TVアニメ「ノー・ガンズ・ライフ」の第1クール目がいよいよ最終回を迎える。同作の特集を連続で展開しているコミックナタリーでは、フィナーレを飾る第4弾として原作者のカラスマタスクと伊藤尚往監督による対談を実施。頭が銃という十三をアニメで描く際のポイントや、2人が考える同キャラクターの魅力、「十三役は諏訪部順一で」と希望していたというカラスマに対し、「諏訪部順一ではないのではないか」と考えていたという監督のキャスティングにまつわる裏話、そして2020年4月から放送される第2クールへの抱負などについて語ってもらった。
取材・文 / 宮津友徳 撮影 / ヨシダヤスシ
十三の顔をどうやって表現するのか
──今回のインタビューは「ノー・ガンズ・ライフ」1クール目の放送が終盤を迎える12月に公開されます。改めてとなりますが、アニメ化が決まった際のカラスマさんの感想からお伺いできますか?(取材は10月下旬に行われた)
カラスマタスク もちろんうれしかったです。ただやっぱり主人公の頭の形が特殊なので……これをアニメで動かすのは大変なんじゃないのかなって、心配していたんですけど。
伊藤尚往 まさにその通りです(笑)。僕たちも十三の顔をどうやってアニメとして表現するのかっていうところから考え始めて。キャラクターデザインを担当している筱(雅律)さんが、想像以上に原作の雰囲気を拾ってキャラクターを描いてくれましたね。
カラスマ 思った以上に原作そのままに動いていてびっくりしました。
伊藤 「ノー・ガンズ・ライフ」ではCGモデルを作画のガイド用に作成していて、そのガイドをなぞって作画を完成させるという手法を取っているんです。十三は顔が銃ということで目線がないので、画面の中に収めるときにキャラ同士のバランスも難しそうに思えるかもしれないですけど、そのCGをなぞればある程度は成立するかなという目論見もありました。
カラスマ 目線のことは僕も原作を描いていてよく言われるんですよね。僕の中ではシリンダーの穴のあたりが目くらいの感じで描いています。コマの中にその穴を入れるだけで表情があるように見えるので、そこは入れるようにしていますね。
伊藤 筱さんも穴の部分がポイントだと思っていたようで、そこは気にしてデザインしてくださったみたいです。先生は十三を描いていて難しいなって思う部分はありますか?
カラスマ 最初は単純にデッサンを取るのが難しいなとは思っていました。ただ機械的に描ける部分もあるので、なれてしまうと逆に気を使わなくて良くなってくるんです。むしろ女の子とかの表情を描くときのほうが気を使ってしまって。
伊藤 十三は直線のパーツが多いキャラですけど、基本フリーハンドで?
カラスマ むしろ定規を使うのが得意じゃないんです。
伊藤 僕も定規なしで描かないとうまくいかないほうで。筱さんは「定規を使うとシャープな感じになる」って言っていて、フリーハンドと使い分けているみたいですけど。そもそもどうして頭が銃のキャラクターを主人公にしようと思ったんですか?
カラスマ 別のマンガを作っているときに頭が銃のキャラクターがいまして。それを見た編集さんに「これで1本描いてみないか」って提案されて、読み切りを描いてみた感じですね。
伊藤 読み切りと比べると十三の体のプロポーションもだいぶ変わってますよね。
カラスマ そうですね、どんどんマッチョになっていって(笑)。初期は顔ももっと無機質というか異形の存在に見えるように描いていたんですけど、最近はキャラクター性をわかりやすく伝えられるようにというところを重視しています。
寅さんみたいなものを目指している
──監督は「ノー・ガンズ・ライフ」を最初にお読みになった際にどういった印象を持ちましたか?
伊藤 正直に言ってしまうと「ああ、また人間の顔をしていない主人公のアニメをやるんだ」とは思いましたね(笑)。もちろん全然いいんですけど、「俺のところに来る仕事、そういうのが多くなるのかな」と。
カラスマ (笑)。
──監督が長期にわたって携わっている「オーバーロード」の主人公が骸骨ですからね。
伊藤 あれも口が動かないわ、表情がないわってキャラクターなので(笑)。「ノー・ガンズ・ライフ」の作品内容に関して言うと、男の子が「カッコいい」って思うようなものがそのまま描かれているなと感じましたね。この言い方が適切かはわからないんですけど、「いろんなアニメやマンガ、小説の『カッケー』を集めて、それを結果としてオリジナルの作品として成立させている」っていう印象です。こういう世界観を作れるのはすごく魅力的だなと。
カラスマ ありがとうございます。
伊藤 この作品で描かれる「カッコよさ」って、「とにかくカッコいい」と思わせてくれるもので、理屈に裏付けられているものではないと思っているんです。だから個人的には理屈の部分をいかに外してカッコよさを描くかってところを気にしていますね。
カラスマ 頭が銃という時点で理屈なんて通らないですからね(笑)。この作品はSFハードボイルドって紹介してもらうことが多いですけど、僕としてはそこにこだわっているというわけではなくて。「男はつらいよ」の寅さんみたいなものを目指している部分があるんです。その中で物語を構成する世界観としてハードボイルドの要素を下敷きにしているというか。
伊藤 もともと寅さんみたいなことをやりたかったんですか?
カラスマ 「男はつらいよ」で描かれるようなドラマが好きなんです。
伊藤 事件に巻き込まれた男の主人公が、それを解決していくみたいな。
カラスマ そうですね。それで十三っていうキャラを生かすにはハードボイルドな世界観がしっくりくるかなと。あと頭が銃のキャラが存在できるのはSFの世界だけなので、SFやサイバーパンクの要素も足してと。
伊藤 先ほども言いましたけど、そういうのをごちゃ混ぜにした世界観がこの作品の魅力ですよね。ハードボイルド的な作品としてはどういうのが好きなんですか?
カラスマ 古典ですけどレイモンド・チャンドラーの「フィリップ・マーロウ」シリーズは好きですね。
伊藤 海外の探偵小説ですね。
カラスマ あとはサイバーパンクSFとハードボイルドをかけ合わせた作品で、ジョージ・アレック・エフィンジャーという作家の「重力が衰えるとき」という小説があるんですが、その作品は「ノー・ガンズ・ライフ」のイメージに近いと思います。
理屈を外してカッコよさを描く
──十三というキャラクターは、やはり先生が考えるカッコいい男性像を投影して描いたキャラクターになるんでしょうか。
カラスマ そうですね。こんなふうになりたいですよね。
伊藤 つらいことがあってもやせ我慢してね。
カラスマ こんなにやせ我慢できないですもんね。すぐ弱音を吐いちゃう(笑)。やせ我慢にも繋がりますが、十三って生まれ持ってカッコいい人なわけではないんですよね。カッコよく振る舞おうとした結果、カッコよく見えているという人なんです。
伊藤 先ほども理屈を外してカッコよさを描くと言いましたけど、アニメでは十三をいかにカッコよく描けるかがポイントだと思っているんです。
──監督が考える十三のカッコよさはどういう部分にあるんでしょう?
伊藤 プロポーションがすごくいいキャラクターなので、コートをなびかせて立っているだけでもめちゃくちゃカッコいいと思ってます。だから立ち姿はけっこうこだわっているつもりです。タバコを吸っているシーンとかも、その所作1つひとつがカッコいいですし。
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そのままアニメ化する必要はないですよ