コミックナタリー PowerPush - Nemuki+

眠れぬ夜の奇妙な話、ネムキ、そしてNemuki+へ「百鬼夜行抄」今市子が自作と雑誌との出会いを語る

生き物としていちばんの恐怖は、何かに食べられること

──「百鬼夜行抄」は、原型となった「精進おとしの客」からして「妖怪が食事をする話」だと思っていて、私はフードマンガとして捉えているのですが。

はー、そっちですか(笑)。でも昔から食べ物の絡む話、好きでしたね。「ロビンソン・クルーソー」とか。魚とか干したり、ぶどう干したり、食べ物を加工する話じゃないですか。自分は料理があまり得意じゃないですけど、読むのは好きです。うちの父と姉が大食漢なんですが、姉は青嵐は自分がモデルだろうと言っていますね。青嵐が大喰らいなのは、無意識に姉が投影されているのかもしれません。

──青嵐と律の関係をはじめとして、妖怪が人間を食べたがっている描写が多いのはどうしてでしょう。

「人喰いの庭」扉ページ

昔話にそういうのが多いじゃないですか。「三匹の子やぎ」とか丸呑みにしますよね。「赤ずきんちゃん」は狼に食べられてもお腹の中で生きているとか、あれ不思議ですよね。何が怖いって究極怖いのは妖怪に食べられるってことだと思うんです。「山姥と牛飼い」も結局追いかけて来て食べられちゃうのが怖い。うーん、そうですね、西洋だと魂を奪われるのが究極の恐怖と言われていますが、わたしは特定の宗教を信仰していないので、何が怖いのかいまいちわからなくて。だから生き物としていちばんの恐怖を感じるのは何かに食べられることかなと。

──「百鬼夜行抄」で妖怪が人を食べたりするような描写のある、いちばんおすすめの怖い話はどれですか?

「人喰いの庭」とか、結構自分でも嫌かも。

どっちかが勝つような話ではなく、どっちも少しずつ負ける

──「百鬼夜行抄」は1話完結ですが、話がいつもすっきり解決されない理由を教えてください。

ああ、そうかもしれないですね。そのほうが怖いですから、やっぱり。怪奇ものは人間に罪悪感があるから描かれてきたものですから。例えば、自然破壊や動物を殺生したとかそういう。

──確かに、そういった話が多いかもしれません。

それを解決するためには、どっちかが相手を結果的に退治する形になりますよね。でも「百鬼夜行抄」では、どっちかが勝つような話ではなく、どっちも少しずつ負けるというか、そうしながら共存していく話みたいなのをやってみたかったので。やっつけて終わりみたいな、戦ってこっちが勝つという話は、ちょっと描けないなと思って。どちらかが一方的に悪いという話は昔から好きじゃなかったですね。

──10月に「百鬼夜行抄」22巻が発売予定ですが、読みどころを教えていただけますか。

直近の作品が「鬼の帰館」「一番背の高い木」「美貌の箪笥」「二つ穴」「忘れられた宴」。それに加えて、Nemuki+創刊号に掲載予定の新作、この6編が入ります。大きな流れとしては、開が戻って来た話が続きます。

22巻に収録される「二つ穴」扉ページ

──それは楽しみです。また“百鬼”のタイトルどおり、記念すべき100話目がこの秋、Nemuki+11月号に掲載予定と目前です。構想をお聞かせください。

構想があればいいんですけど本当に。どうしたらいいでしょうね? おじいちゃんの話もこの前結婚するところまでいっちゃいましたし。……うーんそうですね、やっぱり“律と開の対決”ですかね。

──頂きました! “律と開の対決”。連載の続きも楽しみにしています。

「Nemuki+(ネムキプラス)」2013年5月号/ 2013年4月10日発売 / 570円 / 朝日新聞出版
創刊号ラインナップ
  • 今市子「百鬼夜行抄」
  • 波津彬子「雨柳堂夢咄」
  • 川原由美子+伊咲こゆる「マカロンムーン」
  • 伊藤潤二「シリーズ魔の断片」
  • 榎本ナリコ「時間の歩き方」
  • 諸星大二郎「竹青」
  • 篠原烏童「1/4×1/2(R)」
  • TONO「コーラル―手のひらの海―」「しましまえぶりでぃ」
  • 岩岡ヒサエ「星が原あおまんじゅうの森」
  • かまたきみこ「王の庭」
  • 魚住かおる「当たって砕けろ!! 悪霊退散」
  • 松本英子「謎のあの店」
  • 未知庵「未知庵のきなこ体操」
  • 劇団イヌカレー「ポメロメコ」
  • 原作・花本ロミオ 画・篠原正美「―圏外―」
  • 蒔々「宵闇の空に踊る」
今市子(いまいちこ)

4月11日生まれ、富山県氷見市出身。東京女子大学文理学部卒業。森川久美らのアシスタントを経て、1993年にコミック・イマージュVOL.6(白夜書房)にて「マイ・ビューティフル・グリーンパレス」で商業誌デビュー。1995年よりネムキ(朝日ソノラマ)にて「百鬼夜行抄」の連載を開始。妖怪が見える主人公をテーマに、シリアスな話もコミカルかつユーモラスに読ませてしまう巧みな手腕で人気を博している。同作は2006年に第10回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。2002年にはドラマCD化、2003年と2006年には舞台化、2007年にはTVドラマ化されている。ボーイズラブ作品も多く、花音(芳文社)にて「あしながおじさん達の行方」や「楽園まであともうちょっと」などを連載した。また10羽以上の文鳥や十姉妹と暮らす愛鳥家であり、ペットの文鳥を描いたエッセイマンガ「文鳥様と私」も執筆している。