朝の3時に起きて絵を描いてます
──ちなみに橘さんは昔から絵を描くのがお好きだったんですか?
子供のときから絵を描くのは好きでした。小学6年生の頃にマンガを描き始めたりもしたんですけど、部活に夢中になってからは描かなくなって。ハタチのときに2次創作を始めるようになり、同人誌ではありますが、マンガをちゃんと描くようになったのは3年前からです。
──小学生からハタチまで、結構時間が空きましたね。
そうなんです。小中高はずっとバスケに熱中してました。親曰く、小さい頃から何か1つに夢中になるとそれだけになっちゃうらしく(笑)。子供を産んで仕事を辞めてからは、中途半端に時間ができてしまって。何か家でできる気晴らしがないかなと思ったときに絵に戻ったんです。そこから独学でマンガの描き方を勉強しつつ、コミケとかで同人誌を出すようになって。楽しくやっていた頃に今の担当さんから声をかけていただきました。
──それがマンガワンの編集さんで。
担当編集 最初にオレコさんにお声がけしたときは、2次創作やオリジナルの作品を個人で発表されていて、まだ商業誌経験がないとのことだったので、まずはマンガワンで読み切りを描いていただいたんです(「主任様と新人くん」)。その作品への反響も大きかったので、「じゃあ次は連載もやってみよう!」と。連載の企画を始めようと思ったのは、読者からの反響が大きかったのはもちろんなんですが、オレコさん自身がとにかく勢いのある方で。週に何本もプロットやネームを送ってくださったんですよ。
あはは(笑)。
担当編集 新人さんって、密にやり取りをしていかないと、関係性が築けないままいつのまにか連絡が来なくなったりすることも多いんです。でもオレコさんからはどんどん連絡が来ていたので、私も「返さないと」と思ってるうちに毎日やり取りをする関係になって。私ももともと体育会系気質だったので、ガンガン連絡が来ることがうれしくて、しっかりとコミュニケーションを取ることができていったと思います。
──すごくいい関係性ですね。橘さんは描くのが速いほうなんですか?
ほかの方がどれくらいのものなのかわからないんですけど……。
担当編集 たぶんめちゃくちゃ速いと思います。
そうなんですかね。自分では描きながらいつも「遅いな」って思うんですけど。きっとちょっとした空き時間でも何か描きたくなっちゃうから、隙間の時間を有効的に使えてるのかもしれないですね。
──お子さんもまだ小さいということで、大変な時期だと思うんですが、育児や家事をしながらいつマンガを描いてるんですか?
目覚めてすぐが一番頭が冴えているというか、吸収もアウトプットもしやすい気がするので、朝は3時に起きて……。
──3時はまだ夜な気がします(笑)。
そこから8時ぐらいまで絵を描いて。朝のいろいろを済ませたあと娘を幼稚園まで送って、帰ってきて、また娘を迎えに行く14時くらいまで絵を描いて。迎えに行ったあとも調子がいいときは家でお昼寝してくれるので、その間にまた絵が描けるという感じですね。
──すごくハードスケジュールじゃないですか?
いや、全然。ぎゅうぎゅうに詰め込みたいタイプなんですかね(笑)。変な話、それが苦にならないくらい描くことが気持ちいいというか。
──マンガも描きながらお家のこともやってるわけで。正直疲れるでしょうし、朝起きるのつらくないですか?
興奮状態になってるからか、早起きする生活を始めてここ3年くらいは朝が苦痛だと思ったことがないんですよね。
──へええ!
もちろん、普通に仕事をしていたときは「朝起きるの嫌だな」って思うこともあったんですけど、今は描くことが楽しいので。やることがたくさんあるのも大事というか、ゆっくりする時間がないほど忙しいのはありがたいと思いますし。今はとにかく楽しいんです。描いていて「なんでうまくいかないんだろう」って悩むこともあるけど、描くことが自体が本当に好きなんですよね。仕事っていう感じがまったくなくて。仕事である以上嫌なこともゼロではないんですけど、それでも絵を描いて生活させてもらってると思うとありがたいっていうか、逆に申し訳ないっていう気持ちになるくらいで(笑)。
描きたい気持ちが止められなくて……
担当編集 オレコさんと仕事をしていてびっくりしたのが、「プロミス・シンデレラ」の連載が始まる前に、何話分かネームを溜めてもらっていたときがあって、「そろそろ原稿作業に入りますか?」って話をしたら「もう3話まで描きました」と言われたことがあって。そのときは思わず「えーっ!?」って驚きました(笑)。
いや、さすがにこれは怒られるかなと思ってたんですよ(笑)。ネームに修正が入る可能性もあるのにこんなに勝手に描いてたらヤバいかなって。今思うとあれはやっちゃいけないことだったなと思います。そのときもダメだとはわかってたんです。わかってたんですけど、描きたい気持ちが止められなくて……(笑)。
担当編集 そのときは本当にすごいなって思いました。3話分というのはだいたい100ページぐらいなんですが、さすがにその量を先に描いちゃいましたっていう作家さんには初めてお会いしたので。よっぽど描きたかったんだなと思って、逆にこんなに待たせてしまってすみませんと……(笑)。
いやいやいや! こちらこそすみません、本当に。
──どこからそんなに“描きたい”という気持ちが沸き上がってきてるんでしょう?
それもわからないんですけど、とにかく楽しいんですよね。細かい話なんですけど、特にペン入れが楽しくて。なんか興奮するんです(笑)。
──描いてるうちにアドレナリンが出てくるような。
別にスケベなシーンを描いてるわけではないんですよ。描いているのはなんでもない普通の日常シーンなのに、ペンを走らせる感覚が楽しくて。一度そのモードに入ると周りが見えなくなっちゃうというか。お迎えの時間が迫ると「ちょっと待って、ここまでやらせて!」と思いながら描いていて。逆にそういう制限があって助かってるかもしれません(笑)。
──ちゃんと寝てますか?
5~6時間ぐらいは寝ようと思ってます。前にどこまでいけるかなって、午前1時起きまでチャレンジしたことがあったんですけど、さすがに眠くなっちゃって(笑)。もちろん描くばっかりじゃなく、参考書を読んだり、それこそ映画やドラマをたくさん観たり、本を読んだりしてインプットする作業もしていかないと成長しないと思っているんですが……。
──だけど、ちょっとでも時間があるんだったら描きたいという気持ちになってしまう?
一度「描きたい!」って思うと、スッキリしなくて、夜も眠れないみたいな状態になっちゃうんですよね(笑)。
共感してもらえると仲間が増えたみたいでうれしい
──「プロミス・シンデレラ」に限らず、橘さんのイラストやマンガはどれも大きな反響があります。「スーツ男子のここが好き」というイラストや、「手が性癖」と書かれているイラストなどもありましたが、橘さんは絵を描くうえでどういったこだわりを持っていますか?
まだまだだね、お前も pic.twitter.com/8GdWunMmJ8
— 橘オレコ@1巻6/12発売 (@oreco730) 2018年4月20日
男女を描くときは体格差を一番に意識して描いています。男性だったら関節とか骨ばった部分を強調して描きたいと思いますし、女性だったらある程度肉付きのいい体型を描こうと思ってます。学生のときは細い子に憧れもありましたけど、今はあまり魅力を感じなくなったところもあって。男性と差を出すためにも肉感的に描けるように意識はしてますね。あとはマンガを描くときもそうですが、“動き出しそう”なイメージというのは常に持つようにしています。
──ご自身の萌えやフェチみたいなものは絵に反映されていると思いますか?
そうですね……そうなのかもしれないです。それこそさっき言ったような男女の体の描き方も、見てくださってる方に「ここいい! 好き!」って共感してもらえると、仲間が増えたみたいですごくうれしいです(笑)。
──キュンとさせるシチュエーションを描かれるのもすごく上手だと思うんですが、そういったものはすぐ思いつくものなんでしょうか。
いや、私は「何か描きたいなあ」と思って、そこからなんでもいいからってむりやり考える感じですね。
──あっ、そういう感じなんですね。「こういうイラストが描きたい」とペンを握るわけではなく。
シチュエーションを思いつくよりも何か描きたい気持ちが先にくるというか、「そろそろ描かないとマズい!」みたいな感じで(笑)。
──禁断症状のような(笑)。
そうそう(笑)。あとは普段の生活の中で「こういうシチュエーションの絵を描こう」と思って携帯にメモっておいたりもしていますね。で、「この興奮をしずめるために何か1枚描かなきゃ!」ってなったときに、そこから「今回はこれで!」とネタを選んで描くみたいな。ネタを常備しておく必要があるんです。
──なんというか……症状を抑えるための常備薬みたいな感じですね(笑)。
あはは(笑)。そうなんですよね、薬みたい。自分でもヤバいってわかってるんですけど、どうしても描かないとしずまらないときがあって。そのときは描いて発散している感じですね。あんまりTwitterに絵を上げすぎても引かれるんじゃないかって思ってるんですけど……。
──いやいや、きっと皆さん、橘さんの投稿を楽しみにされていると思いますよ。
そうですかね。そうであれば今後も発散させてもらえればと思います(笑)。
- 橘オレコ「プロミス・シンデレラ①」
- 2018年6月12日発売 / 小学館
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コミックス 596円
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Kindle版(単話配信)
各108円
つつましく、平穏な暮らしを送る専業主婦の早梅。
しかし、突如旦那に不倫され離婚、スリにあい路上生活を余儀なくされる。
受難の続く彼女の前に現れたのは、性格の悪そうな金持ちの男子高生・壱成。
この男との出会いが早梅の人生を一変させる……。
“人生”に必要なのは愛か、金か、それとも運か──!?
銭が紡ぐ、アラサー女子と男子高校性の“リアル人生ゲーム”が始まる!!
- 「#バツイチアラサー女子と男子高校生」
pixivコミックでスピンオフ連載「#バツイチアラサー女子と男子高校生」が連載中! 本編から半年後の物語が壱成視点で描かれる。
- 橘オレコ(タチバナオレコ)
- 2017年、小学館のマンガワンに掲載された読み切り「主任様と新人くん」で商業デビュー。2018年1月1日よりマンガワンと裏サンデーにて「プロミス・シンデレラ」を連載中。6月からはpixivコミックにて同作のスピンオフとなる「#バツイチアラサー女子と男子高校生」の連載をスタートさせた。