アニメ「薔薇王の葬列」緑川光、日野聡、杉田智和が、リチャードとの“名付け得ぬ関係”を紐解く

菅野文による歴史ファンタジーマンガ「薔薇王の葬列」。シェイクスピアの「ヘンリー六世」と「リチャード三世」を原案とした作品で、イギリス中世の薔薇戦争を背景に、男女両方の性を持つリチャードが、イングランド王位を目指す異色の少女マンガだ。

今年1月に8年半におよぶ連載が完結し、機を同じくしてアニメ放送がスタート。現在第2クールのエピソードが放送されている。今回、主役・リチャードを取り囲む男性キャラクターたちを演じるヘンリー六世/ティレル役の緑川光、ケイツビー役の日野聡、バッキンガム役の杉田智和の鼎談が実現。それぞれの担当キャラクターへの思いと、作品の魅力を率直に、ユーモアたっぷりに語ってもらった。

取材・文 / 的場容子

少女マンガのハードな世界観が魅力

──「薔薇王の葬列」はシェイクスピアの「ヘンリー六世」と「リチャード三世」を原案とした、骨太で壮大な歴史ファンタジーです。それぞれオファーを受け、原作に触れたときの印象を改めて教えてください。まずは、第1クールではランカスターの王であるヘンリー六世、第2クールでは謎の殺し屋ティレルを演じる緑川さんからお願いします。

緑川光 僕は「薔薇王の葬列」って「ベルサイユのばら」と共通するところがあると思っているんです。母親が当時「ベルサイユのばら」のアニメを観ていたので一緒に観ていたんですが、少女マンガを原作にしているけれども、ハードな世界観で面白くて。それは「薔薇王の葬列」にも通じるところがあるなと感じました。

アニメ「薔薇王の葬列」より、リチャード。

アニメ「薔薇王の葬列」より、リチャード。

──確かに、どちらも歴史の激動と、そこに生きる人々の人間模様を写し取った少女マンガですね。

緑川 そう。「薔薇王」も史実をもとにしているので、できる範囲でネットで調べると、「ああ、このモチーフはここから持ってきてるんだ」とか、発見があるわけです。「ベルばら」もそうでしたが、実際にあったことがモチーフになっている面白さがありますよね。なので、そうした世界観の中でやらせていただけるのは、なかなかありそうでない機会なのでとてもうれしかったです。シリアスな作品はほかにもありますが、やっぱり実際の歴史をベースにしたものとなると、ぐっと減ってしまうので。それに、自分が憧れていたヨーロッパ方面の、戦争がテーマの話で、メインで参加できたのはとてもうれしかったです。

──リチャードの節目に現れる白いイノシシ、通称“白いの”も、創作キャラクターかと思いきや、史実ではリチャード三世の旗印となったモチーフだったりしますよね。

緑川 ね! あれはびっくりしました。

アニメ「薔薇王の葬列」より、白いの。

アニメ「薔薇王の葬列」より、白いの。

──ありがとうございます。続いて、リチャードの忠実な世話役であるケイツビーを演じる日野さん、いかがでしょうか。

日野聡 僕も世界史や日本史がもともと好きで。世界の成り立ちや、国がどうやって形成されていくのかを考えたとき、子供心に不思議だなと思うことがたくさんあり、そうした歴史を勉強するのが好きでした。「薔薇王の葬列」はその一端を垣間見ることができる作品だと思います。歴史をもとに構成されている作品であり、誰しもが学業で通ってくる世界史の一場面が、フィクションを交えながら描かれている。そうすることで、当時の人の心の変化や動きが、今我々が生きている世界に国にどう影響しているのかが、すごく感じられる作品だと思いました。だから、今回参加できてうれしかったです。

──歴史をもっと知りたいと思わせてくれる作品でもありますよね。杉田さんはいかがでしょうか?

杉田智和 「薔薇王の葬列」は、15世紀のイングランドを描いてはいますが、実は現代の世相を反映した内容でもあると思うんです。噂話と妄執と、それによって起こる不条理に感情が昂ぶって、いつしかそれが娯楽に似た何かになって──全員がそれに振り回されている中で、自分の意見や考え方を持って、言葉や思想を発信するってことが、どれだけリスクがあるのか。それが正しくできている人間が何人いるんだ、という。まさに現代と同じ状況ですよね。

──なるほど。

杉田 当時は実力主義ではなく、血筋や家系で次の王様が決まるので、暗殺も当然のように行われている。そういう世界で、大切な人が亡くなってもっと悲しみたいのに、それすら娯楽として消費されてしまう。「こんなに世の中がお祭りになってるのに、きみはなぜお祭りに参加しないのか?」と言われている気がして……ここでもう、価値観が合わないんですよ。自分としては「いや、参加したくないから」と思ってしまう(笑)。ただ、僕の場合はその意思表示をする前に、「お前はこう考えているんだろう」と普段のイメージから決めつけられてしまうこともある。一方で、バッキンガムという男を見ると、生き方が一貫してるから余計なことを言わないし、まわりの期待する人物像を演じることもできる男だなと。

──行動の一貫性に関しては、権謀術数うずまくキャラクターの中でも、バッキンガムは群を抜いていますね。

杉田 生き方は一貫してるんですけども、そのなかでも徐々に自分の認識しえなかった感情が顔を出してくる。彼もまた揺らぎ始める。そのあたり、第2クールのこれからの展開を追っていただければと思います。

担当キャラクターを深掘り──バッキンガム×杉田智和「リチャードだけを見ている」

──ありがとうございます。それぞれのキャラクターについても少し深掘りして聞いていきたいと思いますが、まずは引き続きバッキンガム。第1クールでは杉山里穂さんが演じたあどけなさの残る少年から、第2クールではすっかり策謀家の青年になって登場します。リチャードとの間の情熱的な愛憎物語もたいへん楽しみですが、どんな点に重きをおいて演じられているのでしょうか。

アニメ「薔薇王の葬列」より、バッキンガム。

アニメ「薔薇王の葬列」より、バッキンガム。

杉田 バッキンガムは、リチャードを王にするのが一番の目的であり、生き方における第一の基準も同様で、それ以外に興味がない。いま収録は分散して行っているんですけれども、自分の前に収録していた音声を、レシーバーを介して聞けるんですよね。ずっとオフにしていました。

──あえて聞かなかったと。

杉田 (リチャード役の)斎賀(みつき)さんとは一緒に録れたんですけど、むしろそっちを気にしなきゃいけないので、リチャード以外の人や民衆の音声は聞かなくても別にいいかなって。従者(日野演じるケイツビー)も作中で何か言ってくるけど。

日野 (笑)。

杉田 僕はリチャードが何を言っているかに注力したほうがいいなと。収録中、斎賀さんの使ってるイヤホンかレシーバーの電池が切れたとき、自分のものを渡しました。「どうせ聞かないんで、僕のを使ってください」って。

──すごくバッキンガムらしいお答えですね。実際に、リチャードしか見ていない。

杉田 僕の演技に対して、「何考えてるんだ、お前」「真面目に録れ」という意見もあるかもしれませんが、バッキンガムは自分が提示した価値観を相手がどう受け取るかに興味がないんですよ。知ったこっちゃない。「なんて身勝手なやつだ」と思われたり、逆に「考え方が一貫してる」と取られたりするかもしれない。でも、僕も自分がどう思われるかまったく興味ないので今回やってみました。こんなアプローチ、流石にあんまりやらないですけど。

──そうなんですね。

杉田 怖いもん、だって(笑)。

──そうした異例のアプローチをとるのは、バッキンガムのキャラクターがそうさせているということですか?

杉田 うん、バッキンガムだからなんじゃないですか。

──面白いです。第2クールが進むにつれて、リチャードとバッキンガムの関係が愛憎入り交じる、とても複雑なものになっていきます。

アニメ「薔薇王の葬列」より、バッキンガム。

アニメ「薔薇王の葬列」より、バッキンガム。

アニメ「薔薇王の葬列」より、リチャード。

アニメ「薔薇王の葬列」より、リチャード。

杉田 彼らの間にあるのは、果たして愛憎なんでしょうか。第三者からだとそう見えるかもしれない。だけど、リチャードもリチャードで、“かろうじて人の形を保っている何か”だと僕は考えているので、もはや常識や普通の概念が通じないはず。だから、彼ら2人の関係を表現するにあたり、第三者が何か言えるのかな?とも思います。演じている人間ですら、どうしたらいいかわからない、どう答えを出していいのかわからないし、出してもいけない気がする。なので、あまり考えてないです。目の前のリチャードとまずどうしようか、そこだけに注力しています。