「マテリアル・パズル ~神無き世界の魔法使い~」|未完のファンタジー巨編、ついに再始動! 土塚理弘が語る10年の空白とこれから

10年前と同じ最終回に向かっています

──「マテリアル・パズル ~神無き世界の魔法使い~」は単行本1巻のおよそ60年前、メモリア国の王様・バレットがまだ若い頃のエピソードから始まります。これは再開にあたって新しく用意したものなのでしょうか。

お話自体は以前から考えていたものです。いわばティトォたちの修行編ですね。

──もともと最終章は、ミカゼとジャンクーアの子供たちが7人の魔法使いを探す旅になると予告されていましたよね。

「マテリアル・パズル ~神無き世界の魔法使い~」より、バレットの戦闘シーン。

それがストーリーの軸にはなるんですけど、最初からミカゼたちの話にしてしまうと、本来の主人公であるティトォたちがしばらく出てこない。時間が空いてしまったり、雑誌が変わったりもしていますし、おさらいや紹介という意味でティトォたちを先に出しておかないといけないなと考えました。今回描いたバレットが若い頃のエピソードは、本来もっと後のほうで描くつもりだった話で、順番を入れ替えてそれを前に持ってきたんです。バレットの戦いはこれまで描いたことがなかったので、過去の読者にとっても完全に新しいエピソードでありながら、不老不死であるティトォたちの説明も兼ねている構造です。新規の読者も読めるようにはしてあるけれど、やっぱり過去の読者に向けて、「こういう話だよ、思い出してね」と作っているようなところがあります。

──では物語自体は10年前からブレていらっしゃらない。

お見せする順番が多少変わっただけですね。以前から決めていた最終回に向けて進んでいます。そもそも「マテリアル・パズル」は、僕の連載で唯一、最後まで物語を考えてあるんです。どんな敵がいてどんな力を持ってるかとか、全員の能力のパワーバランスとか、ラスボスはこいつとか、最初から全部考えてあって。「マテリアル・パズル」を始めるとき、やりたいことを全部やったら何巻になるかを計算したら、たぶん30巻くらいだろうという想定だったんです。それじゃ長すぎると思って、カットしつつテンポよくいこうとしたけれど、結局22巻やっても終わらなかった。今、最終章をやっているわけですが、今回どのくらいになるかなって考えたらけっこう長かったんですよ(笑)。考えていることを全部やると、ここからまた30巻とかになってしまうので、なるべくコンパクトに、いいところだけ抽出するような感じでやりたいなと思っています。

──最終章はこれまでと違い、第1節、第2節とはっきり物語が区切られていますよね。

ええ、前は1章につき1人のボスみたいな感じにしてたんですけど、今回はもうちょっと分けて、なるべく山場をいっぱい作る形にしています。ボリューム的には2~3巻で1節みたいなイメージですね。第2節は2話だけなので短いんですけど、ミカゼのエピソードを多少おさらいしつつ、「彩光少年」(電書完全版21~22巻)で描いた“パキ島の戦い”を、もう少し詳しくやります。第3節はそれから2年後、ミカゼとジャンクーアの子供たちの旅を描くつもりです。

「マテリアル・パズル ~神無き世界の魔法使い~」より、神獣伍式隊のメンバーたち。

──いよいよ物語が先に進むわけですね。10話まで展開された第1節には、たくさんの新キャラクターも登場しました。

戦いを生き残ったキャラクターには、ミカゼを導くなど、今後重要な役割を持つ人物もいますね。それに神獣伍式隊のヤズマは12人の剣仙の1人なので、やがてコルクマリーに殺される男です。60年後はヤズマもおじいちゃんですが、その戦いはどこかで描けたらと思います。以前から“女神の三十指”の1人として名前が出ていたクインベルも、ようやく登場させることができました。

──まだ名前すら明らかにされていない三十指もいますもんね。

そろそろ、13話あたりでぞろぞろと出てきます。女神の国のことも、これまでグリ・ムリ・アの部屋しか描いていなかったので、描くのが楽しみですね。ほかにも強い魔法使いばかりが残っているので、そいつらのバトルとか、中でもジール・ボーイとジャンクーアの戦いが早く描きたいです。

──電子書籍で完全版も出ていますが、新章のエピソードを読んでからこれまでの物語を読み直すと、新たな発見もありそうですね。

そうですね、「あのシーンにはこういう意味があったのか」と思えるところがあると思います。電書完全版は、巻によっては20ページくらい描き下ろしたりもしています。タイミングの関係でゆっくり修正できなかったものも、空き時間に手元で直したりしているので、いつかまたお見せできる機会があればと思っています。

ミカゼは最初、出す予定がなかった

──「マテリアル・パズル」は登場人物が多い作品だと思うのですが、キャラクターはどんなふうに作られているんですか?

リゼルはクリスタベース国で生まれた、凍魔法“アイスランランス”を使う人造魔法使い。メモリア魔法陣が動き出す13巻より活躍する。

基本はバランスですかね。このキャラと戦うならこういう性格がいいだろうとか、今戦ってる敵がクールキャラなら、またクールな敵キャラを出して“クール渋滞”を起こしてもしょうがないから、次は変えようとか。ただ「マテリアル・パズル」はストーリーの流れをかっちり決めている分、不自由なところもあって。たとえば子供っぽくてやんちゃなキャラを早く出したかったんですけど、リゼルが控えていたから出せなかったんです。

──リゼルが登場したときに、かぶってしまうからですね。

あとは、「こういうキャラがほしい」という必要に迫られて……でしょうか。「マテリアル・パズル」は高校生の頃には物語の骨組みができていたんですけど、最初はティトォ・アクア・プリセラの3人だけをメインにしてやるつもりで、ミカゼはいなかったんです。

──ええっ、第2の主人公的なポジションなのにですか。

「清村くんと杉小路くん」電書完全版1巻。とりごや高校サッカー部を舞台に繰り広げられる学園ギャグ。

「マテリアル・パズル」の第1話は「清杉(『清村くんと杉小路くんと』)」が終わってすぐ始まったので、けっこうギリギリだったんです。物語の骨組みはできていたといっても、どちらかというと2章から先がメインで、出だしはあまり細かく考えられていなかった。最初は1話からバトルの予定で、バトルのある1話も試しに作ったと思うんですけど、自分でちょっと違和感があって。「清杉」が終わってすぐバトルが始まるのもどうかな、「清杉」ファンは付いてきてくれるかな、という気持ちもあり……。

──確かに1巻は、全体的にちょっと「清杉」感があります。

本格的なバトルは2巻からにしました。それに、ティトォたちは体が入れ替わってしまうから、パーティに固定キャラクターが欲しかった。魔法使いのことを何も知らない少年、読者と同じくらいの年齢ということでミカゼを狂言回しにして、やっと動いたかなって感じですね。というより、主人公たちだけでは話が動かなかった。あの3人は100歳を超えているので、子供っぽい考えでもないし、旅の中でしょうもないミスをしたりもしないんですよ。何を聞いても「ふむふむ」と理解してしまうし。ミカゼとかリュシカとか、アホな失敗をしたり、「わかんねー!」と言ってくれたりするキャラが必要なんです。まあ、あまり必要なキャラのみで構成するのも、世界観に広がりが出ないのでよくないんですけど。

──そういえば土塚さんはメモやノートをほとんど取らないそうですが、物語やキャラクターなんかは、すべて頭の中で管理されてるんですか?

メモ、全然取らないですね。むしろほかの作家さんがメモに何を書いているのか想像がつかないです……。

──時系列とか、キャラクター設定とか、矛盾しないように皆さんチェックされているのかと思っていました。メモを取らない代わりに、単行本をよく読み返していらっしゃるとか?

いえ、それもほとんどないです。細かく、まったく同じセリフを書く必要がある場合は確認しますけど、何巻で何を描いたかは大体覚えてます。もし忘れてしまったとしたら、その設定はたぶん大したことじゃないんですよ。

──ちなみにご自身に近いと思うキャラクターはいますか? お話を聞いていて、もしかして“仙里算総眼図”を使うティトォがそうなのかなと思ったのですが。

ええ、誰だろう(笑)。ティトォではないですね。自分に近いキャラクター……いるのかな? 強いて言えばリゼルかな。昔はよく、杉小路くんだと言われましたけど。

不老不死には理由がある

主人公たちを達観した性格にしたのは理由があって。少年マンガってよく、子供が大人に対して啖呵切るみたいなシーンあるじゃないですか。

──敵だったり、うるさい先生だったりに食ってかかる場面ですね。

あれを自分が描くとなると、言葉は悪いですけど「ガキが何を言ってんだ」って思っちゃうんですよ。相手の大人が、殺人を犯してるような極悪人だったり、本当にアホみたいなキャラだったらいいですけど、しっかりした大人を相手に、若造が何を言ってるんだ、みたいな見え方にはしたくなかった。主人公3人は、それを解消するために100年以上生きてる設定にしたんです。100年生きてたらほとんどの人より年上だから、そりゃ誰にだってビシッと言えるよね、と。でも見た目がおじいちゃんだと少年マンガでもなんでもなくなるから、一応少年らしさも残して、不老不死にしたんです。

普段のアクアは、高飛車でドSな破壊好きのキャラクター。

──なるほど。そういえば今回、「マテリアル・パズル」を改めて読み返していたら、アクアが本当は泣き虫な性格だと紹介されていて驚きました。普段の強気なキャラクターは演じているものだと。

そうなんですよね、本当は弱気で泣き虫で。15巻にちょっとだけ、ドーマローラで妹と一緒にニコニコ過ごしているアクアが出てくるんですけど、それが一番素に近い彼女ですね。

──プリセラのキャラクターもすごいですよね。“戦う妊婦さん”なんて見たことないですし。

一番好きかもしれないですね、プリセラ。何より強いですし(笑)。第1章はプリセラのジール・ボーイ戦を描くために進めていたんですよ。魔法使いは強い、一般人では敵わないと印象付けて、その魔法使いでも敵わない“五本の指”を出す。一体どうするんだってところに、ただの殴る妊婦が出てきてそれをブッ飛ばす(笑)。あそこらへんが描きたくてやっていました。

「マテリアル・パズル」7巻より、プリセラとジール・ボーイの戦闘シーン。

──お腹に赤ちゃんがいるけれど、不老不死になってしまったから産むことができない。元の体に戻りたいという気持ちも共感できますし、そのために強くなったという言葉にも説得力を感じてしまいます。ジール・ボーイ戦でもお肌のことを気にしていたり、ちょっとギャルっぽいところも素敵です。

100年生きてはいるけれど、体は19歳のままですからね。昔から単純なギャップは好きなんです。おばあちゃんなのにメカに強いとか、小さいのにすごく強いとか、キャラを作るうえでの基本ですよね。

──プリセラがお気に入りということでしたが、ほかにも好きなキャラクターはいますか?

やっぱりティトォ・アクア・プリセラ。それ以外だと、アダラパタですね。アダラパタは好きですね。

──彼も謎に包まれた人物ですよね。何がしたいのかまだまだわからないというか。

極端に言うと、本当にただ遊びたいんだと思います。「彩光少年」の最後でデュデュマが現れたときも、ほかのみんなが緊迫した表情を浮かべているのに、1人だけすごくつまらなそうな顔をしてるんです。「最後どうなるんだろうか」と楽しみにしていた彼にとっては、「これでもう終わりか」「これが結末か」的な思いが去来していたんでしょうね。