「BEASTARS」特集 板垣巴留×米津玄師対談|2人の持つ世界観は似ている?20代の天才同士が平成最後にまさかの邂逅

今でもマンガ家になりたいっていう気持ちはあるんです(米津)

──米津さんは子供の頃マンガ家になりたかったんですよね。

米津 週刊少年ジャンプ(集英社)を読んでいて、最初に単行本を買ったマンガは「NARUTO-ナルト-」なんです。そのおまけページに載っていた制作秘話で、マンガ家の生態というか、どんなところでどんなタイムスケジュールでマンガを描いているのかを知ったんですけど、マンガ家さんってものすごい肉体疲労がありますよね。中学生の頃にマンガ家に憧れて、聞きかじった知識でペンとかを買って原稿用紙に描いたりしていたんですけど、実際自分で描いてみたらすごく時間がかかって、これを毎週やっているなんて超人だなと思って。「これは俺には無理だわ」っていうぼんやりとした挫折がありつつ、生活を続けていく中で音楽を好きになって、音楽家の方向にシフトしていきましたね。

週刊少年チャンピオン2018年41号に掲載された、第97話「僕ら馳走にあずかった」の扉用イラスト。

板垣 音楽のアーティストさんのほうがライブとかもあって、肉体疲労がありそうです。

米津 うーん、どうなんですかね。マンガ家よりも自分には合ってるなと思ったんですよ。マンガを描くにはすごい労力が必要だけど、音楽はコードが3つあって、リズムと歌詞とメロディさえあればなんとかなる。だからここまでやってこれた。でもマンガ家になろうと思ってすごい挫折をしたわけじゃないので、今でもマンガ家になりたいっていう気持ちは自分の中で尽きていないんです。本当にマンガ家さんってすごい職業だと思います。

板垣 私は週刊連載をしているマンガ家の中では恵まれているほうで、肉体疲労をあまり感じてないんですよね。締切間近になってヘトヘトになりながら描くみたいなのはまだ経験してなくて。

米津 じゃあ、あんまり自分の描くものに悩まないんですか?

板垣 いや、それは悩みますよ。1週間あったら紙にアウトプットするのが1日で、ほかの日は描きながらずっと次の話を考えているという、小さい苦労がずっとちりばめられている感じですかね。

──米津さんがマンガ家に憧れていたように、板垣さんは映画制作がしたくて美大に入ったんですよね。でも1人だと映画制作をすることは難しかったから、マンガ家に方向転換したと伺いました。

板垣 そうです。自分が作りたい映画を作るイコール監督になるということで、それをやるには人をたくさん使わなきゃいけないから、人脈がめちゃくちゃ必要だってわかって。1つの作品を作るのにものすごく労力が必要なんだって知って、マンガだったら紙とペンで似たようなことができるし、だったらこっちだなっていう感じでマンガ家になりました。

──映画制作とマンガの執筆で共通しているところは、自分の頭の中にあるストーリーをビジュアル込みで発信できるということですよね。

板垣 はい。自分の頭の中にあるものを形にしたかったです。

──でもあまりマンガを読まないんだとか。「BEASTARS」は手塚治虫文化賞の新生賞も受賞していますが、実は手塚治虫さんの作品を読んだことがないそうで。

板垣 読みたいと思ってるんですけど……。

米津 えええ! そうなんですか。

板垣 ジャンプで唯一読んだことがあるのは「DEATH NOTE」だし、少年マンガはあまり読まないですね。お話を作る楽しさや人間の面白さはほぼ映画で学んだと言っても過言ではないです。最近は毎週日曜日に「ONE PIECE」のアニメを観ていろいろ勉強しています(苦笑)。少年マンガっぽさを私が強く意識して描いているのは、そういうコンプレックスがあるからなのかもしれないです。

米津 どんな映画が好きなんですか?

板垣 ホラー以外ならなんでも好きです。

基本的には大人しい性格のレゴシだが、時にはオオカミらしくキバや爪で闘う場面も。肉食動物同士のバトルでは、出血シーンも多く見られる。

米津 ホラーが苦手って意外ですね。「BEASTARS」には動物を食いちぎったり、腕が取れちゃったりエグいシーンがけっこうあるじゃないですか。それとは違うんですか?

板垣 グロテスクなのは全然平気なんです。私にとってはグロテスクなほうがファンタジーで幽霊のほうがリアルに感じられるんですよね。幽霊は絶対いるし(笑)、そっちの恐怖のほうが大きいです。実際はグロテスクのほうがリアルだと思うんですけど。実体があるほうがファンタジーっぽく感じるんです。だからゾンビもファンタジー。

米津 面白いですね。

米津さんってオオカミチックなのかと思ってたけど……(板垣)

米津 単純な質問なんですが、マンガ家さんって普段どういう生活を送っているんですか?

板垣 昼夜逆転しているマンガ家も多いんですけど、私は体内時計が中学生のまま止まっていて、朝の7時には起きて、夜12時には眠くなります。私もアウトローな生活に憧れていたけれど、そうはならなくて、結局学校に通っていたときと変わらないタイム感で仕事していますね。スタッフを3人雇ってるんですけど、彼らも朝10時に入ってもらって夜7時に帰ってもらう感じで。制作活動をするにはちゃんと寝ないとダメですよ。米津さんもちゃんと寝てますか?

米津 むちゃくちゃ寝ますよ。俺はロングスリーパーなので1日10時間くらい寝ないと体調が悪くなっちゃうんです。

板垣 体が大きい人ってよく寝る人が多い気がします。

米津 やっぱり寝ることによって縦の伸びが阻害されないんじゃないかな。昔からずっとなので。でも俺は昼夜逆転の鬼みたいな人間で、直したいんですけどどうにも直らなくて。

板垣 夜はずっと起きていて朝になって寝るみたいな感じですか?

米津 そうですね。俺はお酒が大好きなんで夜は飲んじゃうんですよ。

板垣 今も飲んでいらっしゃいますもんね(笑)。

米津 すみません(笑)。俺はお酒は自分にとっての“メガネ”だと思っているので。メガネは視力が悪い人がかけるものじゃないですか。で、自分の弱くなってしまった感覚を取り戻すためにかけているわけで。俺にとってのお酒は、考えなくてもいいことをいろいろ考えてしまう自分にかける“逆メガネ”なんです。文脈を見失わずにズンッといけるようになるから、ちゃんと話ができるようになる。人と話すときにお酒を飲んじゃうんですけど、それによって俺はちゃんとしゃべれてるっていうのがあるんですよ。

板垣 米津さんにとってお酒は大事なんですね。私は全然お酒を飲めないんです。

──アウトプットは共鳴するところがあるのに、生活スタイルや中身は間逆なおふたりですね(笑)。

米津 (笑)。

──最後になりましたが、米津さんは板垣さんとお話してみてどうでしたか?

米津 もっとドロドロした人なのかなとも思っていたんですけど、意外とそうじゃなくて。まあ初対面ですし、そういうところは出さないですよね(笑)。

板垣 (笑)。

──米津さんは今後「BEASTARS」にはどんな期待をしていますか?

「BEASTARS」7巻より登場する、ドールビッグホーンのピナは演劇部の新入部員で、女癖の悪い遊び人。人を食ったような性格で、周囲から反感を買うことも多いが、ある事件をきっかけにレゴシとの距離は近くなる。

米津 俺が言えるような立場ではないですけれど、ピナが好きなのでもっと活躍してほしいです。今も十分活躍していますけれど。

板垣 ピナ、人気ですよね。活躍すると思いますよ。

──このたび発売された11巻でも重要な役どころでした。板垣さんはいかがでしたか? 米津さんと話してみて。

板垣 なんか読者の方からレゴシに似ているって言われていたので、オオカミチックなのかなと思ったけど、すごく繊細な雰囲気なのでどちらかと言うと草食獣じゃないかなと思いました。

米津 そうですね(笑)。

板垣 大きい草食獣……キリンみたいだなって。

米津 自分でもキリンにはしっくりきます。ありがとうございます(笑)。

板垣 (笑)。今後も米津さんの活躍を期待しています。米津さんには行けるところまで行っちゃってほしいです!

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テム食殺事件の解決を図るレゴシと口封じを目論むリズが更衣室で遭遇。超獣同士の死闘が開幕するが、清掃員の邪魔が入り勝負は中断、大晦日の再戦を誓い合った。 後日レゴシは、女装して裏市に潜入し、決闘の立ち会いをルイに依頼し、その場を去った。大晦日まで、あと3日。最終決戦迫る……!!

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板垣巴留(イタガキパル)
板垣巴留
2016年3月、週刊少年チャンピオン(秋田書店)にて4号連続の読み切り作「BEAST COMPLEX」でデビュー。読み切りの好評を受け、同年9月に「BEASTARS」を連載開始した。「BEASTARS」「BEAST COMPLEX」ともに、草食動物と肉食動物が共生する世界を描いている。2017年、「BEASTARS」で宝島社が刊行する「このマンガがすごい!2018」オトコ編で第2位を獲得。2018年には同作が第11回マンガ大賞、第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、第22回手塚治虫文化賞新生賞、第42回講談社漫画賞少年部門を受賞した。
米津玄師(ヨネヅケンシ)
米津玄師
1991年3月10日生まれの男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」名義でニコニコ動画にボーカロイド楽曲を投稿し、2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表した。楽曲のみならずアルバムジャケットやブックレット掲載のイラストなども手がけ、マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2018年3月にリリースしたTBS系金曜ドラマ「アンナチュラル」の主題歌「Lemon」は自身最大のヒット曲に。10月にはニューシングル「Flamingo / TEENAGE RIOT」を発表。2019年1月からはアリーナツアー「米津玄師 2019 TOUR / 脊椎がオパールになる頃」を開催する。

2018年12月7日更新