コミックナタリー Power Push - 「都会のトム&ソーヤ」
はやみねかおるが書く「マチトム」 フクシマハルカが描く「マチトム」
「らんま1/2」を目標に(フクシマ)
──マガジンエッジ創刊号の読み切りで2人の出会いが描かれ、連載では小説の第3章以降を中心に展開していますよね。フクシマ先生はどのような流れでコミカライズを進められたのですか。
フクシマ やっぱりキャラクターデザインからです。なので最初は創也と内人をたくさん描きました。ただ私の好みで描くと身長が低くなるみたいで「小学生に見える」と言われて、少し高めに修正したりしてました。
はやみね キャラのラフを見せていただいたとき、パーカー姿の内人を見て「今の子はおしゃれだなー」と思いましたね。息子にも何も言わずにラフを見せたんですが、すぐに「これマチトム?」と言ってきたので、きちんと若い子のイメージ通りなんだなと。ありがたかったです。
フクシマ 創也は小説の中ですでにカッコいいイメージがありましたが、内人がバカなことをすると一緒に引きずられる、いいコンビという印象を持ちました。内人が先に動く性格なので、それを軸として、場面ごとに創也の言動を大人っぽくしたり、バカっぽくしたりとバランスを見て調整しました。昔からコンビやカップルの子たちを描くときは、2人でちょうどよく見える形にする癖があるんです。
── ご自身の願望が表れているとか……?
フクシマ そうかも。クラスにいてほしい憧れの2人というか、自分が友達になりたいようなコンビを考えてしまうんでしょうね。コミカライズをするようになってからは、彼らのクラスメイトの美晴ちゃん目線になっている気がします。体育で一緒に運動してる場面はまさにそうです。この様子を見ている私に2人が話しかけてくれたらいいなあって。
はやみね この場面、ホントいいですよね! 僕がこの場面を書いたら、女子の視線は創也に集中する描写になると思うんです。内人はモテないと思ってるから、女子の視線がいくとは考え付かないですもん。マンガにしてもらって内人は救われてますよ。パッと見でおしゃれだしカッコいいやん、と思えるから。すごく新鮮な気持ちで読めます。
──少年マンガ誌の連載ということで、男女のキャラを描くときに意識した部分はありますか?
フクシマ 最初は男子の目がキラキラしすぎだと指摘されたので、創也の目を黒目がちにしました。全体的に白黒で表現するように心がけましたね。少女マンガではスクリーントーンで効果をつけることが多くてベタが少ないので、そこが一番の違いかなと。美晴ちゃんは唯一の華なのでかわいく、少女マンガのよさが出せるといいなと思いながら描いています。
──ちなみに、少年マンガ誌での連載は初ですよね?
フクシマ はい。だから最初はすごく悩んだんです。少年マンガで育ったとはいえ、いざ描くとなるとどう描けばいいかわからなくて。少年マンガ誌を全部買って読んでみたんですが、結局は表現って自由なんだなと思って。そこからは自分が一番好きな路線でやろう、大好きな「らんま1/2」を目標にしようと決めました。私、実はサンデーっ子なんですよ(笑)。高橋留美子先生の「らんま1/2」のように、読みやすくて元気なラブコメ少年マンガが大好きで。だから今回も、テンポの良さと見やすくてシンプルなコマ割りを意識しました。ただ少年マンガ誌でいつも描かれている方だとコマ割りはもっとシンプルだと思いますが。
はやみね 確かにそうだなあ。少女マンガってどの順番で読んだらいいかわからなくなりますよね。
フクシマ そうにおっしゃる男性、多いんですよ。「マチトム」でも少女マンガの感じでつい斜めにコマを割って、担当さんに指摘されては「ハッ!すいません!」みたいな。普段の少女マンガ誌だと「1ページにアップが1つ」というくらいにアップ中心で構成するので、見やすさより華やかさが優先されがちなんでしょうね。
「内人、救われたね!」と声をかけたくなる(はやみね)
──ストーリー要素の取捨選択についてはどうでしょうか。2人の趣味や日常での固有名詞、サバイバル関連なども含めると情報量の多い小説ですよね。
フクシマ 最初に編集さんと話数を決め、毎回ネームを切りながら1話分のボリュームや情報量を調節しています。話をスムーズに展開するなら、このエピソードはもったいないけどカットしたほうがいいね、という感じです。ただ、今回のような作り方は初めてなだけに、単にカットするだけだと説明だけの単調な回ができてしまって。そういう部分にはコメディ要素を加えるなどのアレンジをしています。
──もしかして、着ぐるみの場面とか?
フクシマ そうそう! あとは壁ドンとか。もうコメディばかり描いてきたのでついつい面白い要素を入れたくなるんですよね。放っておくとすぐやりすぎるから、なかよしではギャグに走るのを禁止されているくらい(笑)。「マチトム」も真面目な話だからと思いつつ、2人が楽しく見えればいいよね、ここに入れてみようかな……と。
はやみね いや、僕としてはどんどん入れてほしいですよ。もはや、いちファンですね。面白いから早く次が読みたいっていつも思っています。体育の授業中の見開きとか大好きですね。「内人、救われたね!」と声をかけたくなっちゃう。長く書いていて僕の中で2人が歳を取ってきた感じがあったのですが、イマドキの中学生として若々しく蘇らせてもらえてうれしいです。ペンギンの着ぐるみの場面も「これは面白いわ」とちょっと負けた感もありましたもん。そして壁ドンね。こういう今っぽい仕草というか、若い世代ならではの描写を見ると、女性の観察眼はすごいと思わされます。
──フクシマ先生の視点が今後の創作に生かされたりなども……?
はやみね コミックス1巻の本体表紙に美晴視点の4コマが2本載っているんですが、自分にはこういう今の中学生の女子目線での話は書けないから勉強になりますね。1度は挑戦しないと、と思いますし、書ける人が本当にうらやましいです。
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ごく普通の中学生・内藤内人は、ふとした偶然から、同じクラスの天才御曹司・竜王創也の秘密を知ってしまう。 そしてその日から、思いもかけない、2人の冒険の日々が始まって……!? 累計150万部を超えるはやみねかおるの大人気シリーズを、少年誌初登場のフクシマハルカが全力コミカライズ! 最強(!?)凸凹中学生コンビの青春謎解きRRPG、待望のマンガ版スタート。
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はやみねかおる
三重県出身。大学卒業後、小学校の教師となり、子供たちを夢中にさせる本を探すうちに、自ら物語を書き始める。「怪盗道化師」で第30回講談社児童文学新人賞佳作入選しデビュー。以降、発表される作品は子供も大人も夢中にさせている。代表作に「名探偵夢水清志郎」「怪盗クイーン」「都会のトム&ソーヤ」シリーズなど。
フクシマハルカ
岡山県出身。大学卒業後、1999年に「さくらんぼ☆キッス」(なかよし増刊なつやすみランド)でデビューし、「おとなにナッツ」「チェリージュース」などなかよしで作品を発表。その後デザートやベツコミ(小学館)にも活躍の場を広げ、マンガ版「都会のトム&ソーヤ」で少年誌にも初登場を果たす。