「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」石川界人×鴨志田一×増井壮一|ファンの愛に感謝! 「青ブタ」TVアニメと劇場版をキャスト・原作者・監督が振り返る

鴨志田一のエンタメノベル「青春ブタ野郎」シリーズを原作に、2018年10月からTVシリーズ全13話が放送されたアニメ「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」。2019年6月に劇場公開された続編の「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」は、高校2年生の梓川咲太と、恋人で高校3年生の桜島麻衣、咲太の初恋の人である牧之原翔子の3人を中心とした感動作として公開直後から話題を集め、累計興行収入5億円を突破するヒット作となった。そして、11月27日には待望のBlu-ray / DVDが発売される。

劇場公開時にメインキャスト鼎談を公開したコミックナタリーでは、Blu-ray / DVDの発売に向けて、再び鼎談を実施。原作者の鴨志田一、TVシリーズに続いて監督を務めた増井壮一、主人公の梓川咲太を熱演した石川界人の3人に、ネタバレを気にせず、本作やキャラクターに込めた思いなどを語ってもらった。

取材・文 / 丸本大輔 撮影 / 星野耕作

この作品は、好きになってくれた人たちの愛が非常に強い(鴨志田)

──「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」は大ヒット作となりました。公開後、ヒットを実感する出来事などはありましたか?

増井壮一 僕は、親戚の姪っ子たちから「見たよ」と言われたりしました。あと、いくつかアニメスタジオでも、「青ブタ」と関係ない作品のスタッフの方が「行きましたよ」と声をかけてくれたりして。業界内の反応がいつもより多いなとは思いました。それにTwitterなどを見ていると、ファンの方が何回も観てくれたりしていて。それも本当にうれしかったです。

石川界人

鴨志田一 ここ最近、仕事で会う方に「大変恐縮なんですけれど、サインをいただけないですか?」と言われることもけっこうあったので、たくさんの人が観てくれているんだとはすごく思いました。あと、「青ブタ」シリーズという作品に対して、中学生・高校生のファンが増えてくれたのかなという実感がありますし、この作品は、好きになってくれた人たちの愛が非常に強いということも感じていますね。

石川界人 僕が10代の頃からお世話になっている監督さんがいらっしゃるんですけれど、その方の劇場作品の公開タイミングがちょうど「青ブタ」の上映期間中で、「『青ブタ』、人気あるらしいじゃん。こっちも負けられないね」とおっしゃっていたんです。しかも、監督ご自身も「青ブタ」を観てくださったらしくて。「すごく面白かったし、また仕事がしたい」と言ってくださって、すごくうれしかったです。あと、これは業界とは関係ないところでの話になるのですが、僕はオンラインゲームをやっていて、ゲームを通して出会った高校生の友人がいるんです。その友人が、自分のプレイヤーアイコンを麻衣さんにしていて(笑)。

鴨志田増井 ははは(笑)。

石川 友人も僕が声優をしていることは知ってるので、「あ、俺、咲太」と言ったら、「知ってます」って(笑)。「ゲームのときとは声も全然違うから、気にならなかったです」みたいなことも言ってくれたのは、ある意味、お芝居に対する賞賛だと受け止めました。そういう業界とは関係ないところでも多くの人に見てもらえていて、なおかつ愛してもらえているんだな、ということをひしひしと感じました。

原作小説第6巻「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」

──本作は、咲太の初恋の相手である謎の少女・牧之原翔子を中心としたエピソードを描いた原作小説第6巻(「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」)と第7巻(「青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない」)のストーリーがベースになっています。鴨志田さんに伺いたいのですが、このエピソードは、「青ブタ」という作品が生まれたときから、どこかで必ず書くべき物語として存在していたのでしょうか? それとも、シリーズが続く中で生まれた物語なのでしょうか?

鴨志田 1巻を書き始めるときに6、7巻のエピソードがすべて一瞬にして生まれたわけではないですけれど。翔子さんの謎がすべて解き明かされて「翔子さんはどうなるんだろう」というところを書くまではシリーズを続けていくんだということは、最初に据えた大きな目標ではありました。

──ここまで明かされていなかった翔子の謎が描かれる7巻のラストで、ある意味、「第一部完」のようなイメージだったのですか?

鴨志田 そうでしたね。

主人公である咲太が自分自身の問題に突き当たる(増井)

──増井監督と石川さんは、原作や台本などで本作のエピソードを最初に読んだとき、どのような印象を受けましたか?

石川 僕はTVシリーズが始まるよりも前に原作を全部読んでいて、すでにストーリーは知っていたので、そのうえでの感想になるのですが。小説2冊分の内容を90分にまとめるのは非常に大変な作業だと思うし、もちろんカットされるところも出てくるんです。でもこの作品は、そのカットの仕方がすごく上手いなと思いました。監督を前にしてこういう話をするのは、ちょっと気持ちがざわつくんですけど(笑)。

増井 ありがとうございます(笑)。

石川 お客さんに伝える情報を絞りながらも、しっかりと大筋を追っていき、きちんと物語を心に届かせていくところがすごいな、と。台本を最初に読んだとき、その前にお酒を飲んでいて、ちょっと酔っ払った状態で感情の起伏が普段よりも激しくなっていたからか、涙がぼろぼろとこぼれるくらい泣きました。

増井壮一

増井 監督のお話をいただいた最初から、TVシリーズの後に劇場版で6、7巻の内容をやるという企画だったので、そのつもりで原作を読んでいたら、6、7巻の内容は全然ライトではなくて(笑)。

鴨志田 そうかもしれませんね(笑)。

増井 ライトノベルではなく、ある意味、ハードな世界に踏み込むような内容だったので、「大変だ。ここが要だな」とすごく感じました。咲太に関して言えば、TVシリーズのほうでは、女の子たちを助ける側にいますが、いよいよ6、7巻では、主人公である咲太が自分自身の問題に突き当たる。

──自分と、恋人である麻衣と、恩人でもある翔子、どの命を選ぶのかという選択を迫られることになります。

増井 シリーズとしても、完全にそこがピークということは明らかだったので、TVシリーズを作るときも6、7巻の内容から逆算して、13本の中でどこまでスタンバイできるか、そこに向けてどう登っていけばいいのかが肝だなと考えていました。

──「登っていく」というのは咲太を成長させたり、視聴者の気持ちを高めていったりするという意味でしょうか?

左が牧之原翔子。

増井 そうですね。あとは、「隠す」ということも意識しました。咲太の本心があからさまにはならないTVシリーズと、(見ている側も)咲太の本心に直面せざるを得ない劇場版とではハッキリと違うので。翔子さんについても、出しすぎず隠しすぎないというベストな塩梅を探りました。脚本の横谷(昌宏)さんも、特に翔子さんの出番や見せ方について、TVシリーズからだいぶ計算してくださっていて。原作とは違う順番で並べてくださったりもしました。それも、劇場版では翔子さんが大活躍することになるので、そこに向けて、どう布石を打っていったらいいかを計算してのことだったんです。

──鴨志田さんは、牧之原翔子をどのような存在、どのような魅力を持ったヒロインとして描こうと考えていたのでしょうか?

鴨志田 すごくわかりやすい言い方としては、「麻衣さんにとってライバルになれるキャラクターであること」というのが、翔子というキャラクターを生み出すうえでの大前提にありました。

石川 麻衣さんがかわいすぎますからね。

鴨志田 1巻を書き終えたぐらいのタイミングで、思っていた以上に咲太と麻衣さんの関係性がいい感じに描けている気がしたので。あの2人の間に割り込んでいけて、麻衣さんの精神的な強さなどにも対抗できる女の子とは、どういうキャラクターなのかということは常に考えていました。しかも巻が進むごとにほかのヒロインも出てくるので、それに合わせて麻衣さんの魅力もどんどん上げていったつもりで。

桜島麻衣(左)と牧之原翔子(右)。

石川 わかります。

──ライバルになる翔子に求められるものも、どんどん大きくなっていったわけですね。

鴨志田 はい。ただ、「この子は年上にしておかないと、麻衣さんに対抗できず、まずいことになるな」という予感はしていたので、最初から麻衣さんよりもさらにお姉さんにはしていました。

「青ブタ」のヒロインはみんなかわいい!(石川)

──増井監督は、翔子というキャラクターを描く際、どのようなところを特に意識していましたか?

増井 例え話としてスタッフにも話したんですけれど、僕の中では「麻衣さんはマジンガーZで、翔子さんはグレートマジンガーだ」と。

鴨志田石川 ははは(笑)。

増井 みんなマジンガーZが大好きで「最高!」と思っているんですけれど。新たにグレートマジンガーが出てきたときには、「こっちのほうがいいかも?」と思っちゃう(笑)。

鴨志田 確かに、そういうことですよね(笑)。

増井 そういうふうに、思わずなびきそうになっちゃうような強みのある存在をイメージしていました。敵対するわけではないのだけれど、今まで最強だと思ってた麻衣さんがちょっとたじろぐ相手。しかも、咲太にとっては人生の恩人でもあるし、そのことに関しては、麻衣さんとしても感謝するべきところである。そういう相手と三つ巴になる関係性は、麻衣さんとしても苦しいわけじゃないですか。

──心の底からライバル視できるような人物ではない分、苦しいでしょうね。

増井 麻衣さんはツンデレに近い一面もあるので、作品の中では「いたぶられる咲太と、いたぶる麻衣」というわかりやすい構図もありますけれど。僕は、麻衣は本当にとことん優しい女の子ということが最高の魅力だと思って、ずっと描いてきたんです。でも、そこに翔子という、ある意味で恩を感じてしまう相手が出てくる。しかも、メインヒロインになってもおかしくないような存在感も持っている。そこで食われてしまわないように、麻衣さんもどんどん強くなっていったわけですが、対抗するだけで超えるわけではないので、そのバランスも注意しながら作っていました。

──石川さんは、先ほどから随所で麻衣への愛を語ってくださっていますが、翔子の魅力などについては、どのような印象がありますか?

牧之原翔子

石川 本当にファン目線でお話ししてしまいますが、監督もおっしゃったように、麻衣さんが何より魅力的なのは、咲太のことをすごくよく見ていて、本当に好きで常に思いやっているところだと思うんです。でも、翔子さんも、割とそういうところがあるんです。咲太のことをよく見ていて、気遣ってくれていて……。それなのに、2人の対応の仕方は全然違うところがいいです。咲太の転がし方も違っていて。麻衣さんは、年上だけど一緒に転がってくれる感じもあって、なおかつ「転がされたい」と思うんです。でも、翔子さんには、ずーっと転がされ続けている感じ。ずっと負けっぱなしになるんです。そういうところが、2人の魅力の違いなのかなと思います。結局、どっちもかわいいです。「青ブタ」のヒロインはみんなかわいい!

──それは真理ですね(笑)。鴨志田さんは、麻衣をどのようなヒロインとして描いてきたのでしょうか?

鴨志田 麻衣さんは、最初に受ける印象は、確かに広義で言えば「ツンツンデレデレする子」ではあるかもしれませんが、記号的に語るのがすごく難しい子だと、ずっと思っています。懐の深さを感じさせるかと思えば、大人ぶって自爆したり、年頃感はありつつも、芸能界で生活してきたので精神的に大人になってる部分もある。パラメーターにすると、すごく高いところもあれば、急に年相応になってるところもある。しかも、外から見ると、どこが高くて、どこが年相応なのかわからず、ボールを投げてみたときに初めて、「あ、ここの部分は弱いんだ」とわかったりする。そこが1つ魅力になっているキャラクターなのかなとは思っています。それでいながら、石川さんも言ってくださったように、基本的には咲太を転がす側の立場の女の子で、時々、その立場が逆転したりもする。そういったところにポイントを置いて作ったキャラではありましたね。

──ライバル的な存在の翔子が登場したことによって描けた、麻衣の新たな一面などもあったのでしょうか?

鴨志田 (成長した)翔子が現れるまでの麻衣さんは、咲太の周りにほかの女の子が近づいてきても、「私のほうが勝てる」と思っていたはずで。咲太が(後輩の古賀)朋絵と恋人ごっこをやっていたときも、多少は不安もあったかもしれませんが、きっと朋絵には勝てると思っていたはず(笑)。でも、唯一、麻衣さんが「ヤバい。この人のここには勝てない」という要素を持っているのが翔子さんなのかな、と。あとは物語の基本的な構造として「咲太が女の子を助けていく」というのが5巻までの流れであったのに対して、翔子さんは「咲太を助けてくれる」という逆側の立場の人ではあるので。麻衣さんの「自分が咲太を助けたい」という気持ちをより強くさせてくれたキャラクターなのかな、という位置づけで捉えていました。