「クリエイターズマッチングプロジェクト」SDR取締役・宮井晶インタビュー|クリエイターをマッチング!スターダストが新たなスタイルのオーディションを始動

超特急、DISH//、M!LKなど多くの音楽グループを送り出してきたSDR(スターダストレコーズ)が、「クリエイターズマッチングプロジェクト」を始動させた。同プロジェクトでは、イラスト、楽曲、歌唱、物語の4フェーズに分けて作品を募集。クリエイターたちは各フェーズに応募されたものの中から好きな作品を選び、自分のクリエイティブをリレー形式で紐付けていく。最終フェーズまで進んだ楽曲は必然的に“チーム”で作りあげられたものということになり、優勝チームには賞金100万円のほか、各種特典が用意されている。

コミックナタリーでは本企画の代表を務めるSDRの宮井晶取締役にインタビューを実施。企画を中心となって動かしているスタッフ・安楽謙一氏を交えて、プロジェクト発足の経緯や詳しい実施内容、現在の音楽業界に対する率直な思いも語ってもらった。

取材・文・撮影 / ナカニシキュウ

「SDRクリエイターズマッチングプロジェクト」
開催概要

クリエイター個々の能力を掛け合わせることで、1人では決して制作できない作品へと成長させていくプロジェクト。イラスト、楽曲、歌唱、物語の4フェーズに分けて作品を募集し、クリエイターたちには前フェーズの投稿作品から好きなものを選び、それを題材として自身のクリエイティブに挑戦してもらう。リレー形式で作品がつながっていき、最終フェーズまで進んだものはチームによる1つの作品として審査。次のフェーズで題材として選ばれなかった作品も、部門賞で個別に審査される。

「SDRクリエイターズマッチングプロジェクト」の選考イメージ。
スケジュール
  1. 第1フェーズイラスト募集
    2021年4月15日(木)~5月31日(月)
  2. 第2フェーズ楽曲募集
    2021年5月15日(土)〜6月30日(水)
  3. 第3フェーズ歌募集
    2021年6月15日(火)〜7月31日(土)
  4. 第4フェーズストーリー募集
    2021年7月15日(木)〜8月31日(火)

※第2~第4フェーズの日程は予定で、前後する可能性あり。

募集テーマ

「20XX年」
過去、現在、未来でも、時代を自由に設定可能。

特典
  • 優勝作品の楽曲およびミュージックビデオを作成・配信。
  • 優勝作品の受賞者に総額100万円(イラスト、作詞、作編曲、歌唱、ストーリーで各20万円)の賞金を進呈。
  • 部門賞の受賞者に総額50万円(イラスト、作詞、作編曲、歌唱、ストーリーで各10万円)の賞金を進呈。

SDR 宮井晶取締役インタビュー

着想元はYOASOBIのブレイク

宮井晶 今回は音楽ナタリーさんじゃなくて、コミックナタリーさんで取材していただけるんですね。

──今回のプロジェクトがイラスト募集から始まるということで、絵を描いている読者が多いであろうコミックナタリーでまず興味を持ってもらおうという趣旨になります。

宮井 なるほど。2018年の「超ボーカリストオーディション」のときは音楽ナタリーさんで特集していただいて、おかげさまでもーりー(森英寿)くんっていう、今TikTokでものすごくバズってる子が発掘されたんですよ。今回もそういう人が見つかるといいなっていう。

──盛り上げられるようがんばります。まず、この企画が立ち上がった経緯から聞かせてください。

宮井 SDRではこれまでにも2年に1回ずつくらいオーディションをやってきているんですけど、今回は趣向を変えてというか。若いスタッフも入ってきたし、業界の様子もどんどん変わっているので、いつもみたいに「歌いたい人募集」とか「デビューしたい人募集」みたいな普通のオーディションをやっていても、今の時代なかなかいい人に巡り会えなさそうだなという感じがあって。いろいろみんなで考えて、「マッチングみたいなやり方が面白いんじゃないか」という話になったんですけども。

──プレイヤーというよりもクリエイターに着目して。

宮井 まあ、そうですね。もちろんクリエイターに限って募集してるわけでもないので、アーティストの方も歌いたいだけの方も応募していただけます。全体的に、表現したい人たちに集まってもらいたいという感じですかね。今はSNSなんかで自分を上手に売り込める人もたくさんいるけど、そこは本来難しい部分だし、うまくできない人もいるじゃないですか。そういう隠れた才能を掘り起こせたらなと。

──そんなふうに、総合的な才能を集めてチームを作ってもらおうという発想はどういうところからきたんですか?

宮井晶

宮井 すごく端的に言うと、YOASOBIさんですね(笑)。以前からニコニコ動画でボカロPと歌い手、絵師の人が一緒になって曲を作るという動きはあったけど、あそこまでブレイクしたケースは初めてだと思うんで。僕も以前からニコ動の人や絵師の人に単体で声をかけたりはしていたんで、それを公式なオーディションという形にしちゃおうという流れです。

──集めた人をレーベル側で組み合わせて「一緒にやりなさい」と言うのではなく、各人の「この人とやりたい」という自主性をすくい上げようと。

宮井 そうです。それこそ「YOASOBIが売れているから、うちでもああいうのやろうよ」みたいな話で作っていくと、同じようなものしかできない危険性があるんですよ。だから今回のオーディションでは、そういう恣意的な判断はなるべく排除しようと。

──オーディションの流れとしては、まずイラストを募集して、次に楽曲、そして歌唱、最後に物語と続きます。この順番はどうやって決まったんですか?

宮井 紆余曲折あったんですけども、先ほどもお話ししたように、ニコ動界隈ではイラストからインスピレーションを得て曲を作ることが広く行われているじゃないですか。そのやり方は想像力が膨らみやすいんだろうなというのがあって、とりあえずイラストの募集からやったら面白いんじゃないかということで。

──言ってみれば、最も“右脳”的なところから始めようみたいな感じ?

宮井 そうですね。

──募集テーマが「20XX年」となっていますが、これはどういう狙いで?

宮井 それは俺が考えたんじゃないんですけど(笑)。今回のプロジェクトは若手のスタッフが中心となって動いていて、彼らの中に「今までのスターダストにはなかったような新しい才能を発掘したい」という思いがあったみたいです。

安楽謙一 例えば「恋愛」のようなテーマにしてしまうと、ベタなものしか上がってこない恐れがあるので。想像もつかないようなものをクリエイティブに作ってもらうためは、限定はしたいけど制約はしたくない。クリエイターの自由な発想を尊重しつつ、今の時代に当てはまるテーマとして「20XX年」を設定しました。

──“未来感”というイメージ?

安楽 未来に限定しているわけではなくて、過去、現在、未来というところで自由に「XX」のところを埋めていただければと。

──それが例えば「00」だったら20年前の話になるというような。

安楽 そうです。YouTubeなどを観ていても、レトロなものが流行っていたり、逆に先端のものがウケていたりしますよね。「20XX年」とすることで、そこの幅を持たせられるので。

──なるほど。要するに「ベタはやるなよ」くらいの意味合いというか。

安楽 あははは、そうですね(笑)。

オーディションが終わってもサイトは閉じない

──まず第1フェーズとしてイラストの募集から始まるわけですが、その段階では審査を行わないと聞いています。応募されたイラストは全部サイト上に掲載されるわけですか?

宮井 そうですね。今のところ、途中段階で審査を行う予定はないです。SDR側の審査が入るのは、最終フェーズまで出揃った最後のタイミングだけで。

安楽 一応こちらで応募作品の確認だけはして、公序良俗に反しない限りは1、2営業日以内にはアップするような流れを考えています。

──そして第2フェーズでは、音楽クリエイターがその中から好きなイラストを選んで曲を付ける流れですよね。そこで1曲も付かなかったイラストは、その時点でアウト?

宮井 そうなります。

──ということは、イラストと楽曲が上がったタイミングで仮に「この絵と曲をもとに物語を書きたい」という人がいたとしても、その曲に第3フェーズで歌い手が付かなかった場合はそもそも応募すらできないということになりますね。

宮井 そうなんですよ。ただ、オーディションが終わった後もサイト自体を閉じる気はなくて、ずっと募集をしていこうかなと思っていて。うちで公式に選ぶ優勝作品は1曲に決まったとしても、それとは関係ないところでもどんどん皆さんで作品を作ってくださいという場にしようと考えていて。

──なるほど、ある種のSNSのような。

宮井 そうですね。まさにマッチングの場になればいいかなというふうに思っています。

安楽 それと、オーディション上で次のクリエイターが付かなかった作品も含め、全応募作品の中から部門賞を選ぶことになっています。イラスト、作詞、作曲、歌唱、物語の5部門に分けて、閲覧数なども見ながら総合的に判断するので、自分のイラストに曲が付かなかったり、歌い手さんが付かなかったとしても部門賞の可能性は残るという感じです。

──優勝チームへの特典として、ミュージックビデオ制作や賞金のほかに「SDRによる継続的な活動サポート」があると資料に書かれています。これは具体的にどんなことが行われるんですか?

宮井 SNS上でなるべく話題になるようにプロモーションをかけていく、っていうところまではやろうかなと思っています。場合によってはそのチームで2曲目を作ろうということになる可能性もあると思うし、そうならなかったとしても、例えば絵描きの人には何か絵の仕事をお願いするかもしれない。本当にいい人がいたらうちでクリエイター契約するようなことも、可能性としてはあり得ますね。

1人でそんなにがんばらなくていいよ

──イラストを応募する方に期待するのはどんなことでしょうか。

宮井 想像力をかき立てるようなイラストを描いていただけたらありがたいなと思っていますけども。

──応募される方が実際にどういう取っかかりで描き始めるのかちょっと想像がつかないんですが、何かヒントをいただけたらと思っていまして。

宮井 一応、その取っかかりとして「20XX年」というテーマがあるんですよ。まあ、自由にやってもらいたいというのが一番なんですけど……。

──「自由に」と言われるのが一番難しいんですよね(笑)。

宮井 確かに(笑)。その一例というか、「こんなのを俺らは考えてます」というのが今回のメインビジュアルになってはいるんですけども、抽象的なテーマだからあまり言えることもないんですよね。ただまあ、なるべく今までにないようなものだといいなって気はしてますけども。

──テーマが自由すぎて着手できない人と、「よしやるぞ!」という人に分かれそうな予感がしますね。

安楽 そこが一番難しいところなんですよね。今のトレンドに合わせようとするとそういうものしか上がってこないし、かといってあまりにも芸術的な方向に寄りすぎても困るし。そこを限定するのがどうしても難しかったんです。

宮井 まあ、ちょっとやってみてもらって。

──挑戦される皆さんに対しては、「まあ、やってみてよ」と。

宮井 そうですね(笑)。僕らとしても「それで1人もこなかったらどうすんの?」みたいな話もしてるんですけど。

──そもそも、音楽におけるイラストの役割とはどういうものだと考えていますか?

宮井 例えばMVの場合だと、うちはアイドル系も多いんで本人が出てくる映像が多いんだけど、それだとどうしても観る側の想像力は限定されますよね。それが2次元の場合は、描ききれないところとか意味のない部分もいっぱいあるじゃないですか。

──情報量が限定されるぶん、余白が生まれるというか。

宮井 そう。今回はそういう、ある程度の余白を持ってもの作りをしているタイプのクリエイターさんに応募してもらいたいなというのがあって。

──音楽とアートワークの結びつき方について、過去と現在で変化を感じていたりはしますか?

宮井晶

宮井 MVに関してはあんまり変わってないと思うんですけど、若い人たちの2次元に対する接し方は変わってきてるかな。僕らの頃は「マンガばっか読んでる奴はオタク」みたいな風潮で、クラスに数人しかいないような時代だったけど、今の子たちには変な先入観がないっていうか。それこそニコ動の影響もあって音楽とイラストを結びつけることにも違和感は全然ないだろうし、2次元の裾野が広がってるんじゃないかなという気はしますね。

──これは単なる個人的な印象なんですけど、逆に音楽やイラストなどをそれぞれ単体で楽しめる人がどんどん減っているような気もしていて。そういう意味でも、今回のように総合的な才能を集めるやり方は理に適っているのかなと思います。

宮井 確かに、絵だけを見に行く人とかあんまりいないですもんね。それに対して、音楽も作れるしほかの能力もあるしみたいな天才的なクリエイターはなかなかいないから、そこは別に分業でもいいよなと思っていて。みんなで1つの何かを作り出すというのが時代に合っているんじゃないかという気はしてます。

──音楽業界では今コライト(共同で曲作りをすること)が一般化していますし、言うなればそれをもっと広げた形ですよね。

宮井 そうですね。「1人でそんなにがんばらなくていいよ」と(笑)。

──みんなで支え合っていこうよと。

宮井 そうそう(笑)。