「無職転生」の展開は読者の反応で変わった
──さて、掲載開始から13年の時を経て、現在アニメ版「Re:Monster」が放送中です。金斬さんは最初にアニメ化すると聞いたとき、どのように感じられましたか?
金斬 正直な話を言うと、表現的に大丈夫かな?と心配していました。地上波で放送できるのかな……と。これまでアニメ化の企画がなかったことも半ばグロ描写が理由だと思っていたので、とにかく心配でした。
孫の手 さまざまな人気作品がアニメ化している中で、「Re:Monster」がアニメにならないということは、おそらくグロ描写が理由だろうなとファンは考えてしまいますよね。でも、「無職転生」が大丈夫ならいつかなるんじゃないのかなと思っていましたよ。
金斬 「無職転生」は直球なグロじゃないから問題ないですよ!
──確かにそこから逃げてしまうと、「Re:Monster」らしさは失われてしまいますよね……。そのうえで、金斬さんは何かアニメスタッフにオーダーをされましたか?
金斬 上げてくださる画が素晴らしくて、あまり注文はしなかったと思います。原作小説を書いているときも、あまり声や動きのイメージを持ち合わせてはいなかったですしね。その結果、素晴らしいものに仕上げてくださって、皆さんプロだなと改めて感じました。ただ、一番好きなシーンについては、「このイメージでお願いします!」とお伝えしています。
──どのシーンですか?
金斬 ゴブ朗の後ろに生首が置かれている、第3巻の表紙イラストです。あまり生々しいのはよくないですけど、ここは外せないシーンだったので無理を言ってお願いしました。
──孫の手さんは、アニメ「Re:Monster」をご覧になってどのような印象を受けましたか?
孫の手 先ほども触れたように、原作小説は会話文のない作品なので、スタッフさんはどんな解釈もできると思うんですよ。そこをコミカライズ版と近しい方向性で再構成していくのは面白かったですね。原作で描かれていないセリフややり取りが描かれているのも、いちファンとして感慨深かったです。
金斬 原作者としても「あのシーンはこうなってたんだ!」とびっくりしました(笑)。小早川(ハルヨシ)氏のコミカライズでもオリジナル要素が描かれていましたけど、アニメでも同じようにスタッフの解釈を楽しみにしていますね。
──これから原作はさらに続いていきますが、アニメで声や動きがついたことで何か執筆に変化は起こりそうですか?
金斬 あまり変わらないかもしれません(笑)。最新の展開が、ソロ行動になっていますからね……。もうちょっとでほかのキャラクターたちも出てきますけど、それは書いてみるまでわからないです。
孫の手 あくまでアニメはアニメ、原作小説は原作小説ですしね。
──奇しくも、現在「Re:Monster」と同じく「無職転生」のTVアニメ第2期第2クールも放送中です。こちらも終盤戦に向かって、ハードな展開が繰り広げられていますね。
孫の手 「無職転生」はもともと、もうちょっとカジュアルな内容にするつもりだったんですよ。でも、主人公の行動原理を書くにつれて、読者からももっと読みたいと反応をいただいて。そこで一気にそちらへ舵を切ったんです。もしその転換点がなかったら、シルフィと結婚する展開はなかったかもしれません。エリスと別れてから、誰か女の子を引っ掛けるか……みたいな話になっていた可能性すらあります。
金斬 なるほど。それは今のほうがいいですね(笑)。
孫の手 ですよね(笑)。そしてTVアニメ第2期の今後としては、先ほど金斬さんにも触れていただいた心理描写が軸になりつつ、そろそろ衝撃的な展開が描かれます。人間関係の変化にも注目いただきつつ、最後までご覧いただけるとうれしいです。
異世界転生ものの草創期に思いを馳せて
──この対談を機に、アニメ版「Re:Monster」を第1話から観てくださる方もいらっしゃるはずです。そこで、おふたりからアニメ版のどこに注目すると、より「Re:Monster」が楽しめるのかお教えいただければと思います。
孫の手 この作品が、小説家になろうの最初期に書籍化された作品であることを念頭に置いて観てくださることが一番だと思います。「無職転生」はもちろん、モンスターに転生する「転生したらスライムだった件」も「Re:Monster」の後に投稿された作品なんですよね。なので、連綿と続く異世界転生ものの草創期にどのような作品があったのか、思いを馳せるとより楽しめると思います。
金斬 自作の紹介となると少し難しいのですが、あえて注目ポイントを挙げるとするならば食事シーンですね。ゴブ朗が食べるときの美味しそうな表現はアニメならではだと思います。そこに注目しつつ、興味を持ってくださったら原作小説にも手を出していただけるとうれしいです。第3巻まで読んでいただいて、面白いと感じてくださったらぜひ最新巻まで手に取っていただきたいですね。
孫の手 ……せっかくの対談なので伺いたいんですけど、「Re:Monster」の「Re:」ってどういう意味なんですか?
金斬 メールを返信するときに、「Re:」ってつけるじゃないですか。“返信”=“変身”と読み替えて、「Re:」をつけていました。モンスターに変身するという意味ですね。あと、フランス語だと「Re」に王様という意味があるんですけど……。これは意図せぬ一致です(笑)。
──そうだったんですね! また、いち読者として気になるのは、おふたりが書かれる今後の新作についてですが……。
孫の手 私は「オーク英雄物語 忖度列伝」が終わるまでは、そちらにかかりきりですね。金斬先生はいかがですか?
金斬 僕も「Re:Monster」が終わるまでは……。今でもいくつかアイデアは思いついているんですけどね。現代ダンジョンものをやりたいなと。ダンジョンの中でモンスターの素材処理はどうするのか、法律をどう考えるのかとか……。
孫の手 それ、読みたいです! ぜひ書いてください。
金斬 がんばります(笑)。
プロフィール
金斬児狐(カネキルコギツネ)
小説投稿サイト・小説家になろうに2009年に投稿を開始。「Re:Creator -造物主な俺と勇者な彼女-」を発表後、次作「Re:Monster」が2012年にアルファポリスより書籍化されデビュー。同作はシリーズ合計15巻まで刊行されており、2024年4月にTVアニメ化を果たした。四国在住。
理不尽な孫の手(リフジンナマゴノテ)
小説投稿サイト・小説家になろうに投稿していた「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~」がKADOKAWAのMFブックスより2014年に書籍化され、デビュー。同作は2021年にアニメ化を果たし、現在は第2期第2クールが放送中。「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~」が全26巻で完結後、2023年には「無職転生 ~蛇足編~」が刊行されている。