「日本三國」をVTuberの加賀美ハヤトが太鼓判! あとから追うのはもったいない、今すぐ読んでほしい“ごっつ面白い”マンガ (2/2)

「このマンガ、本当にハマっていいんだぞ」って言われたような感じ

──ほかに印象に残っているエピソードはありますか?

本当にどこも好きなんですけど……。第10話で守山もりやま記室令の護衛の数や、賀来かく泰明やすあき軍師と龍門将軍がやったことの意図を、青輝とツネちゃんさんの2人が考えるシーンがありますよね。すごくすごく考えたうえで、それでも最終的に結論はわからないという。あそこまで読者も考えさせられるシーンというのを、これまでも描きたかったのかなと思っていて。それから第9話で「輪島わじま桜虎おうがは実はけっこう愚かな独裁者だよね」というようなことを、賀来軍師が言っているシーン。あそこみたいにちょっと気を抜いて読んでいると、読者が「あれ? ちょっと待って、今なんかすごいこと考えてなかった!?」と感じるシーンって、ひょっとしたらそこが松木先生の本当に描きたかったところなんじゃないかなと思ったんです。

「日本三國」2巻第9話より。©松木いっか/小学館

「日本三國」2巻第9話より。©松木いっか/小学館

──なるほど。

それと比較すると、第1話で「たいら殿器でんきをデブと言ったのは誰か?」みたいな話って、意図的に読者側にギアを合わせてくれたうえでのあの面白さだったんだなあっていうのが、第9話、第10話あたりでわかったような気がしたんです。第9話、第10話で読者が考えさせられるギアっていうのが、圧倒的にこれまでの速さと違うなと。圧倒的に高度なものにしてくるというか、それでこちらもどんどん世界にのめり込んでいける。そこで「このマンガ、本当にハマっていいんだぞ」って、ちょっと大げさかもしれないんですけど、そう言われたような感じが個人的にはしたんです。「もうここまで描いてもいいよね、もう“ごっつ面白い”と思ってくれてるよね?」みたいな。なのでそのあたりのエピソードは印象的でした。

加賀美ハヤトが見る輪島桜虎の人物像

──先ほど名前が挙がった輪島桜虎は戦略的にもギャップのある人物ですよね。民衆にお粥を食べさせて「喜んでくれてよかった……」なんて涙ぐむ一方で、本性は復讐に燃えるとても怖い女だったという。

たぶん、なんとなくですけど……桜虎さんの中では全部本当な気がするんですよ。全部が本心な気がするんです。

「日本三國」2巻第7話より。民衆にお粥を振る舞う輪島桜虎。©松木いっか/小学館

「日本三國」2巻第7話より。民衆にお粥を振る舞う輪島桜虎。©松木いっか/小学館

──あれは彼女の演出ではなく、本気でうれしかった反応だと?

彼女は自分の言ったこととか、自分が立てた大義に本気で感動できるタイプの人なのかもしれないと思ってます。結果的にそれを見ている人からしても、その反応が嘘じゃないように映るわけですよね。それで周囲の人の心を掴めているのかなと思いました。歴史的に見ても、アジテーターってそういう要素を持っている人なんじゃないのかなと思っていて。自分の言ったことに自分で感動して、だからこそ周囲も感情が動かされる。その素質みたいなものが描かれているようだなと、すごく勝手な考察なんですけど思いました。

“すごい人の次にすごい人”を描くのは難しい

──3巻までの間でも個性的なキャラクターがバンバン出てくる「日本三國」ですが、加賀美さんが特に好きな人物は誰ですか?

すごく悩むんですけど……賀来軍師がめっちゃ好きですね(笑)。“すごい人の次にすごい人”を描くのって難しいと思うんです。長嶺ながみね士遼しりょうさんとか菅生すごうごうさんとかもそうなんですけど、彼らは“すごい人の部下”なんだなってわかる。しかもバチバチの能力主義者の下につくポジションの人ってこうだよねっていうのも、作中での説得力がえぐいことになっていて。その中でも特にそのすごさを象徴しているのが賀来軍師かなと。私は参謀キャラが好きなのかもしれないですね。

「日本三國」2巻第10話より。青輝に助言する賀来軍師。©松木いっか/小学館

「日本三國」2巻第10話より。青輝に助言する賀来軍師。©松木いっか/小学館

──1巻と2巻の頭ぐらいまでは龍門のただの部下のような描かれ方をしてる賀来ですけど、読み進めていくと賀来自身もあちこちで重要視されるぐらいの強い人物だっていうのがわかってきて、そこもまた痺れますよね。

そうですよね。高速道路を登る作戦はあなたが考案したんだとか(笑)。

質量爆弾としてビルを差し上げたい

──先ほどもお話に出た登竜門でのエピソードについて聞かせてください。登竜門では龍門の膝をどんな方法でもいいから地面につけられれば合格という試験が行われましたが、加賀美さんがもし挑むとしたらどんな方法を使いますか?

これ、考えてみたんですけど、本当にD・ナイト(バコハジメのマンガ「血と灰の女王」に出てくる技)ぐらいしか思い浮かばなくて(笑)。あとは……福井郡の要衝にビルを建てて差し上げるぐらいしか思いつかない(笑)。

加賀美ハヤト

加賀美ハヤト

──「加賀美インダストリアルの力をもって本部としてご利用ください」と、正々堂々買収する(笑)。

一番いいところにビルを建てて差し上げる……っていうのしかないかなと(笑)。でも今後そういうのも増えたらちょっと面白いなって思ってるんです。というのも、マンガワンではないんですが、Webマンガで「覇記」という作品がありまして。「覇記」も日本が崩壊して、学園に集まった人々が自治権を持ってまたどこかで日本を統一しようとする、という動きがある話なんですけど。その中で、日本の国土の中で圧倒的に廃墟が多いというところから、だいぶぶっ飛んだ方法で廃墟を利用していくっていうのが、軍記ものとしても面白く描かれているんです。そういう部分で言うと「日本三國」でも我々が知っている建物の、インフラの名残を使った戦いみたいなのをやっていましたけど、それはめっちゃアツいなって思いました。

──私はそういったシーンを見て「シン・ゴジラ」の“無人在来線爆弾”を思い出しました。

ああ、そうそう(笑)。本当そうなんですよ。そういう質量爆弾として使えることも今後あるのかなあと思ったりとかして。となると、ビルってすごく強いなと(笑)。

──今後の戦いのバトルフィールドとしても提供しますよと(笑)。

みたいな感じです(笑)。

今までにはあまりなかったマンガ体験

──「日本三國」の最新刊として3巻が発売されたところですが、加賀美さんに率直に新刊のご感想をお伺いできればと思います。

個人的に、リアルタイムで読んでいたときは第14話の後半で「殿継……!」ってなったんですけど……。それはそれとして、苦肉の計を仕掛ける長尾ながお武兎惇むうとん側と菅生さんたちのあのギリギリのやり取りというか、一触即発な感じというのが、よく考えたら今までのマンガ体験としてはあんまりなかったかもしれないなと。この3巻の間にずっと漂う剣呑さみたいなものは、すごく見どころなのかなと思っています。

──3巻収録のエピソードって最初から最後まで読むと、ずっとピリピリしていますよね。

そうそう、そうなんですよね。片時も心が休まらないというか。(3巻を読みながらしみじみと)いやあ、第13話もいいですね……。攻め込んできた亜輝威あてるい相手に九頭龍城の佐藤さとう城将じょうしょうが迎え撃つところとか。この第13話があるから、より歴史ものになっている感じがあるなと思っていて。たぶん佐藤城将のような人物って、本当の歴史ものだったり、のちにこの世界で歴史書ができたりしたときに、書物には1行しか載らない人というか。そういう人の掘り下げがあるのはすごくいいなあと思っていて。そういうところでいうと第13話はめちゃくちゃ好きですね。

「日本三國」3巻第13話より。©松木いっか/小学館
「日本三國」3巻第13話より。©松木いっか/小学館

「日本三國」3巻第13話より。©松木いっか/小学館

チャイカさんは脈略なく「金沢には行かへん」って言ってきそう

──ご自身の配信でのお話や、今回のインタビューでのお話からも、加賀美さんは普段からマンガをたくさん読まれていると思うんですけど、普段読む作品はどのように選ばれているんですか?

それは本当にマンガワンの恩恵がめちゃくちゃありますね。「全巻イッキ」(マンガワンで行われているキャンペーン)からマンガを買っちゃうこともかなり多くて。曽田正人先生の「昴」とか「シャカリキ!」は全巻買って。あと最近だと「岳」「医龍-Team Medical Dragon-」とか、「オメガトライブ」とか……。そのへんの、自分がまだ守備範囲外だったところの名作を「全巻イッキ」はピックアップしてくれていて、すごく助かっています。あと「テラモリ」とか……これもまたちょっと歴史ものっていう感じですけど、「流血女神伝 ~帝国の娘~」とか。あれも面白いですよね。

加賀美ハヤト

加賀美ハヤト

──史実よりの作品だとか、伝記ものの要素があるほうがお好きなんでしょうか?

けっこうそうですね、はい。

──そうしたら「日本三國」を好きなのも納得できますね。ほかにも社築さんだったり(花畑)チャイカさんだったり、加賀美さんがマンガの話をされる仲のいいライバーさんは多くいらっしゃると思うんですけど、例えばこの人なら「日本三國」を気に入ってもらえるだろうなって方はいますか?

ええ……? (首を捻らせながら)気に入らない人がいるのかな……?

──逆に(笑)。

っていう感じですけども(笑)。特に挙げるのであれば、社築さん、チャイカさんは好きになってくれると思います。あとイブラヒムさんとかも好きでしょうね。

──チャイカさんは「日本三國」の登場人物としても違和感なさそうですよね。

出てきそうだし、たぶん「金沢には行かへん」ってなんの文脈もなく言ってきそう(笑)。「何々には行かへん」って、ハマったら配信中4回ぐらい言ってきそうなところがある(笑)。

「日本三國」3巻第12話より、龍門将軍。©松木いっか/小学館

「日本三國」3巻第12話より、龍門将軍。©松木いっか/小学館

──(笑)。このインタビューを機会に、にじさんじライバーの方にも「日本三國」が広まってくれたらうれしいです。

そうですね、個人的にも「ぜひとも!」って感じです。

歴史上で起こったであろう“愚か”なことも描かれている

──最後になりますが、改めて加賀美さんが思う「日本三國」という作品の魅力をお話しいただくとともに、加賀美さんのファンの方にもメッセージをいただけますか。

インタビューの冒頭で「傑物を描くのがうまい」という話をしたと思うんですが、それに加えて、本当に歴史上で起こったであろう“愚か”なことも描かれているんですよ。人の賢い部分と、愚かな失敗も緻密に描かれているところが素晴らしいなあと思っていて。それがあるから非常にメリハリを感じるし、双方に説得力を持たせているなと感じます。そこが個人的なこの作品の魅力です。あとはとにかくマンガ的に行なわれていることが全部高い次元にあるというか……たぶん、このマンガが10巻とか、12巻とかまで出る頃にはすごいことになっているかもしれない(笑)。

「日本三國」より三角青輝。©松木いっか/小学館

「日本三國」より三角青輝。©松木いっか/小学館

──今から楽しみですよね。

先のことはわからないんですけど、1年かけてこんなに内容の濃い3巻が出たっていうことは、来年あたりにもっとすごいことになっててもおかしくない気配がずっとしているというか。「これをあとから追うのはもったいないな」って、非常に思わされるマンガなんですよね。そしてこのマンガを作者の松木先生にとって一番いい形で続けてほしいし、完結させてほしい。いち読者として、このマンガにとってベストな形で連載と完結をしてほしいと思っています。損はさせないからぜひ皆さんにも手助けをしてほしいですね。それもファンの皆さんへの言葉にもなるのかもしれないんですけど、ファンの皆様に改めて言うとしたら、「ごっつ面白い!」です。

プロフィール

加賀美ハヤト(カガミハヤト)

加賀美インダストリアル代表取締役兼にじさんじ所属バーチャルライバー。玩具会社・加賀美インダストリアルの若き社長で、自社玩具のPRのため自らライバーとしてデビューすることを決めた。またアーティストとしてソロの楽曲を発表しているほか、剣持刀也、不破湊、甲斐田晴とともにユニット・ROF-MAOとしても活動している。