「傷物語 -こよみヴァンプ-」乃木坂46・池田瑛紗が美大生の視点で紐解く“異質な演出”、現実に侵食してくるシャフトの映像の魅力とは

劇場アニメ「傷物語 -こよみヴァンプ-」が1月12日に公開された。「傷物語」は西尾維新の小説「化物語」の前日譚で、「〈物語〉シリーズ」の原点となる作品。「傷物語 -こよみヴァンプ-」は2016年に3部作としてアニメ化された「Ⅰ鉄血篇」「Ⅱ熱血篇」「Ⅲ冷血篇」を新たに再構成した総集編で、阿良々木暦とキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの出会いの物語が1つの劇場アニメとなって蘇る。

コミックナタリーでは、「傷物語 -こよみヴァンプ-」の公開を記念して「〈物語〉シリーズ」の原作小説も読破しているという乃木坂46の池田瑛紗にインタビューを実施。東京藝術大学に通う池田ならではの視点で作品の魅力が語られた。また、「〈物語〉シリーズ」のヒロインに乃木坂46のメンバーを当てはめるなら?という質問にも答えてもらっている。記事末には美麗な撮り下ろしフォトもたっぷり掲載しているので、最後までお見逃しなく。

取材・文 / 粕谷太智撮影 / 曽我美芽

「傷物語 -こよみヴァンプ-」 日本壹長イCM

「大人の階段を登っている!」小学生で深夜アニメと偶然の出会い

──今日は、池田さんが「〈物語〉シリーズ」がお好きだということで来ていただきました。作品との出会いはいつ頃だったんですか?

出会いは、小学生時代におばあちゃんのお家へ行ったときでした。おばあちゃんのお家で、夜中にたまたまテレビをつけたら、「こんな時間にアニメがやってる!」って。自宅だと夜中にテレビを観られなかったので、夜にアニメがやっているなんて知らなくて、それが深夜アニメとの出会いでもありました。

──運命の出会い!

親に隠れてこっそり観たっていうシチュエーションもあると思うんですけど、「これは大人の階段を登っている感じがするぞ」みたいなドキドキもあって(笑)。だからすごく印象に残ったんだと思います。でも、そのときたまたま観たアニメのタイトルがわからなくて。次の日に新聞のテレビ欄にかじりついて、アニメがやっていた時間帯の番組を全部録画して、そこから1つずつ調べて「これだ!」って、やっと「化物語」にたどり着きました。

──時代を感じる出会いでいいですね。

そうなんです! 今だったらネットで簡単に調べられるし、すぐタイトルが出てくると思うんですけど、そのときは「絶対にあのアニメを観たい!」という一心でした。

──原作小説に触れたのもその頃ですか?

TVアニメって週に1回しか放送されないじゃないですか。だから続きが早く知りたくて、原作の小説もすぐに買いました。書店でも今まで読んでいた児童書と全然違う場所にあるのにもドキドキして。

池田瑛紗

池田瑛紗

──銀のケースを外すと、カバーが真っ赤なのも中二心をくすぐりますよね。

真っ赤なカバーも印象的でした! この取材に向けて読み返していたら、同期の中西アルノちゃんに「なんで赤本持ってるの?」って聞かれました(笑)。

──はははは(笑)。でも、小学生で周りに「化物語」を観ている人はいたんですか?

いや、全然いなかったです。だから「私は先に大人になっちゃった!」って思っていました。それもあって、「これ知ってる?」みたいな感じで、ちょっとドヤッとしながらこれみよがしに原作を読み歩いたり……。今考えたら恥ずかしいです(笑)。

シャフトアニメの画面構成は一線を画している

──「〈物語〉シリーズ」のどこに惹かれたんですか?

原作小説は、登場人物の会話が話の筋から脱線、さらに脱線していって、情報量が本当に多い「密」の魅力があるんですよね。それで、文章と言葉が一気にぎゅーっと頭に入ってくる感じが、読んでいてすごく気持ちいいんです。アニメでは、それが逆に「抜き」の演出で表現されている「疎」の魅力があるなと私は思っていて。その落差がそれぞれの魅力で素敵だなって思います。ギャップが好きなので、キャラクターがコミカルに動いているところから、一気にシリアスな空気感で引き込む感じも好きですね。

池田瑛紗

池田瑛紗

──画面構成を観ているんですね。

はい。アニメやマンガでも、私の中で印象に残るのは画面構成とか構図なんです。いろんな作品を観たうえで、シャフトさんのアニメは画面構成がほかとは一線を画していると思っていて。中でも「抜き」の演出がすごいんです。自分がもしアニメ作品を作るとしたら、情報を詰め込んでしまうと思うんですが、いい意味で情報を詰め込まないで、視聴者に考える余白を与えるような画面の作り方をしているなって観ていて思います。

──具体的にここがすごいというシーンを教えてもらってもいいですか?

背景がメインになるシーンだったら建築に目がいきます。現実だとありえないものを、理想で描いていて、例えば学習塾の廃墟だったら、現実に即したものだとつまらない建物だと思うんです。そこに大樹を真ん中に生やして、カッコいい画作りをしているし、一面部屋のシーンを映すだけでも、奥までずっと床が続いていて。これはキャラクターの心象を反映しているのかなとか。そんなことを感じるシーンが好きです。本当に1つひとつが絵になるんですよね。

──東京藝術大学に通われている池田さんらしい目線ですね。そういう目線で観ていると、自分の創作にも影響があったりしますか?

ありますね。それに周りにもいました! 上手な作品を作る人がいて、その作品にシャフトっぽさを感じたんです。それで話しかけたら、やっぱりシャフト作品が好きで。シャフトさんがきっかけで仲良くなれました。

──普段からアニメを観るときに、アニメスタジオを意識していたんですか?

全然です。「魔法少女まどか☆マギカ」を観たときに、「〈物語〉シリーズ」と画作りが似ていると思って。そこから調べて、アニメスタジオの個性だと知って納得しました。やっぱりその2作は特に異質だったので。

暦くんになってひたぎちゃんの愛を一身に受けたい!

──ストーリーについても聞いていきたいのですが、印象に残っているエピソードはありますか?

「猫物語(黒)」は衝撃を受けました。アニメのブラック羽川がかわいいというのもあるんですけど、原作の「死んじゃえ。」のシーンが初めて見たときにぶったまげて。

池田瑛紗

池田瑛紗

──「死んじゃえ。」の文字がずっと並ぶあのシーンですか。

急にページ一面に「死んじゃえ。」の文字が出てきて、数えたら560回も言っているんです。小説でそんな表現を観たのが初めてだったので、すごく印象に残りました。あと、(八九寺)真宵ちゃんの噛みましたシリーズも好きですね(笑)。

──八九寺の間違いに対する(阿良々木)暦のツッコミもいいですよね。

真宵ちゃんの「良々々木(らららぎ)さん」に、「ミュージカルみたい歌い上げるな」って返すのとか。あのツッコミは暦くんの一番の魅力だと思っています。真宵ちゃんは物語が重くなってきても、明るいシーンで登場することも多くて、癒やしですね。

──今、八九寺の名前も出ましたが、「〈物語〉シリーズ」の推しキャラを1人挙げるとしたら誰になりますか?

(戦場ヶ原)ひたぎちゃんです。ツンデレで、偏屈って言っていいほどの性格なのに、暦くんに対しては、ものすごくまっすぐな愛を向けているじゃないですか。それがたまらないんです(笑)。でも、最初に好きになったのは(羽川)翼ちゃんでした。委員長ですごく頭がいいっていうのに憧れて、私もすごく勉強をがんばったりして(笑)。

「傷物語 -こよみヴァンプ-」より、羽川翼。

「傷物語 -こよみヴァンプ-」より、羽川翼。

──すごくいい影響の受け方! 羽川は成績が常に学年トップの優等生ですからね。

眼鏡がうらやましくて、私も真似て眼鏡をかけたりもしてました! でも途中で眼鏡外しちゃうんですよね……。

──そこから戦場ヶ原推しになった心境の変化はなんですか?

初めて読んだときは、読者の視点で翼ちゃんが好きだったんです。でも、読み返したら、自分が暦くんになって、ひたぎちゃんから愛を向けられたい!と思うようになって(笑)。

──あの愛され方がうらやましくなる気持ちはわかります。

もう嫉妬に近いかもしれないです。ときどき暦くんに対して「もっと素直に愛を受け取れ!」って言いたくなります(笑)。