映画「ミュージアム」
FROGMANが語る、センスが詰まった殺人アーティスト“カエル男”
カエル男はネット社会のデフォルメ
──カエル男が起こす“私刑”は残酷で目を背けたくなるものばかりです。グロテスクな描写は大丈夫でしたか?
やっぱり「母の痛みを知りましょうの刑」が一番キツかったですね。刃物を突きつけて、ギリギリと切り裂いていくっていう。でもエグいのは割とそのシーンだけで、あと肝心なところは見せないじゃないですか。
──肝心なところというと?
死体としては出てきましたけど、カエル男が直接手を下すシーンはそこまでないというか。残酷な映画ではあるんですけど、グロテスク描写が苦手で躊躇してる人にとっては意外と観やすいかもしれない。
──単なるグロテスク映画ではない、と。カエル男も「殺人鬼じゃない、人を楽しませる芸術家(アーティスト)だ」と自称しています。
まさしくタイトルが「ミュージアム」というだけありますよね。ただこの一連の事件って、今のネット社会をちょっとデフォルメしたところもあるのかなと思ったりして。
──どういうことでしょうか?
カエル男って、潜みながらも自己顕示欲がすごく強いんですよ。よくSNSで「こんな美味しい料理を作りました」とか、「バーベキュー行ってこんなことしてきました」とかって写真をアップしてる人いるじゃないですか。そういうふうに引きのある画像を上げて「いいね!」だったりRTを得ることで、自己顕示欲や承認欲求を満たしていくっていう気持ちは誰にでもあると思うんです。その気持ちが加速すると、歪んだ自己顕示欲が起きることもあるかもなあって。今も人は殺してないにしても、おふざけで不謹慎な画像を公開して炎上してる人もいますよね。もしかしたら今後、生き物を殺してるところだったり、人を殺すところをネットにアップする人が出てくるかもしれない。
破壊してこそ再生がある
──カエル男が実際に現実に出てきてしまう可能性はある、ということですね。なんだか気持ちがどんよりしてきました……(笑)。
ずっとシリアスですもんね。でも家庭が崩壊するところから始まって、また再生していくというストーリーは、何かを犠牲にしないと何も勝ち得ないっていうことを見せつけられたような気がします。
──ラストシーンで再生の兆しが見えましたね。
例えばインドで一番愛されているヒンドゥー教のシヴァなんかは、破壊の神様ですよね。「スクラップアンドビルド」っていう言葉があるように、やっぱり破壊してこそ再生があるっていう。
──冒頭のシーンと最後のシーンの対照性にもつながります。
といいつつ、最後まで恐ろしい暗示を残していて。それは観てのお楽しみですけど、ああいう伏線の張り方は嫌いじゃないです。最後まで気を抜けなかったし、1秒だって笑いをとろうっていう姿勢が見られなかった(笑)。あの原作の実写化としてはもっともだし、すごく傑作でしたけどね。
──FROGMANさんが「ミュージアム」を撮るとしたら、やっぱり笑いがほしくなってしまうんでしょうか?(笑)
もし僕が作ったら、死体なんかにもちょっと笑いのエッセンスを加えたサスペンスコメディになっていくでしょうね(笑)。
犬男でも猫男でも、鷹男でもなくてよかった
──FROGMANさんは、カエルについてどんな印象をお持ちですか?
うーん……。カエルっていろんな見方ができるキャラクターなんですよ。実は性豪だったり酒飲みだったり、欲望の象徴みたいなところがあって。まさしくカエル男って、歪んだ欲望を振りかざして人々を殺しているんですよね。
──マスクがカエルだったことについても、さまざまな見方ができそうです。
カエルと相対した人の反応にしても、悲鳴あげるほど気持ち悪く感じて嫌いな人もいれば、グッズを集めたりするマニアもいるわけじゃないですか。ほら、カエルのイメージってちょっとユーモラスでもあるでしょ。だから“ミュージアム”という自分の作品を作るアーティストとしてカエルを君臨させたっていうのは、すごくセンスがあるなあって思いますね。これがもし犬男とか猫男、鷹男とかだったらちょっとカッコつけすぎだなって。
──カエルだからこそ魅力的なキャラクターに?
だと思います。こんなにユニークな殺人犯ができたんだったら「羊たちの沈黙」や「ハンニバル」のレクター博士みたいに、キャラクターをどんどん1人歩きさせてもいいだろうなあ。今回の映画でカエル男が起こした事件ってすごく周到だったじゃないですか。だからきっとその前にも重大な罪を犯してるはずなんですよ。
──昨年発売された新装版には、カエル男が小さかった頃の新作エピソード「未公開殺人」も収録されていましたね。でもまだまだ続編やスピンオフも読んでみたいです。
実はまだカエル男の息子がいた!とかね。タイトルは「オタマジャクシ」で(笑)。
- Blu-ray / DVD「ミュージアム」 / 発売中 / ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
- 初回仕様 Blu-ray / DVDセット / 7549円
- 通常仕様 Blu-ray / 5389円
- 通常仕様 DVD / 4309円
初回仕様収録内容
- DISC1(Blu-ray)
本編(約132分)+特報やスポットなどの映像特典(約4分) - DISC2(DVD)
本編(約132分)+特報やスポットなどの映像特典(約4分) - DISC3(DVD)
3時間を超える豪華映像特典収録(約228分)- メイキング・オブ・ミュージアム(約106分)
- インタビュー集:小栗旬、尾野真千子、野村周平、妻夫木聡、大友啓史(約46分)
- イベント映像集:ジャパンプレミア舞台挨拶&初日舞台挨拶&大ヒット御礼舞台挨拶(約29分)
- 小栗旬×大友啓史 シーンセレクション・インタビュー(約47分)
初回仕様
- 3面デジパック仕様
- アウターケース
- フォトブック(64P)
通常仕様収録内容
- DISC1(Blu-ray / DVD)
本編(約132分)+特報やスポットなどの映像特典(約4分)
監督:大友啓史
原作:巴亮介「ミュージアム」 / ヤングマガジン(講談社)
キャスト:小栗旬、尾野真千子、野村周平、丸山智己、田畑智子、市川実日子、伊武雅刀、大森南朋、松重豊、妻夫木聡ほか
©巴亮介/講談社 ©2016映画「ミュージアム」製作委員会
FROGMAN(フロッグマン)
1971年、東京都出身。映画やドラマの制作スタッフとして十数年のキャリアを積んだ後、島根県へ移住し「蛙男商会」名義で個人制作のFlashアニメを発表。エッジの効いた作風と制作手法が口コミで話題になる。2006年に地上波で放映された、「秘密結社 鷹の爪」を含む「THE FROGMAN SHOW」でブレイクした。
「鷹の爪」情報
- Blu-ray / DVD
「鷹の爪8 吉田くんのX(バッテン)ファイル」 - 発売中 / ディー・エル・イー
- 劇場アニメ「DCスーパーヒーローズ vs 鷹の爪団」
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「秘密結社 鷹の爪」と、2大アメコミのひとつである「DCコミック」がタッグを組む新作映画が2017年に公開決定。スーパーマンやバットマンなどの有名キャラクターたちと、吉田くんたち鷹の爪団が夢の共演を果たす。2017年秋公開予定。
巴亮介(トモエリョウスケ)
1983年12月6日生まれ。神奈川県横浜市出身。第61回ちばてつや賞ヤング部門において「GIRL AND KILLER─オンナと殺し屋─」で大賞受賞。2009年、ヤングマガジン53号(講談社)に同作が掲載されデビューを果たす。2013年から2014年にわたり同誌にて「ミュージアム」を連載し、2016年には同作の新作エピソードを発表した。
単行本情報
- 巴亮介「新装版 ミュージアム 完本」
- 発売中 / 講談社
2017年3月28日更新