も燕太も悠も、みんな抱えているものが重すぎですよね。燕太が一稀への恋愛感情を隠していたのは、同性だからというよりも、一稀との関係を維持するために隠さざるを得なかったんだろうなと思います。悠は見るからに闇を背負っているというか、3人の抱える秘密の中でも、殺人というのはやっぱりレベルが違うじゃないですか。すごく切実な生き方をしていて、ついつい目で追ってしまいました。あとは10話で描かれた玲央と真武の関係性には、もう「レオマブ……!」ってなりましたね……。

──10話はすごかったですね……。宮野真守さんと細谷佳正さんの演技も圧巻でした。

「僕は、僕の大切なものを諦めない!」って立ち向かってくる一稀に、「どいつもこいつもイラつかせやがって……!」って玲央が言うじゃないですか。あのときの玲央は、自分だって「諦めない」って言いたかったけど、もう言えない、それが綺麗事だってこともわかってて、でもうらやましい……みたいなごちゃごちゃした感情が、演技や表情の描き方からすごく伝わってきて。「はあ、苦しい……」ってなりました。

──玲央と真武だけでもう1本アニメが作れるんじゃないかっていうくらいのドラマがありました。

一稀たちから見ると玲央と真武は、自分たちの前に立ちはだかる敵のような存在ですが、2人にも守りたいものがあるというのがちゃんと描かれているんですよね。幾原監督は敵キャラにも愛があるというか、彼らには彼らの思いがある、ということをよく描かれている気がします。そこも幾原監督の作品の好きなところですね。

目を皿のようにして観ないともったいない!

──そんなシリアスなテーマが描かれる一方で、コメディ的な要素もけっこう多かったですよね。

宇垣美里

そうですね。おかげでとっつきやすくなっていたように思います。毎回出てくるカパゾンビの欲望がいちいちくだらなくて、断罪する気にもならないところがよかったです(笑)。あとは玲央と真武がカパゾンビに合わせて毎回口上を言うじゃないですか。

──「そいつは、俺らがやったのさ」「それは昨日のことなのさ」ってフレーズが、カパゾンビにあわせて微妙にアレンジされるんですよね。

あれも「今日はなんて言うんだろうな」って楽しみにしてました。「さらざんまい」を観ている友達同士で真似して使ったりもして。玲央と真武のダンスや、監督らしいピクトグラムの使い方など、キャッチーな要素もたくさんあったと思います。

──今回は歌もふんだんに盛り込まれていたり、ビジュアルもカラフルで明るい印象でしたしね。

3人のカッパ姿もかわいいですよね。あとは浅草が舞台なので、見知った場所がたくさん出てくるんです。「輪るピングドラム」は丸ノ内線沿線が舞台でしたけど、その頃はまだ家の近所と赤坂くらいしか詳しくなくて。浅草は仕事で行ったことも遊びに行ったこともあるので、「このシーンはあそこだ」ってわかることが多くて楽しかったです。

──こうして振り返ると、全11話とは思えないくらい情報量が多かったなあと思います。

話の筋だけじゃなくてちょっとした描写とかにもいろんな伏線があったりするので、本当に目を皿のようにして見ないともったいなくて。「あれもこれも見逃すわけにはいかない!」と思わせる、その情報量の多さも幾原監督ならではだと思います。