吉良以外にはなんら興味がない(笑)。……でも加藤は好きだった
──子安さんは、吉良朔夜をどのようなキャラクターだと捉えていますか?
七支刀御魂剣(ナナツサヤミタマノツルギ)、そしてルシファーであるという超然的な本性を隠しているじゃないですか。刹那や父親に隠している後ろめたさを吉良は感じていて、葛藤もしている。それに事故で死んでしまった少年としての……つまり人間としての吉良朔夜という存在、そして彼が最期に願うほど大事にしているお父さんとの関係性は吉良を語るうえで欠かせないですね。吉良朔夜の人間らしさと本性の葛藤が本当に好きなんです。もうね、僕に言わせたら吉良はズルい。完全なズルキャラですよ!
──そのズルキャラというのは?
カッコよすぎるんです!
──あはは(笑)。
「ちょっとドジ」とかもなくて、ほぼほぼパーフェクトなカッコよさじゃないですか。
──おっしゃる通りですね。それに吉良の本性と人間らしさとの葛藤に、私を含めた当時の読者は悶えていたと思います。
カッコいい男が苦悩してて、カッコよくないわけがない(笑)。由貴さんが吉良にどういうものを背負わせたいのかありありとわかる。そこを汲み取ってお芝居ができなかったら、吉良の魅力は引き出せないんですよね。上っ面な芝居じゃだめなんです。表面的なカッコよさだけを演じていたら、吉良の内面は表現できない。このセリフにはこういう裏があるとか、実はこう思ってるとかを感じさせる芝居をするんだって思いながら、当時若輩だった僕は演じていました。
──本当に吉良がお好きなんですね。
20年前の当時、「僕より彼を理解している声優はいないだろう!」と思っていたんじゃないかな。ドラマCDになる前から絶対に吉良は僕が演じたかった。吉良のことを理解していないほかの声優が演じて吉良が潰れるくらいなら……どうせダメなら俺が演じて俺が潰すって(笑)。役者としてわがままなところがあったんですよね。でもそういう強い気持ちがあっても、制作サイドが僕に演じる許可をくれないとそもそも演じられないので、吉良役をやることができて本当にうれしかったです。吉良を任せてもいい役者であれたということだから。
──そこまでの思いを……。ちなみに吉良以外に好きなキャラクターはいますか?
まず大前提として、「天使禁猟区」というマンガ自体は大好きなんですけど、キャラクターとしては吉良以外にはなんら興味がない(笑)。……でも加藤は好きだった。
──加藤故、いいですよね。
加藤だけは本当に……なんだろうな、ちょっと嫉妬しちゃうくらいいい役なんですよね。何回も言いますけど、僕は吉良が大好きで興味がほぼ彼に集中してるんです。ただ、目の端っこに加藤がいるんですよ。若干感じるんです、彼から何かを……。
──何か?
「加藤を演じたら面白いだろうな」っていう役者としての予感かもしれません。絶対由貴さんも加藤が好きだと思う。マンガを読んでてもヒシヒシ伝わってきました。
──父親から「死にやすいと思った」という理由で“故(ゆえ)”と名付けられた、というエピソードが強烈でしたよね。最初は自分本位なところが目立つ加藤ですが、物語が進むにつれてどんどん好きになっていった読者も多かったと思います。
いやー、モブっぽく出てきたのにまさかあんなに重要な役になるとはね。いろいろ重なって「重要なキャラに育ってしまった」って面もあるのかもしれないけど、結局は由貴さんが“重要なキャラにした”んですよね。物語を作る人が一番楽しいところなんじゃないかなあ。由貴さんも加藤を描くのが楽しかったんじゃないかと思います。でもやっぱり僕は吉良を演じたいですね。
──そこまで吉良に惹かれる理由はなんでしょう?
カッコいいからですよ。それ以外ない。男としての色気があって、強さもある。僕が根本的に役者・声優として演じたいのはカッコいい男なんです。面白いキャラ、コメディリリーフ的なキャラもけっこう演じますし、それも楽しいんですが、一番演じたいのは男としての魅力があるカッコいいキャラクターなんです。ギャグとかパロディ系のキャラは……大変なんです(笑)。
──エネルギーを使いそうですよね。
まさに。もともとそんなにはっちゃけてる人間でもなく意外に真面目なので、お調子者を演じるときは本当の自分という枷を外す必要があります(笑)。でも吉良みたいなキャラはスッと入っていける。自分が憧れる男性像が自分の中にあって、常にそうありたいって思ってるから、そういう人物を引っ張り出せばいいんです。吉良みたいなカッコいい男がいろんな作品にいて、それをすべて僕が演じることを許されるなら、僕は本当に満ち足りますね。
「東京クロノス」を読まない理由はない
──子安さんから見て、由貴香織里作品の魅力はどこにありますか?
少年マンガ、少女マンガというジャンルを超えて、独自の世界観を作り出してるところです。「天使禁猟区」も「伯爵カイン」シリーズも少女マンガ誌で連載されていましたが、男性の僕が読んでも面白い。特に「天使禁猟区」は偉大なるマンガ家たちのSF作品に引けを取らないテーマ性があって、由貴さんは天才の1人だと思います。天使や悪魔が出てくるので、もしかしたら“厨二っぽい”なんて言う若い人がいるかもしれないんですが、そういう言葉で片付くような作品ではないんですよね。連載当時は「厨二病」みたいな言葉が人口に膾炙してなかったですし。そういう時代背景とともに深く読み込んでほしいです。
──天使の造形もすごくスタイリッシュでしたよね。一般的なふわふわした白い羽の優しいイメージではなくて、禍々しいコードにつながれた機械仕掛けのイメージで描かれてて。天使を描いてるのに、どちらかというとインモラルで退廃的な雰囲気でした。
そこも本当にカッコよくて、僕の好みにぴったりでした。あと由貴作品といえば、言葉の紡ぎ方。「東京クロノス」もモノローグに由貴さんらしさを感じて。
──「私を連れて逃げていってよ久遠 外の世界へ」みたいな。
ああ……由貴さんだなって。やっぱり独特の感性なんですよね。心情を吐露していく感じが素敵です。「天使禁猟区」を知っている人は、あの続きなので「東京クロノス」をぜひ読んでほしい。読まない理由はないですね。
──「東京クロノス」は「天使禁猟区」の最終回後の世界が描かれているので、読者だった人はスッと入っていけると思います。逆に「東京クロノス」で「天使禁猟区」に初めて触れる人にもおすすめですか?
そういう方が読むのを迷ってるのは理解できますね。ただ、僕に言わせたら「迷ったら読めばいいじゃん」です(笑)。趣味や好みは個人個人のことなので、自分で読んで判断すべきかなと。「東京クロノス」を面白いと思ったら、「天使禁猟区」を読むとよりハマれると思いますよ。
プロフィール
子安武人(コヤスタケヒト)
1967年5月5日生まれ、神奈川県出身。有限会社ティーズファクトリー代表取締役。「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズ(ディオ / DIO役)、「ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー」(コンボイ役)、「新機動戦記ガンダムW」(ゼクス・マーキス役)、「銀魂」(高杉晋助)、「異世界おじさん」(おじさん役)、「アンジェリーク」シリーズ(夢の守護聖オリヴィエ役)など、数々のアニメ・ゲームに出演。海外映画、海外ドラマの吹き替え、ナレーション、ラジオパーソナリティなど幅広く活躍している。また3月29日にはミニアルバム「new flavor」をリリース。ソロとしてオリジナルボーカル曲をリリースするのは、2007年7月発売のシングル「ALTERNATIVE」以来、15年8カ月ぶりとなる。