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コミックナタリー PowerPush - サラ イネス「誰も寝てはならぬ」

祝・完結! ベールに包まれた全貌を明かす キャリア初の17000字ロングインタビュー

似顔絵を投稿してたら、その雑誌から仕事が来るように

──最近も読まれないんですか、掲載誌とか届くと思うんですが。

読まないようにしてるんです。モーニングなんて読んだら面白いマンガばかりですよ。だから無意識に真似してしまうと思う。それが怖くて、読まないんです。

──さっき思わず「誰にも似てない」と言ってしまったのですが、そんなところにも理由があったのですね。最初にマンガらしいマンガを描いたのは、デビュー作「水玉生活」のときですか?

そう。さっきすっ飛ばしてしまいましたけど、大学出てブラブラしてる頃にね、オートスポーツの読者投稿を見てたら私のほうが絵うまいんちゃうかなとか思って(笑)、似顔絵を投稿してたんですよ。そしたらなんか面白がってもらえて、カットとか4コマの仕事が来るようになって。担当の編集者の方に恵まれたんですよ、F1ドライバーの片山右京さんの奥さんになった人ですけど。

──それがプロデビューになるんですね。

そしたらモーニングにいた方が、元ヤンだか走り屋かなんか知らんけどオートスポーツ読んでて、なんかおもろい絵描く奴がいるっていうんで見つけてくれて。編集長に言ったら「おもろいからやらしてみいや」って言われたらしくて、なんか作品があったら持ってきてくださいって言われたんですけど、そんなのないんですよ。

──イラストの仕事してるわけですからね。

サラ イネス「誰も寝てはならぬ」

しゃあないから鉛筆で絵日記みたいなの描いてたの持って行ったら、そのままでくださいと言われて。それが「水玉生活」。そんなだからどうやってマンガ描いたらいいのかわからなくて、「水玉」の頃はコマ割りもいろいろ、大ゴマとか試したりもしていたんですけど。それが「豆ゴハン」の連載が来て、慌ててどうしようと思って、じゃあめんどくさいから毎回同じに、と。だから最初の頃はたまにちょっと変わったりとかしてるところもあるんですよ。

──繰り返しになりますが、安定感あって、しかも独特のコマ割りです。

ありがとうございます、私はただただ、早いことが原稿が描けるように(笑)。

シナリオの書き方もわからないんで、こんないい加減な話ない

──では原稿ができあがるまでのプロセスを教えていただけますか。

えー、チラシの裏に、ずっと描いていくだけですね、セリフを。それこそト書きみたいなのを書いていくんです。ト書きで誰々が何々してるみたいなことを書いて、33コマ分(「誰も寝てはならぬ」の基本フォーマットは扉ページが3コマ+残り5ページが6コマ=33コマ)。

──ほんとにチラシの裏じゃないですよね(笑)。

さすがにね(笑)。や、でもチラシの裏に書いたことあったな。紙を半分に折ってまずタテにビーッと線を引いて、横に誰々が何言ったとか書いては区切り線を引いてくんです。そんで、1、2、3、4って何コマ目かカウント付けていって。たまに40コマぶんも書いちゃったっていうんで、削っていったり。

──そのシナリオ状態のときに、コマごとへの割り付けができてるんですね。

とりあえず33コマに収まるようにね。でも連載も最後の頃はネタが出てこなくて、17コマ目とかで止まってしまうことがよくあったんですよ。そうすると担当さんに電話掛けて、ここで止まってんねんけど、って相談すると「じゃあここをこうしたらいいじゃないですか」なんて言われて。

──そのシナリオには人物名とセリフと、何してるかが書いてあるんですか。

サラ イネス「誰も寝てはならぬ」

よっぽど印象的な場面の場合は、こう2人が向き合ってる図、みたいなスケッチも描いておいたりはしますけど。だいたいセリフでやっていきますね。それがだいたい1枚半か2枚くらい。シナリオの書き方も私よくわからないんでね、こんないい加減な話ないですよ(笑)。

──その33コマぶんのシナリオの次は?

もう、すぐネームに起こして。

──ネームってどんな大きさなんですか。

18×27cmって、原稿のサイズです。

──え、それって下描きじゃなくてネームが原稿サイズなんですか。

ネームも下描きも一緒のサイズです。それで送ってOKが出たら、そのネームをきれいに描き直して、それが下描き。あとはトレースして描くだけ。ちょっとね、17巻の最後のへんなんかは非常に身体が疲れてたんで、下描き飛ばしてそのまんまトレースしたりしたんでね、ちょっと酷い絵のところあります。

休まれなかったじゃない、休ましてもらえなかった

──しんどかったですか。

しんどかったですね。年末に人間ドックに行って、そしたら血液の電解質に異常ありって書いてあって。カリウムが不足してて、要は戦前の欠食児童と同じ血液だと。ろくに食事も摂らずにやってたんですよ。

──最近は隔週とか何週やって1週お休みとかもありますけど、サラさんずっと週刊で休まれなかったじゃないですか。

サラ イネス「誰も寝てはならぬ」

休ましてもらえなかったの。休まれなかったじゃない、休ましてもらえなかった(笑)。

──ものすごいヘビーな仕事だと思うんですけど、1週間をどんな風に過ごされてたんですか。

理想としては、月曜日か火曜日ぐらいまででネームを取りまとめて、原稿描くのに4日掛かりますから、水木金土と。土曜にバイク便出して渡す。

──そうすると日曜休める。

理想ですよ! それがどんどんどんどん後ろにずれていって、渡すのが次の週の月曜日か、火曜日の午前中にまでなってたんですよ。

──アシスタントさんは?

ぜんぶ1人ですね。基本的に人と折り合いが悪いんで(笑)、1人でできる仕事っていうんで絵を描く仕事を選んだんで。さすがに旦那が見かねてベタを塗ってくれたりとかってのはありますけど。ここ1~2年は慢性的にずれ込んでたんでね、家族は土日休みなのに、私ひとりずっと仕事してる、みたいな状態が続いていたんです。

──それはしんどかったですね。

体調の波もあるしね。なにより視力が落ちます、35過ぎたらほんと。

──や、ほんとにお疲れ様でした。しばらく休養をとっていただいて。ときに、画材を伺ってもいいですか。

サラ イネス「誰も寝てはならぬ(17)」 / 2012年1月23日発売 / 570円(税込) / 講談社 / Amazon.co.jpへ

  • サラ イネス「誰も寝てはならぬ(17)」表紙画像
あらすじ

イラストレーターのハルキちゃんと、デザイン事務所社長のゴロちゃん。エエ年こいた大阪男が、東京は赤坂のオフィス「寺」を舞台に、愉快な仲間たちと繰り広げるボケ&ツッコミの応酬!? どこまでも続くゆる~い空気に、アナタも身を任せてみませんか?

サラ イネス(さら いねす)

オートスポーツ(三栄書房)の読者ページに投稿していたイラストが編集者の目に留まり、イラストレーターとして活動を開始。1989年、サラ・イイネス名義でモーニングパーティ増刊(講談社)にて連載開始した「水玉生活」でデビュー。続いてモーニング(講談社)で「大阪豆ゴハン」を1992年から1998年まで連載した。スクリーントーンを使わない手描きにこだわった独特の作画と、ありふれた日常を描く感性に定評がある。その後モーニングにて「誰も寝てはならぬ」を8年連載し、2011年12月に完結した。現在は次回作に向けて準備中。