ラブロマンスだけでなく、ミステリとしても楽しめる!?
小笠原 さっき伊織さんも挙げられた「よくある令嬢転生だと思ったのに」が、僕はこの15作品の中だと一番好きですね。シンプルに主人公のエディットというキャラクターがナビエとツートップくらいに好きで……まあ、一番好みのド真ん中なのは「皇后の座を捨てます」のアデライトなんですけど。
伊織・三木 へええー!
小笠原 ただ、物語とかも全部含めて総合で見ると「よくある令嬢転生だと思ったのに」がトップですね。
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「よくある令嬢転生だと思ったのに」
ロマンス小説の悪女・エディットに転生した主人公。いずれ夫のキリアンに殺されることを知っていた彼女は、原作通りになるものかと自由気ままに生きることを決意する。すると次第に原作とは違う展開になっていき……。
伊織 確かに、ビジュアルが好きな作品と内容が好きな作品って分かれますよね。
小笠原 そうそう。で、「よくある令嬢転生だと思ったのに」はもちろんロマンスでありファンタジーなんですけど、僕はどっちかというとミステリとして楽しんでいて。
伊織 わかります。この作品の特殊なところは、小説の世界に転生するところまではよくある感じなんだけど、その小説の物語進行が強制力を持っているところですよね。登場人物のがんばりだけではどうにもならないことがある。
小笠原 そうなんですよ。“原作者”と呼ばれる謎のゲームマスターみたいな人物が存在していて、たぶんそいつが魂か何かを小説世界に送り込んでるんですよね。百合子さん(エディットに転生する人物)も“13番目のエディット”という記述がありましたし。
伊織 リゼに何かありそうなんですよね。小説世界のヒロインの、金髪の子。
小笠原・三木 そうそうそう!
三木 “原作者”の動きとリンクしているフシが見受けられるんだけど……。
小笠原 その匂わせも、まだそんなに多くはないんですよね。あと百合子さんの過去の記憶で、意味ありげに登場する重病患者の子がいたじゃないですか。あの子にも何かあるんじゃないかと、ヘタしたら彼女がリゼなんじゃないかとかも思ったりしていて……。
伊織 わー! あり得なくはなさそう!
小笠原 たぶんそのあたりの設定が今後どんどん明かされていくと思うんですけど、明かされれば明かされるほど面白くなっていくと思うんですよ。いまだにエディットって全然報われてないし。
伊織 報われてない!
小笠原 やっとこさ夫のキリアンがちょっとエディットに思いを寄せ始めている感はあるんだけど、物語の強制力があるからそのまま素直に溺愛状態へは移行してくれないんですよね。感情の流れとしては明らかに不自然なんだけど、キリアン本人にはどうしようもないことでもあって。
伊織 キリアンが憎めないのはそこですよね。本人の気持ちはグラついてるのに、物語の強制力によって無理やり軌道修正させられている感がずっとある。
小笠原 そう。だから許せるっちゃ許せるんだけど……我々読者が待ち望んだ2度のベッドシーンにしても、結局キリアン側には心がないままだったじゃないですか。まあ1回目に関しては一応エディットから迫った形だったから、そういう渋い味のラブシーンもまあいいかと思ったんですけど……。
三木 「渋い味」(笑)。
小笠原 2回目はもう「頼むから断ってくれよエディット!」と思って。
三木 あのシーン、私はめっちゃ萌えましたけど(笑)。
小笠原 えええー! 嫌だった、あれは!
伊織 (笑)。私もあのシーンは好き。もしかしたら、男性目線と女性目線で感じ方が違うところなのかも。
小笠原 なるほどなあ……僕は絶対に突っぱねてほしかった(笑)。
伊織 エディットからしたら、キリアンからの愛情以外に精神的なよりどころになるものがほぼ何もない状況だから、形だけの愛情であってもすがってしまうのは仕方ないし、自然な反応なのかなって。
小笠原 あー、確かに。愛情に飢えているというのはあるか。
伊織 そうそう。それも含めて、読んでいると心がつらくなるのがこの作品の楽しいところなので(笑)、やきもきしたいドMの人にはぜひ読んでもらいたいです。
三木 でも、主人公の立ち位置としてはけっこうハードなんだけど、本人がわりと明るくてあっけらかんとしているんですよね。だから、つらいっちゃつらいけど全然読めちゃう。
小笠原 主人公がメンタル強者ですよね。
伊織 ちょっとほころびがあって泣いちゃったりするところもかわいい。
三木 かわいい。
小笠原 かわいい。
全然逆です、私
三木 男性キャラ主体で見ると、「略奪された花嫁」のハカンってけっこう異色ですよね。ワイルドというか、ターザンみがあって(笑)。
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「略奪された花嫁」
家族から見捨てられた男爵家の私生児・ルシナは、国を襲ってきたドラゴン族の大王・ハカンに見初められ花嫁としてさらわれてしまった。強面で血なまぐさいハカンを最初は怖がっていたルシナだが、思いもよらず溺愛されていくことになる。
小笠原 異色ですね。
伊織 野性的で粗暴なイメージなんだけど、ちゃんと周りをよく見て人の話をしっかり聞いてくれる人でもありますよね。そのギャップにみんなやられちゃうんじゃないかな。冒頭の、ルシナの顔にブツブツができてみんなが「病気じゃないか」って言い出すところでも、冷静に状況を判断して兵士たちに「これは違う」と言い聞かせていたし。
小笠原 あそこ、すごくよかったなー。ハカンはワイルドとクレバーの融合体で、そこがいいですよね。
三木 「略奪された花嫁」は、いわゆる溺愛ものマンガが好きな人にも受け入れられやすい作品のような気がするんです。家族から虐げられている女性が結婚して能力を開花させていく展開って、例えば「わたしの幸せな結婚」(スクウェア・エニックス)とか「傷モノの花嫁 ~虐げられた私が、皇國の鬼神に見初められた理由~」(講談社)とか、最近すごく流行っている作品と同じ構造なんですよね。
小笠原 シンデレラストーリーみたいな。
三木 そうです。シンデレラストーリーとしての導入があって、そこから作者の力量や資質によってさまざまに展開していくという。だから韓国原作のwebtoonになじみのない人でもすんなり読めそうだなと思っていて。
伊織 悪役がわかりやすいっていうのもありますよね。ほかのマンガだと複雑な勢力関係が絡んでくることも多いけど、そういうんじゃなくて「先代王妃のガーレットが敵! 以上!」みたいな。
小笠原 確かに今のところ、明確な敵はガーレットしかいないですからね。でも……ガーレットさん、好きなんだよなあ。
伊織 えええー! 好きなんですか? なぜ? どこが?
三木 (笑)。
小笠原 基本的にやっていることはそんなに間違ってないというか……まあ人道は外れてるんだけど(笑)、それも無理からぬことなのかなって理解はできるというか。貧しい境遇に育ちながら、弟と一緒になんとか宮廷にまで入り込んで王妃にまで上り詰めた人で。しかも、ドラゴン族との間に子をなすと人間には死の危険があるという中で、それを乗り越えて子を産んでもいるわけで。もちろんその原動力は利己的な野心でしかないんだけど、意志の強さはあると思うんですよ。強い人ではあるのかなと。
伊織 そうか、物語自体はルシナやハカンの主観で描かれるからガーレットは完全なる悪だけど、ガーレット視点で考えたら、っていうことかあ……ヤバい、全然逆です。私。
小笠原 それはその、ガーレットに対する見方が?
伊織 はい。だってガーレットって、何か目的を果たすにしても「そのやり方じゃ、どう考えたって全員に嫌われるに決まってるじゃん」という選択しかしないですよね。人間心理をまったく考慮せずに突っ走った行動をするから、自分本位すぎて合理性がゼロだなって。結局バレたら終わりだし……。
三木 バレないための策を何も講じていないですもんね(笑)。正面突破で悪事を働いている。
伊織 強いと言えば強いのかもしれないけど、策略家、謀略家としてはあまりにも弱すぎるんじゃないかと思っていて。
小笠原 愚かではありますよね。詰めが甘いというか、そもそも詰めようという発想がないというか(笑)。
伊織 そう。もうちょっと頭を働かせればいいのに!って。悪いことをたくらむわりに抜けてるところが多すぎるから、それもあって物語のヘイトを一身に集める役になっちゃってるのかな?と思います。
小笠原 ちゃんと頭がよくて隙のない策略を繰り出してくるタイプだったら、僕も心おきなく憎めたんじゃないかなと思うんですよ。僕的には、ガーレットよりもむしろ弟のギライのほうが好きじゃないですね。「もうちょっと自分の意志で動けよお前!」と思って、イライラする(笑)。
伊織 あー、それは確かに(笑)。
“後悔男”にたくさんのお花……webtoonあるある
小笠原 男性キャラのデザインという意味では、「問題な王子様」のビョルンも珍しいタイプですよね。金髪で細マッチョ系で。
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「問題な王子様」
祖父母の家で過ごすエルナは、祖父の死をきっかけに一族の財産を親戚から狙われてしまう。財産を守るため、かつて自分のことを捨てた父を頼らざるをえなくなったエルナだが、父に会いに行く道中でスキャンダルまみれがゆえに“王室の毒キノコ”と呼ばれているビョルンと出会うことになる。
伊織 そうですね。だいたいみんなムキムキで黒髪、太眉だから……あと、作風的にも「問題な王子様」は異色だなと思います。なんかちょっと文学っぽくないですか?
小笠原・三木 (食い気味に)わかります!
小笠原 冒頭のナレーションからして、すごく文学作品の導入っぽさがあるんですよね。「村上春樹かな?」みたいな(笑)。
三木 「無情にも美しい春が訪れてきた」で始まりますからね。土地や建物の権利問題で窮地に立たされた娘が田舎から都会へ向かうという導入も、ハーレクインとかの匂いがすごくあるというか。
小笠原 絵のタッチに関しても異彩を放っているところがあって、ヒロインの顔がコミカルに崩して描かれる瞬間があるんですよね。日本の少女マンガではよくある手法ですけど、webtoonではあまり見かけない気がしていて。
伊織 たぶん、特にスタジオ制作のwebtoonだからだと思うんですけど、作画コストがずっと高いんですよね。ギャグタッチの絵を挟むのって、作画コストを抑える理由もあるんじゃないかなと思ってて。ドレスとかも毎回デザインが違ったりしますけど、それはスタジオ制作のマンパワーがあってこそのものなのかなって。
小笠原 マンガではあるんですけど画集を読んでいるような感覚にも近いんですよね。
伊織 確かに確かに! お花いっぱい出るし。
三木 あと男性キャラ傾向の話で言うと、最近の韓国では“後悔男”というジャンルがすごく人気みたいで。
伊織・小笠原 へえー!
三木 その名の通り“主人公にした行動を後悔する男”を指す言葉なんですけど、それで言うと「よくある令嬢転生だと思ったのに」なんかが当てはまるのかなと。
小笠原 確かにそうかもしれない。キリアン、後悔しますもんね。
伊織 最近のwebtoonの傾向で言うと、“主人公がテンプレ展開に慣れている”というのもありますよね。
三木 あ、わかります! 導入があっさりしてるんですよね。「あんまり説明しなくても、どういう状況かわかるでしょ?」みたいな。
伊織 そうそうそう。転生したことに主人公があまり驚かなくて「はいはい、転生ですね」ってすぐ受け入れちゃう(笑)。そういうメタ発言とかが増えているのは、異世界転生もの、悪役令嬢ものの流行が浸透しきった結果なのかなとちょっと思いました。
三木 それこそ「よくある令嬢転生だと思ったのに」なんて、タイトルからしてそうですしね。
伊織 確かに!
小笠原 「よくある」わけないだろっていうね(笑)。それで言うと、webtoonって導入のパターンがだいたい4種類くらいに分けられますよね。シンデレラ系、転生系、離婚を突きつけられる系、あと死に戻り系、みたいな。
伊織 そう、分けられますよね。でも最近は転生系がだいぶ減ってきた。今回の15作品でも、実はほとんど主人公が転生してないんですよ。
小笠原 その一方で、死に戻り系がめっちゃ増えている気がしていて。今回のだと、半分くらいがそうじゃないですか?
三木 確かにそうですね。でも「皇后をさらった彼は」とかは、いかにも死に戻りっぽいお話なんだけど実は死んでないんですよ。
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「皇后をさらった彼は」
美しく強く聡明な皇后・ロゼリンは私利私欲にまみれた皇帝の罠にはめられ、すべてを失ってしまう。雪山に飛ばされ、一人命を落とそうと身を投げ出していると、敵国アモールの外交総官・タモンに熱い口づけとともに拾われて……。
小笠原 ホントだ! あれは……追放系?(笑) 主人公の初期状態は一番ひどいですよね。
伊織 これが一番読んでてつらかった。成り上がり度で言ったら一番振れ幅が大きいかもしれない。
ロマンスファンタジーは「政治・離婚・追放」
三木 そろそろまとめに入りましょうか。
伊織 楽しかった。
小笠原 面白かったですね!
伊織 ロマンスファンタジーというジャンルについて話せる人が3人も集まるなんて、そんな機会は本当にないので。
小笠原 確かに! またやりたいですね。
伊織 普段webtoonを読むときも、コメント欄を見るのがすごく好きなんですよ。同じ読者目線で共感できるコメントを読むのが楽しいんですけど、それを今日はリアルでできたので、すごくうれしかったです。
小笠原 僕はおふたりに比べてこのジャンルに触れてきた時間は短いと思うんですけど、今回こういう機会をいただいたことで「よくある令嬢転生だと思ったのに」というグサッとくる作品にも出会えました。「これは面白い」とシンプルに思えたことがすごく収穫でした。
三木 今回作ったロマンスファンタジー分布図は本当にこの3人の主観なので、たぶんほかの人が見たら「ナビエはもっと違うよ!」とかあるかもしれないんですけど……。
小笠原 あるでしょうね。ナビエを一番“かわいい”に振り切りたい人だっているだろうし。
三木 そうそう(笑)。だから、読者の皆さんにも「自分ならこの作品はここに置く」というのを考えてもらえたらいいなと。
伊織 やってほしい! あと思ったのは、少女マンガに共感しにくくなってきた大人の人たちに読んでもらいたいジャンルだなって。
小笠原 確かに!
伊織 私自身、小中学生のキャラクターが出てくる恋愛マンガを読んでも「わかるー! キュンキュンするー!」とはなかなかならないから(笑)。そもそも少女マンガを幼少期にまったく通ってこなかったというのもあるんですけど。
三木 そうなんですか! それは意外です。
小笠原 恋愛マンガを形容する言葉としてよく使われる「甘酸っぱい」は、ここにはないですよね。全部ほろ苦い。
伊織 そうそうそう! 放課後とか、青春とか、そういうのじゃない。
三木 誰ひとり学園に通っていないですし。
小笠原 通ってない(笑)。基本もう結婚が絡んできますもんね。
伊織 結婚とか子供とか政治とかの話になってくるから、絶対に大人の女性が楽しめるものだと思いますね。もちろん男性でも子供でも楽しいとは思いますけど。
小笠原 少年マンガが「友情・努力・勝利」なら、ロマンスファンタジーは「政治・離婚・追放」みたいな……。
三木 あははは(笑)。
小笠原 それは最悪すぎるか(笑)。
プロフィール
伊織もえ(イオリモエ)
1月24日生まれ。コスプレイヤーとして活動し、これまで表紙を飾った雑誌は150冊に迫る。写真集は2019年に「ぼくともえ」、2021年に「内緒話」、2022年に「伊織もえ×僕の心のヤバイやつコラボ写真集」が発売されている。またパーソナリティを務めるラジオ番組「伊織もえのACGライブちゅう!」もinterfmで放送中。
伊織もえ❤️🔥 (@moe_five) | Instagram
小笠原仁(オガサワラジン)
8月16日生まれ。神奈川県出身。EARLY WING所属。主な出演作に「アルゴナビス from BanG Dream! ANIMATION」(旭那由多役)、「カワイスギクライシス」(向井誠二役)、「カードファイト!! ヴァンガード will+Dress」(狐芝ライカ役)など。2021年にはアーティストデビューも果たしており、同年12月には初のCDシングル「TURBO」をリリースした。
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