ナタリー PowerPush - 悠木碧×新居昭乃

世代を超えて通じ合う2人の「メリバ」トーク

第三者視点で魔女の孤独を描く

──「夜の扉とメリーゴーランド」の作詞のときにはどんな打ち合わせを?

悠木 まず物語的には「プティパ」の「Night Parade.」っていう曲とつながっていて、感情やテーマという部分では「ポポン...ポン!」ともつながっています、というお話をさせていただいて。メモには「Night Parade.」はキラキラ輝いていて魅力的な夜のパレードがあるんだけど、それは実は魔女のパレードで、魔女が寄ってきた子供たちを襲って食べていたという曲。「夜の扉とメリーゴーランド」ではその続きというか、魔女はなぜ夜な夜なパレードを開くのかを描きたいということを書かせていただきました。

左から悠木碧、新居昭乃

新居 「わかってもらう」っていう意味を間違えている魔女のお話なんだよね。

悠木 はい。魔女は誰かにわかってもらいたいんだけど、思わず傷つけたり、取り込んだりしてしまって、結局、そのわかってもらいたい人のことを失ってしまう。そこが「ポポン...ポン!」とつながっているところなんですけど、その矛盾した感じや一方通行な感じを描きたくて。

──でも「夜の扉とメリーゴーランド」の詞って途中で魔女のセリフこそ出てくるものの、魔女の視点ではない。魔女の誘いを袖にする女の子視点に立っていますよね?

悠木 そこなんです! 新居さんからいただいた歌詞のそこに一番ときめいたんですよ! 魔女はキラキラしたパレードで武装することで子供たちを誘おうとするんだけど、この女の子のように、もう誰もそれにはダマされなくて。みんな離れていっちゃってるんだけど、ひとりぼっちの魔女にそのことを教えてくれる人はいないから、結局大人になってもパレードを続けている。その魔女の姿を女の子が冷静に眺めているっていう歌詞のおかげで、魔女視点の私のメモよりも、魔女の世間での扱われ方や疎外感がすごくはっきり見えてきて。詞をいただいたときは、思わず「わーっ!」って声が出るくらい本当に感動しちゃいました。

新居 ただ、女の子側に立ったのにはそんなに深い意味はなくて……。なんて言うんだろう? 書きやすかったから?(笑)

悠木 あはははは(笑)。でも詞をいただく前に「女の子側からの視点になったんですけど大丈夫ですか?」っていうすごく丁寧な確認のメールをいただいたんですけど、そのときから「どんな詞になるんだろう」ってすごく楽しみでしたし、実際の詞を見たときも「私が思っていた以上に魔女の孤独感が伝わってたんだなあ」「新居さんには私の気持ちがどれだけ丸見えになってるんだろう」って(笑)。

「私、そんなに寂しそうにしてました?」

──「ポポン...ポン!」のときに続いて、また気持ちがバレた(笑)。

悠木 「ポポン...ポン!」のとき以上ですね(笑)。確かに憧れの人がお話を聞いてくださるのがメッチャうれしくて、たくさんしゃべってしまった気もするんですけど、今日以上に緊張してたし「仕事場でそんな寂しさとか見せちゃいけないし」とも思っていたはずなのに……。私、そんなに寂しそうにしてました?

新居 なんていうか「ただ寂しい」っていうんじゃなくて「このままでは救われない」っていう、どうしようもない絶望感みたいなものをどこかで感じていて、実はそれにすごく惹かれているんじゃないかな、っていうことはすごく伝わってきました(笑)。そういう、人の中にあるいろんな感情の核心みたいなものを、美しく文学的に突くことのできる人だな、って。

悠木 ありがとうございます! この程度のことを「絶望的」と言っていいのかはよくわからないんですけど、確かに「Night Parade.」や「夜の扉とメリーゴーランド」には「ねっ! 華やかそうに見えるでしょ?」っていう思いも込められていて……。

新居 あはははは。おもしろーい(笑)。

悠木碧

──華やかなパレードの真っただ中にいるように見えるかもしれないけど、私にもいろいろあるんだよ、と(笑)。

悠木 でも「実は私もがんばってるんだ!」って熱弁をふるってもきっと100%は伝わらないだろうし、相手の方も困っちゃうと思うんですよ。逆に私が立場の違う方に熱弁をふるわれても、気持ちのすべてを理解することはできなくて申し訳なくなるだろうし。メモを書いているときにはそこまでのことは考えていなかったんですけど、歌うとき「ここに描かれている感情って私の中のどの感情に近いかな?」って考えたら「あっ! あのわかってもらえない感じとわかってあげられない感じに一番近いんだ」っていうことに気付きました。

私は愛する何かと1つになりたいのかもしれない

──「サンクチュアリ・アリス」のメモには何が書いてあったんですか?

悠木 もともと「プティパ」の「Baby Dolly Alice」っていう曲があって、その続き、アリスシリーズの1曲っていう位置付けなんです。で「Baby Dolly Alice」は、人形で遊んでいる人間の女の子・アリスの視点に立つのか、その人形のアリスの視点に立つのかで意味がメッチャ変わってくる。すごくかわいらしくも聴けるし、すごく怖くもなるという曲で。「サンクチュアリ・アリス」でも同じように、人間なのか人形なのかがわからなくなっていく感じを描きたいです、って。で、人形のアリスは球体関節人形で手足を外せるから、人間のアリスは人形のアリスをバラバラにしてしまうんだけど、そうしているうちにだんだんどっちがどっちなんだかわからなくなってくる。というか、2人のアリスが1つになってしまったのかもしれないっていうお話を書いてみました。

──なぜ1つに?

悠木 人間のアリスは、大人になったら人形のアリスを捨てなきゃいけなくなることがすごく寂しかったし、すごく怖かったんじゃないかなって。だから人間のアリスも人形のアリスも1つになれれば、実はものすごく安心できるんじゃないかと思ったんです。ただ、この曲については私の中で起承転結がすごくぼんやりとしていたので今お話したことをお伝えしただけ。実際のストーリーは新居さんに作っていただいたんですけど、だからどの詞よりもいただいたときにビックリして。「あの短時間のうちに、こんなところまで見透かされてたんだ!」って(笑)。

新居 私もそういうお話が好きだからなんでしょうね。残念ながら「お人形のことが好きすぎて一緒になっちゃった」「最愛の人や物と1つになってしまいたい」みたいな感覚は自分にはないんですけど(笑)、すごく好きな世界観ではあるんですよね。2人のアリスが本当に一緒になれたのか、それともあくまで心理的なもの、1つになれたと思い込んでいるだけなのかはわからないんだけど、とにかく好きなものと1つの存在になることに憧れているんだろうな、っていうことはなんとなくわかったんです。

悠木 それにも本当にビックリして。「本当に一心同体になれたのか、多重人格みたいな思考になっているだけなのかはわからないよな」ってお話はしてないはずなのに、ちゃんと「わたし」と「あなた」の視点がごっちゃになっている詞を書いていただけたので。

2nd“プチ”アルバム「メリバ」 / 2013年2月13日発売 / FlyingDog
初回限定盤 [CD+DVD] / 2800円 / VTZL-55
通常盤 [CD] / 2400円 / VTCL-60321
収録曲
  1. ポポン...ポン!
    [作詞・作曲:新居昭乃 / 編曲:保刈久明]
  2. 夜の扉とメリーゴーランド
    [作詞:新居昭乃 / 作・編曲:保刈久明]
  3. I Can Fly!
    [作詞:藤林聖子 / 作・編曲:大西省吾]
  4. サンクチュアリ・アリス
    [作詞・作曲:新居昭乃 / 編曲:保刈久明]
  5. Mon Ciel Bleu~わたしのあおいそら~
    [作詞:藤林聖子 / 作・編曲:佐々倉有吾]
悠木碧(ゆうきあおい)

プロフィール画像

3月27日生まれ、千葉県出身の声優・歌手。4歳の頃から子役として活動し、2003年にテレビアニメ「キノの旅」で声優デビューを果たし、2008年放送の「紅」で初のヒロインに抜擢。その後さまざまな作品で主要キャラクターを演じ、2011年には「魔法少女まどか☆マギカ」の主人公、鹿目まどか役で大きく注目を集めた。2012年3月28日の誕生日に1st“プチ”アルバム「プティパ」を発表しアーティストデビュー。2013年2月6日に2nd“プチ”アルバム「メリバ」をリリースした。

新居昭乃(あらいあきの)

8月21日生まれ、東京都出身のシンガーソングライター。1986年7月にシングル「約束」でメジャーデビューを果たす。以降、種ともこ、PSY・S、CHARA、安藤裕子ほか多数のアーティストのライブやレコーディングにコーラスで参加する一方、ソングライターとしてもアニメの劇中曲やCM音楽などで幅広く活躍。通算11枚のアルバムを発表している。2013年1月30日にはアニメ「まおゆう魔王勇者」のエンディングテーマに起用された新曲「Unknown Vision」をシングルとしてリリースした。