初代ウルトラマンは「正義のヒーロー」というより「宇宙人」
──例えばターボババアやセルポ星人の発言もそうですが、「ダンダダン」は攻めた表現も多いですよね。あれって止められたりはしないんですか?
龍 表現的には週刊少年ジャンプなどに比べれば自由度が高いと思うので……。それでもたまに編集長から「ご指摘」をいただいたりはします(笑)。ただ、そこに気を使って作品が中途半端な感じになるのは嫌なんです。別にエロくしたいとかおどろおどろしくしたいとかっていうわけじゃなく、自分の中のリアリティを大事にした結果、いろんなセリフや展開も生まれてくる。例えば、「このキャラクターならこういうことをしゃべるだろう」とか「こいつはこういう行動はしないだろう」っていうような部分ですね。
──「ダンダダン」の場合、オカルン、モモといった人間のキャラクターはもちろんですが、ターボババアやセルポ星人をはじめとしたオカルティックな存在もたくさん出てきます。彼女ら、彼らは人間とはまた違った生々しさがありますが、そういうキャラクターのリアリティはどう考えていくんですか?
龍 例えば宇宙人なら彼らが生まれて生きてきた文化があるはずで、そこから外れると「そんなことは言わないだろ」という感じになっちゃうと思うんです。だから、宇宙人なら宇宙人が生きてきた世界や倫理観、基準みたいなものをイメージしてそこからズレないようにはしています。
──ジャンプ+で連載企画を考えていたときも、かなりアイディアスケッチを描いたり、作り込んだりして、たくさん準備作品を練ったそうですね。設定を考えるのはお好きなんですか?
龍 そうですね。設定をひとつ考えちゃうと、芋づる式に「じゃあこうなるだろう」「ああなるだろう」というのが出てきますから。ただそれも善し悪しで、設定を考えるとそれを全部描きたくなっちゃうんですよね。でも設定の説明みたいなものをあまり入れると読みづらくなってしまう。だから、設定は考えるけどできるだけ作品内では描かないようにしています。
──ちなみにオカルト側で「これはよくできたな」って手応えを感じたキャラクターはいますか?
龍 セルポ星人ですかね。いい具合に気持ち悪い造形だなあ、と(笑)。セルポ星人は変身前の姿もモチーフがありますが、変身後はダイレクトに成田亨さんの影響を受けています。
──「ウルトラQ」や「ウルトラマン」などの宇宙人や怪獣のデザイン画を手がけた方ですね。龍さんは好きなものとしてよく成田亨さんの画集を挙げています。成田さんのデザインのどういう部分に特に惹かれているんですか?
龍 生々しいんですよね。たとえばキングジョー(「ウルトラセブン」などに登場)とか、ロボットなんですけど「これ、内臓詰まってない?」って感じるじゃないですか。
──確かに。キングジョーってロボットだけどどこか生き物っぽい感じがしますよね。あれはなんなんでしょうね。
龍 うーん、例えば胸の複眼っぽいところとかですかねえ? それとやっぱり全体のフォルムもちょっと気持ち悪いんですよね。あと、デザインとはまたちょっと別の話ですけど、ウルトラマンってけっこう湾岸とか海で戦うんですよね。小さいときにそこで濡れて戦う姿を観たとき、「うわ! 生々しい!」って思ったのを覚えています。そういう作品イメージも大きいのかもしれません。
──言われてみると海で戦っているイメージがありますね、ウルトラマン。
龍 あと、怪獣を引きちぎったりするんですよね。その引きちぎられる姿なんかも生々しさを感じました。
──ヒーローってあんまり敵を引きちぎらないですよね(笑)。
龍 そういうのを見ても、やっぱり初代ウルトラマンってわかりやすい「正義のヒーロー」というより「宇宙人」なんですよね。そこがいい。
──ちなみに成田さんがデザインした怪獣などで一番のお気に入りは?
龍 やっぱりバルタン星人になりますね。カッコいいです。
藤本タツキや賀来ゆうじと話す“マジ感”
──シーンとして描いていて楽しかった場面はありますか?
龍 カニの鬼ごっこですね。陸橋を越えたりしながら、街中で鬼ごっこをさせてみたいと思っていたんです。「YAMAKASI」っていうパルクールを題材にした映画が好きで。身体ひとつでパリ市街の建物の壁や屋根を駆け抜けていくんですが、それがカッコいいんですよね。そういうものを描きたいなと思ったんです。
──アクションシーンも大きな見どころですが、モモとオカルンのラブコメも本作の軸のひとつです。この2人の関係を描くうえで意識しているところはありますか?
龍 モモとオカルンをかわいく描こうというのは思っています。
──オカルンも「かわいく」なんですね。確かにあたふたするオカルンはかわいいです。話は変わりますが龍さんは藤本タツキさんや賀来ゆうじさんのアシスタントもやっていたそうですね。おふたりとはどんな話をしていましたか?
龍 藤本くんもゆうじさんも人間的に考え方がすごく特殊というか、いいなと思っていて。細かいことで言うとキャラクターの“マジ感”みたいな話はよくしていました。さっきも話題に出ましたが、「こいつはこの服着ないだろう」とか「こういうこと言わないだろう」みたいな、キャラクターの実在感に関わる部分ですね。
──龍さんや藤本さん、賀来さんというとすごい絵を描く作家さんたちというイメージもあるんですが、あまり絵の話はしなかったんですね。
龍 完全にそうですね。絵の話とかあまりしないです。僕も絵の話って聞かれたらするけど、自分からは特に話さないです。作品の構造の話とか、このセリフがどうだとかそんな話ばかりしていました。
林士平(担当編集) 飲み屋でもよく話してたよね。昔、藤本くんと賀来くんと龍さんといっしょに飲んでるときに、とあるキャラクターに食べさせるのはピザかハンバーガーかみたいな話で言い争いになって(笑)。
龍 あれは間違いなくピザなのに、ゆうじさんは頑なにハンバーガーだって。
林 藤本くんは「それだったらピザかも」「それだったらハンバーガーかも」って右左に行ってて。途中からマジでどっちでもいいなと思って聞いてた(笑)。
龍 いや、めちゃくちゃ重要ですよ!
林 もちろん面白いですけどね(笑)。そういうキャラクターの行動や感情の動きに関しては飲みながらよく話していましたね。
龍 そうですね。
──林さんとはそういうキャラクターの行動や感情の動きなどでぶつかったことはありますか?
龍 それはないですね。
林 基本的に龍さんが描きたいものを優先してもらおうと思っているし、僕が疑問に思った点は伝えると理解してもらえるので。あと、僕は龍さんが絶対に譲れないところは「じゃあもう描いちゃいましょう」というタイプなので。
龍 僕も描きたいように描いて出して、林さんの反応を見て「あ、よかった」っていうのを繰り返している感じです。楽しく描いています。
──読んでいても、楽しく描いているんだろうなというのが伝わってくる作品です。今後も楽しみにしています!
龍 ありがとうございます。がんばって描いていくので、読んで元気が出たと思ってもらえたらうれしいです。
- 龍幸伸(タツユキノブ)
- 2010年に月刊少年マガジン(講談社)にて「正義の禄号」で連載デビューを果たす。同作を2011年まで連載した後、同じく月刊少年マガジンで「FIRE BALL!」を2013年から2014年まで発表。少年ジャンプ+で2021年より連載されている「ダンダダン」は「次にくるマンガ大賞 2021」のWebマンガ部門2位、「書店員が選んだおすすめコミック2022」「出版社コミック担当が選んだおすすめコミック 2022」1位に輝いているほか、「マンガ大賞2022」にもノミネートされている。
2022年3月1日更新