16歳になるとさまざまな動物神から加護を得られる世界を舞台に、戦闘系最強と言われる“ゴリラの神”を引き当てた気弱な伯爵令嬢ソフィア・リーラーの成長を描く恋愛ファンタジー「ゴリラの神から加護された令嬢は王立騎士団で可愛がられる」(以下「ゴリラの加護令嬢」)。シロヒの小説を神栖みかがマンガ化した同作は、現在KADOKAWAの“まだ見ぬファンタジックな異世界生活を体感することができる”コミックレーベル・FLOS COMICで連載されている。
そんな「ゴリラの加護令嬢」が、9月24日の「世界ゴリラの日」に、2025年にTVアニメ化されることが発表となった。これを記念しコミックナタリーでは、原作者のシロヒ、マンガを担当する神栖、そしてアニメでソフィアを演じる中村カンナ、ソフィアを見守る有望な若手騎士・ルイを演じる大塚剛央のインタビューをセッティング。
メインキャラクターであるソフィアとルイの誕生秘話や、キャストの2人が感じるキャラクターの魅力、自身の加護も演じることになった中村によるゴリラの声の印象など、動物たちの加護と個性豊かな登場人物の面白さが相まった作品の話をたっぷりと語ってくれた。記事後半にはシロヒと神栖からキャスト2人への質問も。アニメの放送が待ち遠しくなる内容満載だ。
取材・文 / 阿部裕華
問題を魔法ではなく物理(力)だけで解決したかった
──まずはソフィアとルイの誕生秘話をお聞かせください。ソフィアの「ゴリラの神から加護を得る」という設定は、最初から決まっていたのでしょうか?
シロヒ 実は決まっていませんでした。まず作品を書くうえで、問題を魔法ではなく物理(力)だけで解決するお話にしたいと思ったんですね。なんでしょう、私も疲れていたんですかね……(笑)。
神栖みか・中村カンナ・大塚剛央 いやいやいや!(笑)
シロヒ (笑)。そこで、「力が強い」からいろいろと連想していった先に、ゴリラが思い浮かびました。「力が強い=ゴリラ」かな、と。さらに、ゴリラと令嬢を結び付けたら面白いのではないかと考え、「ゴリラの神から加護された令嬢」の設定が生まれました。また、ソフィアをいじめる同級生のカリッサは、最初メインキャラクターの1人にしようと考えていて。最強の神の加護を授かったソフィアとカリッサの2人が、大人しい加護のルイくんを取り合うという話でした。
神栖・中村・大塚 へえ!
シロヒ ただ、その設定だとストーリー的にうまく恋愛へシフトしていかず……それなら、ゴリラの加護令嬢だけをメインにして、逆ハーレム的な話にしてみようと方向転換したところ、うまく恋愛要素がハマっていったんです。また、いざその設定で書き進めたら、ゴリラは力が強いけど気の優しい生き物だということを知りました。ソフィアのキャラクター性に合っていたなと、今となっては運命を感じています。
──ソフィア、カリッサ、ルイの三角関係からソフィアを主人公に据えた逆ハーレムへ設定を変化させる過程で、ルイの設定にも変化があったのでしょうか?
シロヒ 今の加護とは異なる加護の設定でした。ただルイに関しては、正直自分でもなぜこういうキャラクターになったのかわかっていなくてですね……。自然とこういう子が生まれていった感覚があります。いわゆるスパダリや俺様ではなく、がんばる女性のそばに立って意志を尊重する「現代の男の子」と思って書いています。本当はもっと有能な男性キャラのほうが人気が出ると思うのですが、何せゴリラが強すぎるので(笑)。どうやっても力では勝てないんですよね。であればと、それ以外の部分でソフィアを助けられるキャラクターとして自然とできあがっていきました。
大塚 「ゴリラの加護令嬢」は登場人物たちが得た加護を使って問題を解決するお話ですが、最初にキャラクターの加護を決めてからストーリーを決めていくんですか? それともストーリーが最初に決まっていて、そこに加護を当てはめていくのでしょうか。
シロヒ 場合によっては調整することがありますが、ご都合主義的に加護を出したくないなとは思っていて。ただある程度は“画映え”する加護を選ばないととは考えています。
ソフィアは美しさとかわいさ、ルイは美しさと爽やかさを意識
──マンガを担当する神栖先生へはソフィアとルイのキャラクターデザインについてお伺いしていきます。原作にビジュアルの説明が細かく描写されていますが、それ以外でキャラデザを手がける際に意識したポイントはありますでしょうか。
神栖 おっしゃった通り、小説の中にビジュアルに関する説明が細かく書かれています。なので、まずは作中に描写されているソフィアとルイの容姿に関する情報をすべて抜き出して、眺めるところから始めました。ソフィアの容姿は、「背が高い」「凹凸がないスレンダーな体型」「顔の素材がいい」と書かれていたので、かわいいイメージよりは美人なイメージでデザインを描いていきました。ただ、内面は賑やかでいろんな表情をする子でもあったので、外見が美人ではあるけど内面はかわいらしいという、美人とかわいさの両立を意識してデザインしています。
──ルイはいかがでしたか?
神栖 ルイはとにかく「美貌」というワードが多くて(笑)。「麗しい美貌」「一点の曇りもないその美貌」「本当に恐ろしいほど整った美貌」など。イケメンといってもいろんな系統のイケメンがいると思うのですが、ルイは美形寄りのデザインにすることは最初から明確に決まっていました。とはいえ、「美しい」というワードに引っ張られ過ぎてしまうと、まつ毛バシバシでシュッとしている優美なデザインに寄ってしまう。それはルイのイメージとは若干違っていたんですね。どちらかというと爽やかで親しみやすいタイプの子だとも思ったので、美しさと爽やかさの塩梅を意識しながらデザインを考えていきました。
──神栖先生のキャラデザをご覧になったとき、シロヒ先生は率直にどう思われたのでしょう。
シロヒ 私の脳を見られていると思いました(笑)。例えば、アイザックは一度もリテイクしていないです。「これです!」という感じでした。ルイは髪型を決めるのに迷いがありましたけどね。
神栖 髪型のデザインは何パターンかありました。襟足長めとか、ちょっとふわっとしているとか。
シロヒ とはいえ、最初からすごく素敵なデザインを出してくださったので、ほとんど直しをした記憶がないです。
中村 ソフィアのキャラクターデザインはすぐに決まったんですか? それこそ髪型とか……。
神栖 小説に「長い赤毛」と書かれていたので、髪型はすんなり決まっていきました。
シロヒ 悩んだのは、ポニーテールの先を巻くか巻かないか、くらいでしたよね。
神栖 そうですね。結局自分でアイロンとかかけなさそうだからと、巻かないデザインにしました(笑)。
シロヒ そうそう(笑)。それ以外は何の手直しもなく進めました。
中村初挑戦の内気キャラ、こだわったのは「……」の表現
──先生方から誕生秘話を語っていただいたソフィアとルイですが、ソフィア役の中村さんとルイ役の大塚さんはご自身が演じるキャラについてどのような印象を抱いているか教えてください。
中村 ソフィアは、アフレコ台本に「……」が想像以上に多いんです!(笑)
シロヒ・神栖・大塚 あははは!
中村 要するにセリフの間や尺が長いということなのですが(笑)。私はこれまで元気っ子キャラを演じることが多く、ソフィアのような内気キャラを演じることは初めてでした。とはいえ、ソフィアの脳内はワチャワチャしているから、そこの緩急はつけなきゃと台本を読んだときに思ったんですね。なので、私なりの内気キャラの演じ方は、「……」のように本当は何かを思っているけど口に出せない繊細な部分を一粒一粒、それこそガラス細工に触るように意識して演じようと思いました。
大塚 ルイは爽やかで紳士的なキャラクターです。そこが嫌味に見えてしまったらダメだから、「爽やかで紳士的」の印象から逸れないようにすることは意識しました。だけど、それって騎士としての立場があるから完璧に見えるのであって、プライベートやソフィアの前ではすごく等身大で親近感の湧くキャラクターなんですよね。第1話のアフレコで追崎史敏監督や音響監督の立石弥生さんにディレクションをしていただきながら、しっかりとギャップをつけられたらと考えて演じました。その塩梅を探るのは難しかったです。なので、僕の中でルイというキャラをつくり上げていくという意味でも第1話のアフレコは大きな機会でした。演じていてすごく楽しかったです。
──ソフィアは心優しく関わる人たちから好かれていくのに無自覚、ルイは紳士的で優しい性格のため周囲からモテるのに気づいていない、と2人ともいい意味で「天然タラシ」なキャラクター。演じる側としてもついつい“推して”しまう、それぞれの魅力ポイントがありましたらお聞きしたいです。
中村 ソフィアって誰に対しても初対面では下から伺うような感じなんですよね。つまり誰に対しても平等な接し方をしている。個性豊かな登場人物ばかりですけど、「この人だけにはこういう接し方をしている」ということはなく、同じ目線で優しく接する。そういう、人によって接し方を変えないところはすごく素敵だなと思います。ルイについては先ほどのキャラクター誕生秘話にあった「スパダリや俺様ではなく、がんばる女性のそばに立って意志を尊重してくれる」というシロヒ先生の言葉を聞いて「確かに」と思ったのですが、アフレコまでルイの声があまり想像できていなくて。第1話のアフレコで大塚さんの演じるルイの声を聞いたら、いい意味で素朴というかナチュラルな感じだったので、ルイって“素朴”な子なんだと気づきました。大塚さんの声と相まって、その“素朴さ”がルイの魅力だと思います。
大塚 ソフィアもルイもですけど、嘘をつけないところが魅力的だと思います。主人公のソフィアを筆頭に、本作の登場人物たちは本当に心優しいキャラクターが多くて。心優しいけれども、自分の中にしっかりと信念があり、立ち向かう勇気がある。第一印象はオドオドしているように感じても、だんだんいろんな表情が見えてくるので、これはみんな惹かれていくのではないかと思いました。
ソフィアとルイは出会うべくして出会った
──「ゴリラの加護令嬢」は、ソフィアとルイの関係性が見どころの1つだと思います。キャストのおふたりは演じている中で、2人の関係性をどのように感じていますか?
中村 ソフィア的に、ルイ先輩の第一印象は「たくさん取り巻きがいる人」だったと思います(笑)。憧れるし素敵だなと思うけど、自分からは絶対にいけない。そういうところはかわいいし、共感もします。あれだけ取り巻きがいたら、それはいけないよねと(笑)。
大塚 ルイが気づいているかいないのかわからないのですが、ルイはソフィアへすごくシンパシーのようなものを感じていると思うんですよね。だから、ルイはソフィアへ惹かれていくのではないかと思っていて。そういう意味では出会うべくして出会ったのかなと感じています。最初はハマっていなかったパズルのピースが、距離が近づいていくことでカチッとハマっていく感覚がありました。
──大塚さんから「出会うべくして出会った」と出てきましたが、ソフィアとルイの関係性はそういった部分を意識して書かれたのでしょうか。
シロヒ あまり意識はしていなかったです。私の中で、「ゴリラの加護令嬢」は少し特殊なお話で。基本的に物語を書くとき、がっちりプロットを立ててから書くのですが、「ゴリラの加護令嬢」はキャラクターにお任せしているところがあります。なので、ソフィアとルイの関係性は私が意図していない方向へ進んでいった感覚です。そういう点で、すごくリアルな恋愛に近いかもしれません。「この設定のストーリーでタイミングよく知り合ったソフィアとルイがたまたまこういう関係性になった」という感じですね。
──作者の意図しないところでキャラクターが物語を動かしているということですね。一方、コミカライズをするうえで、ソフィアとルイの関係性で意識しているポイントはありますか?
神栖 こっちがもどかしくなるくらい2人ともめっちゃ初々しいんですよね(笑)。マンガを描いている側も、「早くくっつけよ!」と思ってしまうから、読者の方たちにも2人の背中をつい押したくなってしまうような空気感を描けたらと思っています。私自身、2人の背中を押しながら描いています(笑)。
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“オンリーワン”なゴリラの鳴き声