女装が趣味の地味男子×イケメン王子様、「女装男子が自分の原点」と語るチチカカ池インタビュー

女装が趣味の地味な高校生・山野一太が、クラスメイトのイケメン・如月君と、女の子のふりをして会うようになったことから展開されるラブコメディ「日曜日のいちごちゃん」1巻が、一迅社より発売された。2022年1月にチチカカ池が自身のTwitterに公開し、話題を集めた作品が書籍化に至った。

コミックナタリーでは1巻の発売を記念し、著者・チチカカ池へのインタビューを実施。「女装男子が自分の原点」と語るチチカカ池に、「日曜日のいちごちゃん」を生み出した経緯から、書籍化までの道のり、そして今後の展開まで語ってもらった。

取材・文 / 増田桃子

スランプに陥って初めて、女装男子が自分の原点だと気付いた

──「日曜日のいちごちゃん」はもともとご自身のTwitterで公開された作品です。まずはこの作品がスタートしたきっかけを教えてください。

「日曜日のいちごちゃん」を描き始める前、別の作品を連載していたんですが、あまりうまくいかず、そろそろ連載も終わるんだろうなと思っていて。当時、自分は一体何を描きたいんだろうとか、マンガを描くこと自体が向いていないじゃないかと悩んでいて、スランプ状態に陥っていたんです。そんなとき、いろんなマンガ家さんや編集さんのインタビューを読んでいたら「スランプになったら原点に戻れ」という言葉があって。自分の原点はなんだろうと考えたとき「女装男子だ」と気付いて。それが描こうと思ったきっかけです。

──女装男子が原点、というのは好きだからということでしょうか。

はい。ただ、そのときは自分が女装男子が好きという自覚はなくて。自分の原点ってなんだろうって考えて考えて、過去の記憶も掘り起こした結果、そういえば子供の頃に好きだったキャラクターに女装してる子がいたなとか、かわいい系の男の子が多かったなってことに気付いて。無意識のうちにそういうキャラが好きだったんだって思ったんですよ。それで「女装男子が原点なのかも?」と。

──スランプに陥って初めて、ご自身が女装男子が好きっていうのを自覚したんですね。

はい(笑)。

──チチカカ池さんが考える、女装男子のよさはどんなところだと思いますか?

普段は普通の男の子なんですけど、女装したときに美少女に変わる、そのギャップがあるところですね。例えば「日曜日のいちごちゃん」の場合は、一太君のときは地味で冴えない男の子なんですけど、メイクをしてかわいい服を着るととびきりの美少女に生まれ変わる。ギャップが大きいほうが好きなんです。

「日曜日のいちごちゃん」より。

「日曜日のいちごちゃん」より。

「日曜日のいちごちゃん」より。

「日曜日のいちごちゃん」より。

──なるほど。作品をご自身のTwitterで公開しようと思ったのは、どんな理由があったのでしょうか。

自分が描きたいものがほかの人にとって面白いのかどうかを確かめてみたかったんです。商業の世界では、自分の好きなものだけを描くことはなかなか難しいというか、自分の好きなものだけを描いてもなかなかたくさんの人には読んでもらえないものだと思い込んでいて。でも、とにかく描きたいものを描いて公開してみて、そこで皆さんの共感を得られたら、自分の描きたいものがお仕事でも描かせてもらえるんじゃないかなと思って。

私の中のイケメンは基本ブルベです(笑)

──「日曜日のいちごちゃん」は、一太君とクラスメイトの如月君との関係を軸としたお話です。それぞれのキャラクターを作るうえで意識したことはありましたか?

一太君は女装したときとのギャップを出したかったので、わかりやすいぐらいの冴えない男の子にすることを意識しました。如月君は誰が見てもイケメンで、少女マンガに出てくるような王道の王子様にしようと思って。もともとちょっと色素が薄い系のイケメンが好きなので、如月君は肌が白くてブルベのイメージですね。逆に一太君はイエベ。自分の中で、かわいい子はイエベ、イケメンはブルベっていうのがあって(笑)。だから、髪色も如月君は黒髪に青っぽい色を混ぜてます。細かいところなんですけど、フルカラーのマンガなので、気付かれなくてもいいから自分の好みで区別を付けようと思って。

──確かに一太君と如月君を見比べると、髪の毛や肌の色が微妙に違います。モノクロだと肌の色の微妙な違いは描き分けしづらいですし、それはフルカラーの強みですね。でも、ここでイエベ・ブルベという言葉が出てくるとは驚きました(笑)。

メイクでもイエベはかわいい系、ブルベはキレイ系っていう印象があると思うんですが、私の中のイケメンは基本ブルベです(笑)。如月君と一緒に“GGT(顔面激強トリオ)”として出てくる伊織君という子も、カッコいい系で押していきたかったのでブルベですし、もう1人の緑士君はかわいい系かなと思ったのでイエベにしました。私自身はメイクとかにはそれほど興味がない人間なんですけど、フルカラーで描いているので、キャラクターのベースの色とかはけっこう気にしながら描いてます。

「日曜日のいちごちゃん」より。

「日曜日のいちごちゃん」より。

「日曜日のいちごちゃん」より。

「日曜日のいちごちゃん」より。

──なるほど、とても興味深いお話をありがとうございます。ちなみに性格的な部分で気を付けていることは?

性格に関しては、基本的にあまり意識していることはなくて、基本的に思い付いたまま描いていますね。過去に描いてきた作品では、自分と主人公のキャラクターの考え方や性格がかけ離れていたこともありけっこう悩みながら描いていたんですが、「日曜日のいちごちゃん」ではあまり悩むことがないです。たぶん、一太君は自分と似てるところがあるので、それほど考え込まずに描けるんじゃないかと思います。ただ、かなり癖のある性格ではあるので、たまに操縦しづらいというか、扱いづらいなと思うことはありますが(笑)。

──如月君はどうですか?

如月君は本当に完璧な王子様キャラとして作ったので、「一体、今何を考えているんだろう?」って悩んだときもあったんですけど、でも彼も内面は普通の男子高校生なんだよねと思うようになってからは動かしやすくなりました。今は一太君より如月君のほうが動かしやすいかもしれません。一太君は癖の強いキャラクターにしてしまったので、なかなか本心が捉えづらいところがあるんですけど、如月君は基本的に純粋というか、まっすぐな性格なので、考えを素直に表現できるんですよね。

──その2人も含め、登場人物の中で特にお気に入りのキャラクターは誰でしょうか。

主人公の一太君です、と言いたいところなんですけど、一太君の姉の二千佳ちゃんが好きですね。二千佳ちゃんは、一太君が大きな壁にぶつかったときに笑顔で手を差し伸べてくれるような存在として登場させたかったキャラクターで。一太君は一見、能天気に生きているように見えて、同級生にいじられることとかを気にしたり、落ち込みやすい部分があるんですよ。でも、そういうときに二千佳ちゃんのような常に明るくて前向きなお姉ちゃんがそばにいてくれたら、救われるだろうなと思って。私も二千佳ちゃんみたいな友達がいたらいいのにな、と思います。

「日曜日のいちごちゃん」より。

「日曜日のいちごちゃん」より。

「日曜日のいちごちゃん」より。

「日曜日のいちごちゃん」より。

──確かに、一太君が女装の趣味をポジティブに捉えられているのも、二千佳ちゃんの影響がありそうだなと思いました。

2人のお母さんが出てくるシーンもあるんですけど、お母さんも一太君が女装することを当たり前に受け止めてくれる人で。「日曜日のいちごちゃん」では、主人公の一太君に対して否定的なことを言うキャラを出したくないっていうのがあって。一太君がやりたいと思ったことをさせてあげたいし、一太君の周りにはそれを「いいね」って受け止めてあげる優しい人だけがいてほしいんです。

──ちなみに読者の方から人気のあるキャラクターは誰でしょうか?

少し意外だなと思ったのは、バレー部キャプテンの京ちゃんですかね。割とフツメン扱いで登場させたキャラクターなんですけど、「京ちゃん先輩が一番カッコいいのに」という読者の方がけっこういてくださり(笑)。GGTのイケメンたちはちょっと癖の強さがあるけど、京ちゃんはナチュラルなイケメンではあるので、人気の理由もわかるなと思いました。

「日曜日のいちごちゃん」より。

「日曜日のいちごちゃん」より。

「日曜日のいちごちゃん」より。

「日曜日のいちごちゃん」より。

──意外なキャラクターが人気になるのも面白いですね。

面白いです。でも、私ももし付き合うならGGTより京ちゃんだなと思って納得しました(笑)。