ロマンスファンタジーは、女性読者を中心に絶大な支持を集める人気ジャンルの1つ。その名の通り、恋愛ものと空想物語の両要素を兼ね備える一連の作品群を指し、その多くにおいて王族や貴族といったロイヤルなキャラクターたちの豪華絢爛な暮らしぶりが美麗なビジュアルで描かれる傾向にあるのも大きな特徴だ。そういったロマンスファンタジー作品をお得に読めるキャンペーン「LINEマンガ ロマンスファンタジー Xmas Party」が、LINEマンガで展開されている。
しかしロマンスファンタジーは人気ジャンルゆえに作品数も膨大であり、興味はあってもどこから読み始めればいいのか途方に暮れてしまう読者も少なくないことだろう。そこでコミックナタリーでは、LINEマンガ協力のもとキャンペーン対象作品の中から15作をピックアップし、有識者を招いて各作品の傾向分布図を作成することに。
有識者には、webtoonに造詣の深いコスプレイヤーの伊織もえ、幼少期から大量の少女マンガに触れて育ったという声優の小笠原仁を招聘。その両名に加え、大のロマンスファンタジー愛好家でもあるコミックナタリーの三木美波副編集長も同席し、3名による協議で分布図の作成を進めることとなった。果たしてその結果は……?
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 武田真和
「分布図を作る」と口で言うのは簡単だが、何を基準に分類すべきかを決めるのは容易ではない。コミックナタリー編集部の会議室に集結した伊織、小笠原、三木副編集長の3人は、まずその難題に向き合わなければならなかった。
3人は手始めに“シリアス寄り/コメディ寄り”という基準で分類作業を開始。しかし、一見わかりやすそうに思えた評価軸だったが、いざ分類しようとすると極端にシリアス方面ばかりに偏ってしまうことが判明する。
伊織が「意外とコメディ系はそんなにない……」とつぶやくと、小笠原は「そもそもロマンスファンタジーって、シリアスであることが前提みたいなところありますよね」と分析。もちろん中には「余命僅かだと思ってました!」のようなコメディ寄りの作品も一定数存在するものの、基本的に主人公が困難な状況──理不尽に地位を脅かされたり、場合によっては命の危機にさらされたり──に追い込まれる世界観設定が好まれるジャンルということもあり、3人は「シリアス度による分類はあまり意味をなさないのかもしれない」との見解で一致した。
協議を重ねた結果、分布図の縦軸には“(主人公であるヒロインが)カッコいい/かわいい”、横軸には“(相手役の)溺愛状態化が早い/遅い”というパラメータ項目を設定することに決定。つまり例えば、図の左上へ行けば行くほどそのマンガが“カッコいい系の主人公がすぐ相手から溺愛される”作品であることを示し、逆に右下のものは“かわいい系の主人公が時間をかけて溺愛状態を獲得していく”作品を示すことになる。キャラクター傾向とストーリー傾向をそれぞれざっくり掴むことができるため、それなりに妥当なチョイスと言っていいのではないだろうか。
そしていよいよ実際に作品を振り分けていく作業がスタート。まず横軸、つまり溺愛状態までの速度について議論が交わされる。
「余命僅かだと思ってました!」に関しては小笠原が「アスラハン(ヒロインの相手役)、この15作品の中で一番チョロかったと思いませんか?」と主張したこともあり最速との判定が下されたが、「略奪された花嫁」「売られた花嫁は義家族に溺愛される」の2作は物語が始まる前から溺愛状態にあったと考えられるため、それを超える満点オーバーの位置に置かれることに。
さらに「再婚承認を要求します」「元夫の番犬を手なずけた」「皇后をさらった彼は」の3作もかなり初期の段階から主人公が溺愛されるストーリー展開であるとの見解が示され、思わず「早い作品、多いなー(笑)」との声も漏れていた。
逆に、溺愛状態になるのが最も遅い部類に入ると目されたのは「問題な王子様」だ。次いで「よくある令嬢転生だと思ったのに」が“まあまあ遅い”と認定される。
「皇后の座を捨てます」「契約職大公妃」の2作は、“早いとも遅いとも言えない”という意味合いでとりあえず真ん中に置かれることに。「ロザリン・ボガート~復讐の王太子妃~」「愛人は逃げる」は“どちらかというと遅め”、「お姉様、今世では私が王妃よ」「暴君皇帝と離婚します」「あなたの影をやめたとき」は“どちらかというと早め”との評価が下され、微調整を経て最終的なポジションが決定した。
なお、この指標はあくまで“溺愛状態になる早さ”であって、“物語展開のスピード”とは無関係である点にはくれぐれも留意されたい。
もう一方の評価軸である“主人公がカッコいい系かかわいい系か”に関しては、「再婚承認を要求します」の主人公・ナビエについて熱心な意見交換が行われた。
伊織は「私的にはめっちゃ“カッコいい”に入る」と迷いなく主張するも、小笠原が「確かに芯が強くてカッコいいんですけど、人知れず泣いちゃうところとかはかわいいんだよなあ。“カッコいい”に全振りしたくないところもありません?」と進言。三木副編集長も「ちょっと弱いところもあって、そこはかわいいですよね」と同調したため、一般的には“圧倒的にカッコいい”と認識されがちなキャラクターではあるものの、少しだけ低めの位置に落ち着くことに。
その他の作品については、「元夫の番犬を手なずけた」の主人公・ラインハルトを伊織と小笠原が口をそろえて「ダントツでカッコいい!」と手放しで絶賛したため限度オーバーの位置に置かれるなど、おおむね意見の食い違いもなくすんなり配置が決定。
結果、ほどよくバラけた分布図ができあがり、3人は納得の表情を浮かべるのだった。
ヒロインに“女性の憧れる女性”が増えている
小笠原仁 こうして見ると、左側のほうにシリアスで重めな話が多いですね。
伊織もえ そうかも。でも、読んでいて心がつらいのは「問題な王子様」とか「よくある令嬢転生だと思ったのに」とかだったので、それは右のほうに偏ってる(笑)。
三木美波(コミックナタリー副編集長) 傾向として、かわいい系よりもカッコいい系のヒロインが増えているんじゃないかとすごく思いますね。
伊織 増えてるー!
小笠原 “女性の憧れる女性”ですよね。
三木 まさにそう。仕事ができて、気高くて、芯がある。自立した女性像が読者に求められたり憧れられたりするようになった、ということなんだろうなと。
小笠原 時代の流れを感じますね。女性向けの恋愛マンガって、特にそれが強く反映されるジャンルなんじゃないかと思います。
三木 確かに、時代のムードや流行もしっかり入ってくるし、ジェンダー観なんかもけっこう色濃く表れる気がしますね。
伊織 それで言うと、お国柄も出ますよね。日本のマンガだとヒロインは前髪があることが多いんですけど、韓国の作品だとほとんど前髪がない。それはマンガに限らず、リアルの女性もそうで。“国民の初恋”と呼ばれているペ・スジさんとか、K-POPアイドルの人たちもみんなだいたい前髪ないじゃないですか。あってもシュッと分かれてたりとか。
小笠原 言われてみれば確かに! あ、でも「よくある令嬢転生だと思ったのに」のリゼとかは……。
伊織 リゼはメインヒロインじゃないから。
小笠原 あーそっか! 確かに、日本のマンガで“メインヒロインが前髪ない”は少数派かもですね。
伊織 そうなんですよ。カッチリ前髪を作るのが日本流なのかなあって。
小笠原 そう言われてみると、男性キャラにもそういう傾向ありそうですね。今回の15作品で言えば、ビシッと分けてる髪型の王子様がすごく多かった印象がある。
伊織 日本のマンガでいうM字前髪はほぼいない。黒髪&太眉至上主義みたいなところがある。
小笠原 リアルで無理なく再現できる髪型をみんなしてますよね。
伊織 だからおしゃれに感じるところもあるのかなって。洋服とかもリアリティあるから。
小笠原 洋服の描き込み、ヤバいですよね。何作品かで“皇后様がドレスを選ぶ”みたいな回がありましたけど、あの作画を見てると気が遠くなる(笑)。
伊織 そうそうそう! しかも全部カラーっていう。
小笠原 「軽い気持ちでスワイプできないよ!」って思っちゃいますね。
三木 軽い気持ちで読めるのがwebtoonのよさなのに(笑)。
“ざまぁ度”が高くて最高に楽しい
三木 今回マッピング対象となった15作品の中だと、どれが一番好きですか?
伊織 一番ですか? 「再婚承認を要求します」と……。
三木 「と」(笑)。
伊織 「元夫の番犬を手なずけた」「暴君皇帝と離婚します」「よくある令嬢転生だと思ったのに」が好きです。
小笠原 “一番”が多い(笑)。分布図で見ると、どれも主人公カッコいい系ですね。
伊織 カッコいい系、好きかも。
三木 こうやって視覚化されるとそれがよくわかりますね。
小笠原 やっぱり「再婚承認を要求します」のナビエは、あの強さが魅力ですもんね。
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「再婚承認を要求します」
皇后になるために育てられてきたナビエは、皇帝・ソビエシュとの政略結婚を果たし名実ともに“完璧な皇后”となった。しかしソビエシュが奴隷出身の女・ラスタに一目惚れしたことから彼女の人生は狂い出し、不当な扱いを受け続けることに。そんなナビエの前に1羽の鳥が現れて……。
伊織 うんうん。で、相手役のソビエシュがちょっとクズなので……。
小笠原 「ちょっと」かなあ?
三木 ちょっとどころじゃない説ありますね(笑)。
伊織 けっこうクズなので(笑)、ざまぁ度がちゃんと高くて最高に楽しいです。そのソビエシュの寵愛を受ける側室のラスタもわかりやすく嫌なやつなので、物語的にはすごくベタではあるんですけど、描写がしっかりしてるから納得感があるんですよね。なんでラスタがああなっちゃったのかというと、もともと純粋だから悪いものに染まるのも早かったんだな、ってスッと理解できる。辻褄の合わない部分がないから、安心して楽しめる作品だなと思いますね。
小笠原 ラスタ、嫌いになれないんだよなあ。
伊織 わかります! やらかしてるのを見るのはざまぁだし(笑)、見てて楽しいんだけど……。
小笠原 ソビエシュが絶対的に悪だから。
伊織 そう。あいつが全部悪い(笑)。
小笠原 もちろんラスタも読者のヘイトを集めるような行動を無限にするんだけど、それでも奴隷出身で底辺から這い上がった努力の人ではあるじゃないですか。やり方はまずいと思うけど(笑)、彼女は彼女で泥水すすってきたんだよなあと思うと全部を否定する気持ちにもなれないっていうか。
伊織 私はラスタのビジュアルは好きなんですけどね。最近のエピソードだと子供を産んでからはちょっとソビエシュから用済み扱いされ始めている感じもあって……ソビエシュ、本当にムカつく(笑)。
小笠原 幼少期のナビエとソビエシュの描かれ方がすごく美しいじゃないですか。あれを見させられると、あの2人の関係も絶対的に絶望とは思いたくない気持ちにもなってくるから、余計に今の状況が苦しいんですよね。
伊織 確かに……。でも、その美しい昔話をナビエが懐かしむのは全然いいんですけど、ソビエシュが持ち出してくるのは「お前ふざけんなよ」って思います。
小笠原 ナビエに対して「お前、変わったな」とか言うんですよね。一方的にもほどがある。
伊織 そんな悪意にさらされ続けるナビエが、ずっときれいな心を保ち続けているのが好きなんです。
三木 わかります! 気高いんですよね、ナビエって。
伊織 そう! 気高いし、ずっときれい。
三木 あと「再婚承認を要求します」って第1話が離婚劇から始まりますけど、その続きが語られるまでに80話かかるじゃないですか。
伊織 確かに(笑)。
小笠原 長かったですよね。
三木 長いんだけど、そこまでの過程をしっかり面白く読ませてくれる構成力が本当にすごいなと思ったんですよ。苦労話を楽しく読める感じが、ちょっと違うけど「おしん」みたいだなと。
伊織 「おしん」(笑)。確かに、苦ではないですもんね。80話って相当長いけど。
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ラブロマンスだけでなく、ミステリとしても楽しめる!?