劇場アニメ「囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather」特集 新垣樽助(矢代役)×羽多野渉(百目鬼役)対談|ドラマCDから演じて7年、作品を知り尽くした役者2人が語り合う劇場版の魅力

矢代や百目鬼のように、みんなそれぞれ傷を抱えている

──「囀る」は、一見女性にはとっつきにくそうなハードでノワールな世界観にもかかわらず、長年にわたり多くのファンを魅了している作品です。おふたりから見た作品の魅力や、ファンに愛される理由について、それぞれの見解をお聞きしたいです。

新垣 矢代と百目鬼をはじめとして、出てくるキャラクターみんながそれぞれ傷を抱えていたり、傷を感じさせるような何かを持っている人たちなんですよね。僕自身、原作を初めて読んだときにそこに惹かれて、いろんな面がある矢代という人物を演じてみたいと思った。だから、読者の皆さんやドラマCDを聞いてくださっている皆さんも、きっと僕と同じようなことを感じているんじゃないかなと。なので、現代に生きる人たちは、みんなそれぞれ傷を抱えているんだなと思います。

「囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather」より。

──そして、傷があるのは普通のことで、それでいいんだなと思わせてくれる作品でもありますよね。

新垣 そう。それが普通だし、その中で器用なようで不器用に生きている矢代には、みんなどこかシンクロする部分があるのかもしれない。もちろんヤクザの世界を描いているので日常とは違う世界観ですが、そんな矢代をはじめとする人たちのことを、「切ない」とか「かわいそう」、「愛しい」という思いで眺めているのだと思います。

──本当に切ない作品ですよね。ほかの作品でもそうですが、ヨネダ先生は傷を抱えて生きる人を非常に魅力的に描く作家さんだと感じます。羽多野さんはいかがですか?

羽多野 ドラマCD化する前から、原作もとても話題になっていましたし、だからこそ役者陣も覚悟を持って取り組ませていただいています。そのうえで、原作に触れたときに僕がこの作品に関わりたいと強く思ったのは、「囀る」という作品が、記号化されてないキャラクターたちのヒューマンドラマであるということが大きかったです。「このキャラはこの展開のために登場した」みたいなことではなくて、どのキャラに注目しても立体的でリアリティがあり、奥が深い。特に矢代というキャラはいろんな面を見ることができて、「それがすなわち人間だ」と新垣さんがおっしゃっていることに、僕もすごく共感します。

──なるほど。

羽多野 だから、「囀る」を読んでいるとどんどんその世界に引き込まれたり、「そうだよね、そうなるよね」と感じたり、自分とシンクロしたりするのかなと思います。

──ヤクザの世界が舞台で、一見自分とは関係ない人たちの話に思えるのに、読んでいくと自分のことのように感じられるという巧みさも魅力ですよね。

羽多野 そうだと思います。引き込まれちゃいますよね。

百目鬼の矢代への愛が詰まった、影山とのシーン

──ドラマCDに引き続き劇場アニメでも、矢代の友人で医者の影山と、チンピラの久我がさまざまなシーンに登場して存在感を放っています。この2人のキャラとの絡みについて、印象的なエピソードがあれば教えてください。

新垣 影山に関しては、矢代の人間性を作るうえですごく重要なキャラクターです。さっき羽多野くんが言っていたように、アニメーションがついている中での影山は、ドラマCDのときとちょっと違っていて。影山もしゃべる言葉は少ないのですが、姿が視覚的にも見えることによって説得力が増すというか、「矢代は彼に惚れてたんだな」とさらに感じられるようになったなと思いました。だから、劇場版になって自分が演じるうえでよかった点の1つは、人間関係、つまり人間同士の距離感が図りやすくなったことですね。

──より立体的に見えるようになったと。

「囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather」より。

新垣 もちろんドラマCDでも、小野(友樹)くんの芝居によって、久我が登場するときの狂犬ぶりが音でもわかるんです。でもそこに絵がつくことによって、さらにえげつない狂犬ぶりになってました(笑)。今回の収録のとき、乱闘というより久我が一方的に攻撃しているシーンの段取りを音響監督さんが指示出ししていたんです。具体的には「久我はここで1回男Aを殴って、男Bに蹴りを入れます。その後もう1回Aに向かって蹴りを入れ続けていると、男Bが立ち上がる。だけどそこでまた男Bを蹴ります」みたいな(笑)。それを聞くにつれ、「えげつないな、こいつ」と(笑)。相手を殺しかねない激しさがさらに加わっていて、すごく面白かったですね。知ってるシーンでしたが、新鮮でした。

──久我が、劇場版ではより手がつけられないキャラクターに(笑)。

新垣 はい、映像がつくとまた雰囲気が全然違うなと思いました。すごく観ていただきたいシーンですね。

──夜の雑多な繁華街でのケンカのシーンですが、マンガでは光の描写もきれいなので、アニメでどう描かれるのが楽しみです。

羽多野 ぜひ楽しみにしてください。今回百目鬼も影山と絡むシーンがあるんですが、実は、僕はそこが印象的なんですよね。

新垣 2人で飲んでいるシーンだっけ。

「囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather」ティザーPVより。

羽多野 そうです。百目鬼は人と距離を置いてしまう性格なのに、影山とは積極的に話すんですね。なぜかというと、影山は自分の知らない頭(かしら。矢代のこと)を知っているわけです。百目鬼は頭に近づきたい、考えていることや過去を知りたい。それを頭には言えないんだけど、影山を通して頭への思いがどんどん強くなっているのがわかるシーンだと思います。

──聞いているだけでニヤニヤしてしまいます(笑)。百目鬼の秘めた熱い思いが伝わるシーンですね。

羽多野 (笑)。影山のほうも「おいおい、こいつ前のめりで聞いてくるな!」と感じるシーンでもあって。安元(洋貴)くんとも掛け合いで録っていて面白かったところですね。

矢代という、バランスを大きく崩した人間を演じ続けている

──矢代と百目鬼は、まったく対照的な人間のようでいて、実は深刻な「傷」を抱えて生きている、という共通点があります。過去のトラウマを抱えながら取り繕って生きる、ヨネダ先生の言い方だと“めんどくさい”2人ですが、だからこその人間臭い愛しさがあるように思います。おふたりが感じる、矢代・百目鬼カップルの関係性の魅力について教えてください。

新垣 矢代は人に触れたいけど、触れるのが怖い人だと思うんですよね。触れたい気持ちがあるけど、触れたら自分が傷つくことと、相手を傷つけてしまうことを極度に恐れている。だから距離をとったほうが楽、というのがベースにあります。影山との関係においても長年距離を取り続けてきてしまっているので、影山を思い続ければ続けるほど、その距離を保つことしかできないと思うんです。

──なるほど……!

「囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather」より。

新垣 だけどそこへ、心の準備もできていない矢代の目の前に百目鬼が現れたことで、頭の中で距離の図り方を整理するより前に、どんどん心が、気持ちが彼に惹かれていってしまう。今まで自分の中でバランスを保っていた部分が崩れてしまう──多分、その過程が魅力的なんだと思います。僕も矢代については、バランスを大きく崩している人間をずっと演じているという感覚があります。この7年、「こうしてさえいれば、俺もあなたも大丈夫」と思っていたことがそうではなくなり、矢代がどんどんグラグラしていくさまを演じてきて、そのグラグラっぷりが魅力なのかなと思います。

羽多野 新垣さんは、それをお芝居で表現しているのがすごいですよね……!

新垣 いや難しいよ、本当に。

──矢代は、自分の中の柔らかい部分を絶対に触れさせたくないし、知られたくない。だからこそ饒舌で、人に傷つけられないさまを必死に演じているような痛々しさが、これまでの新垣さんの演技で伝わってきます。

新垣 伝わっていてよかったです。

──羽多野さんはいかがですか?

羽多野 僕は最初、BLなのに百目鬼が“勃たない”キャラって言われたときに、本当にすべての武器を失ったような絶望の中で(笑)、どう演技しようという悩みがありました。でも百目鬼のことを知っていくと、頭と出会うこと、つまり心から慕い、愛せる人を見つけられたことで、彼の中でどこかで止まってしまったものが再び動き出すという、すごくピュアな関係性にも思えてきました。

──なるほど。

「囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather」より。

羽多野 とことんまっすぐ演じようと思ったのは、そのピュアな部分ですね。彼は決して聡くはないので、一歩先を読んで行動するなど、うまく立ち回ることはできない。だけど心臓のように常に動き続けて、頭と寄り添っていくことを、彼の中では一番強い信念として、大事に思っているんじゃないかなと思います。愛するものに対する距離感という意味では、頭とはまったく別の生き方ではありますが、とにかく一途に忠実に、というのが百目鬼の核なんだと思います。

──百目鬼も、過去に父を殺しかけたところから成長が止まってしまったような人物なので、百目鬼と矢代という、傷を負ったふたつの心が通じ合って、化学反応が起こる物語でもありますね。

羽多野 はい。大きな罪悪感を背負って生きてきた中で頭と出会えたのは、百目鬼の人生において大きかったんだと思います。