ちょっと踊るとみんなが褒めてくれる
──一方の「Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。」には、世界さんはバリー役で声優として参加されています。
こっちはすごく“人間”を深く描いた作品だと思います。僕は今回、主人公・ユークをお荷物扱いしていたサンダーパイクというパーティに所属するバリーという人物を演じているんですが、そこの単純な敵対関係というよりは「それぞれの人たちがこういう人間だからこういう状況を生んでいるんだよね」っていうところをすごく丁寧に描いていて。たぶん現実の生活でも、ユークのように不当な扱いを受けて我慢を強いられている人ってリアルにいると思うんですよ。
──本当はすごく有益な仕事をしているのに、地味だから気づかれないケースはままありますからね。
そのユークが活躍の場を得て正当な評価を受けるようになっていく物語で、作品としては王道なんですけど、軸になる1本の王道から派生していく枝が1本1本めちゃくちゃ太くできているというか。そこが大きな魅力になっている気がしますね。
──それこそバリーなんて、ストーリー上はもっと記号的に“ただ嫌なやつ”として出すだけでも十分成立するのに、けっこう人間的な側面がきっちり描かれますもんね。
ある種、この作品で1、2を争うくらい人間味のあるキャラクターですね。原作を読んでいるときから「わかるな、この感じ」と納得できる部分も多かったし、ありそうでなかったような描かれ方だなと。サンダーパイクのリーダーであるサイモンはわかりやすく嫌なやつなんですけど、「こういう、仕事は多少できるかもしれないけど視野の狭いやつっているよね」というリアルさがあるし、そのリーダーのもとで右往左往するバリーの立ち位置にもすごく現実味があるなと思いました。
──演じるうえで苦労した部分などは何かありますか?
いやもう、シンプルに名だたるキャスト陣の皆さんと毎週毎週渡り合うのが大変でしたね。ついていくだけで必死というか。これまでにも掛け合いで収録させてもらった経験はあるんですけど、レギュラーで毎週っていう形は初めてだったので。
──ゲスト声優的な立ち位置の場合は抜き録り(個別収録)が多いですもんね。それが今回は普通にレギュラーだから。
まったく違う大陸から来た人間なんで、なじめるか心配だったんですけど……ヨシキ(中島ヨシキ / サイモン役)が以前から親交のある武内駿輔の事務所の先輩ということで、最初の現場で「あ、駿輔から聞いてますよ!」みたいに言ってくれたのは救われました。あと、稗田(稗田寧々 / レイン役)さんとかも気さくに話しかけてくれたり、大夢(峯田大夢 / ユーク役)とはサシで飯にも行きました。
──おお、見事になじんでいますね。
そんなふうにすごく温かい現場だったので、お芝居的にも変に萎縮することなく「まず自分のやり方でやってみよう、そのうえでダメ出しなりなんなりを受けよう」というスタンスで思いきって臨めました。すごく新鮮で楽しかったですね。ぶっちゃけ、ダンスの現場だと大概のことはわかっちゃうんで……って、これは別に変な意味じゃなくて。
──知識も経験もあるぶん、想定外のことはそうそう起こらないということですね。
知り合いも多いんで、何がどう進むのかはだいたい把握したうえで臨めるんですけど、アフレコ現場とかはまだわからないことが多くて新鮮なんですよ。しかも、ちょっと踊るとみんなが褒めてくれる(笑)。ダンス現場で褒められることなんてないんで。
──「言うまでもない」というだけの話だと思いますけど……。
いやいや、言われたいんですよ! みんな褒められたい気持ちは一緒ですから。だからその点では、ベテラン声優の方々とは妙にウマが合いますね(笑)。「なかなか言われないよね、わかるわー」って。
──なるほど(笑)。そんな掛け合い収録が毎週あるとなると、今まで以上に「声優をやっている」という実感が得られているのでは?
それはありますね。ガヤとかも初めてやりましたし、初回収録なんて18人で録りましたから。
──18人!
18人でのマイクワークなんて、たぶん本職の声優さんでも大変なやつなんで(笑)。そこはめっちゃ右往左往しましたけど、日野さん(日野聡 / サーガ役)がすごく優しくしてくださって。小山さん(小山剛志 / ベンウッド役)ともすぐ仲良くなっちゃいましたし、自分ができないことも含めて全部が楽しい現場でしたね。
──ダンスを始めたばかりの頃に近い感覚が得られたり?
そうですね、その感じはありました。
土日のルーティーンにオススメ
──「ワタル」と「エパリダ」はかなり毛色の違う作品ですが、あえて共通する魅力を挙げるとしたら?
共通点は……そうですね、どっちもキッズが憧れる要素があるってことですかね。ゲームっぽい異世界で配信を通じて活躍する主人公の物語ですし、それぞれ違う視点で感情移入できるんじゃないかと思います。「ワタル」にはキッズがそのまま自分自身を投影できるでしょうし、「エパリダ」はもうちょっと大人びた、背伸び視点で楽しめるというか。ユークの周りにはかわいい女の子がたくさんいて、彼女たちとのドキドキするようなシーンも多かったりするんで、たぶん男の子はグッと来ちゃうんじゃないかな。
──なるほど、確かにそうですね。ワタルには等身大で憧れることができて、ユークには「いつかああなってみたい」と憧れられる、という。
だからどっちも観てもらいたいですよね。もしかしたら、キッズはユークよりもマリナに感情移入できるかもしれない。成長していく感じで言えば、ワタルとマリナはちょっと似ている部分があるような気もするので。
──ちなみにちょっと無茶な質問ですが、バリー視点で「こいつをサンダーパイクに欲しい」と思う人材が「ワタル」の世界に誰かいたりしますか?
「ワタル」の世界からスカウトするとしたら、ってことですか? そんなの、龍神丸一択じゃないですか(笑)。一番強いですよ。バリーと龍神丸がペア組んだらもう、サンダーパイクのほかのメンバーとか誰もいらないですもん。
──確かに(笑)。
バリーってああ見えて、意外と器用な気がするんですよ。筋肉ムキムキなんだけど思考の柔軟性はめちゃめちゃあるんで、龍神丸に乗り込んでもうまく戦うんじゃないかと思います。“柔軟性のある脳筋”という、非常に希少性の高いキャラクターなので。ただ、「エパリダ」の世界に来るんだったらいいんですけど、逆パターンはヤバいと思いますよ。
──逆パターンと言いますと?
バリーが「ワタル」の世界に行くとなったら、すぐエンジョーダのほうについてワタルの敵になっちゃうと思うんで。柔軟性がありすぎて。
──視野が広すぎて(笑)。
そうなっちゃうと問題だなと思うんで、「ワタル」のほうには行かないほうがいいですね。
──ありがとうございます。正直、そんなにちゃんとした回答が返ってくるとは予想していませんでした(笑)。
こういう話は、ちゃんと想像しないと面白くないですから。
──では総括として、読者へ向けて2作品のオススメポイントを教えてください。
放送地域にもよると思いますが、土曜日の深夜に「エパリダ」を観て日曜日の夕方に「ワタル」を観るというルーティーンが、次の週の仕事や学校をがんばる活力になると思います。この順番が逆だったらけっこう大変なことになるんですけど(笑)、「エパリダ」でディープなドロドロした人間関係に没頭したあとに、「ワタル」で脳みそをすっからかんにしてもらうのがいいんじゃないかな。
──2作をセットで観ることで、その落差を楽しんでほしいということですね。
もちろん「エパリダ」にもスカッとするシーンはいっぱいあって、観やすい作品ではあるんですけどね。ただキービジュアルの雰囲気からは想像もつかないぐらい人間の嫌な部分とかもきっちり描かれる作品ではあるので、その意味で土曜日の深夜にはぴったりだと思います(笑)。いい意味でドープな気持ちに浸れる作品です。
──で、日曜の夕方に「ワタル」でリセットしてから新たな1週間を迎えましょうと。
そうですね、細かいことはもういいんで(笑)。カッコいい龍神丸に興奮して、田村睦心さん(星部ワタル役)の最高の少年ボイスで癒されていただければと思います。
プロフィール
世界(セカイ)
1991年生まれ、神奈川県出身。2014年4月、オーディションを経てEXILEにパフォーマーとして加入。2016年にはFANTASTICSのリーダー兼パフォーマーとしても活動を開始。2018年12月にFANTASTICSとしてシングル「OVER DRIVE」でメジャーデビュー。アニメやゲームなどの分野でも活動の幅を広げ、2022年に公開されたアニメ映画「劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編」のフジ役で声優デビューを果たした。
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