ナタリー PowerPush - 悠木碧×新居昭乃

世代を超えて通じ合う2人の「メリバ」トーク

「咀嚼されてグチャグチャ」じゃなくて「パクリ」

──実際そのメモの上ではどんな悠木ワールドが繰り広げられていたんですか?

新居 「『食べられてグチャグチャ』じゃなくて『パクリ』」(笑)。

悠木 あっ「咀嚼されて」です。

新居 そうだ。「『咀嚼されてグチャグチャ』じゃなくて『パクリ』」(笑)。

──なんですか、それ?

新居昭乃

新居 どの曲も物語やキャラクターの説明の前に、その説明をひと言でくくるような見出しが付いていたんですけど、それが全部強力で(笑)。のちに「ポポン...ポン!」になる曲の見出しが「『咀嚼されてグチャグチャ』じゃなくて『パクリ』」だったんです。

──確かに「ポポン...ポン!」って「ちっちゃなちっちゃなワタシ」が何者かにパクリと食べられる物語になっていますね。PVでも悠木さんが巨大化した愛猫・アシュベルくんにパクリと食べられて、お腹の中で踊っているし。

悠木 「ポポン...ポン!」は「プティパ」の中の「回転木馬としっぽのうた」っていう曲のアンサーソングになっているんですけど、「プティパ」のときから「『伝える』『伝わる』って非常にデリケートな話だよな」って思っていて。「回転木馬としっぽのうた」って「きみのとなりにいるだけで、ぼくはしあわせ」とハッピーエンドっぽく終わっているんですが、もしかしたらこれはハッピーエンドじゃないかもしれない気もしていて……。

──隣にいるからって、その人に思いが伝わるとは限らないよ、と。

悠木 ええ。実際に私も「すごく近くにいるのに、この人になんにも通じていない」っていう寂しさは経験したことがあって。だから、飼い主の「ちっちゃなちっちゃなワタシ」とネコはお互いのことが大好きなんだけど、ついうっかりネコが「ワタシ」を食べちゃって「あらまあ」っていう、ちょっと滑稽なストーリーを通して「すごく好きな人同士がずっと近くにいられるようになったのに、なぜかお互いにずっと寂しい」っていうお話をしてみたかったんです。ただ、グチャって噛まれると「ワタシ」が死んじゃうし、「お腹の中でキャーってなったらピノキオみたいでちょっとかわいいかな」とも思ったので「ぜひパクリとやってください」と(笑)。

新居 そうだったんだあ。

──あれっ? お2人のディスカッションのときにそういうお話は……。

新居 そんなに詳しくは教えてもらってないですね(笑)。

悠木 その寂しさについて触れるのはNGっていうわけではないんですけど、私のメンタルの奥深いところにある感情の話だけに、特に必要ない情報かななんて思っていたりして……。すみません!

新居 いえいえ(笑)。私もそこまで詳しく聞かなかったもんね。

新居さんはドン引きせずに受け止めてくれた

──ところが「ポポン...ポン!」って、ちゃんとかわいらしくもグロテスクで、しかもちゃんと寂しくもある物語になっていますよね。ということは、メモにあった悠木さんの思いは……。

新居 本当にわかっていたかどうかはわからないんですけど、なんかわかった気はしました。

悠木 ただ、そのペラッが完成したときディレクターさんに「こんな感じでどうですか?」ってメールしたんですけど、なんの返信もなく……。母親に見せても「ショッキングすぎない?」と言われ……。私の趣味ややりたいことをガッツリ打ち出すとドン引きされることが多いんですよ(笑)。

新居 あはははは(笑)。私はペラッに並んでいた見出しを見ただけでも「ああ、はいはいはい」「OK!」っていう感じがしたのに。

悠木 それが本当にうれしくて! 新居さんはペラッを初めて見ていただいたときから「私、こういうの好き」って言ってくださって。私の気持ちを受け止めるところから話を始めてくださったんです。

「ポポン...ポン!」と「赤坂サカス」と「パパのパンツ」

──ところでコミュニケーションの難しさや、愛する人とすれ違うことの寂しさを歌った曲のタイトルとサビの詞がなんで「ポポン...ポン!」なんですか?

新居 そのフレーズだけは仮歌のときから「ポポン...ポン!」って歌ってたんですよ。それこそ軽い気持ちで(笑)。

悠木碧

──悠木さんはなぜそのフレーズを生かそうと?

悠木 「メリバ」の制作に入ったばかりの頃からディレクターさんと「ちょっと小気味いい感じの音や言葉を入れたいですよね」って話はしていたんです。で「『ポウッ!』とかどうですかね?」なんて言っていたところに、ちょうど新居さんから「ポポン...ポン!」という言葉をいただいたので「もうこれしかないな」って。チョー言いたくなるじゃないですか! なんて言うんだろう? 「赤坂サカス」的な?

──確かに口にすると楽しいかも。母音の「あ」がいっぱいあって(笑)。

悠木 「パパのパンツ」とかもそうなんですけど、言いたくなりますよね(笑)。その、みんなが口ずさみたくなっちゃう気持ちのよさが「ポポン...ポン!」にはあるし、でも、ともすれば怖い魔法の言葉のように聞こえるきわどさがたまらなく好きなんです。

新居 私は「お腹の中の話なのに『ポポン...ポン!』で大丈夫?」って聞いたんですけどね(笑)。

──「お腹」で「ポンポン」ではダジャレだと思われてしまうかもしれない(笑)。

新居 だけど「パクリとやられたお腹の中にはキノコが生えていて、その上でポンポンやっている感じなので大丈夫です」って答えが返ってきて。「じゃあ『ポポン...ポン!』のままいきましょう」と(笑)。

2nd“プチ”アルバム「メリバ」 / 2013年2月13日発売 / FlyingDog
初回限定盤 [CD+DVD] / 2800円 / VTZL-55
通常盤 [CD] / 2400円 / VTCL-60321
収録曲
  1. ポポン...ポン!
    [作詞・作曲:新居昭乃 / 編曲:保刈久明]
  2. 夜の扉とメリーゴーランド
    [作詞:新居昭乃 / 作・編曲:保刈久明]
  3. I Can Fly!
    [作詞:藤林聖子 / 作・編曲:大西省吾]
  4. サンクチュアリ・アリス
    [作詞・作曲:新居昭乃 / 編曲:保刈久明]
  5. Mon Ciel Bleu~わたしのあおいそら~
    [作詞:藤林聖子 / 作・編曲:佐々倉有吾]
悠木碧(ゆうきあおい)

プロフィール画像

3月27日生まれ、千葉県出身の声優・歌手。4歳の頃から子役として活動し、2003年にテレビアニメ「キノの旅」で声優デビューを果たし、2008年放送の「紅」で初のヒロインに抜擢。その後さまざまな作品で主要キャラクターを演じ、2011年には「魔法少女まどか☆マギカ」の主人公、鹿目まどか役で大きく注目を集めた。2012年3月28日の誕生日に1st“プチ”アルバム「プティパ」を発表しアーティストデビュー。2013年2月6日に2nd“プチ”アルバム「メリバ」をリリースした。

新居昭乃(あらいあきの)

8月21日生まれ、東京都出身のシンガーソングライター。1986年7月にシングル「約束」でメジャーデビューを果たす。以降、種ともこ、PSY・S、CHARA、安藤裕子ほか多数のアーティストのライブやレコーディングにコーラスで参加する一方、ソングライターとしてもアニメの劇中曲やCM音楽などで幅広く活躍。通算11枚のアルバムを発表している。2013年1月30日にはアニメ「まおゆう魔王勇者」のエンディングテーマに起用された新曲「Unknown Vision」をシングルとしてリリースした。