「BEASTARS」特集 板垣巴留×米津玄師対談|2人の持つ世界観は似ている?20代の天才同士が平成最後にまさかの邂逅

人間が抱いている動物へのイメージでお話が描けたら(板垣)

板垣 「BEASTARS」の世界は大人同士の渋い会話の駆け引きでも成り立つ設定ではあるんですけど、週刊少年チャンピオンっていう雑誌が少年向けに作られた雑誌だから、マンガとして楽しめるようにエンタテインメント化させないといけないんですよね。“少年向け”っていうのが唯一私が策略的に描いている部分です。米津さんが音楽を作るときは、私が読者のことを考えるように、リスナーのことを考えて作りますか? 例えば「こういうリズムはいろんな人に受けそうだな」とか。

米津玄師(Photo by Jiro Konami)

米津 うーん、ちょっと違うかもしれないんですけど、俺は「J-POPを作りたい」と思って音楽活動をしていて。たぶんそれは独りよがりになっても面白くないからなんですよね。「やりたいこと」と「売れるためにやること」って相反するものとして語られることもあるんですけど、俺はそれを真反対にあるものだと思ってないんです。現実はその2つが対極にあるわけじゃなくて、混濁してマーブル模様になりながら常に融合しているんじゃないかなと。そのマーブル模様の一部分を「ここだ!」とピンポイントに指さして作品にすることが、俺は美しい表現だと思うんですよね。それが俺の表現と「BEASTARS」とで勝手に近いなと思っている部分で、俺が大事にしているバランス感覚がこのマンガに宿っている感じがしたんです。

板垣 そうだったんですか。米津さんは若者からすごく人気がありますけど、音楽を作るうえでは対象を絞っているわけではないんですね。

米津 若者だけに聴いてほしいと思ってやっているわけではないですね。

板垣 そりゃそうか(笑)。

米津 自分が今やっている音楽って、“若い人たちが聴く音楽”ってラッピングされているかもしれないんですけど、やっていることはけっこう古臭いんですよ。特にここ1、2年くらいで発表した作品は、1970、80年代くらいの歌謡曲やニューミュージックを参照して作っていて、自分の中では歌謡曲のくくりなんです。いろんな人に届く懐の広い作品を作りたいと常々思っていますよ。

──「BEASTARS」の読者から「米津さんはレゴシに似ている」と言われているそうですが、ご自身でもそう思いますか?

米津 そうですね。昔から体がデカくて、引っ込み思案なところは共感を覚えますね。

──ご自身でも自覚があるんですね。

米津 はい。ただレゴシほどひたむきに相手を思えるかというと、そうでもないかもしれません(笑)。

「BEASTARS」の主人公・レゴシ。種族は食肉目イヌ科最大のハイイロオオカミで、身長は7巻の時点で187センチとかなりの大型だが、周囲からなるべく強い生き物と思われないように過ごしている。

──板垣さんはレゴシのキャラクター像をどうやって作り上げたんですか?

板垣 レゴシという名前はなかったですけれど、昔からオオカミのキャラクターは私の中にいたんです。オオカミはイヌの先祖で人間とも親和性が高いし、イヌ科の中で一番強い動物ということもあって、小さい頃から思い入れが強かったんですよね。強い肉食獣でいながら、ライオンみたいなヒーロー性がなくて、歩き方も前のめりで、これはきっと悪者扱いをされてしまうだろうなっていう出で立ちも気に入っていました。そういう一般的に人間が抱いている動物へのイメージを持って、お話が描けたらいいものになるかもという期待があったんですよね。だから「BEASTARS」はレゴシが起点にあって、レゴシをオオカミとは真反対の小さくてか弱いウサギに恋をさせたらどうだろうとか、どんどん枝分かれしていって話ができあがっていきました。

動物じゃないと出せない“人間らしさ”(米津)

米津 これはあえて聞くようなことでもないかもしれないんですけど、「BEASTARS」って人間と動物の感覚が入り混じっている作品じゃないですか。人間のグズグズした葛藤を描きたいがために動物という衣装を借りているのか、それとも動物を描きたいがために人間のグズグズした部分を取り入れているのか、どっちが先なんですか?

板垣 人間のほうが先ですね。「BEASTARS」はずっと“ヒューマンドラマ”を描いている作品ではあるので、いろんな要素を入れるようにはしているけど、結局はそこに行き着くので。マンガはやっぱり読者さんの共感がないと面白くならないからそこを大事にしつつ、面白みを加えるために動物の要素を入れています。

レゴシと同じく演劇部に所属するベンガルトラのビルは、劇に出演する際に気分を高揚させるためにあるドーピングを行い、それを知ったレゴシは本番中にも関わらずビルを馬乗りで殴ってしまう。それに対しビルは、自慢の爪でレゴシの背中を切り裂いた。

米津 そうなんですか。でも動物じゃないと出せない“人間らしさ”がしっかりと描かれていますよね。2巻でベンガルトラのビルとレゴシがステージ上でケンカをして、ビルがレゴシの背中をひっかいて「おそろいの模様背負おうぜ」って言うシーンが俺はすごく好きで。

板垣 あれは「BEASTARS」初の暴力シーンなんです。私がトラだったらトラらしい攻撃をしたいと思ってああいう傷付け方をさせました。仲間の証として同じシマシマを付ける行為は自分の存在証明になるし、私がトラだったらこうすると思って描きました。

米津 このシーンもそうですけど、この作品ってめちゃくちゃ官能的ですよね。根底のテーマとしてエロさがある。さっきも言いましたけど、このテーマを人間同士の物語で描くとエグ過ぎてしまうところがポップになっていて、爪で引っ掻いたり、噛んでみろってけしかけたり、動物ならではの表現でやり取りされているのを見てすごいなと思いました。

板垣 人間のそんな姿は見たくないんですよ。だから動物に当てはめて描いているというよりも、動物にしてようやく描けたと言うのが正しいのかもしれないです。

米津 獣って人間と比べると、目的に対してすごく特化していると言うか、シンプルな思考回路の生き物ですもんね。野性的なものをちゃんと持っているからこそ、官能的な表現や暴力的な表現も人間がやるよりもすごくダイレクトで強いものとして描かれているのかなと。人間同士でやったらエグくなるものが、より鮮烈に描かれるのにエグくならないこの構造が本当に素晴らしいです。

「BEASTARS」の世界では、犬は犬同士、シカはシカ同士といったように、基本的には同種で恋愛、結婚、子作りをするのが基本だが、稀に異種同士のカップルも。ハイイロオオカミのレゴシはドワーフウサギのハルに惹かれるが、肉食と草食で身体の大きさもまったく違う2匹の恋の行方は……。

──板垣さんはご自身のTumblrのポストで、男性と女性は別の生き物だと思っていて、そんなわかりあえない男女が惹かれ合うことについて「実はこれは私が連載中の『BEASTARS』という漫画でも取り扱っているテーマなので、これから私自身、追究していかなくてはいけない問題なのだ」と書かれていました(参照:たまにてんパル — ~怪奇現象のカラクリ~)。これは草食獣が女性、肉食獣が男性というようにも読み取れたのですが。

板垣 結果的にはそうなりましたね。私からすると、どう考えてもやっぱり男性と女性は別の生き物なんですよ。わかり合えるはずもないのに惹かれ合わなきゃいけないというのは、そこにやっぱり価値があるからなんだなと思うし、そこを描き続けるしかないのかなと思っています。肉食と草食に男女を置き換えて描こうという意識はないけれど、私たちが人間である以上、読む側もそういうふうに意識すると思うし、そういう解釈もあっていいと思います。

板垣巴留「BEASTARS⑪」
発売中 / 秋田書店
板垣巴留「BEASTARS⑪」

コミックス 475円

Amazon.co.jp

Kindle版 432円

Amazon.co.jp

テム食殺事件の解決を図るレゴシと口封じを目論むリズが更衣室で遭遇。超獣同士の死闘が開幕するが、清掃員の邪魔が入り勝負は中断、大晦日の再戦を誓い合った。 後日レゴシは、女装して裏市に潜入し、決闘の立ち会いをルイに依頼し、その場を去った。大晦日まで、あと3日。最終決戦迫る……!!

板垣巴留「BEASTARS」①~⑪セット
発売中 / 秋田書店
板垣巴留「BEASTARS」①~⑪セット

コミックス 5117円

Amazon.co.jp

Kindle版 4725円

Amazon.co.jp

「BEASTARS」オリジナルグッズ
ナタリーストアにて販売中
「BEASTARS」オリジナルグッズ
米津玄師「Flamingo / TEENAGE RIOT」
発売中 / Sony Music Records
米津玄師「Flamingo / TEENAGE RIOT」フラミンゴ盤

フラミンゴ盤 [CD+おまけDVD+スマホリング]
2052円 / SRCL-9959~61

Amazon.co.jp

米津玄師「Flamingo / TEENAGE RIOT」ティーンエイジ盤

ティーンエイジ盤
[CD+サイコロ]
1728円 / SRCL-9962

Amazon.co.jp

米津玄師「Flamingo / TEENAGE RIOT」通常盤

通常盤 [CD]
1080円 / SRCL-9964

Amazon.co.jp

板垣巴留(イタガキパル)
板垣巴留
2016年3月、週刊少年チャンピオン(秋田書店)にて4号連続の読み切り作「BEAST COMPLEX」でデビュー。読み切りの好評を受け、同年9月に「BEASTARS」を連載開始した。「BEASTARS」「BEAST COMPLEX」ともに、草食動物と肉食動物が共生する世界を描いている。2017年、「BEASTARS」で宝島社が刊行する「このマンガがすごい!2018」オトコ編で第2位を獲得。2018年には同作が第11回マンガ大賞、第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、第22回手塚治虫文化賞新生賞、第42回講談社漫画賞少年部門を受賞した。
米津玄師(ヨネヅケンシ)
米津玄師
1991年3月10日生まれの男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」名義でニコニコ動画にボーカロイド楽曲を投稿し、2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表した。楽曲のみならずアルバムジャケットやブックレット掲載のイラストなども手がけ、マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2018年3月にリリースしたTBS系金曜ドラマ「アンナチュラル」の主題歌「Lemon」は自身最大のヒット曲に。10月にはニューシングル「Flamingo / TEENAGE RIOT」を発表。2019年1月からはアリーナツアー「米津玄師 2019 TOUR / 脊椎がオパールになる頃」を開催する。

2018年12月7日更新