「ドロ刑」福田秀×石田明(NON STYLE)対談|関係性を愛することで深まるコンビの魅力

井上が笑うのがうれしい

石田 最初に「ドロ刑」を読んだとき、基本的に主人公は斑目で、煙鴉はポイントポイントで出てくると思っていたんですよ。そうしたら毎話登場して、斑目にベタ付きでタッグを組んでいるじゃないですか。斑目と煙鴉のダブル主人公として描かれているんですか?

「ドロ刑」第1話より。斑目をおちょくり手玉に取るハルト。

福田 自分ではそのつもりで描いています。自分の中で絶対的な価値観を持っているキャラクターがいたとして、その価値観を誰かに崩されてしまうというシチュエーションを描きたいと思っていて。そういうバディ2人の関係性が好きなんですね。

石田 自分でも思っていなかった自分が、相方によって引き出されるみたいな。

福田 はい。なので、「ドロ刑」では互いにとって特別になった2人を見せられたらいいなと思っているんです。今の段階では何か事件が起きたら、2人とも自分のことを優先するだろうという状態なんですけど、今後はそれが切り崩されて相手を優先してしまうような状況を描いていけたらと。

「ドロ刑」第3話より。斑目はハルトを「絶対に捕まえてやる!!」と意気込む。

石田 斑目の「煙鴉を絶対に捕まえてやる」っていう熱を、煙鴉がなんなく受け流しているのが、漫才の視点から見ると最高なんですよね。例えば僕が井上に対してボケ続けて、それを受け流され続けても、どこかで井上を「クスッ」と笑わせられる瞬間がくれば、ドカーンって盛り上がるんですよ。それと同じで、斑目を受け流し続けていた煙鴉がどこかでその熱を食らってしまったら、爆発するんでしょうね。

福田 漫才中に石田さんのボケで井上さんがクスッと笑ったとき、石田さんはすごいうれしそうにしてらっしゃいますよね。

石田明

石田 そうなんです。うれしいんですよ(笑)。俺の中では「ドロ刑」で言えば、井上が煙鴉なんでしょうね。あいつはなんでもサラッとこなしたいというか、ムキになるのをカッコ悪いと思っている中学生みたいなやつで。僕のほうがムキになっちゃうんですけど、その熱が伝わったときの快感たるや(笑)。でもあいつが「クスッ」って笑ったときって、観客からは結局あいつがかわいく見えちゃうのが腹立つんですよね。「俺がこれだけがんばってるのに、最後はお前の手柄になるんかい」って(笑)。

芸人の関係性はダウンタウンさんが一番

──インタビューの冒頭で、福田さんは「NON STYLEのおふたりの関係性も好き」とおっしゃっていましたが、具体的にはどういう部分に惹かれるんでしょうか。

「ドロ刑」のカラーカット。

福田 Amazon Primeの「Prime Video」で過去に配信されていたNON STYLEさんのDVDで、おふたりが二人三脚の状態で24時間一緒に過ごすというのを観たんですよ。普段は石田さんがしっかりしていらっしゃって、井上さんが弟気質だと思っていたんですけど、その映像だとその2人の関係性が逆転していて。そういう関係性が面白いなと思いましたね。

石田 僕の中では、芸人の関係性ってダウンタウンさんが一番だと思っているんですよ。お互いが言ったことに対して、それぞれがずっと笑っているじゃないですか。それが僕の理想。芸人って仲良くないと面白くないし、舞台ではじゃれてないとダメだと思うんです。あの二人三脚で24時間過ごす映像を撮っていたときも、井上は放っておいたら不機嫌になるので、僕が弟っぽくじゃれていったんです。

福田 そうだったんですね(笑)。

石田明

石田 すごい不機嫌になるんですよ(笑)。視聴者からしたら、僕がそんなふうに絡んでいたらおかしな奴に見えるかもしれないですけど、僕まで不機嫌になっちゃったら面白くないし、僕は井上が笑ってくれるのが楽しいので。

福田 井上さんが事故を起こしてしまったときも愛のあるいじりをされていたので、ああいう関係性もすごく好きです。

石田 いや、井上に対して愛は全然ないんですけどね(笑)。

感情が爆発する瞬間に嘘はない

石田 僕がこのマンガを読んで「この作品は信用できるな」と思ったのは、第1話で常習窃盗犯の啄木の正が取り調べ中に感情を剥き出しにするシーンなんですよ。

「ドロ刑」第1話より。啄木の正はプライドをくすぐられ、犯行を自供してしまう。

──盗みの技術に絶対のプライドを持っている啄木の正は、自身が過去に関わった窃盗の案件と杜撰な窃盗の手口を一緒くたにされて激昂していますね。

石田 人間って何かしらの目的を持って行動をし続けている生き物だと思うんですよ。でもその目的が見えなくなっちゃうときがあるとしたら、それはあのシーンのように感情がストレートに出てしまったときだと思うんですよね。

──確かに啄木の正は余罪があることを認めないという目的のために取り調べで黙秘を続けていましたが、自身のプライドを刺激され結局すべてを自白してしまいます。

石田 そこには嘘がないんですよね。自分で舞台の脚本を書くときもそういうシーンは大切にしたいと思っています。実は舞台の脚本を書くようになってから、NON STYLEの漫才も変わってきたんですよ。

福田 どう変わったんですか?

石田明

石田 受け手のことを考えるようになったんですよね。それまでって僕が言いたいことを言うだけで、そのために井上が存在していた。言ってみれば井上は僕の一番のサクラだったんです。

福田 ははは(笑)。

石田 それが台本だからということではなく、井上が本当に言いたい言葉をネタに組み込んで、僕がそれに対して返すようになったら、自然な会話が成立するようになったんです。その中で生まれたネタが、NON STYLEがよくやっている、僕がひとつのフリでボケ続けるっていうものですね。

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盗られたモノは捕り戻す! 《泥棒×刑事》、異色の《相棒》捜査線! 明日から試せる防犯テクニックも充実の第1巻!!

福田秀(フクダシュウ)
埼玉県出身。ミラクルジャンプ2014年11月号(集英社)に、読み切り「JUMP OUT」が掲載されデビューを果たす。その後週刊ヤングジャンプ2016年1号(集英社)に「ハイヒール」が掲載され、同誌2018年5・6号より「ドロ刑」を連載している。
石田明(イシダアキラ)
石田明
1980年2月20日生まれ、大阪府出身。中学、高校の同級生である井上裕介と結成したNON STYLEではボケとネタ作りを担当しており、2000年にプロデビューを果たす。2006年に行われた第4回MBS漫才アワードで優勝し、以後多くの漫才コンクールで新人賞を獲得する。2008年には活動拠点を東京に移すとともに同年のM-1グランプリで優勝し、4489組の頂点に輝く。近年は漫才、テレビ出演のほか、舞台や映画の脚本、演出なども手がけている。7月14日から16日にかけて東京・有楽町のオルタナティブシアターにて、ザ・プラン9の久馬歩とともに脚本・演出を担当した舞台「モニタリンGood!~それが大事~」が上演に。さらに作・演出を手がけ、自身も出演する「ももたろう」を題材にしたヒーローショー「幼児・小学生・戦隊ファン向け 夏休み企画 ももたろう」が、東京・ルミネtheよしもとにて7、8月に公開される。いずれのチケットもチケットよしもと、チケットぴあ、ローソンチケットにて販売中。