「魔女見習い」と「どれみ」の違いは?4人のアニメ監督が語る背景美術の今

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「第33回東京国際映画祭」が東京・六本木ヒルズを中心に開催中。本日11月7日には「2020年、アニメが描く風景」と題したトークが行われ、「サイダーのように言葉が湧き上がる」のイシグロキョウヘイ監督、「ジョゼと虎と魚たち」のタムラコータロー監督、「ぼくらの7日間戦争」の村野佑太監督、そして「魔女見習いをさがして」の佐藤順一監督が登壇した。

左から藤津亮太、イシグロキョウヘイ監督、タムラコータロー監督、村野佑太監督、佐藤順一監督。

左から藤津亮太、イシグロキョウヘイ監督、タムラコータロー監督、村野佑太監督、佐藤順一監督。

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藤津亮太によるスライドの一部。

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進行はアニメ評論家の藤津亮太が担当。まずは映画祭のジャパニーズ・アニメーション部門でプログラミングアドバイザーを務める藤津より、今回のテーマとして背景美術を選んだ理由が説明された。藤津は「今、さまざまなアニメ作品で美術への挑戦が起きている実感がある」と述べ、なぜそうなったのかという点について自身の見解を示す。2004年にデジタルカメラの一般家庭普及率が50%を超えたこと、2008年に「Adobe Photoshop CS4」が発売されたことなどをトピックとして挙げながら、背景制作のデジタル化や、実際の風景がアニメに取り入れられるようになった流れをたどった。そして2016年に新海誠監督作「君の名は。」がヒットし、美術が作品の顔として機能すると知られたことも要因の1つに挙げ、現在はアニメの背景でできる可能性が広がってきたのではないかと解説した。

「魔女見習いをさがして」 (c)東映・東映アニメーション

「魔女見習いをさがして」 (c)東映・東映アニメーション[拡大]

続いて4人の監督から、今回東京国際映画祭でかけられる作品の美術について語られる。「おジャ魔女どれみ」の20周年記念作品である「魔女見習いをさがして」について、佐藤監督は「『どれみ』の美術は、3歳から10歳に向けたものとしては少し重いんです。『魔女見習い』でも『どれみ』の筆のタッチは残しているんですが、ストーリーはシビアな部分があるので、逆に美術は少し明るくなるよう、鎌谷(悠)監督のほうからオファーしています」と明かす。

村野佑太監督

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廃坑が重要な舞台である「ぼくらの7日間戦争」では、「高校生の男の子が好きな女の子と家出できるってなったとき、世界がどう見えるんだろう」と美術監督と話し合ったと村野監督。「実際の廃坑はちょっと汚いんですが、苔や錆を汚いと思って描くと汚くなり、きれいだという実感を持って筆を走らせると、キラキラして見えるんです」と、人の手で作られるアニメならではのエピソードを披露した。「ジョゼと虎と魚たち」のタムラ監督も「恋愛しているときってちょっと視野が狭い感じがあるよね」と美術監督と話したと言い、「手描きの背景にすることで少しピントが甘くなると思うんです。撮影処理も含めて、被写体深度が狭い雰囲気を作れないかなと模索しました」とこだわりを明かした。

「サイダーのように言葉が湧き上がる」(c)2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

「サイダーのように言葉が湧き上がる」(c)2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会[拡大]

藤津から「一番独特なスタイル」と評された「サイダーのように言葉が湧き上がる」。イシグロ監督は「アニメを作るうえで重要視しているのは、ディティールではなくシルエット」と切り出し、美術でもそれを実現するため、美術監督の中村千恵子にオファーしたと説明する。鈴木英人、永井博、わたせせいぞうといった80年代のポップカルチャーから発想を得ているという同作。その独特な美術から、藤津が「キャラを乗せると浮くのでは?」と尋ねると、「現場からも不安の声がありましたが、そもそも背景よりキャラクターの方が強いんです。整合性は考えていますが、特に注意したということは、実はあんまりないんです」と語った。

佐藤順一監督

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続いては背景のためのロケハンについての話題に。「どれみ」ゆかりの各地をめぐるロードムービー的な「魔女見習いをさがして」をはじめ、「ぼくらの7日間戦争」は北海道、「ジョゼと虎と魚たち」は大阪、「サイダーのように言葉が湧き上がる」は群馬・高崎とそれぞれ日本国内を舞台やモデルにした作品だ。村野監督は現地で炭坑のディティールや、北海道と関東での異なる空の色などを体感したと話し、原作通りに大阪を舞台にしたタムラ監督は、絵コンテを描く前に一度現地を訪れ、どういう場所であれば登場人物が活躍するかを考えたという。また、それぞれ気を配ったと口にするのが、ロケハンをすることで背景の密度が高くなりすぎ、見にくい画面にならないようにすること。佐藤監督も「ロケハンに行ったときに気を付けなきゃいけないのは、その場所に愛着が生まれて省けなくなること。実際に見ると再現したくなっちゃうから(笑)」と話し、一同は「あるある(笑)」とうなずいた。

左から藤津亮太、イシグロキョウヘイ監督、タムラコータロー監督。

左から藤津亮太、イシグロキョウヘイ監督、タムラコータロー監督。[拡大]

そんな中、写実的な背景については思うところもあるようだ。佐藤監督が「アニメーションの宿命だと思うんですが、絵を見せるというよりも、物語を見せるためのツールになっている。より現実に近いほうがよく見えてしまうということもあるので、密度が上がる傾向が強いなとは思ってるんですよね」と話すと、イシグロ監督も「納品する映像の解像度が上がりすぎですよね。解像度が上がったために、写実的なものを求められている部分もある」とコメント。イシグロ監督は終盤、今後の美術に期待することを聞かれた際にも「もっとフラットに考えてもいいと思うんです。解像度にビビらず、描かないところは描かない」と述べ、佐藤監督も「『魔女見習いをさがして』と『泣きたい私は猫をかぶる』を作る中で、“映画らしさ”ってことがたびたび議論に上がったんです。それが僕は飲み込めなかったんですが、その“映画らしさ”って幻想なんじゃないかと。密度を限界まで下げて、シンプルな線で描いたものだって、訴求できるって思ってるんです」と続けた。

また後半では、「これまでインパクトを受けた美術は?」という質問も。佐藤監督は「とんがり帽子のメモル」でともに制作に携わった美術の土田勇を挙げる。村野監督はディズニー作品「ノートルダムの鐘」の影響を明かし、タムラ監督はミュシャのような記号化された絵を意識しながら画面を考えていると語った。イシグロ監督は版画家・吉田博の名前を挙げ、「すごくアニメ的なので見てみてください」と呼びかけた。

最後には集まった観客からの質疑応答にも答え、架空の世界の背景の作り方についてや、ポリティカルコレクトネスとの向き合い方についても話が及んだ。約1時間半にわたるトークの模様は生配信も行われ、現在もYouTubeで視聴可能だ。

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