「劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>」北条司(原作者)×神谷明(冴羽獠役)インタビュー|オリジナルキャストが奇跡の再集結!“図々しいぐらい変わっていない”20年ぶりの新作アニメ

誰ひとり欠けずに集まった新作

──やっぱり北条先生から見ても、神谷さん演じる獠はハマリ役と感じていたんでしょうか?

左から北条司、神谷明。

北条 僕は(作品を描くときに)声っていうのはハナから想定してないんですよね、マンガですから。よくマンガとアニメは近いって言われてますけど、実際はメディアとしてはまるで別。マンガとか小説は能動的なメディアで、アニメとか映画は受動的なものだから、まるで違うんですよ。こっちは(能動的に)読んでもらわないとダメなんです。だから表現の仕方がかなり違う。映像の感覚でマンガや小説は書けないんです。同じように映像には映像の演出方法や演技が必要になる。僕の基準ですけどアニメは笑えたら成功だなと思っているんです。神谷さんの獠は初回から笑い転げちゃったんですよね(笑)。だから、もう「アニメの冴羽獠、完成!」「成功!」みたいな感覚でした。

神谷 普通だったらね、観てる人に「(このキャラクターに)この声は違うだろ」とか言われても仕方ないと思うんですけど、獠に関しては言われたことがないんですよね。

北条 僕自身は声をまったく想像してないので、失礼ですが「誰が声を合わせてもそれなりになるだろうな」っていうのはあったんですけど、それでも違和感って出るとは思うんです。「こういう声?」みたいなのって絶対にあると思うんですけど、神谷さんだからこそアニメの「シティーハンター」、冴羽獠っていうキャラクターがカチッとできてたってことじゃないですか。

神谷 僕としては自由自在に遊ばせてもらったっていう印象しかないんですよね。その楽しさは観てる方にも伝わったと思うんです。香(役の伊倉一恵)を含めて、レギュラーの方はみんなそうだったと思う。楽しんで殴ってましたからね、俺(獠)のことを(笑)。そういうこともあってか、「シティーハンター」は再放送を観ていても楽しむことができるんです。「北斗の拳」の再放送なんかは「俺、がんばってるな」って、客観的にがんばっている自分の姿が見えちゃうんだけど、獠ちゃんに関しては純粋に作品の中に入り込んじゃって、自分でもゲラゲラ、「バカだな」って笑っているんですよね。「常に楽しかったな」っていう思い出しかない。(劇中で)殴られてても。

北条 殴られても(笑)。

香が獠をハンマーで殴るおなじみのシーン。

神谷 あの、殴られたときの殴る“息”と殴られる“息”ってあるんですよ。そういう微妙な感覚も毎回違うから、それを楽しんでたんです。伊倉さんもたぶんそうだと思うんですけど。そういうコンビネーションは香だけじゃなく、冴子(役の一龍斎春水)や海坊主(役の玄田哲章)、美樹(役の小山茉美)にもみんなあるんです。話は変わりますが、今回の映画で当時のメンバーが誰も欠けずに集まったのは本当に奇跡的なことだと思います。もう一度「シティーハンター」の世界を作れたというのは本当に幸せなことですね。

「原作の続き」ではなく、あくまで「アニメの続き」

──今回の劇場版では、スタッフや声優さんが久しぶりに再集結したのではないでしょうか?

北条 久しぶりだったっけ? なんか「久しぶり」っていわれてもピンときてないんだけど(笑)。でも、こだま(兼嗣)監督は久しぶりか。

神谷 個々では会う機会があるんですよね。例えば僕と北条さんとかはしょっちゅう会っていたので。

北条 みんなが集結するのは久しぶりかな。でも、皆さん変わらずですね。

槇村香

神谷 スタジオに入ってみんなの第一声を聞いて「変わってない!」って感動しました、本当に。ところが、劇場版が決まったときはみんな自分の声の心配をしていたんじゃないかな。出陣式みたいなことをやったとき、伊倉さんに「大丈夫? 私の声、香?」って聞かれたんですが、その声がもう香なんです(笑)。

北条 今回、伊倉さんには直々に「自信がないから収録は2日間にしてくれ」って言われましたね。声が変わっちゃうかもしれないし、みたいな感じで。昔だったらたぶん1日で全部収録してましたよね?

海坊主

神谷 そうですね。勢いっていうのもありますし、当時は「1日以上かけるものじゃない」っていう信念みたいなものがありましたね。ですが、今回は自然と3日間ぐらいかけてのんびり録りたいと思いました。やっぱり急がずに、今の自分たちのペースでしっかりいいセリフを録りたいと思ったんですね。きっと伊倉さんも同じだと思います。

──今回の映画は北条先生も監修という形でいろいろアイデアを提供したと伺っています。

北条 (とぼけて)出したかな? 僕はもう気楽なもんで、「おまかせー」って感じなんです(笑)。

スタッフ いえ、プロット段階から北条先生にアイデアをいただいて変えていきました。

北条司

北条 ああ、話の時間軸とかね。最初のプロットが、原作の「シティーハンター」の最終回後の世界を表現していたんです。でも、アニメでは原作の最終回までは描いていないんですよ。だから、原作終了後の世界をいきなりアニメで描くのはちょっと違和感があって。アニメのファンには、アニメでは描かれなかった原作のエピソードを知らない人もいるでしょう? 原作でしか描かれていないキャラクターの話がいきなり出てきてもわからないんじゃないかなって。だから、今回の映画は「アニメが終わった時点での関係性でやる」という形に変えたんです。

──アニメでやっていないエピソードというと原作の海原神編なんかが有名ですよね。例えば最初は海原なんかがプロットに入っていたんですか?

北条 入ってました。(海原が)すでに死んだ状態で出てくるわけです。でも、そうすると「アニメでいつ死んだ?」ってならない?(笑) ファンの人も「海原、アニメで観てないじゃん」って思うかもしれないじゃないですか。

スタッフ そこをやるならきちんと海原について描かないといけないから、映画1本では収まらない、とおっしゃってました。

北条 まともなことも言うんだね、俺も(笑)。

単品で出して美味いのが映画というもの

神谷 演じる側というか、ファンとして観ても、あの当時の獠と香のまんまですね。いつもの2人の何日間かがポンッと切り取られている感じ。

北条 映画ってそういうものですよね。

神谷 そうですね。寅さん(「男はつらいよ」)でもシリーズを全部見ていないとわからない関係性なんかほとんどない。だから(「シティーハンター」にも)ずっと出てくる人はいるけど、エピソードごとのゲストで2度出てくる人ってそんなにはいなかったと思う。

北条 映画って後先を考えさせちゃいけないと思うんです。「この映画の前にこういう話がありましたよ」ってことになれば、「でもそれを観てないからわからない」って人も出てきてしまう。単品でポンっと出して「どうですか?」「美味い!」、これが映画だと思ってるので。今回の映画は第一にファンへの恩返しではあるんだけど、そうでない人が観てもちゃんと楽しめるものをっていうのを目指してもらいたい、と。

神谷明

神谷 そうですね。「シティーハンター」のことを何も知らない人が観に来ても違和感なく入ってこられるっていう。それは本当にそうだと思いますね。同時に「これで最後」ってものでもない。

北条 このあとも続いてほしいし、最後の作品ってわけではないですからね。

神谷 だから、獠と香の関係性みたいなものも、「もうこれで完成」みたいな形には絶対してほしくなかった。だって誰もさ、完結するところなんか見たくないじゃん、こういうものは。

北条 そうなんですよね。「これからも続いていくぜ」的に終わったほうが絶対にいいんですよ。

──原作にしても決して「これでシティーハンター稼業は終わり!」という形でなく、「そして獠や香たちの日々はまた続いていく」という最終回でしたよね。そういうところもあって、今でも新宿に獠や香がいそうという感じがし続けている作品だと思います。

今回の依頼人・進藤亜衣が獠と出会うのは、新宿駅東口付近にある人通りの少ない脇道。

神谷 今回の映画では現代の新宿が舞台になっているけど、なんの違和感もなく収まっているんですよね。ファンの方も「(現在は新宿駅にはなくなっている)伝言板はどうなるのか」「(当時新宿駅東口のシンボルで作品でもよく描かれた)MY CITYは?」とか興味を持ってらっしゃいましたけど、そういったところはきちんと対応されていて、スッと入ってもらえると思います。

北条 図々しいぐらい何も変わってませんよね(笑)。「20年前の作風と変わんねえじゃねえか」みたいな。

神谷 そうですね、変わってないよなって。実は小物なんかも時代に合わせて変わっているんですが、全然違和感がない。あと、今作はTVシリーズより新宿の街が緻密に描かれている。「獠が飛んだのはあそこだ」とかわかるくらいまで街が描かれていて、それはすごくうれしかったですね。

映画の冒頭では、香が運転するミニクーパーとテロリストによるカーチェイスシーンを見ることができる。このシーンには都庁通りや歌舞伎町が登場。

スタッフ そこは監督がこだわったところです。TVシリーズではそこまで背景を描き込むのが難しかったので、今回はかなり描いたなと。

北条 でも、原作では実際の新宿はあんまり参考にしてないんだよね(笑)。

神谷 あ、そうなんだ。

北条 本物を出すとクレームがつく場合もあったので(笑)。でも今は逆じゃないですか? 街をあげて「やってくれ」みたいな感じになってたり、これも時代といえば時代なのかな。

映画「劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>」
2019年2月8日(金)全国ロードショー
キャスト

冴羽獠:神谷明

槇村香:伊倉一恵

進藤亜衣:飯豊まりえ

御国真司:山寺宏一

野上冴子:一龍斎春水

海坊主:玄田哲章

美樹:小山茉美

ヴィンス・イングラード:大塚芳忠

コニータ:徳井義実(チュートリアル)

来生瞳・来生泪:戸田恵子

来生愛:坂本千夏

スタッフ

原作:北条司

総監督:こだま兼嗣

脚本:加藤陽一

チーフ演出:佐藤照雄、京極尚彦

キャラクターデザイン:高橋久美子・菱沼義仁

総作画監督:菱沼義仁

美術監督:加藤浩(ととにゃん)

色彩設計:久保木裕一

撮影監督:長田雄一郎

編集:今井大介(JAYFILM)

音楽:岩崎琢

音響監督:長崎行男

音響制作:AUDIO PLANNING U

アニメーション制作:サンライズ

配給:アニプレックス

北条司(ホウジョウツカサ)
1959年、福岡県生まれ。1980年、週刊少年ジャンプ(集英社)にて読み切り「おれは男だ!」でデビュー。代表作に3人組の女怪盗を描いた「キャッツ♥アイ」、新宿で生きるスイーパー・冴羽獠を主役にした「シティーハンター」など。2001年よりコミックバンチ(新潮社)にて「シティーハンター」の世界をベースにしたパラレルワールド作品「エンジェル・ハート」をスタートさせ、同作は2010年に月刊コミックゼノン(徳間書店)に移籍したのを機に「エンジェル・ハート 2ndシーズン」へと改題、2017年に同誌にて完結した。
神谷明(カミヤアキラ)
1946年9月18日生まれ、神奈川県出身。1970年にTVアニメ「魔法のマコちゃん」の千吉役でアニメ声優デビュー。1980年代には「キン肉マン」のキン肉マン、「北斗の拳」のケンシロウ、「シティーハンター」の冴羽獠など、週刊少年ジャンプ(集英社)作品に数多く出演。そのほかの代表作に「ゲッターロボ」の流竜馬、「宇宙戦艦ヤマト」の加藤三郎、「うる星やつら」の面堂終太郎や「めぞん一刻」の三鷹瞬など。ナレーションや洋画の吹き替えなども数多く担当する。

2019年2月7日更新